「最近読んだ小説の中で、面白かったものは?」と尋ねられたら、あなたは何と答えるだろうか。
恐らく、こうではないだろうか?
【成瀬は天下を取りにいく】(宮島未奈・著)
キャラクターの魅力とストーリーのテンポの良さ、そして清々しさが、何もかもを引き寄せる。これだけの圧倒的な読みやすさを誇る作品であり、多くの人が「さすが本屋大賞」と頷くのも納得だろう。
しかし、個人的には別の一冊を推したい。
【地雷グリコ 】(青崎有吾・著)
「わかる!」と思ったあなた、それは同志だ。あなたもきっと、次のような感想を抱かなかっただろうか。
「ライアーゲームぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!」
うまく伝えるのが難しいが、この作品の魅力を一言で表すなら、まさに「ライアーゲーム」だ。あの裏切られる感覚、予想を超えた展開の爽快さが、うまく伝わる語彙力が欲しいと常々感じている。
魅力を言語化できる力
さて、一区切り。
ここまでで、少しテンションが高いと感じた読者もいるだろう。そして同時に、少し未熟に感じたのではないだろうか。このような感覚、端的に言えば「熱量はあるが、魅力がうまく伝わっていない」というものだ。自分自身がそう感じているのだから、より客観的に読み解くあなたも同じように思ったに違いない。
実は、「小説の書評って難しいな」と感じていた。読書の習慣が自己啓発本ではなく小説から始まった私にとって、そのモヤモヤは余計に強く残っていた。だけど、自己啓発本と小説の書評には、こんな違いがあるのではないだろうか。
【自己啓発書の書評】
自己啓発書には、必ず”Tips”が存在する。書評を書くときには、「そのTipsがどんな人に役立つか」や「どのように書評者の生活に変化をもたらしたか」を記載することが重要だ。しかし、たとえ自分がそのTipsを実行していなくても、書評者にとって印象深い点を述べれば、一応は書評として成立する。
【小説の書評】
小説の書評は、単に印象に残ったフレーズや内容を紹介するだけでは成立しない。その作品に対する自分なりの感想や考えが加わることで、初めて書評として成立する。
普遍的な正解とは言えないかもしれないが、少なくとも私にとってはこれが正解だと考えている。”成瀬”も”グリコ”もどちらも面白い一冊なのに、その魅力をうまく伝えきれないのは、ただ単に自分の感想をアウトプットする力が不足しているからだ。
では、どうしてこのように考えるようになったのか。偶然にも、その答えも本に触れる中で得られた発想から来ている。
【文芸オタクの私が教える バズる文章教室 】(三宅香帆・著)
これを読んで、「見える人には、こんなふうに文章の魅力が伝わり、それをこんなふうに言葉にできるのか」と、才能の差を感じてしまった。本の魅力を“翻訳する力”とはまさにこういうことなのだと実感した。自己啓発書でないため、今の自分にとってその魅力を伝えるのはまだ難しいが、「文章の美しさはここに現れるんだ」「書評ではこんなところを重視しているんだ」という新しい発見が得られることは間違いない。興味があれば、ぜひ手に取っていただきたい。
魅力的なタイトルの構造
前置きが長くなったが、今回は自己啓発書ではない一冊の魅力をお伝えしたい。
① 新社会人が読むべき本10選
② 新社会人の悩みが一瞬で解決する本10選
突然だが、もしもあなたがニュースアプリを利用していた場合、クリックしたくなるタイトルはどちらだろうか。おそらくほとんどの人が「②」と答えるだろう。しかし、それがなぜかを説明するのは難しい。そんな疑問を解消してくれるのが、この一冊である。
【超タイトル大全 文章のポイントを短く、わかりやすく伝える「要約力」が身につく】(東香名子・著)
②のタイトルの方が、読者の「悩みを解決してくれそうな感じ」が強いと感じるのではないだろうか。おそらくこれは”第六感”に関連する部分だと思うが、もし五感で説明するなら、「視覚」ではなく、”嗅覚”に訴える文章だと言えるだろう。要するに、「文字のインパクトが強い」のではなく、「悩みを解決してくれるような”匂い”がする」ということだ。
嗅覚に訴える文章の作り方
Web上の記事は、クリックしてもらって初めて意味がある。そのため、読者の興味を引き、つまり「嗅覚に訴える」文章が、勝負を決める鍵となる。
では、嗅覚に訴える文章を作るためには、どのような工夫が必要だろうか。
同書によれば、重要なのは”読み手”と”そのメリット”を想像することだ。上記の例だと、②のタイトルは新社会人に対する理解が深い印象を与える。つまり、新社会人が抱える悩みを解決してくれそうな匂いがするのだ。タイトルだけで記事の内容を正確に予測することは難しいが、②のタイトルからは「新社会人は、会社選びやキャリアパス、上司とのコミュニケーションに悩んでいる」といった具体的な問題が浮かび上がってくる。このように、読者に訴えるタイトルを作るためには、問題を解像化することが必須だ。
嗅覚を刺激するための成功法
“嗅覚”を刺激する言葉には、一定の法則がある。
同書では、読者の目を引くための具体的な単語選びについても触れられている。要するに、ある程度“人の目を引く(=嗅覚を刺激する)言葉”が存在するという事実を伝えてくれる。私も多くの参考になるフレーズに出会ったので、その中からいくつか紹介したい。
- ほったらかし
なぜか「NISA」や「資産形成」というワードが連想されなかっただろうか。最近の流行ともリンクしており、人間の「現状維持を好む」という性質をうまく利用したワードだ。強烈だ。 - 知らなきゃ損
人は便益よりも損失に過敏に反応する性質があると言われている。同書には『知らなきゃ損!デキる主婦が実践する「最強の投資術」3つ』といった例が挙げられているが、これは思わずクリックしたくなるタイトルだ。「主婦」というワードからは“特別なエリートでなくてもできる感”が伝わるし、(決して主婦業を軽視しているわけではない)、資産形成に悩む人々の不安を解消してくれそうな匂いがする。 - 〜の真実
「一般常識に反する情報があるのでは?」という意外性を引き出すワード。裏切り度合いは本文を読まなければわからないが、少なくともクリックしたくなるタイトルであることは間違いない。
このように、嗅覚を刺激する言葉には一定の法則があることを同書は教えてくれている。
まとめ
Web上で何かを発信する方にとって、同書は実用性のある1冊だ。「目を引く」=「嗅覚に訴える」という考え方が理解でき、非常に参考になる。オススメだ。一方で、そうでない方にも役立つ要素がある。「タイトルで相手を引きつける」という行為は、相手を思いやることでもある。その意識が文章だけでなく、会話や対面コミュニケーションにも活かされれば、人間関係がより円滑に進むだろう。個人的にはまだ未熟だと感じた1冊ではあるが、新しい発想を得るために是非手に取ってほしい。
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