アニメ×建築:知識欲を刺激する未踏の空間へ

エンターテイメント

前回の投稿を見てくださった方には予想がついただろうが、まんまと小説以外の書評を書くことになった。

結論から言うと、「やっぱり難しかった」というのが本音である。ただ、今回は自分の考えを中心に、主観的な感想を交えて紹介することにした。

【アニメオタクの一級建築士が建築の面白さを徹底解剖する本。】(NoMaDos・著/吉川尚哉・イラスト)

普段は足を運ばないジャンルの書籍に手を伸ばし、目に留まったのがこの本である。本書は、アニメやマンガに登場する建築物と実際の建物の共通点や類似性を取り上げつつ、建築の面白さを紹介している。

一級建築士が語る、クッパ城の建築的魅力

建築に関して深堀りしたことはなかったが、ユニークな切り口かつ専門的すぎない内容だったため、すっと頭に入った。たとえば、次のような点が印象に残った。

  • 建築物において「屋根」は他の構造と比べて、空間や耐震性といった観点において制限が比較的ゆるい。だからこそ、建築家にとって「屋根」は見せ場であり、その建物のシンボルやアイデンティティが現れる部分である。-

この視点に感心してしまった。「屋根の自由度が高い」とは純粋に勉強になる。さらに、一級建築士はここに面白さや素晴らしさを感じるのか、という発見もあり、これが本書の面白さである。そして著者は建築の面白みを説明する際、例として「クッパ城」と「東京国立博物館」を挙げている。

もし屋根の魅力が東京国立博物館だけで説明されたとしたら、ほとんど響かなかっただろう。しかし、クッパ城を例に挙げることで、説明の緻密さとファンタジーさとのギャップがうまく作用し、説明がスッと入ってきたのである。

建築は、やっぱりアート

また、ハウルの動く城の「ハウル城」に関する見解にはハッとさせられた。

建築の世界には「アンビルド」という考え方がある。これはあえて建築を実現できないことを前提としたプロジェクトのことだ。動く城は実現不可能な建築物、つまり「建築物は実現できる」というそれまでの概念を一新する動きの象徴であると、著者は述べている。

【「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考】(末永幸歩・著)

同書には「アートには、リアルに書くことが当たり前という固定概念から離れようとした歴史」や「キャンバスに描かれた絵のイメージではなくキャンバスそのものに意識を向けようとした動きがあった」と記されている。この考え方が、アンビルドの概念と見事にリンクする。制作物において固定概念から脱却しようとする思想が建築にもあるのなら、建築はやはりアートなのだな、と一人で唸ってしまった。

とはいえ、やっぱり建築の面白さが実感できないあなたに

一級建築士の視点からアニメやマンガの建築物に触れることは、十分に有意義である。しかし、やはり自分ごととして捉えない限り、その魅力を実感するのは難しいこともあるだろう。そこで、ここからは自己啓発書らしく、「ちょっとした方法で建築の面白みを感じる方法」を2つ紹介する。

① 自宅の一番好きな空間を想像する

あなたの一番好きな空間をイメージしてみてほしい。ソファの上、キッチン、部屋の隅っこ、ベッドの上など、1ヶ所くらいは「推し空間」があるのではないだろうか。その空間を思い浮かべたら、次に「なぜその空間が好きなのか」を考えてほしい。おそらく、その空間そのものではなく、そこで過ごす時間や過ごし方に価値を感じているのではないか。自分が価値を感じる時間の過ごし方を理解することは、生活に彩りを与え、自己理解にも繋がるだろう。

② 建築家と対話する

建築物には合理性が求められる。雨風を凌げることや崩れないことが必須だからだ。しかし、なぜ同じ地区や気候に属する建物でも、ひとつひとつが個性を持った外観をしているのだろうか。それは建築物が「アート」と「合理」を両立させたものだからである。大企業の自社ビルは利便性を追求するだけでなく、その会社のビジョンを外観に反映させることがある。寺院や仏閣では、建物がその思想をビジュアライズしていることもある。ただ壊れにくいだけではなく、何かを表現しているのだ。建築家はこの「アート」と「合理」の両立に頭を悩ませる。その過程を想像し、実際に建築家と対話できる機会があれば、建築物の見方が少し変わるかもしれない。

まとめ

頑張って読もうとしなくても、新しい視点を得られる一冊だった印象だ。個人的には、『千と千尋の神隠し』の油屋に対する著者の見解にも「へぇ〜」と感心した。「人に好きなものを紹介してもらったらハマらなきゃ」といった責任を負わなくて済む点が、読書の良さである。

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