社会の“べき論”とあなたの意思について

人生設計・目標設定
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「ここだけはおさえて」ポイント

この本が届く人・届いてほしい人

  • 「本当にやりたいこと」があるはずなのに、なぜか見つからないまま時間だけが過ぎていく
  • 目にする情報にいちいち心がざわついて、他人の人生に振り回されている気がする
  • 「失敗しない選択」を繰り返しているうちに、自分の軸がわからなくなってきた

この本が届けたい問い/メッセージ

SNSを眺めていると、他人の言葉や価値観が、いつの間にか自分の判断を曇らせていく。「これが正解なんだろう」と、なんとなく選ぶ日々。しかし、本当にやりたいことは、他人の投稿の中にはなく、自分の内面にしか見つからない。

情報に振り回されることなく、自己の軸で選び取るためには、内面と向き合うことが不可欠だ。

読み終えた今、胸に残ったこと

情報との付き合い方が人生の主導権を握るための重要な要素であることを改めて実感した。日々の選択が、どうしても外部からの影響を受けがちだが、それに流されず、自分の軸を持つことの大切さを学んだのは斬新な気づきだった。

特に「空、雨、傘」のフレームを生き方にも応用する発想は非常に面白い。これはただのテクニック本ではなく、物事を俯瞰して見るためのメタ的な視点を教えてくれる1冊であり、個人的にも強くおすすめできる。

他人に決められる「やりたいこと」

  • あなたのやりたい仕事は何ですか?
  • もし働く必要がなくなったら、何をしますか?
  • あなたの夢は何ですか?

これらの問いに即答できる人は少ないのではないだろうか。私自身もその一人で、「なんとなくのイメージはあるが、具体的に言葉にできない」と感じていた。

就職、結婚、出産、転職、定年など、人生の節目で人は自分の生き方について考える。また、日常の中でもふとした瞬間に「自分は何をしたいのか」と思いを巡らせることがある。

しかし、これだけ考えているにもかかわらず、明確な答えを出すことが難しいのはなぜだろうか。そんな疑問に答えてくれる1冊のご紹介。

きみに冷笑は似合わない。 SNSの荒波を乗り越え、AI時代を生きるコツ】(山田尚史・著)

山田尚史

マネックスグループ株式会社の取締役。30代ながら、AIとスタートアップの世界で数々の実績を重ねてきた人物である。

もともとは知的財産の専門家(弁理士)としてキャリアをスタート。その後、自ら人工知能系のベンチャー企業を立ち上げ、わずか5年で東証マザーズ上場を果たす。この間、技術責任者(CTO)として企業の成長をけん引し、複数のAI関連企業でも経営に携わった。

2021年からはマネックスグループの経営メンバーとして、テクノロジー戦略や新規事業、投資分野を担当。企業の中核にテクノロジーをどう組み込むか、その最前線で活躍している。

“やりたいこと”は、他人が決める時代?

小学生の「なりたい職業ランキング」にYouTuberが初めてランクインしてから、かなりの年月が経った。それだけYouTuberが子どもたちにとって身近な存在となり、「好きなことで、生きていく」ことへの憧れが強まったのだろう。

やがて彼らが高校生や大学生になると、現実的な問題として就職を考えなければならなくなる。大学では、2年生や3年生の頃から興味のあるインターンに参加し、4年目の春ごろから本格的に就職活動を始め、内定を得るのが一般的な流れだ。

この過程で多くの人が参考にするのが「人気企業ランキング」である。年収の高い企業、ホワイト企業、誰もが知っている大企業に入社しようと試みる。終身雇用の時代ではなくなったという価値観が広まってからは、この傾向も徐々に薄れつつあるものの、「人気企業ランキングを一切見たことがない」という人は少ないだろう。

転職の際も、私たちは外部からの情報に大きな影響を受けてしまう。エージェントの紹介内容や提示された条件を意識しすぎてしまい、自分の深掘りができていないと、転職がゴールとなる。そして転職後に、「こんなはずじゃなかった」と違和感を覚えることになる。

このように、仕事や夢という重要性が高い事項であっても、人は周囲から与えられた情報に大きく影響を受ける。いつの間にか「YouTuberになり、SNSで多くのフォロワーを獲得して生計を立てること」や「みんなが羨む大企業に就職すること」を「自分が心から望む本当にやりたいこと」と同一化してしまうのだ。

