はじめに — 読む前に押さえておきたいこと
あなたはこんな悩みを抱えていないだろうか?
- 仕事で複雑な課題に直面しても、どこから手をつけるべきか迷ってしまう
- 会議やプロジェクトで議論が迷走し、結論が曖昧になりがちである
- 限られた情報の中で最適な判断を下す自信が持てない
- 自分なりの思考の型や習慣が確立できず、行動が場当たり的になってしまう
こうした悩みは、キャリア経験の浅い人だけでなく、日々複雑な意思決定を求められるビジネスパーソン全般に共通している。優秀な人とそうでない人を隔てるのは、単なる知識量や頭の良さではなく、思考の「OS」と「アプリケーション」をどのように使いこなすかにあるのだ。
本書が示すこと(著者の主張)
本書で紹介するのは、戦略コンサルタントが実際に使う思考のフレームとアプローチだ。
- 思考のOS:考え続ける態度と、思考の枠を自在に変える力
- 思考のアプリケーション三種(神器):Big Picture、Rule of the Game、Quick & Dirty
これらを組み合わせて使うことで、複雑で不完全な情報の中でも本質を見抜き、迅速かつ柔軟に判断できる。単に知識を詰め込むだけではなく、「考え方を設計すること」が成果につながる。
本書を読んで感じたこと(私見)
トップ5%の戦略コンサルは、単に知識や論理力が優れているわけではなく、「考える態度」と「思考の枠組み」を意識的に使い分ける習慣を持っていることに気づかされた。
日々の仕事の中で、Big Pictureで視点を上げ、Rule of the Gameで本質的な勝ち筋を見極め、Quick & Dirtyで素早く仮説を立てること。この3つの思考プロセスを意識して実践するだけでも、課題解決の精度と速度が大きく変わると感じた。
小さな一歩として、日常の意思決定や業務に、この思考法の一部を取り入れてみること。そこから徐々に習慣化し、自分の判断軸を確立していくことが、戦略的思考を身につける第一歩となる。
優秀なコンサルは、本当に「頭の良さ」で決まるのか?
戦略コンサルタントとは、クライアント企業が抱える「戦略上の課題」を明確にし、その解決を支援する専門職である。
では、あなたは「戦略コンサル」と聞いてどのようなイメージを思い浮かべるだろうか。「頭が切れる」「ビジネス戦闘力が高い」「スマート」──言葉の選び方に違いはあれど、概ねこうした印象に落ち着くのではないだろうか。
しかし、真に優れたコンサルタントは、単に「頭が良い」「勉強ができる」といった能力だけで評価される存在ではない。言い換えるなら、「論理的思考力が高い」という一点だけで、トップに立ち続けられるわけではないのだ。
では、同じコンサルタントの中で、トップ層とそれ以外を隔てる決定的な違いは何なのか。本稿では、そのヒントとなる1冊を紹介したい。
【戦略コンサルのトップ5%だけに見えている世界】(金光隆志 著)
金光隆志
京都大学法学部を卒業後、ボストンコンサルティンググループに入社し、経営戦略の現場で研鑽を積む。その後、ドリームインキュベータの創業に参画し、取締役として事業開発や組織改革に携わった。いったん経営の第一線を離れて音楽活動にも取り組んだのち、再びコンサルティング業界に戻り、株式会社クロスパートやクロスサイトを創業。現在は、長期構想の立案やイノベーション支援を通じ、企業の新たな価値創造に取り組んでいる。
優れたコンサルは、なぜ同じ情報から違う答えを出せるのか?
