「ここだけはおさえて」ポイント
どんな人にオススメの1冊?
🔹説明がうまく伝わらず、相手の反応に戸惑うことが多い人
- 伝えたいことがあるのに、「何が言いたいの?」と言われがち
- 会話の途中で相手が混乱したり、質問攻めになったりする
🔹ビジネスシーンで説明力を求められる人
- 上司やクライアントに的確に説明できず、説得力が足りないと感じる
- プレゼンや会議で、話の順番を意識せずに説明してしまいがち
🔹自分の考えを整理して伝えたい人
- 自分の説明が論理的かどうか、よくわからない
- 伝えたいことを短く、わかりやすくまとめる力を鍛えたい
ポイント①:世の中には「自分主導」と「相手主導」の2種類の説明が存在する
説明の順番には「自分主導」と「相手主導」の2種類がある。自分主導の場合、結論を最初に伝え、根拠を説明していく。一方、相手主導の説明では、相手からの質問を基に話を展開し、相手が知りたい情報を最初に伝えるのが効果的だ。どちらの説明を使うべきか、シチュエーションに応じて判断することが重要。
ポイント②:自分主導の説明では、5つの順番を意識する
自分主導の説明では、まず前提を共有し、次に結論・主張を伝える。根拠や事実を示し、補足情報を加えた後に再度結論やアクションを促す。これによって、相手に分かりやすく、納得してもらえる説明ができる。
ポイント③:相手主導の説明には、3つのコツがある
相手主導の説明では、質問に対する答えを「大きなポイント(幹)」から「小さなポイント(枝)」の順に伝える。相手が求めている情報が「事実」か「解釈」かを見極めて、それに応じた順番で話すことが重要だ。また、客観的な事実を中心に話すことで、説得力を高められる。
ポイント④:良いコミュニケーションとは「ギャップを埋められるコミュニケーション」
良いコミュニケーションは、相手との情報のギャップを埋めることにある。自分と相手との情報のズレを確認し、必要な情報を補強しながら、相手の期待値をコントロールすることで、相手に行動を促す効果的な伝え方ができる。
オススメ度:★★★★☆
説明する上で忘れがちな「話す順番」にフォーカスを当て、その大切さを気づかせてくれる。自分から主張を伝える際も、相手から質問された際も、説明の順番には意識を払わなければならないことを実感できる。「内容は間違っていないのに、なんだか伝わらない…。」と感じているあなたに、手にとって欲しい1冊。
あなたの説明、誰が主導していますか?
部下: 「今の仕様だと、ページ遷移のラグが0.8秒あるんです。」
上司: 「え? 何の話?」
部下: 「あ、すみません。今、競合のアプリと比較してUIの改善点を分析してるんですが、うちのアプリは遷移速度が遅くて、特にエラー発生率が高い画面で顕著なんです。」
上司: 「なるほど、それで?」
部下: 「このラグが0.5秒以下になると、ユーザー離脱率が下がるデータがあって、対応を検討したほうがいいかと思います。」
上司: 「最初にそう言ってくれたら分かりやすかったのに!」
この会話で部下が本当に伝えたかったのは、「ラグが0.8秒あること」ではなく、「ユーザー離脱率を下げるために対応を検討すべきだ」ということだ。
しかし、部下は思考の流れ通りに話してしまい、具体的な部分から説明を始めてしまった。そのため、上司には全体像が見えず、話の趣旨をつかみにくくなっている。
実は、こうした伝え方のミスは多くの人が無意識にやってしまいがちだ。パワーポイントの資料を作るときはスライドの順番を意識するのに、会話では順番の重要性を忘れてしまうことがあるのである。
今回は、そんな「説明の順番」に関する1冊を紹介しよう。
【一番伝わる説明の順番】(田中耕比古・著)
田中耕比古
1977年生まれ。2000年に関西学院大学総合政策学部を2000年に卒業。卒業後は商社系SI企業に入社し、RFIDのCRM活用など最新テクノロジーのビジネス適用の検討に従事。
2004年にアクセンチュア株式会社戦略グループに入社し、通信、製造、流通・小売など多様な業界の事業戦略立案や業務改革に携わった。 また、2011年には日本IBM株式会社にてビッグデータのビジネス活用を推進。
2012年、株式会社ギックスを設立し、取締役に就任。 2022年3月には東証マザーズ(現グロース)に新規上場を果たす。
