はじめに — 読む前に押さえておきたいこと
あなたはこんな悩みを抱えていないだろうか?
・何気ない日常の中で、なぜか見落としや勘違いが増えてしまう
・相手の本当の気持ちや状況がうまく読み取れず、誤解を招いてしまうことがある
・自分の観察力に自信が持てず、もっと深く人や物事を理解したいと感じている
日々の生活や仕事の中で、見えているはずのものが見えていなかったり、理解しているつもりで実はずれていたりする経験はないだろうか。そうした小さなズレは、思わぬミスやコミュニケーションのすれ違いにつながってしまう。
このブログで紹介する本の特徴
・観察力の本質を、「仮説を立てて観察し修正する」という明確なメソッドで解説している
・認知バイアスや感情、環境などが観察をどう歪めるかを具体例を交えて示している
・観察を鍛えるための具体的な方法や習慣をわかりやすく紹介している1冊
なぜ今、この考え方が求められているのか?
情報が溢れ、価値観が多様化する現代において、物事を表面的にしか見ないことは致命的だ。正確に捉えられずに誤解や偏見を生み、人間関係や仕事の質に悪影響を及ぼす。
その一方で、「観察力」はトレーニング次第で誰でも磨けるスキルである。本書の示す考え方と方法は、あらゆる場面での理解力や判断力を高める手助けになる。
私の気づき
本書を手に取った多くの人は、自分が「見ているつもり」で実は見落としていることが多いと感じるだろう。観察とは単なる受動的な行為ではなく、自分の仮説や感情、背景を踏まえて世界と対話するプロセスだという理解が深まる。
こうした理解は、日常の中で起こる誤解やズレを減らし、より深い人間関係や正確な情報把握に役立つと実感する人が多いはずだ。
観察力の鍛錬が、コミュニケーションや創造的な活動において重要な要素であることに気づくことも多いだろう。
「見えているつもり」を疑え
買い物に行く場面を想像してほしい。
冷蔵庫の中身を確認し、「今日や明日の晩御飯の食材のほかに、ジャムを買わなければ」と買い物リストにジャムを追加する。お気に入りのジャムを忘れずに購入し帰宅すると、冷蔵庫にはなぜかジャムが二つ。新入りを含めると、同じジャムが三つ。しかも以前買った二つのジャムは、どちらも手が付けられている。
こんなことは自分でなくても、意外と日常的にやらかしてしまうのではないだろうか。見たつもりでいても、実際には見ていない。しっかりと観察できていないのである。
身近な人のモノマネが上手い人は、純粋にすごいと感じる。職場の何気ない雑談の場を盛り上げられる羨ましさもあるが、「そういえば、そんな特徴あったな」「よく観察できるな」と感心してしまう。少なくとも自分には、ものすごく難しく感じる。
同じように暮らしていても、しっかりと観察できる人と、そうでない人がいる。優れたアイデアを生み出す人は「見ているもの」が違うのではなく、「見ているものの捉え方」が違うのだろう。では、そんな捉え方はどうすれば身につくのか。
今回は、そんな「観察」について学べる1冊を紹介する。
【観察力の鍛え方 一流のクリエイターは世界をどう見ているのか 】(佐渡島庸平 著)
佐渡島庸平
日本の編集者・起業家であり、クリエイターエージェント「コルク」代表。講談社の編集者として数々の人気漫画を手がけたのち、2012年に独立。作家や漫画家が創作に集中できる環境をつくることを目指し、編集の枠を超えて物語の力で人々の心を動かすことを信条としている。多くのクリエイターと伴走しながら、新しい表現やメディアのあり方を模索している。
「いい観察」の正体とは何か
「いい観察」とは、どのような観察だろうか。
多くの人は、物事そのものを正しく捉えられる観察だとイメージするかもしれない。しかし、これではなんとなく漠然としていて、どうすれば身につけられるのかがわからない。
同書はこの問いに対して、明確な答えを示している。
ある主体が、物事に対して仮説を持ちながら、客観的に物事を観て、仮説とその物事の状態のズレに気づき、仮説の更新を促す。
これが、「いい観察」である。
