はじめに — 読む前に押さえておきたいこと
あなたはこんな悩みを抱えていないだろうか?
- 「新しいことを学ばなきゃ」と思ってはいるが、何から始めていいかわからない
- 勉強が続かず、すぐに挫折してしまう
- 学ぶことは大事だと感じているのに、つい後回しにしてしまう
社会人になってからも、何かを学ぶことの大切さは耳にする場面が増えた。だが、実際に学びを習慣にするのは、思っている以上に難しい。
「やらなきゃ」と思いながらも一歩が踏み出せない人にこそ、この本はヒントになるはずだ。
このブログで紹介する本の特徴
- 独学にまつわる「つまずきやすいポイント」を丁寧に言語化してくれている
- 「学びとは何か」という根本的な問いからスタートし、日常に取り入れやすい工夫を多数紹介
- 机に向かうことだけが勉強ではない、という気づきをくれる一冊
なぜ今、この考え方が求められているのか?
変化の激しい時代のなかで、自己投資や学び直しといった言葉をよく耳にするようになった。
にもかかわらず、学ぶこと自体が「苦手」「億劫」と感じられてしまうのは、学びに対する思い込みや過去の経験が影響している。
「忙しくて時間がない」「学ぶって、資格の勉強みたいなことでしょ」
そうした前提をそっとほどいてくれるのが、この本の魅力である。
いま必要なのは、知識の量ではなく、学びと自然につき合っていくための“構え”や“工夫”である。
私の気づき
学びとは、特別な場所や時間で行うものではなく、日常のなかに転がっているということ。大切なのは、身の回りの出来事に「ちょっと立ち止まって考える習慣」を持てるかどうかであるというのが印象的であった。堅苦しく考えすぎず、生活の延長線上に学びを見つけていければ、それで十分だと感じさせてくれる一冊だった。
学びを“苦行”にしないために必要なこと
「新しいことを学んでください」と言われると、多くの人は身構えてしまう。「大変そう」「続けられる気がしない」といった感情が先に立つからだ。
それは、「学ぶ」や「勉強する」といった言葉から、学校での経験を連想するからである。教科書を開いて、ひたすら暗記を続けた、あの光景が浮かぶ人も多いだろう。そこには「我慢」や「苦行」といったイメージがつきまといやすい。
たとえば、図鑑に載っているすべてのポケモンを自然に覚えてしまうような体験は、「学び」として捉えられにくい。けれど実際には、夢中になって知識を吸収していくプロセスこそが、理想的な学びのかたちとも言える。
大人になってからの学びも、資格の勉強や専門書を読むような、いわゆる“真面目な学び”の印象が強い。確かに、取り組む内容の難易度も重要だが、それ以上に重要なのが、「学ぶこと自体に対して自分がどんなイメージを持っているか」である。
同じ知識を得ようとする場合でも、それを「自分の役に立つこと」「おもしろいもの」と捉えられるか、「やらされているもの」「苦しい作業」と捉えるかで、吸収力や継続性には大きな差が出る。
今回紹介するのは、そんな“学びへの向き合い方”を見直すための1冊である。
【独学の地図】(荒木博行 著)
荒木博行
ビジネス書の編集者としての豊富な経験を持ち、現在はコンテンツプロデューサー、書籍編集者、著述家として幅広く活動している人物である。グロービス経営大学院で教鞭を執った経歴を持ち、ビジネスと教育の双方に精通している。
慶應義塾大学卒業後、住友商事にてキャリアをスタート。その後、教育系ベンチャーやグロービスでの経験を経て、編集者として多くのベストセラーに関わる。自身でも複数の書籍を執筆しており、思考法・学び・読書といったテーマを中心に、実践的かつ深みのある知見を発信している。
また、Voicyではビジネスや読書に関する音声コンテンツを定期的に配信し、多くのリスナーに支持されている。知的好奇心を刺激するその語り口と、現場で得た経験に裏打ちされた提言は、多忙なビジネスパーソンの学びの伴走者として高い評価を得ている。
なぜ独学はいつも失敗するのか?
