目には見えない労働が、目に見える成果をもたらす

仕事術・生産性向上

地図を回さずに見ることができるだろうか。自分は紙の地図でもアプリでも、どうしてもグルグルしてしまうタイプだ。男の人は地図が得意だと言われることが多いが、個人的にはそれは違うと思っている。北国出身だからといって寒さに強いわけではないのと同じだ。

こんなことを書いておきながらだが、地図を真剣に見て目的地に向かうことは、今ではだいぶ減ったのではないだろうか。小学校の修学旅行では、まだスマホが普及していなかったし、紙の地図や時刻表を使って迷子になりながらも観光地を回った。あれから15年ほどで、世の中は大きく変わった。

地図を正しく読んで目的地に向かう力。これは、移動だけでなく、人生を歩む上でも大切な能力だと思う。今回は、そんな「人生の目的に向かって歩むための一冊」について紹介する。

WHITE SPACE ホワイトスペース: 仕事も人生もうまくいく空白時間術】(ジュリエット・ファント・著/三輪美矢子・訳)

全速力で走りながら、頭をフル回転させることは難しい

あなたは100m走を全速力で走りながら、頭をフル回転させることができるだろうか?おそらく、難しいだろう。自分は九九を頭の中で思い浮かべながら走るくらいならできるかもしれないが、正直、次に「何の段まで唱えていたっけ?」となりそうだ。おそらくほとんどの人にとって、走りながら難しいことを考えるのは簡単ではない。

では、100m走のような高負荷の状況でなく、もっと日常的な場面ではどうだろうか?

例えば、仕事中だ。緊急の仕事に追われているとき、頭をフル回転させながら他のことを考えるのは難しい。目の前の仕事で頭がいっぱいだからだ。ルーティン業務ではどうだろう?業務に100%集中しているわけではないので、多少の考え事はできるかもしれない。しかし、別のことを考えるとなるとやはり難しい。答えが決まっている問題であれば考えやすいが、答えのない問題、例えば「自分の人生の目的」についてとなると、さらに考えるのが難しくなる。

結局、人間は、目の前の仕事に追われながら自分の人生の目的についてしっかりと考えることは難しいのである。

何もしていないようで、実は必要な時間

上述の通り、人生の目的を明確にし、自分にとって大切なものに時間を使うためには、仕事に忙殺されている状態ではいけない。同書では「何もしない」時間を持ちなさいと読者に語りかけている。「何もしない」時間がなければ、忙しさに追われて自分との対話をおろそかにし、大切なものが何かを考えることを忘れてしまうというのだ。この「何もしない」時間を持つことで、「回復」「削減」「内省」「構築」といった行動が可能になる。これは戦略的な小休止であり、「何もしない」時間だからこそできるアクションなのだ。全速力で走りながら回復することはできないし、無駄な身体のブレを減らすこともできないといったことだ。

この「何もしない」時間に対して、現代人は忌避感を抱きがちだと著者は指摘している。自分も、何か生産的なことをしていないと落ち着かない感覚は理解できる。しかし、この誤った考えを改める必要がある。それに有効なのが「世の中には見えない労働がある」という発想だ。同書には「目に見える成果を出すためには、目に見えない労働も重要である」という言葉がある。つまり、一見何もしていないように見える社長が、実は新しいビジネスアイデアを思いつくために頭を働かせている、ということだ。深く、正確に物事を考えることは他の作業と並行して行うことが難しく、他人から見れば「何もしていない」と見える時間が必要だということを伝えているのだ。

戦略的小休止を取るための具体的なアクション

「何もしない」状態の大切さは理解していただけただろうか。しかし、実際にそれを実践するのは難しいと感じる人がほとんどだろう。特に仕事に関しては、外部の状況に左右されることが多いため、コントロールしづらい。そんな中でも、同書には状況に対応するための方法がいくつか紹介されているので、具体的なアクションを紹介しよう。

①ウェッジをとる

ウェッジとは、活動と活動の間に差し込む少しの余白、いわゆる「ホワイトスペース」である。例えば、

  • 業務開始からメールチェックまでの間に少し余白を取り、1日の計画を立てる
  • 会議の招待を受けたら、即答せずに少し時間を置き、出席の必要性を検討する
  • ネガティブなフィードバックを受けたら、すぐに反論せずに一呼吸置き、冷静に問題点を確認する

こうした余白の取り方が紹介されている。ウェッジを活用することで、次の行動に出る前に冷静さを取り戻し、状況を俯瞰して見ることができる。気分を切り替えるためや、取り乱さないためには、短時間でも大きな効果があるという。急に「何もしない」時間を作るのが難しいなら、まずはウェッジから始めてみるのも一つの方法だ。

②4つの時間泥棒を意識する

同書では、時間を奪う「4つの時間泥棒」にも触れている。これらは一見ポジティブな要素に見えるが、過度になると時間を無駄にしてしまう原因となる。4つの時間泥棒とは、

  • 意欲:頑張りすぎることが逆に疲れやストレスを生む
  • 優秀さ:完璧主義に陥りすぎること
  • 情報:情報を取りすぎて、逆に判断が鈍る
  • 活発さ:やりすぎてしまうこと

これらはどれも大切な資源だが、過剰に追い求めると時間に追われる結果になる。自分がこれらにエネルギーを使い過ぎていないか、人生の目的や大切なことを後回しにしていないかを振り返ることが必要だ。同書では、この振り返りを助ける「シンプル化の問い」を紹介している。ぜひ読んでみてほしい。

まとめ

「目に見えない労働」という概念を知れたことは、自分にとって大きな気づきだった。同じ内容の本でも、「休まないと大事なことは考えられない」といった記載だけでは、ここまで心に響かなかっただろう。大事なことに頭を働かせるには、それ専用の時間を設けなければならない。おそらく「ながら」の方が効果的なアクションもあるだろうが、それはまた、別の本で出会った際に考えていきたい。

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