私たちは、頭の中で結論や主張を最後に思いつくことが多い。しかし、それと同じ順番で説明すると、相手は「結局何の話なのか」が分からないまま聞き続けることになる。
伝わりやすい説明には、適切な順番がある。先ほどの会話を改善すると、こうなる。
部下: 「今、競合のアプリと比較してUIの改善点を分析しています。」
上司: 「ふむ、それで?」
部下: 「結論から言うと、うちのアプリはページ遷移のラグが原因でユーザーの離脱率が高くなっています。」
上司: 「ページ遷移のラグ?」
部下: 「はい。具体的には、遷移速度が0.8秒かかっており、特にエラー発生率が高い画面で顕著です。競合アプリは0.5秒以下で、データ上もこの速度以下なら離脱率が下がることが分かっています。」
上司: 「なるほど、競合と比べると遅いのか。」
部下: 「はい。遷移速度の改善には技術的な対応が必要ですが、負荷を抑えつつ実現できる方法も検討しています。」
上司: 「なるほど。具体的にどんな方法がある?」
部下: 「いくつか候補がありますので、改善策の検討を進めてもよろしいでしょうか?」
このように、話者が主張や結論を持っており、それを相手に伝えるための説明が「自分主導」の説明となる。
一方、「相手主導」の説明というものも存在する。こちらは、相手から質問をされた際に行う説明である。次のようなイメージだ。
上司: 「新製品の売上が予想を下回っていますが、原因は何だと考えていますか?」
部下: 「はい、全体的な要因として、競合製品との価格差が大きいことが挙げられます。具体的には、当社の新製品は主要な競合製品よりも20%高い価格設定となっています。さらに、販売チャネルの限定も影響しています。当社製品はオンライン販売のみですが、競合他社はオンラインと店舗の両方で販売しており、顧客の購買機会が広がっています。」
部下: 「なるほど。では、価格設定について、どのように改善すべきと考えていますか?」
あなた: 「私の意見としては、価格を競合製品と同等か、それ以下に設定することで、価格面での競争力を高めるべきだと考えます。また、期間限定の割引キャンペーンを実施することで、初期の購買意欲を喚起することも有効だと思います。」
このように、説明には「自分主導」のものと、「相手主導」のものの2種類存在する。そして、どちらの説明を使うべきかを見極めるだけでも、伝わり方は大きく変わるものなのだ。
自分主導の説明の5つの順番
まずは、自分主導の説明について。
基本となる順番は次の通りだ。
- 前提をそろえる
- 結論・主張・本質
- 根拠・理由・事実
- 補足情報
- 結論・相手に促したいアクション
この順番をベースに、ゼロから組み立てていくのがポイントとなる。
特に重要なのは、「結論を伝える前に前提をそろえるべきか?」という判断だ。結論ファーストが基本ではあるが、相手が前提を理解していないと、伝えたい内容の意図が正しく届かないことがある。
例えば、十数年ぶりに会った友人に「今やっている仕事ってどういうことをやっているの?」と聞かれた場合と、同じ会社の同期に同じ質問をされた場合では、回答の仕方は変わるだろう。相手が持っている知識量や前提によって、どこから説明を始めるべきかが異なるのだ。
前の章で紹介した上司と部下の会話でも同じことが言える。
「今の仕様だと、ページ遷移のラグが0.8秒あるんです」と部下が言ったとしても、上司が既に「部下がユーザー離脱率を下げる方法を考えていること」を知っており、2人で同じ画面を見ながら説明していたのであれば、同じ前提を共有している状態である。だが、今回は上司が「部下が何をしているのか」という前提を共有できていなかったため、「え? 何の話?」と尋ねてしまったのだ。
このように、説明の冒頭で相手がどの程度の前提を共有しているかを見極めることが、スムーズな説明の鍵となる。
そのうえで、次に来るのが「結論・主張・本質」「根拠・理由・事実」だ。
例えば、先ほどの上司と部下の会話の改善例では、
「うちのアプリはページ遷移のラグが原因でユーザーの離脱率が高くなっています。」(結論)
「具体的には、遷移速度が0.8秒かかっており、特にエラー発生率が高い画面で顕著です。」(根拠)