コンサルタントとしての力量は、論理的思考力の高さに大きく依存する。
この考え方は間違いではない。もちろん、論理的思考だけで成果が出るわけではない。クライアントに行動してもらう力や、組織から有益な情報を引き出す力など、非論理的な要素も数多く求められる。とはいえ、コンサルタントという職業において論理的思考力が重要視される場面が多いのも事実だ。
しかし――トップ5%のコンサルタントを隔てる決定的な要素は、実は論理的思考力の優劣ではない。
同書によれば、彼らを際立たせるのは 「思考態度」と「思考枠」 である。
思考態度:「考え続けられる人」が突き抜ける
誰かに頼まれたわけでもないのに、あることばかり考えてしまう。
そんな経験は誰にでもあるだろう。趣味や好きな対象についてなら「一過言ある」状態になるはずだ。対象について深い知見を持ち、自分の考えを展開できるのは、長く深く考え続けてきたからに他ならない。
優秀なコンサルタントは、この「考え続ける態度」を仕事の場面でも発揮できる。自分の関心の有無にかかわらず、クライアントの課題に長く深く向き合い続けるのだ。常に「それって本当か?」「そうだとすると……」と問いを投げかけ、確定的に見える情報すら鵜呑みにしない。これが 想像的思考態度 であり、トップ5%の必須スキルである。
「考える」とはパターンを認識することだ。パターンを知るには知識の蓄積(=専門性)が必要であり、そのためには考え続けることが欠かせない。結果として、専門性と創造性を兼ね備えた思考力が形成される。
思考枠:「何が問題か」を変えられる人が強い
思考態度と同様、トップ5%のコンサルは思考の枠が違っている。
トップ5%のコンサルタントは、思考の前提となる「枠」そのものを問い直す。
思考枠とは「何を問題とするか、どう考えるか」を規定するパラダイムのことだ。
例えば「家が散らかっている」という状況。多くの人は「収納が足りないからだ」と考え、棚やグッズを買い足す。しかし視点を変えれば、問題は収納ではなく「物の入り方」にある。買いすぎを防ぐ仕組みを作れば、散らかること自体を防げる。
会議の長さも同じだ。進行が下手だから時間が伸びるのではなく、そもそも会議の目的が曖昧なことが根本原因かもしれない。目的を「意思決定の場」と再定義すれば、進め方も大きく変わり、結果的に時間も短くなる。
このように、単に「やり方を工夫する」のではなく、「何を問題とするのか」を切り替えられるかどうか。これが、凡庸な改善と本質的な解決を分ける力である。
トップ5%を支える基盤は「思考態度」と「思考枠」だ。前者は 考え続ける力、後者は 考える枠組みを変える力。この二つが揃うことで、論理的思考をはるかに超えた成果を生み出すことができる。
ただし、これだけではまだ「基盤=OS」にすぎない。次章では、このOSの上で機能する「三種の神器」と呼ばれる具体的な思考アプローチを紹介していく。
思考のアプリケーション三種 ― OSを活かす戦略思考
前章で説明した「思考枠」と「思考態度」は、トップ5%の戦略コンサルタントにとっての「想像的思考のOS」にあたる。
しかし、OSだけでシステム全体が動くわけではないように、思考にもそれを具体化する「アプリケーション」に該当する要素がある。同書ではこれを「戦略思考三種の神器」と呼んでおり、ここではそれぞれの要素を解説していく。
Big Picture ― 視点を一段上げる
仕事をしていて「この人の考え方は深いな」と感じたことはないだろうか。その「深さ」を言語化すると、「今の視点よりもひとつ上のレイヤーから考えられている」ことに他ならない。
たとえば家計管理。多くの人は「食費を節約しよう」と目の前の支出に注目する。しかし一段上の視点に立てば、「家計全体の支出構造をどう最適化するか」と考えることになる。結果として、食費よりも通信費や保険料を見直す方が効果的だと気づける。
教育も同じだ。子どもの成績を上げたいとき、普通は勉強時間の確保や塾を思いつく。だが、より高い視点から見れば「成績を上げること自体が本当の目的なのか?」という問いに変わる。社会で必要とされるのは協働力や問題解決力かもしれず、そのためには探究学習や体験活動が重要になるかもしれない。
このように「目の前の課題」に囚われず、「全体像を俯瞰する」こと。それが Big Picture であり、人を「深い」と感じさせる思考の正体である。
Rule of the Game ― ゲームのルールを見極める
多くの人が一度はゲームをしたことがあるだろう。サッカーなら「ゴールを奪う」、将棋なら「相手の王を詰ませる」。ルールがあるからこそ勝敗が決まり、戦い方が定まる。
ビジネスも同じだ。私たちは無意識のうちに「当たり前」と思っているルールの中で戦っている。しかし、そのルール自体は絶対ではない。変えることも選び直すこともできるのだ。
著者はここで「ビジネスのルール」には2種類があると整理する。
- ゲーム自体の定義:そのビジネスは何を巡って、誰とどう争うのか
- 競争優位の方策:そのビジネスでどう戦えば勝てるのか
そして、戦略の本質とは「ルール1(ゲーム定義)」を選び直すことで、自社に有利なルール2(勝ち筋)をつくることだという。