「仮説を立て、その後に物事を観て、違っている部分を修正していくことで、より正しく物事を捉えられる」というのだ。
仮説を立てると聞くと、論理的に物事を解決する場面で使う能力のように思えるかもしれない。しかし実際には、観察というクリエイティブで直感的な作業にも大いに役立つ。
だからこそ、仮説を立てながら世界を見る習慣が、日々の何気ない出来事を新しい発見に変えてくれるのである。
観察を邪魔する3つの要素
いい観察には仮説がつきものだと論理的に理解するのは難しくない。しかし、実践するのは簡単ではない。ここでは、いい観察を妨げる要素を3つ紹介する。
認知バイアス
虹を描こうとするとき、あなたは何色の色鉛筆を使うだろうか。
おそらく、ほとんどの人が「七色」を使う。しかし、これは普遍的な傾向ではなく、海外には四色や三色で描くのが一般的な国も存在する。
重要なのは、どの国でも同じ虹を見ているという事実である。つまり、観察対象が異なるのではなく、その捉え方が文化や環境によって変わるのだ。
これが認知バイアスである。
虹をじっくり観察し、「確かに七色だ」と自分の目で確認したことがある人は、どれほどいるだろうか。むしろ「七色に見えないな」と感じていても、「虹は七色だ」と無意識に信じてしまっている人の方が多いのではないか。
人は目に入ったものをそのまま認識しているようで、実際には認知バイアスに影響されている。この仕組みを知っておくことが、いい観察を行うためのヒントになる。
身体・感情
今度は、自分が入店したカフェに親子連れがいた場面を想像してほしい。
小さな子どもが楽しそうに話す声が聞こえているとき、自分の心に余裕があれば「元気でかわいいな」と感じるだろう。
しかし、仕事で集中していたり、読書で自分の世界に入り込んでいるときは「静かにしてほしい」と思うかもしれない。
子どもの声の大きさは変わらなくても、自分の感情や身体の状態によって捉え方は変わる。物事を正しく観察するには、対象だけでなく、自分自身の状態にも目を向ける必要がある。
コンテクスト
取引先の担当者に何度電話してもつながらず、折り返しの連絡もないと、「なんていい加減で無責任な人なんだ」と感じてしまうことがある。しかし後から「実は家族が入院していて、数日間お休みをいただいていた」と知れば、「大変なときに電話してしまったな」と考えを改めるはずだ。
あとから事実を知って「そうだったのか」と思い直した経験は、多くの人にあるだろう。「企業間の取引なのだから相手に迷惑をかけるべきではない」「電話に出られなくても折り返しぐらいはできるはずだ」という前提があったからこそ、その前提が崩れたときに考えが変わるのだ。
つまり、私たちの目には、ありのままの事実よりも、当たり前だと信じている背景のほうが色濃く映っているのだ。
今すぐ始める「いい観察」のコツ
たとえ対象がまったく同じであっても、私たちはさまざまな影響を受けることで、正しくそれを観察できないことが往々にしてある。認知バイアス、身体・感情、コンテクスト。これらによって、私たちは「わかったつもり」になってしまうのだ。語弊を恐れずに言えば、私たちは自分が観たいものを観てしまっているのである。
では、どうすればよいのか。同書はこの問題に対する対応策も教えてくれている。
感情や関係性にフォーカスする
「いい観察」を行うには、目に見える事実や表面的な情報だけを追いかけても不十分である。私たちの世界には、直接は見えないが、理解を深めるうえで欠かせない要素がある。たとえば「感情」や「関係性」がその代表だ。
歴史の学習を例にとってみよう。教科書に書かれた出来事や日付は誰でも知ることができるが、その裏にある当事者の感情や葛藤までは読み取れない。リーダーや市民がどのような不安や希望を抱いて行動したのかを想像することこそ、歴史を「生きたもの」として理解するための大切な観察である。現代においても同様に、たとえば部下の失敗を単なる結果として捉えるのではなく、その背景にある不安や努力、葛藤に目を向けることで、真に理解し共感することができる。
