伝える力を鍛えるために、まず鍛えるべき「要約力」

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「ここだけはおさえて」ポイント

この本が届く人・届いてほしい人

  • 仕事で「伝わる」アウトプットを求められているけれど、自分の伝え方に十分な自信が持てない人
  • 資料作成や発言の場で、相手にうまく意図が伝わらずにもどかしさを感じている若手・中堅ビジネスパーソン
  • 「要約してください」と言われたときに、何をどう考えればいいのか曖昧なままやりすごしてきた人

この本が届けたい問い・メッセージ

要約とは、ただ短くすることではない。相手が知りたいことを捉え、自分の中で理解し直し、筋道を立てて伝える。それは「問いを立てて考える力」や「構造を組み立てる力」ともつながっており、単なる受験技術ではなく、仕事にも人生にも通じる本質的なスキルである。だからこそ、要約を通じて思考の軸を持つことが、自分自身の言葉で話し、判断し、動く力になるのだ。

読み終えた今、胸に残ったこと

「要約力」とは、こんなにも地に足のついた思考の力なのかと驚いた。自分は理解しているつもりでも、いざ30字で伝えるとなると、その甘さがすぐに露呈する。 けれど同時に、そこに向き合いながら試行錯誤することで、自分の頭の中が整理され、言いたいことがようやく見えてくるという感覚もあった。 要約とは、自分の思考の棚卸しであり、他人と意思をつなぐ手段である。生成AIの進化する時代だからこそ、自分の言葉で「何を伝えるか」を考える力を、これからも丁寧に育てていきたい。

学生時代から求められる「まとめる」力

〇〇をX文字以内でまとめなさい。

国語の記述問題でよく見る形式だ。学生時代、苦手だった人も多いだろう。私もその一人である。

小学生のカリキュラムに組み込まれていることからもわかるように、「まとめる力」、つまり要約力は、求められる重要な能力である。

大人になると文章を読み、それを要約する機会は減る。生成AIが普及した今の時代においては、なおさらだ。

しかし、要約力のニーズが消えたわけではない。要約とは単に文章の大事な内容をコンパクトに説明する力だけでなく、今の時代に必要とされる「問いを立てる力」も含まれるからだ。

今回はそんな「まとめる力」=「要約する力」について考える一冊を紹介したい。

なぜ、東大の入試問題は、「30字」で答えを書かせるのか? 】(西岡壱誠・著)

西岡壱誠

1996年生まれの著述家・教育プロデューサーであり、株式会社カルペ・ディエム代表。高校時代、偏差値35からのスタートを経て、2浪の末に東京大学経済学部に合格。その過程で独自の勉強法を確立し、東大模試では全国4位を記録するまでに至った。

東大在学中には、漫画『ドラゴン桜2』の編集に携わり、TBS日曜劇場『ドラゴン桜』の脚本監修も務めた。また、全国の高校で「リアルドラゴン桜プロジェクト」を展開し、学びの動機づけや勉強法の普及に注力してきた。

著書に『東大読書』『東大作文』『東大思考』『東大独学』などがあり、シリーズ累計発行部数は40万部を超える。知識偏重の学びからの脱却を図る思考法や、自ら考え、表現する力を育てる方法論を発信している。テレビ出演や講演活動も多数行っており、机上の理論にとどまらない実践的な教育メッセージを社会に届けている。

まずは「要約すること」そのものについて考えてみる。

「要約する」とは、どうすることか

「要約する」をよりわかりやすく言い換えると、どうなるだろうか。

学生時代の国語の授業の名残で、なんとなく「文章の大事な内容をコンパクトに説明すること」のようなイメージを抱くのではないだろうか。しかし、本書によると、「要約」とは

「要約」=「事実整理」+「言語化」+「情報解釈」

となるという。

重要な部分をまとめ、コンパクトに説明するというイメージを持っている人にとって「事実整理」や「言語化」はそれほど意外な印象は抱かないものと思われる。一方、「情報解釈」という、一見すると個人の感覚に基づいていそうな行為が含まれているのは意外である。

結論を述べると、「情報解釈」だけでなく「事実整理」や「言語化」についても、当たり前のようでいて、実は新鮮味のある気付きを得ることができる。

次章では、要約を構成する「理解する」という行為を中心に、「事実整理」と「情報解釈」の役割を具体例とともに解説する。さらに、その後の章で「言語化」の重要性にも触れていく。