“好き”でさえも、自分で選べない

趣味の場合はどうだろうか。かつて趣味とは、自分の手で探し出し、自分のペースで深めていくものだった。スポーツでも、読書でも、工作でも、どこかに“偶然の出会い”や“失敗しながら覚える過程”があったように思う。

しかし今は、レコメンド機能の発達により、わざわざ遠回りをする必要がなくなった。YouTubeやNetflixでは、自分が興味を持ちそうな動画や作品が自動的に表示され、買い物サイトでは失敗のない商品がランキング形式で並ぶ。便利ではあるが、その分、自分で選び、自分で確かめる機会が奪われているとも言える。

さらに、SNS上では誰かの趣味や成果が“完成された形”で並び、「自分もやってみたい」と思うより先に「自分には無理そうだ」と感じてしまうこともある。始めたばかりの不器用さや試行錯誤を共有できる余地が失われ、趣味が「楽しむもの」であるという本来の感覚も薄れつつある。

このように、趣味を持つことさえも「効率的で意味があるもの」でなければならないような空気がある。だからこそ、「やりたいことが見つからない」と感じる人が増えるのも不思議ではない。

仕事や夢と同じように、趣味においても、現代人は“選択肢が多すぎて自分の声が聞こえづらい”という状況に陥っているのではないだろうか。

やりたいことが“わからなく”なる理由

現代は、自分のやりたいことを見失いやすい時代だと言える。情報に触れる機会が格段に増えた一方で、その情報はあまりに偏っているからだ。

とりわけSNSでは、自分の興味や関心に基づいた投稿がアルゴリズムによって表示される。つまり、自分の“好き”や“関心”がどんどん強化され、自分の世界の内側にとどまり続けやすくなる。これは一見すると、自分を深く知る手助けになるように思える。しかし同時に、「偶然の出会い」や「違和感との遭遇」が著しく減っているという点で、自己探求の妨げにもなり得るのだ。

さらにSNSには、もう一つ厄介な側面がある。それは、画面の向こうにいる“他者”の視線を、過剰に意識させることだ。

たとえば、社会的に認められるキャリアパスや、わかりやすい成果を示さない選択は、「遠回りだ」とか「現実が見えていない」といった冷笑の対象になりやすい。自分なりの挑戦や模索であっても、それがすぐに可視化できる成果に結びつかない限り、共感を得づらい。結果として、他人の評価軸に沿った“正解らしきもの”を選ぶようになってしまう

この冷笑的な空気が内面化されると、「自分が本当にやりたいこと」を語ることそのものが怖くなる。「やりたい」と言った時点で笑われる、「叶わなかったら恥ずかしい」と思わされる——そんな空気が自己探求へのモチベーションを奪っていく。

加えて、今の社会には“コスパ主義”とでも呼ぶべき考え方が蔓延している。「最短で成果が出る方法」「確実に報われる選択」が称賛される一方で、報われるかどうかもわからないことに時間や労力を注ぐことは、非合理であると切り捨てられる

この価値観に慣れてしまうと、「やりたいことに向かって努力する」という発想よりも、「失敗しにくい努力を選ぶ」という行動が習慣化される。結果、自分の内面を深く見つめ直すことが減り、「なんとなく安定しそうな道」へと流れていく。

本当にやりたいことを見つけるためには、社会的な視線や効率というフィルターを一度外す必要がある。しかし今の時代、そのフィルターを外すのは決して簡単ではない。

情報に流されず、自分で選ぶ力

多くの本で「自分の人生の主導権を握れ」と語られている。それは、自分の意思で選び、決断し、行動せよというメッセージだ。けれどその言葉は、どこか抽象的で、どうすれば主導権を握れるのかがわかりにくい。

そこで改めて問いたい。「自分の人生の主導権を握る」とは、日常レベルではどんなことなのか。それは、まさに“情報との向き合い方”に表れる

今や、私たちは毎日無数の情報にさらされている。SNSやニュース、ネット記事や動画など、気づけば膨大な“他人の声”が、自分の感情や価値観に入り込んでくる。それらを何も考えずに受け取っていれば、自然と“他人の基準”で物事を選び、“他人の正解”に自分を合わせてしまう。