また「関係性」も、目に見えないが重要な観察対象である。友人の前での自分と、親や上司の前での自分は同じ「自分」でも、振る舞いや言葉遣いは大きく異なる。人は誰とどんな関係にあるかによって、その態度や表情を変えるものだ。だからこそ、人を観察するときには、その人単体だけで判断するのではなく、どのような関係性のなかにいるのかという文脈を意識することが欠かせない。
このように、「感情」や「関係性」といった目に見えないものにフォーカスすることは、表層的な観察を超え、より深く人や出来事を理解するための鍵となる。これこそが「いい観察」を行うための本質であり、私たちがより豊かな対話や判断をするために不可欠な視点である。
言葉にする
子どもが遊んでいるときに、ただ「静かだな」と思うだけでは親は安心しきれない。
しかし、「いつもより動きが少なく、顔色もさっきから冴えない。もしかすると疲れているのかもしれない」と言葉にすれば(あるいは紙に書いてみれば)、状況を客観的に把握でき、休憩させるなどの対応が取りやすくなる。
「見る」という行為の厄介な点は、捉えた内容をすぐに修正したり、簡単に忘れてしまったりすることだ。「見ているようで見ていない」状態を自覚しづらいのは、これが原因である。
だからこそ、この状態を脱却するにはアウトプットするしかない。その方法が「言葉にする」である。子どもと接しているときでも、絵画を鑑賞するときでも、感じたことを言葉にすることで、自分が何をどのように観察しているのかを初めて客観視できる。言葉にすることで、自分の観察の解像度が上がり、思い込みの中に埋もれていた小さな違和感にも気づきやすくなるのだ。
仮説→観察→問いのサイクルをまわす
言葉にするとは、「仮説を立てる」方法の一つでもある。そして、いい観察を行うには、仮説の内容と実際の対象との差を認識し、その差を埋めていくことが重要だと述べた。
これを意識的に繰り返していくことが、観察力を高めるポイントである。何度も練習し、やがて無意識にできるようにしていくのだ。
なお、このサイクルには仮説と観察だけでなく、「問い」も含まれる。生成AIの時代において問いを立てることは重要かつ難しいとされるが、観察においてはそれほど構える必要はない。観察の結果を踏まえ、「なぜそうなんだろう?」「他にどんな事例があるのか?」と自然に問いが生まれるからだ。観察の現場では、問いは堅苦しいものではなく、目の前のズレや違和感をヒントに、自然と湧き上がるものである。
たとえば、部下が急に発言しなくなったとき、「本当にやる気がないのか?」「別の理由があるのではないか?」と問いを立てて観察し直す。すると、小さな仕草や表情の変化から新しい情報が見えてきて、最初の仮説を修正することができる。
このように、仮説を言葉にし、実際に観察し、問いを立てて差を確かめる。このサイクルを何度も繰り返すことが、結果として観察の解像度を上げていく。そして、この積み重ねこそが、他者をより深く理解する力へとつながっていくのである。
観察力を鍛えるということ
観察とは、単に目に映るものを捉えることではない。自分の思い込みや感情、状況を意識し、仮説を立ててズレを修正しながら捉え直す行為である。
認知バイアスや感情、コンテクストの影響は避けられないが、それを踏まえ、どう観るかを選べる。
物事の背景にある感情や関係性も含め、言葉にして整理する。仮説を立て、問いを立て、確認する。この繰り返しで観察の精度は上がる。
「いい観察」を身につけることは、相手の行動を単なる結果で終わらせず、背景を考える習慣を持つことだ。仕事や生活で役立つ力である。
観察は特別な才能ではなく、思考の姿勢の問題だ。見えているつもりのものを疑い、手間をかけて確かめる積み重ねが、考えを裏付ける。
目に映る世界の捉え方は、自分のあり方次第で変わる。観察力を鍛えることは、その可能性を広げることである。
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