要約の土台をつくる理解と伝え方

「理解する」とは「事実整理」+「情報解釈」

理解することは、「事実整理」と「情報解釈」から構成されている

例を用いて説明する。

上司:この前依頼した仕事、進捗どうなってる?来週の金曜日までの締め切りでお願いしてたけど、実は先方から「現時点での進捗だけでも教えて」って連絡があってさ。

この上司の発言をもとに、「事実整理」と「情報解釈」を行うと、次のようになる。

【事実整理】
・来週金曜日が締め切りになっている仕事の進捗が聞きたい
・なぜなら、先方から「現時点での進捗だけでも教えて」と連絡があったから

【情報解釈】
・締め切りはまだ先だが、先方から進捗確認の連絡があった
・そのため、締め切りを早める必要はないが、今見せられるものがあれば、見せておきたい

このように「事実整理」と「情報解釈」を行うことができると、あなたは上司に対して、「こんな状況です」と現段階での成果物を見せることができるだろう。
「気が利くね。そのまま送付しちゃうわ。」と良い反応をもらえるかもしれない。

一方、どちらか片方しかできていない場合は、次のようになる。

〈事実整理だけをやっている場合〉
「まだです。」などと回答してしまう。

〈情報解釈だけをやっている場合〉
『「どれくらい終わっている?」と聞かれたということは、「急いでくれ」ということなんじゃないか?』と考え、上司に「もっとペースを上げてくれ、ということでしょうか」と聞いてしまう。結果的に「え、そんなこと言っていないよ。」と返答されてしまう。

「理解」という言葉の厳密な意味からは少し遠ざかってしまうかもしれないが、実は「事実整理」だけでは足りないのである。また、上述のような“よくある考えすぎの事例”も、実は「情報解釈」だけが行われていることが原因だったりする。

相手の話を理解し、求めている反応を返すには「事実整理」を行いつつ、正しい「情報解釈」を行うことが大切だ。この2つのアクションを意識して、相手の話を聞いてみよう。

相手に伝わるように「言い換える」のが「言語化」

あなたの同僚が「今の仕事、なんだかモヤモヤするんだよね」と相談してきたとする。

これだと、あなたは同僚が感じているモヤモヤの原因や、解決策の提案ができないだろう。愚痴を聞いてあげるだけであればこれでも問題ないが、ビジネスという文脈ではなんとか物事を前に進めたい。

しかし「この仕事、目的がはっきりしないまま進んでる気がして、不安なんだよね」と相談されたらどうだろう。悩みの対象は同じだが、聞き手であるあなたの解像度はかなり高まったのではないだろうか

行われていることは「モヤモヤ」を「目的がはっきりしないまま進んでいることに対する不安」と「言い換えた」ことである。敢えて難しい表現をするのであれば「具体度・抽象度の違う表現にした」ということだ。

例えば、「なんか最近冷たくない?」を「ここ数日、LINEの返事がそっけない感じがして、少し距離を感じてるんだ」に言い換えるのも、具体度・抽象度を変えた例である。

ちなみに、抽象度を上げた方が伝わりやすい場面もある。

この地域では、若者の都市部への流出が続いている。その背景には、地元での雇用機会の少なさや、娯楽の不足がある。また、地域コミュニティの希薄さも、若者の定住意欲を下げる要因となっている。

このまま伝えても、おそらく大事なポイントは伝わらないだろう。しかし、抽象度を高く言い換えると、次のようになる。

若者が地域に定着しない理由は、生活環境の魅力不足にある。

このように、複数の具体的な事実(雇用・娯楽・コミュニティ)を「生活環境の魅力不足」という抽象度の高い言葉にまとめると、伝わりやすく、議論の出発点にもなる。

「言語化」とは「具体度・抽象度が異なる言葉に言い換えること」である。こちらも意識して活用してみよう。

「要約」を実践するコツ

ここでは、「事実整理」「言語化」「情報解釈」を実践する方法を解説する。

三段論法を活用する

ロジカルシンキングでよく用いられる三段論法は、「事実整理」や「情報解釈」を仕事に取り入れるうえで非常に役立つ。

たとえば「相手の欠点は本人には伝えにくい」という事実を考えてみよう。

この事実に対する情報解釈は多様だ。

たとえば、

  • 欠点を伝えるのは難しいが、相手の内省につながるため、伝えるべきだ。
  • 自分の欠点を言われる機会が少ないため、人の性格は変わりにくい。

こうした結論は、事実だけではなく「前提」を置くことで導き出される

例を挙げると、

  • 欠点を本人に伝えることは、相手の内省を促す。
  • 欠点を言われる機会が少ないと、人は性格を変えにくい。

ここから、三段論法はこう整理できる。

  1. 相手の欠点は本人には伝えにくい(事実)
  2. 欠点を本人に伝えることは、相手の内省を促すため、伝えた方がよい(前提)
  3. 欠点を伝えることは難しいが、相手の内省にもつながるため、伝えるべき(情報解釈=結論)
  1. 相手の欠点は本人には伝えにくい(事実)
  2. 欠点を言われる機会が少ないと、人は性格を変えることが難しい(前提)
  3. 自分の欠点を言われる機会が少ないため、人の性格は変わりにくい(情報解釈=結論)

前提を増やせば、それだけ多様な結論を導きやすくなる

ビジネスで分析や新しいアイデア創出に長ける人は、多くの前提を置いて思考している。もし考えが詰まったら、この三段論法を思い出し、前提を増やすことを試してほしい。

3つの問いで自己紹介を考える

次に「情報解釈」のトレーニング法として、自己紹介を題材にした問いを紹介する。

以下の3つの問いに答えるつもりで自己紹介を考えてみよう。

  1. あなたを動物にたとえると何か?
  2. その動物の特徴は何か?
  3. なぜ自分はその動物だと言えるのか?