新しいことを独学で学ぶのは難しい――多くの人がその感覚を持っているのではないか。
この困難さを乗り越えるためには、まず「なぜ独学が難しいのか」をきちんと理解しておく必要がある。
忙しさと、「学び=非日常」という思い込み
現代人は忙しい。実際には、スマートフォンを眺めているだけの時間も少なくないはずだが、それでも「自分の生活には余裕がある」と胸を張って言える人は多くない。
さらに、「勉強=机に向かって集中して取り組むもの」というイメージが根強く残っている。まとまった時間を確保しなければならないという思い込みが、学ぶことを必要以上に大がかりなものにしてしまっている。
また、学びは海外旅行や起業といった非日常的な経験から得るものだと思い込んでいる人もいる。その場合、「自分にはそんな特別な機会はない」と感じてしまい、日常の中にある学びの可能性を見落としてしまう。
つまり、「学びは特別な状況で起こるもの」という認識が、独学のハードルを自ら高くしてしまっているのである。
「学ぶべきもの」や「実生活で使えるもの」に偏る
学生時代、すべての教科に興味を持てた人はそう多くないはずだ。たとえ苦手でも、「役に立つから」と言われて勉強させられた経験は、多くの人に共通しているだろう。
こうした経験があるからこそ、大人になってからも「学び=何かに役立つもの」という前提が強く残っている。「どうせ学ぶなら、仕事や生活で使えることを」と思うのは自然なことだ。
しかし、この“役立ち重視”の姿勢が、「好きだけど、すぐに役立たないこと」から自分を遠ざけてしまう。学びへの真面目さが、かえって学びを続けにくくしているという皮肉な構造になっている。
過去の成功体験を再現できていない
勉強が苦手だと感じていても、今までに何も学んでこなかった人はいない。
たとえば、自分好みの料理の味つけを覚えたことや、人間関係を円滑にする言い回しを身につけたことも、立派な学びである。
だが、そうした学びを「どうやって身につけたか」を振り返ることは少ない。だからこそ、自分がうまくいった学習パターンを再現することができない。
その結果、どうしても思い出しやすいのは「うまくいかなかった勉強」の記憶になる。机に向かって、辛抱強くがんばったのに成果が出なかったあの経験だ。すると、「また同じように失敗するのでは」という不安から、独学に対して消極的になってしまう。
本来はすでにいくつもの成功体験を持っているのに、それを活かせない。そんな意外な落とし穴も、独学の難しさの一因となっている。
独学を成功させるための実践法
独学が難しいのは、自分の考え方や「学び」に対するイメージがハードルを上げてしまっているからである。
だが、これらを変えることができれば、どんなに難しいテーマでも自分の力で学んでいくことが可能になる。
では、どうすればよいのか。キーワードは「仕掛けづくり」と「環境づくり」である。
常に小さく構えておく
ここでいう「小さく構える」とは、日常のなかでいつでも学びのきっかけをキャッチできる状態にしておくことを指す。
海外旅行や事業成功のような特別な体験だけが学びの場ではない。読書や雑談、すれ違いざまの気づきなど、学びのチャンスは日常のなかにいくらでも転がっている。
たとえば、
- 「なぜ“緑信号”ではなく“青信号”と言うのだろう?」と疑問に思い調べてみる
- 人の話を遮らずに最後まで聞いたとき、自分の発言や相手の反応がどう変わるかを観察してみる
- すすめられた本を読んで、その人の価値観や思考にまで思いを巡らせてみる
このように、小さな問いを持ち続ける人は、学びの“総量”が自然と増えていく。そして、机に向かって学ぶ時間がなくても、複数の視点を持てる柔軟な思考が育っていく。
また、「役に立つかどうか」に縛られず、自分の興味を起点に学ぶことができるのもこの姿勢の魅力である。偶然に出会ったことから広がる学びは、自然で無理がなく、意外と楽しい。学びを“特別な行い”とせず、日常に溶け込ませることが、独学を続けるコツのひとつである。
4つのゾーンで疑問を立てる
日常から学ぶための第一歩は、「疑問を持つこと」である。
だが、「何を疑問に持てばよいかわからない」という人もいる。そこで有効なのが、「4つのゾーン」で問いを立てる方法である。これは、対象と自分、過去と未来という2軸から成るフレームワークである。
- ゾーン1(対象×過去):「それはどうしてこうなった?」「なぜこうなった?」
- ゾーン2(対象×未来):「それはこれからどうなる?」「どうすべき?」
- ゾーン3(自分×過去):「自分はどうしていたか?」「なぜそうしていた?」
- ゾーン4(自分×未来):「自分はどうする?」「どうすべき?」
たとえば、「現代人にとってスマホは不可欠になっている」という知識をこの4つで問い直すと、以下のようになる。
ゾーン1(対象×過去):「なぜスマホがここまで生活に浸透したのか?」
→ 技術革新やインターネット環境の進化が背景にあるが、なぜそれらが一斉に進んだのかを掘ると、社会構造や価値観の変化にもつながる。
ゾーン2(対象×未来):「スマホは今後どうなる?」
→ 技術革新やインターネット環境の進化が背景にあるが、なぜそれらが一斉に進んだのかを掘ると、社会構造や価値観の変化にもつながる。
ゾーン3(自分×過去):「自分はなぜ毎朝スマホをチェックするようになったのか?」
→ 習慣化の背景にある不安や承認欲求に気づくきっかけになる。