たとえば飲食業界。従来のルール1は「店舗で食事を提供し売上を上げる」だ。だが、ゲーム定義を「家庭に外食体験を届ける」に変えれば、競争の軸は店舗数や立地ではなく、宅配サービスや調理済み商品の品質・ブランド体験に移る。
こうして ルール1を問い直すことこそが、ゲームチェンジの起点 になる。トップ5%のコンサルは「どう戦うか」だけでなく「どんなゲームを選ぶか」から考えるのだ。
Quick & Dirty ― 本質を捉え、素早く仮説を組み立てる
Quick & Dirtyと聞くと「完成度は多少低くてもいいからできるだけ素早くかたちにする」という印象を持つかもしれない。
だが、ここでの意味は違う。枝葉の情報を大胆に切り落とし、本質的な情報だけをもとに議論を進め、スピーディに仮説を構築する力のことだ。
たとえば、あるBtoB SaaS企業の新規サービスで「最初に集中すべき顧客セグメント」を決めるとしよう。情報は不完全で、データも限られている。ここでQuick & Dirtyの出番だ。
まず顧客層や利用シーンをシンプルに整理し、「中小〜中堅規模で営業担当10名以下の企業が最も効果的」と仮定する。その前提のもとで潜在収益や導入コストをざっくり試算し、ROIを計算する。次に、どの前提が結果に最も影響するのかを明らかにし、実データや現場の知見を組み込みながら仮説を修正していく。
こうしたプロセスを通じて、不完全な情報下でも最も有望な打ち手を迅速に特定できる。つまり Quick & Dirtyとは「粗さを許容しつつ、本質を掴んで素早く動く能力」 なのである。
これら三種の神器は、単なる知識やテクニックではなく、日々の仕事や意思決定において実際に使うことで初めて力を発揮する。Big Pictureで視点を上げ、Rule of the Gameでゲームの本質を見極め、Quick & Dirtyで素早く仮説を検証する。この3つを組み合わせて使うことで、情報の不完全さや複雑さに惑わされず、より戦略的で柔軟な判断が可能になるのだ。トップ5%の戦略コンサルが常に意識しているのは、思考の精度を高めるだけでなく、自らの判断軸を確立し、行動に落とし込むことである。
トップ5%の思考を身につける — 習慣と訓練の極意
本章では、トップ5%の戦略コンサルタントが身につけている思考力を、どのように培うかを解説する。
このスキルは一朝一夕で身につくものではない。しかし、誰もが訓練によって育てることができる能力でもある。自転車に乗るとき、乗り方を意識せずとも身体が覚えてしまうのと同じように、思考も習慣化することで自然に発揮できるようになるのだ。
まず「思考体力」を鍛える方法について。これは、目の前の事象に対して「本当にそうなのか?」「そうだとすると何が起こるのか?」と自問することが重要になる。暗黙の了解で物事が進もうとする場面でも、「それは本当か?」「思い込みではないか」「別の視点はないか」と問い続けることで、思考は深まる。おそらくこうだろうという結論に達したときには、「そうだとすると次に考えるべきことは?」「別の見方はできないか?」と考えを進める。自分の考えも、問いも、仮説も、結論も、前提も、すべて「(仮)」として扱うことで、より創造的な思考へと導かれる。
次に「思考枠」の極め方である。こちらも問いを投げかけることが肝心だ。「果たして〇〇が真の××なのか?」と考える。たとえば「収納グッズを使うことで、常に家の中を整頓できるのか」「会議の進行を変えれば、本当に早く終わるのか」といった問いだ。部屋の散らかりや会議の長引きを受動的に捉え、既存の枠の中だけで思考してしまうと、本質的な解決策は見えてこない。地道で小さな問いを投げかけることこそ、クリエイティブな解を生む近道なのである。
そして最後に、トップ5%の思考を習慣として定着させるためには、日々のトレーニングが不可欠だ。小さな問いを日常に組み込み、仮説を立てて検証する習慣を繰り返すことで、思考力は自然と鍛えられる。やがて、どんな問題に直面しても、本質を見抜き、迅速かつ柔軟に対応できる力が身につくのである。
トップ5%の思考を日常に活かすために
これまでの章で見てきたように、トップ5%の戦略コンサルタントは、単なる頭の良さだけではなく、考え続ける態度と枠組みを自在に変える力を持っている。そして、その力を具体化する三種の神器――Big Picture、Rule of the Game、Quick & Dirty――を駆使し、限られた情報の中でも本質を見抜く思考を行っている。
しかし、知識として理解するだけでは意味がない。重要なのは、日常の意思決定や仕事の中で実際に使い、思考を習慣として定着させることだ。小さな問いを立て、仮説を作り、検証するプロセスを繰り返すことで、思考力は自然と鍛えられ、複雑な問題にも迅速かつ柔軟に対応できるようになる。
結局のところ、トップ5%の思考を手に入れる鍵は「学ぶこと」と「使うこと」の両立にある。知識として理解し、日常に落とし込み、繰り返すことで、誰もが自分の思考力を格段に高めることができる。読者も今日から、小さな問いを自らに投げかけ、三種の神器を意識して使う習慣を始めてみてほしい。
参考記事
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