といった形で、結論を短く述べた後に、根拠を詳しく説明している。
根拠や理由、本質(解釈)は、できるだけ客観的な事実に基づくことが大切だ。特に、説明を聞く相手が自分よりも立場が上の場合、客観的な事実が説得力につながることが多い。話の組み立てにおいて、どれだけ適切なデータや論拠を用意できるかが、説明の成功を左右するのだ。
次に、補足情報を加える。
「遷移速度の改善には技術的な対応が必要ですが、負荷を抑えつつ実現できる方法も検討しています。」
この部分が、補足情報にあたる。補足情報は、必ずしもすべての説明に必要なわけではないが、以下のような目的で使える。
- 「本当にそうなの?」という疑問に先回りして答える
→ 例:「遷移速度と離脱率に関連があるのか?」という疑問に対し、補足情報としてデータを提示する。 - 「じゃあどうするの?」という相手の疑問に答えて、話を前に進める
→ 例:上司が「改善するにはどうすればいいのか?」と聞きそうな場合、先に改善策の方向性を示す。
補足情報を加えることで、相手の理解度を高め、次のアクションへとスムーズにつなげられる。
そして最後に、もう一度結論や相手に促したいアクションを伝える。
これは、単に説明を締めくくるためだけではなく、「結局、どういうことだったの?」という疑問を防ぐためにも重要だ。特に説明時間が長くなったときは、話の要点をもう一度明確に示すことで、相手の理解度を高められる。
相手主導の説明の3つのコツ
自分主導の説明とは異なり、相手から質問を受けて説明をする場合は、前提をそろえる必要がないこともあれば、伝えるべき結論や主張が特にない場合もある。
もちろん、相手主導の説明でも伝わる順番を意識することは重要だが、自分主導の場合のような明確な型が存在するわけではない。また、咄嗟に回答しなければならない場面が多いため、細かく順番を意識するのは現実的ではない。
そのため、ざっくりと次の3つのポイントを押さえるのが効果的だ。
- 大きいポイント(幹)から小さいポイント(枝)の順番で説明する
- 相手が知りたいのはあなたの解釈か事実かを見極め、相手が知りたい方から話す
- 事実を話す際は、客観的なものを選択する
1. 大きなポイント(幹)から小さなポイント(枝)へ説明する
これはイメージしやすいだろう。
NG例(小さいポイント(枝)から話してしまう)
部下: 「今、A機能のUIデザインを調整しているのですが、ボタンの配置について意見が分かれていて、最適な配置を検討中です。それから、B機能の開発が少し遅れていて、APIの連携に問題があります。あと、C機能のテストでいくつか不具合が出ています。」
上司: 「…結局、プロジェクト全体としてはどうなってるの?」
部下: 「あ、すみません。プロジェクト全体の進捗としては80%完了しています。」
上司: 「最初にそれを言ってくれよ!」
改善例(大きいポイント(幹)から説明する)
部下: 「プロジェクト全体の進捗は80%です。現在、主要な機能の開発は完了しており、残りの作業はUI調整とバグ修正が中心です。」
上司: 「なるほど、じゃあ具体的にはどんな課題がある?」
部下: 「A機能ではボタンの配置を最適化するためにデザイン調整中です。B機能はAPI連携の問題で若干遅れていますが、解決のめどは立っています。また、C機能のテストではいくつか不具合が見つかり、修正作業を進めています。」
上司: 「全体像がわかったから、課題の優先順位を一緒に考えようか。」
このように、個別の話をバラバラと話す前に、全体的な主張や結論を端的に示す方が、相手にとって伝わりやすい。
2. 「解釈」か「事実」かを見極め、相手が知りたい方から話す
相手が何を知りたいのかを判断し、それに応じた順番で話す。
事実を先にする場合(相手が「データ」を知りたい時)
部下: 「新商品の初月売上は1,500万円でした。目標の2,000万円には届かず、達成率は75%です。」
営業部長: 「なるほど、少し目標に届かなかったな。原因は?」
部下: 「要因として、大手ECサイトでの初動が伸び悩んだことが挙げられます。プロモーションが十分に機能していなかった可能性があります。」
営業部長: 「確かに、ECでの動きが鈍かったな。次回の施策は?」