つまり、情報の受け取り方を誤れば、知らぬ間に人生の舵を他人に預けてしまうことになる。逆に言えば、自分がどんな情報に触れ、どんな視点でそれを捉え、どう選び取るのかその小さな積み重ねが、自分の人生の主導権を握るということなのだ。

特に、SNSとの付き合い方には注意が必要だ。SNSは便利で刺激的なツールである一方で、使い方を誤ると、簡単に他人の価値観に引っ張られてしまう。
誰かの成功や承認が“正解”のように映り、自分もその通りに動かねばならない気がしてくる。けれど、それは本当に自分が望んでいることなのか?と問い直す視点が、いま必要とされている。

主導権を握るとは、大きな決断をすることではなく、日々の情報の受け取り方、選び方を自覚的に行うこと。その繰り返しが、やがて大きな方向性を形づくっていくのである。

「空、雨、傘」──SNS時代の生き方の論理

前章で見たように、今を生きる私たちは、無数の情報に囲まれている。そしてその情報の多くは、無意識に自分の感情を揺さぶり、価値観に介入してくる。他人の発信に反応しては心がざわつき、自分の判断が鈍る。では、そうした時代において、どうすれば情報に振り回されずに生きられるのか。

ここで有効なのが、「空・雨・傘」というフレームだ。

これはもともとビジネスの論理思考法の一つで、「空(事実)→雨(解釈)→傘(打ち手)」という構造で物事を整理する方法である。しかしこのフレームは、単なるビジネススキルにとどまらず、私たちの生き方そのものに応用できる

たとえば、SNSで次のような投稿を目にしたとしよう。

「20代で年収1000万達成!好きなことで自由に生きてます」

これに対して、私たちはつい感情的に反応してしまう。「自分はこんなふうになれていない」と落ち込んだり、「どうせ裏があるだろう」と冷笑したり。しかしそこで、いったん「空・雨・傘」に立ち返ることができれば、心のざわつきはだいぶ静まる。

  • 空(事実):誰かが、年収1000万で自由に働いていると発信している。
  • 雨(解釈):自分はそのような生き方ができていないから劣っている、と思ってしまった。
  • 傘(打ち手):一度SNSを離れて、自分が本当に大切にしたい価値観に立ち戻ってみよう。

このように、自分が何に対してどう反応したのかを冷静に言語化するだけでも、情報との距離感が変わる。そして、そこから自分なりの「傘」を選び取ることで、他人の情報に呑み込まれるのではなく、自分の軸で行動できるようになる。

情報が洪水のように押し寄せる現代において、「空・雨・傘」は私たちの内面を守り、他人ではなく自分の手で人生の舵を取るための“生き方の論理”なのだ。

まとめ – 情報に呑まれず、自分の軸で生きるために

現代を生きる私たちは、目の前に流れてくる情報を「事実」として受け取りがちである。しかし、情報は多くの場合、誰かの意図や都合によって形づくられている。中立な情報など存在しないという前提に立つことで、情報との向き合い方は大きく変わる。まずはその「偏り」を見抜く目を持つことが、自分を守る第一歩となる。

そして何より大切なのは、情報を受け取ったあとの自分の「反応」に目を向けることだ。SNSで誰かの成功談を見てモヤモヤしたとき、「なぜ自分はそう感じたのか」「本当にそれを望んでいるのか」と問いを立ててみる。そのプロセスによって、他人の価値観に巻き込まれるのではなく、自分の内側にある本音に気づくことができる。

情報に振り回されずに生きるとは、シャットアウトすることではない。むしろ情報の海を泳ぎながら、自分の判断軸を見失わないことにある。そのためには、自分がどんな言葉に影響を受けやすいか、どんな価値観に惹かれるかを理解し、必要に応じて距離を取る「習慣」が必要だ。論理的に考える力も大切だが、それ以上に「感情」とどう付き合うかが問われている。

本書は、そうした日々の小さな思考のズレに気づき、軌道修正するためのヒントに満ちている。ただの情報整理術ではなく、「自分の人生をどう選び取るか」という問いに立ち返らせてくれる一冊である。今、自分の軸が少しでも揺らいでいると感じているなら、一度ページを開いてみてはいかがだろうか。

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