「ここだけはおさえて」ポイント
- どんな人におすすめ?
仕事での「調整」に悩んでいる人/「上手く商品の魅力を伝えているのに、中々売れない」と感じている営業マン - ポイント①
説得は「論理」より「感情」 - ポイント②
影響力をコントロールすると、説得できる可能性が高まる - ポイント③
ペインポイントを考えると、説得は「相手を打ち負かすこと」ではなくなる - 読みやすさ:★★★☆☆
得の極意を学べる一冊。最初は難しく感じるかもしれないが、ひとつずつ実践していけば、説得力は確実に増すことができる。説得のテクニックを取り入れることで、仕事や人間関係において新たな一歩を踏み出すきっかけとなるに違いない。
説得の壁を越えるためのカギ
あなたが500円の高級チョコレートを売ろうとしたとき、どんなアピールをするだろうか。
「高級カカオを使用している」
「こだわりの製法で作られている」
「甘味と苦味の絶妙なバランス」
こうした魅力的なポイントを挙げるだろう。
しかし、消費者の立場になった時、あなたはどう感じるだろうか。「買いたい」と思うだろうか。もちろん、100%ノーとは言わないが、完全にイエスとも言い難い。
なぜだろうか。それは、私たちが何かを選ぶ際、特に金銭的な負担や責任を伴う選択において、感情よりも理性が先に働くからだ。例えば、車やマイホーム、または会社での稟議決済など、何かを決定する際には慎重にならざるを得ない。
このような防衛本能が働くとき、説得は一層難しくなる。
では、どのように説得力を持たせるか。それを学べる1冊を紹介する。
【頭のいい人だけが知っている説得力】(平田貴子・著)
平田貴子
ロート製薬の新規事業開発部長を務め、アメリカ市場での投資戦略やスキンケアブランド戦略を手掛けたビジネスリーダーである。さらに、P&Gでのファブリーズマーケティングや、イオンでのトップバリュブランド戦略にも携わり、実績を積んできた。
著書『The Virtual Leader』はウォール・ストリート・ジャーナルでベストセラーとなり、その後も多くのビジネス書を執筆している。
感情に訴えなければ、説得には勝てない
例えば、こんな場面がある。
上司に新しいプロジェクトの提案をしたとき。「内容は面白いが、コストが高すぎる。まずは小規模で試してからにしてはどうか」と言われる。リスクを抑えて進めるというのは理にかなっている。しかし、自分としてはしっかり考え抜いたつもりだから、コストが高くても大規模でやるメリットを強く打ち出したい。
あるいは、後輩に仕事の進め方についてアドバイスしたとき。「その方法は合理的かもしれませんが、自分なりのやり方で進めたいです」と返される。理屈では自分のほうが正しいと分かっている。だから、相手が頑なな態度を崩さないのを見ると、親切心と自分の経験をもとに、さらに自分のやり方の優秀さや合理性を熱心に伝えようとする。
どちらもあなたが伝えている内容は「正しい」。しかし、それで相手が納得し、考えや行動を変えるかどうかは別問題だ。上記の例の場合、相手に自分の提案を飲んでもらうことや、アドバイスを取り入れてもらうことは難しいだろう。
同書で紹介している説得の基本のキは、「相手の感情に目を向けること」である。自分の論理の正しさを熱心に伝えて納得してもらうことではなく、相手が心からあなたの提案に同意し、首を縦に振ってもらうようにすることだ。
「正しいことを言えば、説得できる」
「さまざまなベネフィットを伝えれば、説得できる」
「できない理由を潰せば、説得できる」
一見正しいと思えるこのような考え方は、相手の感情を置き去りにした思考である。あなたの論理の正しさにより、相手を納得させようとしてはいけない。「まずは相手の感情を意識する。」覚えておいてはいかがだろう。
影響力とは「相手の思考や行動を左右できる力」
こんな場面を想像してほしい。
この人にお願いされたら、内容に関わらず引き受けてしまう。
完全に内容を理解しているわけではないけれど、あの人が言うのであれば間違いないと思ってしまう。
自信を持って若者が提案したアイデアだから、きっとうまくいくだろうと感じる。
このような経験は誰しも一度や二度はあるだろう。
