「ここだけはおさえて」ポイント
この本が届く人・届いてほしい人
「会社に依存せずに、自分の力で生きていけたら」。
でも現実には、「好きなことでは稼げない」と感じているのではないか。なぜなら、「勝てる気がしない」からだ。特別なスキルもなく、影響力もない。「好き」という気持ちだけで、どうやって勝負すればいいのかわからない。そんな葛藤を抱えた人にこそ、本書は大きなヒントになる。
「好き」を表現する力は、時に未熟で、頼りない。しかし、それは誰よりもその価値を信じている証でもある。だからこそ、伝え方を学び、工夫し、届け方を変えていくことで、その「好き」は誰かの心に届く。これはその最初の一歩を後押ししてくれる一冊である。
この本が届けたい問い/メッセージ
好きを仕事にするのは、無理じゃない。でも、工夫がいる。
本書は、そんな現実的かつ希望のある視点を提示している。マーケティングやブランディングといった「ビジネスの視点」から、自分の「好き」にどう価値を見出すかを考える。そのうえで、どの場所で、誰に、何を届けるのかという「戦略」を持つこと。そして、「発信すること」ではなく「伝わること」にこだわることで、選ばれる理由が生まれる。
この本の核となる問いは、「あなたの『好き』は、誰に、どんな風に、届くべきか?」である。好きだからこそ熱量がある。だからこそ、そこに戦略を重ねることができれば、それは立派な仕事になる。
読み終えた今、胸に残ったこと
「好きであること」がそのまま「違い」になると考えたことはあるだろうか? ただの差別化ではなく、あなたの「好き」が他の誰とも違う要素になるという発想は、新しい視点を与えてくれる。
加えて「違いは足りなさではなく、戦い方を変える要素だ」という考え方をどう捉えるだろうか。足りない部分を補うのではなく、戦う場所を変えることで、アプローチが大きく変わる。これを実行することで、あなたの戦い方が一新されるはずだ。
さらに、情報を発信する際の「伝わること」に対しても意識を向けたい。ついつい自分本位になりがちだが、相手にどう届くかを意識することで、伝えたいことは確実に伝わるようになる。
フリーランスとして独立するつもりがなくても、スキルを磨きたいサラリーマンにとっても役立つ考え方が多く含まれている。自分の「好き」をどのように活かすか、改めて考える機会を与えてくれる1冊。
「好き」を仕事にするという選択肢― 自分の「違い」を肯定することから始まる
好きなことを仕事にできたらいいのに。
誰もが一度はこう思ったことがあるはずだ。
だが、実際に「好き」を仕事にしている人は、思ったほど多くはない。周囲を見渡しても、その現実を実感する場面は多いのではないだろうか。
なぜ好きなことを仕事にできないのか。理由は明確だ。生計を立てられるかどうか、不安だからである。資本主義社会において、「給料」は仕事選びにおける最重要要素の一つだ。「給料さえ良ければ、多少仕事が嫌でも構わない」という考え方も、決して間違いではない。
しかし一方で、「好き」を仕事にしながら、経済的な安定を得ている人が存在するのも事実である。収入の多寡は人それぞれだが、自分が納得できる生活を実現できていれば、それは十分に「成功」と呼ぶに値するだろう。
今回はそんな、自分の「好き」を起点に働き方を見直した一人の著者の実践法を紹介する。
【コネ、スキル、貯金ナシから「好き」を仕事にするまでにやってきたこと】(フジワラヨシト・著)
フジワラヨシト
神戸市出身・在住のイラストレーター。1989年生まれ。大阪芸術大学を中退後、テーマパークなどで似顔絵師として活動し、約8000人の似顔絵を描いた。その後、会社員を経て2020年にイラストレーターとして独立。現在は、教材、広告、書籍、雑誌、キャラクターデザインなど幅広い分野で活動しており、京都芸術大学の非常勤講師も務めている。彼の作品は温かみとストーリー性が特徴で、「明日が少しでもいいものになる」ようなイラストを目指している。SNS総フォロワー数は9万人を超える。
「優れている」より「違っている」
副業やフリーランスを考えたとき、ついこう思ってしまうことがあるだろう。
自分は特別な才能がない。これでは仕事にはならないのではないか。
しかし、世の中で活躍しているイラストレーターを思い浮かべてほしい。必ずしも、写真のようにリアルな絵を描ける人ばかりではない。むしろ彼らは、自分だけのタッチや世界観を武器にしている。
そうではない。活躍しているイラストレーターは、必ずしも「リアルさ」だけで勝負をしていない。むしろ、その人の個性を活かした絵によって価値を提供している。
たとえば、任天堂のWiiが売れた理由も、グラフィックやスペックの高さではない。狙ったのは「多くの人に手に取ってもらうこと」。それまでのゲーム機とは異なる設計思想で差別化を図った結果、幅広い層に受け入れられたのである。
「人より優れていないと、仕事にはならない」という発想は、学校での競争経験に起因しているのかもしれない。だが、実際の社会では「違っている」ことで価値を生み出すことが可能だ。
そして、個人が「違い」を生み出す最大の武器こそが「好き」である。他人にとっては取るに足らないことでも、あなたにとっては夢中になれるもの。それこそが、他者と違う視点や熱量を生み出す源泉である。