ゾーン4(自分×未来):「これから自分はスマホとどう付き合っていくべきか?」
→ 使用ルールの設定、通知の整理など、自分の行動を再設計するヒントになる。
このように、フレームを使うことで日常的な事象からも深い疑問や気づきが生まれる。自分が「おっ」と思える問いを見つけることが、学びの起点となる。
感想ではなく「学び」に変換する
「人に対して素直に接することの大切さを学びました」
一見すると学びのように思えるこの言葉も、実は多くの人がすでに知っている“正しそうな一般論”である。だからこそ、それだけでは行動が変わらないし、記憶にも残りにくい。
こうした感想を「自分だけの学び」に変えるために、以下の3ステップが有効である。
- 素直に感じたこと(=感想)をアウトプットしてみる
- 「それっぽい一般論」がないかをチェックする
- 「自分だけの具体論」に変換する
「相手の立場に立つことが大切」という例を用いて考えてみる。
「やっぱり、相手の立場に立つことって大事ですよね」
そう語ったのは、あるプロジェクトの振り返りをしていたときのことだった。本人は「今回の経験を通して学びました」と言うのだが、聞いているこちらとしては、どこかモヤっとする。
それは、セッションを受ける前から知っていたはずの“正しそうな言葉”にすぎないからだ。
こうしたケースはよくある。「素直になることが大事」「感謝の気持ちを忘れずに」「挑戦する勇気を持つべき」――たしかに正しい。けれど、そうした一般論だけでは、行動は変わらないし、学びが蓄積されていかない。
そこで有効なのが、感想を「自分だけの学び」に変えるための、3ステップである。
ステップ①:とりあえず感想をアウトプットする
たとえば今回のケースでは、
「自分の意見を優先してしまって、チームメンバーと衝突した。でも、相手の立場に立って考えることが大切だと気づいた」
という言葉が感想として出てきた。まずは感じたことを言語化することが第一歩である。
ステップ②:それっぽい一般論になっていないかをチェックする
次にやるべきは、「それって前から知ってたことじゃない?」と自問すること。
「相手の立場に立つことが大事」というのは、学校でも職場でも何度となく耳にする言葉だ。今回初めて知ったわけではないはずだ。つまり、学びのように見えて、これはまだ“感想”にすぎないということ。
ステップ③:自分だけの具体論に変換する
ここからが肝心だ。では今回、自分は「相手の立場に立てなかった」のはなぜか?そして「これから相手の立場に立つ」とは、どんな行動を指すのか?
セッションを深掘りしていくと、こういうことが見えてきた。
・チームメンバーは、新人で不安を抱えていた
・プロジェクトの目的が本人には腹落ちしていなかった
・自分は「とにかく進めること」を優先し、背景に目を向けていなかったこれをふまえて出てきた具体論は、
「会話の前に、“この人が不安に思っていることは何か?”を仮説として考えておく」
という一文だった。
これなら、すぐにでも実行できるし、自分自身にとっても意味のあるアクションである。
上記の例では、「相手の立場に立つことが大切」という感想が、「会話の前に、“この人が不安に思っていることは何か?”を仮説として考えておく」という具体的な学びへと昇華された。
この具体論は、セッションを受ける前には持っていなかったものであり、まさに経験の差分から得られた学びである。
感想や一般論は、それだけでは学びとは言い難い。だが、それらは学びの原石ともいえる存在である。
大切なのは、「自分が新たに得たものや発見したことは何か」に目を向け、その感想を自分だけの経験に引き寄せて捉え直すことである。
そうして得られた学びは、予定調和的な知識ではない。むしろ、日々の体験から偶然に掘り出された、自分にとって意味のある知恵である。意図して得た学びではないかもしれないが、それこそがあなたの人生に深く根づいていく、価値ある学びとなるはずだ。
独学を“特別なこと”にしないために
独学というと、特別な意志や努力が必要だと感じる人も多いかもしれない。
だが、実際には「学ぶ」という行為は、日常の中にも自然に存在している。
本を読んで気づいたことや、誰かと話して印象に残ったこと。それらは一見するとただの感想のように思えるかもしれないが、学びの入口として十分に価値がある。大切なのは、そうした感想を一歩だけ掘り下げてみる姿勢だ。
「なぜそう思ったのか」「それを受けて、自分は何を変えたくなったのか」
そう問いかけるだけで、学びは少しずつ自分のものになっていく。
これまで紹介してきた「小さく構える」「4つのゾーンで考える」「一般論から自分だけの具体論に変換する」といった考え方も、どれも特別なものではない。無理に大きな成果を求める必要もないし、すぐに何かを変えなければならないわけでもない。ただ、「今、自分はどんなことに引っかかっているのか」「なぜそれが気になるのか」と丁寧に拾っていくだけでいい。
学びは、特定の人だけのものではない。忙しい人でも、時間がないと感じている人でも、自分に合ったペースとやり方が見つかれば、確実に積み上げていくことができる。
そしてそれは、必ずしも明確な目標がなくても構わない。「なんとなく気になる」「ちょっと面白そうだと思った」──そんな感覚を丁寧に扱うことが、独学を支える大切な土台になるのだ。
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