「ここだけはおさえて」ポイント
この本が届く人・届いてほしい人
- 営業という仕事に苦手意識を持ち、「売る」ことにプレッシャーや恐怖を感じている人
- 自分の営業スタイルに自信がなく、どうすればお客様に納得してもらえるか悩んでいる人
- 営業職に限らず、人と人のコミュニケーションや信頼関係の築き方に関心があり、仕事でより良い関係性を築きたいと考えている人
この本が届けたい問い・メッセージ
営業は単なる売り込みではなく、適切な相手に価値を届ける仕事である。製品の良さだけでなく、人間性や企業の姿勢も営業に影響する。正しいマッチングを心がけ、誠実に対応すれば、過剰な恐れや押し売りは不要になる。
読み終えた今、胸に残ったこと
この本は営業の本質を「売ること」ではなく、「買いたいと思ってもらうためのマッチング作業」として捉え直す視点を与えてくれた。商品の魅力だけでなく、誰がどんな思いで届けるか、企業の姿勢までが選ばれる理由になるという考えは、営業に限らず人と人の関わりにも当てはまる。
また、「嫌われたくない」「断られるのが怖い」といった感情が営業の足かせになるが、正しいマッチングを目指し誠実に向き合う限り、その恐怖は過剰だと気づかされた。これは営業以外のコミュニケーションにも応用できる示唆だ。
営業を通じて課題解決に寄り添い、信頼を築く価値を考えさせられる1冊である。
「売らずに売る」ってどういうこと?
「営業って、売り込む仕事でしょ?」
そう思っている人は少なくない。たしかに、お客様に自社の商品やサービスを買ってもらうのが営業の役割である。だが、その実態はもっと複雑だ。
たとえば、法人向けの無形商材――つまり、目に見えない商品を企業相手に提案する営業には、高度なスキルが求められる。対人スキル、課題を見抜く力、タスク管理能力。こうしたスキルを駆使して、「最初は買う気がなかったお客様」に購入を決断してもらう。それが、営業という仕事の現場だ。
つまり営業とは、「売りたい自分」と「買いたくないお客様」の間にある高い壁を越えていく仕事とも言える。その壁があるからこそ、営業スキルは“ポータブルスキル”として評価されているのだ。業界や職種が変わっても通用するスキルとして、多くの人に注目されている。
ただし、この「売る」ことにこだわる考え方が、かえって営業を難しくしているとしたらどうだろう?
そんな問いを投げかけてくるのが、今回紹介する1冊である。
【売らずに売れる技術 】(河田真誠・著)
河田真誠
問いかけを通じて他者の本音や可能性を引き出す専門家。広島でデザイン会社の経営や1,000人規模の講演会主宰を経験した後、2010年より東京を拠点に活動を本格化。企業研修や学校教育の現場など、幅広い分野で独自の「質問メソッド」を展開している。
著書には『革新的な会社の質問力』(日経BP社)、『私らしくわがままに本当の幸せに出逢う100の質問』(A-works)、『人生、このままでいいの?』(CCCメディアハウス)、『悩みが武器になる働き方』(徳間書店)などがあり、ビジネス・自己啓発・教育の領域で高い評価を得ている。
「いい質問が、いい答えを導く」という信念のもと、全国の学校での授業や企業研修、講演活動を通じて、人や組織の変容を後押ししている。質問という切り口から、人が本来持つ力を引き出すことを使命とし、活動の幅を広げ続けている。
「売る」って、実は「助ける」ことだった?
誰でも一度は「これ、いかがですか?」と声をかけられた経験があるだろう。会社で営業電話を受けたことがなくても、スーパーの試食、カフェでのサイズアップ提案、アパレルショップでの「お似合いですよ」も、すべて営業の一つだ。
だが、いきなり「これ、すごくいいんです!」と熱心に勧められても、なぜか心が引いてしまう。必要のないものを押しつけられているような気がしてしまうのだ。反対に、試食して「美味しい」と思ったとき、試着して「これだ」と感じたとき、購入を決めるのは他でもない、自分自身の意志である。
この視点から営業という仕事を見直すと、本質が少し変わって見えてくる。
売ろうとすると売れない。けれど、買いたいと思わせると売れる。つまり営業とは、「売る」ではなく、「買ってもらう」仕組みをつくる仕事なのである。
では、どんな仕組みをつくればよいのか?