「好き」を仕事に変える方法論― 自分×他者の視点で、価値の届け方をデザインする
マーケティング思考:「どこで、誰に、何を」届けるか
他人との差異となるあなたの「好き」。しかし、ただ「好きなことを、好きなようにやっている」だけでは、仕事にはならない。仕事として成立させるには、やはり戦略が必要である。
まずは、自己プロデュースに欠かせない「マーケティング」から。これは、簡単に言えば「売れる仕組みをつくること」だ。
そのためには、「誰に」「どんな価値を」「どの市場で」届けるのかを明確にする必要がある。たとえば、絵がうまいイラストレーターに憧れて、何も考えずに同じ方向で勝負しようとするのは危うい。
著者自身は、「自分の絵が、どの市場で評価されやすいか」を考え抜いた末に、「児童向け媒体」というフィールドにたどり着いた。そこでは、リアルな描写よりも、子どもの想像力を育むような絵が求められていた。
重要なのは、自分の強みを理解しつつ、評価する側の視点でも考えること。それが「どこで戦うか」の判断軸になる。
ブランディング思考:「なぜ、あなたを選ぶのか」
次に、自己プロデュースのもう一つの軸、「ブランディング」。これは「あなたが選ばれる理由をつくること」である。
「多くの人にウケるものを作れば、売れる」と考えがちだが、それは落とし穴でもある。万人受けを狙うと、個性が薄まり、結局は宣伝力や価格競争の土俵に乗ることになる。これでは、継続的なビジネスとしては成立しづらい。
必要なのは、「この人が好き」と思ってくれるファンの存在だ。その人たちが、あなたを支え、育ててくれる。
では、どうすればファンを増やせるのか。そのヒントは、あなた自身の「推し活」にある。
自分の「推し」を分析することで、ファンづくりのヒントが見える
なぜ、あなたはその人や作品を「推している」のか?
この問いを言語化していくことで、「ファンの目線」が手に入る。
「一言でうまく言えない」と感じる人には、こちらの記事がおすすめだ。「共感」と「驚き」の視点を手がかりに、自分自身の「推し」に対する解像度がぐっと高まる。
情報を削ることで、魅力が届く
最後に考えたいのは、あなたの作品やサービスの魅力をどう届けるかという点である。
多くの仕事において、価値を届ける側の方が圧倒的に多くの情報を持っている。あなたが「好き」を仕事にする場合、その情報の非対称性はさらに顕著になるだろう。あなたの頭の中には、多くの魅力や背景、想いが詰まっている。しかし、それらをすべて発信したとしても、相手に伝わるとは限らない。
たとえば、校長先生の長いスピーチを思い出してほしい。話す時間が20分で、伝えたいポイントが5つあるよりも、5分で1つに絞った話の方が心に残るはずだ。人の記憶に残る話は、伝えたいことを絞っている。発信量が多くても、伝達量が増えるわけではないのだ。
このことは、あなたの作品の魅力を伝えるときにもあてはまる。仮にあなたが、子ども向けの絵を描いているとしよう。そこで発信すべき魅力は、「温かみのある単純化された表現」「明るい色使い」「優しい印象」といった要素に絞るべきである。「実は建物を描くのも得意で、歴史的背景にもこだわっている」といった他の魅力を追加で発信しようとすると、本来伝えたかった印象がぼやけてしまう。伝わるはずだった価値が、かえって霞んでしまうのだ。
そもそも、たった一つの魅力しかない作品やサービスは少ない。複数の魅力が絡み合っているのが普通であり、作者自身の経験や背景まで含めればなおさらである。しかし、だからこそ「どの魅力を伝えるか」を選び抜くことが必要になる。届けたい相手に届くかどうかを常に意識し、伝える内容を意図的に絞り込む。その覚悟が、姿勢が、結果として作品の魅力を際立たせるのである。
まとめ – 思考を変えれば、自分だけの勝ち筋が見えてくる
「好き」なだけでは食っていけない。
おそらく、それは正しい。
だが、「好き」であることには、確かな価値がある。他の誰より深く魅力を感じ、情熱をもって取り組めるという一点だけでも、それは他者との違いであり、すでに強みと呼べるものだ。まずは、その違いを誇っていい。
問題は、どう使うかである。
好きという気持ちがあるのなら、あとはそれを「伝わる価値」に変えていけばよい。誰に、どこで、どんなかたちで届けるのかを考えるマーケティング、自分が選ばれる理由をつくるブランディング。そして、自分にある魅力のすべてではなく、相手に届く一つを選び取るという姿勢。そうした考え方を身につけることで、「好き」ははじめて仕事に近づいていく。
仕事とは、誰かに価値を届ける行為である。であればこそ、届け方の思考が問われる。好きを押し通すのではなく、好きを伝える工夫を続ける。そこに、仕事としてのリアリティが宿るのだ。
なお本書では、この記事では紹介しきれなかった「やらないことの決め方」や「弱みを活かす戦略」など、さらに実践的な思考法も展開されている。読み進めることで、「持たざる者」としての自分をどう活かせばよいのかが、より明確になるだろう。
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