「ここだけはおさえて」ポイント
この本が届く人・届いてほしい人
- SNSで他人とつながっているはずなのに、ふとした瞬間に「自分だけが取り残されている」と感じてしまう
- 日常的に多くの人と接し、つながりを持っているはずなのに、どこかで満たされない寂しさを抱えている
- 常に他人の期待に応えようとしているのに、自己肯定感が低く、心の中で「本当に自分らしく生きているのか」と不安になる
この本が届けたい問い/メッセージ
現代人は、SNSを通じて常に他者と繋がり、繋がりを求める一方で、心からのつながりや満足感を感じることができない現実に直面している。常時接続がもたらす孤独感や、他人の期待に応えようとする圧力が、寂しさを深める要因となっている。また、「どう見られるか」という意識が自己表現を制限し、本当の自分を見失わせる原因にもなる。
そのため、寂しさを解消するためには、外部とのつながりではなく、まず自分自身と向き合うことが求められる。他者と対話するのではなく、自分の中で他者を住まわせ、その対話を重ねることで、自分の本当の姿を見つけ、自己肯定感を取り戻すことが可能になる。
読み終えた今、胸に残ったこと
一番の気づきは、「寂しさを紛らわすためには他者が必要だ」という認識をしていたが、実際には自分との対話が重要であることに気づけたことだ。外的なつながりばかりを求めていた自分にとって、内面と向き合う大切さを再確認できたのは大きな収穫だった。
また、現代の寂しさは単なる孤独感にとどまらず、社会構造やSNSによる影響が大きいという点に新たな視点を得た。これまで感じていた寂しさの正体が、ただの「孤独」ではなく、外的な要因に由来するものだと理解できたことで、少し軽くなったような気がする。
つながりがあるのに、なぜ寂しい?
特にこれといった理由はないけれども、なんとなく、寂しい…。
普段の生活の中で、ふとした瞬間にそう感じることはないだろうか。
特に理由があるわけでもないのに、ふとした瞬間にそんな感情にとらわれることはないだろうか。
楽しい時間が終わったあとや、誰とも言葉を交わさなかった一日。そんなときに、寂しさは顔を出す。けれど、現代の私たちは、孤立しているわけではない。SNSを開けば、いつでも誰かとつながれる。友人の近況も、世界中の出来事も、タイムラインを流れていく。
それなのに、寂しさはなくならない。
本来、つながりが寂しさを癒すはずなのに、むしろそれによって寂しさが深まっているとしたら。この違和感に切り込むのが、今回紹介する1冊である。
【増補改訂版 スマホ時代の哲学 「常時接続の世界」で失われた孤独をめぐる冒険】(谷川嘉浩・著)
谷川嘉浩
哲学者・倫理学者。1990年、兵庫県生まれ。専門は哲学・倫理学・若者文化論。京都大学文学部卒業後、京都大学大学院文学研究科博士後期課程を修了。現在は関西外国語大学英語国際学部准教授。哲学とポップカルチャーを架橋するスタイルで注目を集め、アニメ・マンガ・ゲームを題材にしながら、現代の人間や社会の在り方を深く問う著作を数多く発表している。
「常時接続」は、孤独を癒やさない
SNSの最大の特徴は、いつでも・どこでも他人とつながれるということだ。画面の向こうに人がいる安心感は、一見すると孤独を和らげるツールのように見える。
しかし現実には、その「常時接続」こそが、孤独感を強めているのかもしれない。
現代のコミュニケーションは、常に「誰かに見られている」ことを前提としている。SNSに投稿するとき、私たちは「どう在りたいか」よりも「どう見られるか」に敏感になる。素の自分ではなく、他人が望む自分を演じてしまうのだ。
また、情報過多の時代には「ネガティブ・ケイパビリティ(答えの出ない状態に耐える力)」が失われつつある。レビューを読み、検索し、失敗を避け、常に「正解」へと最短距離で進もうとする。コスパ・タイパ重視の思考の中で、「揺らぎ」や「曖昧さ」を抱える力が弱まっている。
こうして私たちは、他者といつもつながっているはずなのに、深く分かり合えず、心のどこかにぽっかりと穴が空いたような感覚を抱える。
それは「寂しさ」というより、「自分がここにいていい」と思える感覚の欠如に近い。
寂しさを解消するために、自分と対話する
SNSでいくら多くの人とつながっても、寂しさが解消されるとは限らない。なぜなら、SNS上のやりとりの多くは「どう見られるか」を意識したものであり、そこには“演じた自分”しか存在しないからだ。そんなやりとりをいくら重ねても、心の奥深くまで届く関係は築けない。
では、どうすれば寂しさを和らげることができるのか。同書が提示する一つの答えは、「自分の中に他人を住まわせる」ことだ。
これはつまり、自分自身との対話の中に、他者とのつながりの感覚を持つこと。あの人ならどう考えるだろう。あのとき、あの人がくれた言葉の意味は。そうして心のなかで誰かと会話を繰り返すことで、私たちは孤独でありながら孤独ではいられる。
このプロセスには、ネガティブ・ケイパビリティ(答えの出ない状態にとどまる力)が欠かせない。現代では「何もしない時間」がムダと見なされがちだが、答えを急いでしまうと、結局また“外”に答えを求めてしまうことになる。
本当の意味で「自分らしさ」にたどり着くには、揺らぎや不確かさを抱えたまま、誰にも見せない静かな対話を続けることが必要なのだ。他者の目に合わせてつくった「完璧な自分」ではなく、不完全で揺らぎをもった「本当の自分」を、まずは自分が受け入れること。
そのとき初めて、つながりに依存せずとも、ひとりでいることの中に穏やかさを見いだせるようになる。寂しさは、他人が癒してくれるものではなく、自分自身との深い対話の中で、静かにほどけていくものなのである。
まとめ – 寂しさを超えて、自分と向き合う新しい方法
現代社会では、SNSや常時接続によって、便利で豊かなつながりが広がった。しかし、その一方で、それらのつながりが必ずしも私たちの心の奥底にある寂しさを癒すわけではない。むしろ、常に他者と接続していることで、孤独感を感じることが増えているように思える。
本書では、寂しさを感じる根本的な原因を追究し、その解決策を模索してきた。その結果、自分との対話が重要であることが明らかになった。自分自身と向き合い、心の中で他者と対話をすることで、現代の孤独感を乗り越える第一歩を踏み出せるのである。
寂しさを感じることは決して悪いことではない。むしろ、それは自分と向き合うための貴重な機会となる。現代社会で孤独を感じることは避けられないかもしれないが、それをどう扱うかは私たち次第である。自分と向き合い、心の中で他者と対話を重ねることで、真のつながりを見つけることができるのだ。
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