著者が提示するキーワードは「マッチング」である。営業の仕事とは、自社の商品やサービスが、相手の課題をどう解決できるかを見つけ出し、その価値が相手に届くように伝えること。つまり、課題を解決したい人と、その解決策をつなぐ“橋渡し”なのだ。
著者は、営業を「世の中に一つ、幸せを増やす仕事」と表現している。求めている人に、納得感を持って、確実に届ける――それは無理に売り込むこととはまったく異なる。
この前提をふまえて営業を成功に導くには、製品の魅力を伝えるだけでは足りない。「誰が」「どんな思いで」届けるか──その“届け方”にこそ、営業の本質がある。次章では、製品以外の何が人の心を動かすのかを深掘りしていく。
商品が良くても「買ってもらえない」理由
「あなたの課題を解決できる製品です」と提案すれば、確実に買ってもらえるか──。
答えはノーである。なぜなら、課題を解決できる製品は一つではないからだ。
例えば、経費精算を効率化するクラウドサービスも、医療保険も、不動産も。どれも“代替可能”な選択肢が存在する。つまり、お客様は「選べる立場」にあるのだ。
このとき、最終的な決め手となるのは、製品スペックや価格といった“論理的な違い”だけではない。
もっと感情的で、直感的な要素──たとえば、営業担当者の人柄や企業のスタンスが、大きな影響を与える。
想像してみてほしい。
洗濯機を買い替えようと家電量販店を訪れたとする。最新モデルを見つけ、性能やデザインも理想的で、ほぼこれに決めかけていた。
ところが、担当者の対応に違和感があった。「他社製品はトラブルが多いですから」と他を貶し、こちらの質問にもどこか高圧的。説明を聞くほどに購買意欲は冷めていった。
結果として、そのモデルそのものに対しても印象が悪くなり、数日後、まったく別メーカーの洗濯機を購入した──。
似たような経験を持つ人は少なくないだろう。製品のスペックが変わらないにも関わらず、「誰から」「どのように」提案されたかによって、購買の意思が左右されるのだ。
ここから見えてくるのは、「営業におけるマッチング」は、製品の適合性だけでは不十分だということだ。営業担当者の誠実さ、親しみやすさ、信頼感──そうした“人としての魅力”も重要であり、企業が掲げる価値観や社会への向き合い方も、お客様の購買判断に直結する。
いくら製品が優れていても、企業の労働環境がブラックだったり、調達過程に不透明な部分があれば、感度の高い顧客は敬遠する。逆に、多少の不便さがあっても「この人から買いたい」「この会社を応援したい」と思わせることができれば、それは何にも勝る購買動機となる。
モノが溢れる時代だからこそ、営業とは「製品+人+企業」を含めた“総合的な信頼”を届ける仕事であると言える。
営業は「嫌われ役」じゃない
営業という仕事には、マッチングのスキルだけでなく、人間性や企業のビジョンまでもが求められる。
そう聞くと、「ただでさえ辛そうな仕事なのに、さらに難しそうだ」と感じる人もいるだろう。
だが、著者は多くの人が営業を“過剰に恐れている”のではないかと考えている。
たとえば、「嫌われたくない」という感情。「売る」という言葉の印象から、「押し売りになるのではないか」「うざがられるのではないか」と不安を抱くのは自然なことだ。
だが、「マッチング」という考え方に立ち返れば、あなたの役割は明確である。
・押し売りしないこと
・納得してくれた人にだけ届けること
・ウソをつかず、誠実に伝えること
それらをきちんと果たしている限り、たとえ断られても、それはあなたの失敗ではない。ましてや「嫌われた」と決めつける必要はない。
相手があなたの提案を必要としていなかった──ただそれだけのことだ。
「断られるのが怖い」という感情についても同じである。もしあなたが正しくマッチングを試みたうえで断られたなら、それは“求めていない人に、無理に買わせなかった”という、むしろ健全な結果だと捉えることもできる。
もちろん、「お客様の課題を見抜く力」は不可欠だ。だが、あなた自身が「この方にとって本当に必要な提案だ」と思えているのなら、断られたからといって過剰に落ち込む必要はない。営業とは、誰彼かまわず売りつける仕事ではない。必要な人に、必要なものを届ける営みなのである。
さらに、「がっかりされたらどうしよう」という不安もあるだろう。これには、期待値のコントロールが鍵となる。
そのためには、まず自社製品に対して、あなた自身がしっかりと理解し、自信を持つことが前提だ。
魅力を誇張せず、過小評価もせず、「そのまま」伝える。嘘偽りなく、でもきちんと魅力が伝わるように。その姿勢を貫いていれば、たとえ相手が思っていたのと違った反応をしたとしても、それはあなたの責任ではない。
つまり、営業において多くの人が抱える恐れの正体は、実は「恐れる必要のない恐怖」だ。無理に売ろうとすることで抱く罪悪感やプレッシャーこそが、恐怖を生み出している。
営業は、お客様の敵ではない。課題を解決する“味方”である。その視点に立ち返れば、営業という仕事に対する構え方は変わってくるはずだ。
必要以上に恐れることなく、自信をもって、この仕事に向き合っていってほしい。
営業の本質は「マッチング」と「信頼」
営業とは単に「売る」ことではない。著者は、自社の製品やサービスがお客様の課題を解決することを伝え、納得してもらうことが大切だと説いている。読んでいくうちに私自身は「営業とは、お客様と解決策をつなぐ“マッチング”の仕事なのだ」と感じた。
この視点が私にとっては非常に腑に落ちるものだった。製品のスペックや価格だけでは決まらず、営業担当者の人間性や企業の理念、そして相手との信頼関係が購入の決め手になることが多いからだ。つまり、営業はただ商品を押し売りするのではなく、「求める人に最適な解決策を届ける」という役割が強いと気づかされた。
さらに、「嫌われたくない」「断られるのが怖い」といった営業にまつわる恐怖感も、本書を読むと必要以上に恐れる必要はないことが分かる。正しくマッチングしようと努力し、誠実に接すれば、それでも断られることは単に「相手にとって必要でなかっただけ」であり、営業の失敗ではない。
本書を通じて、営業とはお客様の課題を見つけ、最適な解決策を届ける橋渡しのような仕事だという印象を持った。これから営業に携わる方だけでなく、営業に苦手意識を持っている人にも、この捉え方が少しでも参考になれば嬉しい。
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