自己紹介の機会は多いが、自分で問いを立てて答える経験は意外に少ない

この問いを通じて、「情報解釈」のバリエーションを増やす練習になる。先ほどの「相手の欠点は本人に伝えにくい」という事実についても、

  • 本人以外には伝えやすい
  • 批判と受け取られるリスクがあり、わざわざ伝える必要はないと感じてしまう

といった別の解釈を立てられる。

問いを自分でつくり、回答することが情報解釈には不可欠だ。

これを強制的に実践できるのが、この動物自己紹介である。

三段論法よりも取り組みやすいので、ぜひ試してみてほしい。

上流から下流に、流れるように説明する

最後に、相手に伝わりやすい説明のポイントを紹介する。

ニュースでよく聞く「不登校の増加」を例にしよう。

不登校の児童・生徒が増えている、とニュースでよく目にしますよね。

では、そもそも「不登校」とはどういう状態のことを指すのでしょうか。

文部科学省の定義では、「年間30日以上、病気や経済的な理由以外で学校を欠席している状態」のこと。つまり、「行きたくても行けない」だけでなく、「行かないという選択をしている」場合も含まれます。

では、その不登校の数が今なぜこんなにも増えているのか?

確かにここ数年で、不登校の児童生徒数は過去最多を更新し続けており、小中学生だけでも30万人を超えるというデータもあります。

ただし、これを「不登校の子どもが急に増えた」と単純に捉えるのは正確ではありません。

実際には、不登校という状態が「特別ではない」と社会的に認識されるようになったことで、親や教師がそれを“問題”としてではなく“事実”として受け止めるようになり、結果として報告件数や相談件数が増えているのです。

たとえば以前なら、「甘えてるだけ」とされた子どもの様子が、今では「無理に行かせずに、まず話を聞こう」という対応に変わった。その変化によって、初めて「不登校」という名称で可視化された子どもたちが増えた、という背景があります。

この説明で大事なのは、

  1. 抽象的な話題から具体的な内容へ段階的に具体度を上げること
  2. 「問い」と「回答」を繰り返すこと

「抽象から具体へ」という流れは、不登校の話題が最初は社会全体の傾向として取り上げられ、そこから「不登校とは何か」という定義、さらに「実際の人数」や「背景」に話が移っていくことで実現されている。読み手は、話の対象がだんだん自分の想像しやすいところまで下りてくる感覚を得る。

一方、「問いと回答の反復」は、文の構造そのものに組み込まれている。「不登校とは?」「増えているとはどういうこと?」「なぜ今になって可視化されたのか?」といった問いに対して、短く明確な説明を返す形が続く。これにより、読んでいる側は常に“話の目的地”を見失わずにすむ。

この構造により、読み手は話の筋道を見失わず理解できる。このテクニックは会話だけでなく、プレゼンやビジネス文書でも効果的だ。繰り返し実践し、自然に身につけてほしい。

要約力を身につけ、ビジネスを前に進めるために

要約力とは単に文章を短くまとめる力ではない。大事なポイントを見極め、そこに問いを立てて深く考え、自分なりの解釈を加えて整理し、伝わる形に言語化する力である。この力を具体的に理解している人は意外と少ない。しかし、明確な理解と実践を積み重ねることで、誰でも着実に高めていける能力でもある。

要約力を高めるためには、まず概念を学び、三段論法や問いを立てる習慣、抽象から具体へと流れる説明の技術を身につけることが重要だ。これらはすぐに完璧にできるものではないが、少しずつ実践を重ねることで、徐々に自然に使いこなせるようになる。ビジネスの現場でも、こうしたスキルを活用すれば、情報の整理や意思決定がスムーズになり、結果として仕事を前に進めやすくなる。

また、要約力は一時的に身につけて終わりではない。継続的な実践を通じて養った力は、そう簡単に衰えるものではない。むしろ、時代が進み生成AIのような技術が普及する中でも、人間の深い理解力や問い立てる力、そして伝える力として必ず役立つものである

あなたも、焦らず少しずつでいいので、日常の仕事や会話で今回紹介した考え方や実践法を取り入れてみてほしい。要約力は積み重ねによって確実に身につくスキルだ。未来の自分のために、今から始めてみよう。

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