「ここだけはおさえて」ポイント
どんな人にオススメの1冊?
- 人間関係を円滑にしたい人
- コミュニケーションスキルを向上させたい人
ポイント①:伝え方一つで、損もするし得もする
伝え方が人間関係に与える影響は計り知れない。相手に好印象を与えたり、逆に誤解を招いたりするのは、伝え方次第である。
ポイント②:「返報性の原理」こそ、伝え方の原点にして王道
返報性の原理を理解することで、相手の心を動かす伝え方が身につく。この原理を利用することで、相手にプラスの未来を見せることができ、協力を得るための道筋が見えてくる。
読みやすさ:★★★★★
一見、単なる会話テクニック本に見えるが、実は伝え方の概念を根本から変えてくれる革新的な一冊である。お願い、提案、説得・交渉、断り方など、さまざまなシチュエーション別に「損する」「得する」伝え方が示されており、具体的なイメージを持ちながら学べる。コミュニケーションに関する悩みの有無に関わらず、誰もが得られる価値のある一冊。
「内容」だけでなく「伝え方」も大事
コミュニケーションにおいては、「何を伝えるか」だけでなく、「どう伝えるか」も重要だ。
そんなことは誰でもわかっているのに、忙しさやストレス、オンライン環境などの影響で、この基本を忘れてしまうことがある。また、「良い伝え方がわからない」という理由で、実践できていない人も少なくない。学校で教わるものでもなく、「コミュニケーション」という曖昧な概念に対して、感覚的にしか捉えられないと感じることもある。
しかし、誰しも「良いコミュニケーション」に対する感覚を持っている。以下の例を見てほしい。
契約先に値下げ交渉をするシーン
- 「値引きしてほしい」
- 「この予算でできることを一緒に考えたい」
仕事をお願いされたシーン
- 「それは無理です」
- 「ここまでなら可能です」
仕事をお願いするシーン
- 「この仕事お願いできる?」
- 「君の力を貸してほしい」
いずれも2の言い回し方が、物事がスムーズに運ぶことは間違いない。
こんな言い回しがすぐに出てくるようになったら…。そんなふうに思うあなたにとって、最適な1冊のご紹介。
【伝え方で損する人 得する人】(藤田卓也・著)
藤田卓也
1987年生まれ、広島県出身のコピーライターである。京都大学および東京大学大学院を修了し、大学時代には京都学生祭典の実行委員長を務め、京大総長賞を受賞した。2012年に株式会社電通へ入社し、コピーライターとしてのキャリアを開始した。
理系出身でありながら、言葉を扱う職種に配属された藤田氏は、100社以上のコミュニケーション施策に携わり、CMや新聞広告、ブランド開発、SNSキャンペーンなど多岐にわたるプロジェクトを手掛けてきた。主な実績として、Indeedの「仕事さがしはIndeed」シリーズや、日本コカ・コーラの「チーム コカ・コーラ」、リクルートのスタディサプリ「18の問い」などがあり、国内外で20以上のアワードを受賞している。
また、電通のサマーインターンシップの講師や東洋大学でのキャリア支援講義などを通じて、延べ1,000名以上に伝え方の技術を指導してきた。現在はLINEヤフー株式会社に所属し、引き続き多方面で活躍している。
なぜ2の言い回しの方が「良い」と感じるのか。カギとなるのは返報性の原理である。これを理解することで、あなたの言い回しを「損する伝え方」から「得する伝え方」に変えることができる。
「お返し」で人は動く
定期健康診断の結果、医師から生活習慣の見直しを強く勧められたとする。その説明は科学的根拠に基づいており、論理的に正しいとわかっていても、長年続けてきた食生活や運動不足の習慣を変えることに対する心理的抵抗や、面倒臭さから、実践するのが難しいと感じることがある。
このように、論理的に正しいと理解していても、人は動けないこともある。「正しさ」だけでは人は動かないのだ。
では、どうすれば良いのか。「正しさ」、つまり「論理」ではなく、「感情」でアプローチすることが重要である。「お返しをしなければ」という返報性の原理を利用するのだ。
具体的には、「プラスの未来」と「マイナスの未来」を見せることとなる。先ほどの例をもとに説明しよう。
契約先に値下げ交渉をするシーン
- 「値引きしてほしい」
- 「この予算でできることを一緒に考えたい」
1の言い回しでは、こちらの要望を一方的に伝えている。敬語や言い回しを工夫しても、相手の前向きな協力を得ることは難しい。
一方2では、話し手が自分と相手の双方にとってのプラスな未来を提示している。「契約成立」というプラスの未来を想像させることで、相手の協力を得やすくしているのだ。
また、この言い回しにより、「コストを下げる or 下げない」から「どのようにして価値を出すか」に聞き手のフォーカスが変わることもポイントである。価値創出に関する工夫を考えることは、双方にとってプラスの未来につながるからだ。
マイナスの未来を見せる場合についても説明する。こちらは、前に進みたくない時に効果的な伝え方だ。
相手の意見を否定したいシーン
- 「それはやめた方がいいです」
- 「最悪の場合、こうなります」
2のように、マイナスの未来を共有することで、相手はそのリスクを提示してくれた相手に対し返報性の原理が働くのである。なお、この場合は、話し手が「判断材料を与えてくれたこと」に対して返報性の原理が働いていると考えることもできる。
他の例についても考えてみる。
仕事をお願いされたシーン
- 「ここまでなら可能です」
- 「それは無理です」
2は「できない」という事実を「できる」というプラスの未来に変換して伝えている事例だ。「できないんじゃなかったの?」とツッコミを入れたくなるかもしれないが、「相手のお願いに対し1%も貢献できない」というシチュエーションは意外と少ない。
大切なのは、相手に対する尊重と協力の姿勢を示すことである。少しでもできること(プラスの未来)を見つけ、それにフォーカスを当てて伝えることで、双方によって良い関係を築くことができる。
仕事をお願いするシーン
- 「この仕事お願いできる?」
- 「君の力を貸してほしい」
1は「値引きしてほしい」と同様、こちらの要望をそのまま伝える言い回しだ。
一方2の場合、「聞き手の力を借りることで、私(話し手)は良い未来が実現すると思っている」という認識を共有している。この表現には相手の強みや武器を頼りにするという敬意が含まれており、自己効力感を高める効果もある。文章で綴ると少し大袈裟に思えるかもしれないが、実際に言われると、多くの人が「まんざらでもない」と感じ、協力しようとするのではないだろうか。
まとめ – 伝え方の新たな指針を手に入れよう
本書は、返報性の原理を通じて、効果的な伝え方に対する新たなアプローチを提示している。コミュニケーションにおいて「感情」が重要であることは多くの人が認識しているが、実践することが難しいと感じている人も多い。この指針を学ぶことで、具体的な行動に移しやすくなるだろう。
本書では、日常生活でよく遭遇する「お願い」「提案」「説得・交渉」「お誘い」「断り方」といった11のシチュエーションにおける「損する伝え方」と「得する伝え方」が示されている。これにより、コミュニケーションの理論を学びつつ、すぐに使える具体的なテクニックを得ることができる。
伝え方を改善したいと考えるすべての人にとって、非常に役立つ一冊である。ぜひ手に取って、その内容を実践してみてほしい。
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