部下: 「次のプロモーションでSNS広告を強化し、EC流入を増やす戦略を考えています。」
解釈を先にする場合(相手が「原因や改善策」を知りたい時)
部下: 「大手ECサイトでのプロモーションが十分に機能せず、新商品の初動が鈍りました。」
マーケティング部長: 「なるほど、それが売上にどれくらい影響した?」
部下: 「初月売上は1,500万円で、目標の2,000万円には届かず、達成率は75%でした。」
マーケティング部長: 「ECのプロモーションのどこに課題があった?」
部下: 「広告からの流入は一定数あったのですが、カート投入率が低く、コンバージョンが伸びませんでした。購入を後押しする施策が必要かと思います。」
同じ情報を話しているが、聞き手によって先に話すべき情報が異なる。「どれくらい目標に届かなかったか」を気にする営業部長と、「どこに課題があったのか」を知りたいマーケティング部長とでは、正しい説明の順番が変わるのだ。
3. 事実を話す際は、客観的な情報を選択する
これは自分主導の説明と同様、話に根拠を持たせるために重要なポイントだ。
たとえあなたの主張が正しくても、その根拠が主観的だと、相手には納得してもらえない可能性がある。逆に、根拠が客観的に正しければ、あなたの主張は強い説得力を持つ。
もちろん、実際のビジネスにおいて100%正しいと判断できるまで調べるのは難しいことも多い。しかし、業界の通例や自身の経験値などを活かしつつ、「確からしい」と判断できる程度まで客観性を担保する姿勢は大切だ。その「確からしさ」が、最終的にあなたの主張を支えてくれるのである。
良い説明のコツは「ギャップを埋めること」
願っていた解決策の説明ではなく、サービスの特徴の説明を聞かされた顧客。
達成状況を知りたかったのに、実施した方法の説明を受けた課長。
何が知りたかったのかと、何を聞かされたのかがズレる。この「ギャップ」は、意外と多くの場面で生じる。逆に言えば、このギャップを埋めることが出来れば、説明は相手に届きやすくなるのだ。
そのための手段は大きく分けて「自分の情報を補強する」場合と「相手の期待値をコントロールする」場合の2つがある。
前者は、相手が知りたいことから始めて、自分が伝えたいことへと続ける方法だ。たとえば、いきなりサービスの特徴を説明されても、顧客は流れ体型の営業トークとしか捉えないかもしれない。だが、ヒアリングをした上で話を進めれば、それは解決策として伝わる。因果関係が明確なため、説明のギャップを感じにくくなるのだ。
後者は、話し手が「今日は自社サービスの話をします」といったように、相手に優先順位を示す方法だ。何を話すのかが初めに分かっていれば、相手も脳内の情報スペースをその形に整理しやすい。この作業を先に行うことで、伝わりやすさは大きく変わる。
このように、伝わる説明の根幹にあるのは、「相手のことを考える」ことだ。自分の説明は言うまでもなく、相手の理解レベルや想定を意識することで、自然と伝わり方が変わってくるだろう。
なお、以下の記事で紹介している1冊も、伝わるコミュニケーション上ための学びが多い1冊となっている。是非とも手にとっていただきたい。
まとめ – 順番を意識するだけで、あなたの説明はグッと良くなる –
人は、つい伝わりにくい説明をしてしまいがちだ。しかし、必ずしも内容そのものに問題があるわけではない。伝える順番を少し変えるだけで、驚くほど伝わりやすくなることが多い。
本書で紹介したように、最初に前提を揃えることや、質問の意図をくみ取ることが重要だ。自分主導であっても相手主導であっても、相手にとってわかりやすい順番で話すことが、伝わる説明の基本となる。
また、良い説明のコツとして「ギャップを埋めること」を挙げた。相手が知りたい情報と、自分が伝えている情報にズレがあると、話がすれ違ってしまう。相手の知りたいことを把握し、それに合わせた説明を心がけることで、より的確に伝えることができるのである。
結局のところ、伝わる説明とは「相手の理解を助ける説明」である。相手が求める情報を意識し、適切な順番で整理するだけで、あなたの説明はグッと良くなるはずだ。ぜひ、今日から試してみてみてはいかがだろう。
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