内容に論理性が伴っている場合もあるが、それだけではなく、「論理以外の部分で判断している(≒説得されている)」と考えたほうが良い。
では、この論理以外の部分とは何か。それは、ポジション、パッション、エクスパティ、ノンバーバルという4つの要素だ。
ポジション
これはイメージしやすいだろう。
社内で大きな影響力を持たない課長と、人脈が広く将来が期待されている事業部長から同じお願いをされた場合、あなたがどちらに首を縦に振る可能性が高いかを考えてみてほしい。
ポジションによって、「この人の頼みを聞いておけば、後で良いことが起こるかもしれない」という期待感が変わるのは明らかだ。
パッション
こちらも比較的イメージするのが容易である。
同じ内容の提案でも、自信満々で熱意のあるプレゼンテーションと、自信なさげで控えめなプレゼンテーションでは、納得のしやすさが異なる。
高い熱量に伝染されて、人は説得されやすくなるのだ。
エクスパティ
エクスパティとは、その人の専門性を指す。
この場合、「専門家が言うと、なんとなく説得力がある」ということだ。
例えば、テレビの料理番組で、有名シェフが「塩は〇〇産が一番おいしい」と言うと、それまで産地を意識していなかった人でも、次の買い物でつい探してしまう。
また、ニュースで経済評論家が「来年は〇〇業界が伸びる」と話すと、データの裏付けは分からないが、「投資を考えたほうがいいのかも」と思わせられる。
論理性が完全に担保されていなくても、専門性がある人の発言は信じてしまうものだ。
ノンバーバル
これはスピーチを思い浮かべると分かりやすい。
声の大きさやトーン、表情やボディランゲージなど、非言語的な要素が説得力に与える影響だ。
カンペを見ながら淡々と話すスピーチよりも、身振り手振りを交えて抑揚をつけた話し方のほうが、聞き手に強い印象を与える。
話し手のイメージが、説得力に大きな影響を与えるのだ。
これらの4つの要素を**「影響力」と呼ぶ。説得力には欠かせないものだ。影響力が強いほど、相手の思考や行動を左右することができる。
「部下がなかなか言うことを聞いてくれない…」そんな時に改善すべき点は、伝えるべき内容の論理性**ではなく、影響力の弱さかもしれない。
同書には、影響力を鍛える方法も紹介されているので、説得力を磨きたいと感じた人はぜひチェックしてみてほしい。
感情に訴えるためには、ペインポイントを意識せよ
あなたがチョコレートを食べたくなる瞬間を想像してみてほしい。
- 疲れていてホッと一息つきたい時。
- 仕事であと一踏ん張りしたい時。
- 毎日の家事を頑張った自分へのご褒美。
こんなシーンを思い浮かべるのではないだろうか。
ちょっと良いチョコレートを食べたくなるその瞬間、あなたに足りていないのは、「束の間の休息」、「頑張るための活力」、「日常の中のささやかな贅沢」といった感覚だ。
これがあなたのペインポイントであり、説得の際に相手に訴えるべきポイントである。
もし「相手が困っていることや欲しがっているものを満たしてあげる提案をすること」が説得の本質であるなら、少なくとも理論的に相手を納得させようとするアプローチは避けるべきだとわかるだろう。
むしろ、相手の考えを尊重し、一緒にペインを解消していく必要がある。
そのためには、寄り添うことが欠かせない。
ものを売ったり、自分の提案を受け入れてもらいたい時、私たちはどうしても自分の発言の正当性を強調したくなる。しかし、相手が本当に求めているものは、製品や提案がいかに優れているかではなく、「ペインを解消できるかどうか」だ。
まとめ – 感情が決め手!論理を補完する説得のコツ –
今回紹介した一冊では、説得における感情の重要性が強調されていたが、「論理は不要だ」というわけではない。むしろ、提案や製品の妥当性を示すためには論理性が欠かせない。しかし、最終的に相手の心を動かし、首を縦に振らせるためには、感情が決め手となる。
– 論理は大切だが、説得の最終的なトリガーは感情である –
このポイントを意識し、次回の説得に臨んでみてほしい。論理的な根拠をしっかりと持ちつつ、相手の感情に寄り添い、共感を生み出すことで、説得力がぐんと増すはずだ。
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