「頭の良さ」とは具体と抽象を行き来できること

クリエイティブ思考

仕事をしていると、「自分は説明があまり上手くないな」と感じることが多い。話の最初で帰着点を定めず、途中で少しずつ探って話すため、最終的に話が長引き、メッセージがぼやけてしまうことがある。結論を最初に言う「結論ファースト」ができていないことが原因の一つだ。しかし、原因はそれだけではない。例えば、「例えば…」の例えがうまく伝わらず、抽象的な概念を相手に伝えることが難しいこともある。この文章を見返しても、少しわかりづらいと感じることがある。

「具体的=わかりやすい」「抽象的=わかりにくい」と考えがちだが、実際には、頭の良い人はその抽象的な概念を理解するだけでなく、それを誰もが理解できるような具体的な言葉に変換して話すことができる。「小学生にもわかる言葉で説明せよ」というアドバイスがプレゼンのコツとしてよく挙げられるが、このコツは単に専門的な言葉を避けるだけでなく、抽象的な内容を具体的に変換して理解しやすくすることも含まれている。

具体と抽象を自由に行き来できる人こそが、頭の良い視点を持っている。この「具体と抽象」を行き来できる能力を体現した本がある。

【具体と抽象 ―世界が変わって見える知性のしくみ】(細谷功・著)

なぜ具体と抽象の行き来ができると「頭が良い」と言えるのか。これには以下の3つの理由があると思う。

  1. 人によって具体と抽象の尺度が異なるから
  2. 個々の具体に有機的な意味を持たせることができるから
  3. 想像力を掻き立て、自分なりの味を出せるから

これらがその答えだ。

1. 人によって具体と抽象の尺度が異なる

本書には、会議の案内を作る部下と上司の例が挙げられている。部下は会議の案内に目的を記載し忘れ、「開発仕様書のレビュー」と追記して上司に確認をお願いした。ところが上司は、それがあくまで手段に過ぎないと考えていた。上司の意図としては「投資の意思決定」を会議の目的と捉えていたのだ。このズレは、二人が持つ具体と抽象の尺度が異なるために生じたものだ。

具体と抽象の尺度の違いを理解していれば、相手の思考レベルに合ったコミュニケーションを取ることができる。具体と抽象を行き来できることが重要な理由のひとつだ。

2. 個々の具体に有機的な意味を持たせることができる

例えば、次のような記事を思い浮かべてほしい。

  • 地元のケーキ屋さんの記事(メディア未掲載)
  • 町の都市伝説の調査記事
  • 若者の行きつけスポットをインタビューした記事

一見、これらはバラバラに思える。しかし、「町の魅力を再発見する」という抽象的なコンセプトを掲げれば、これらの記事には共通の意味が見えてくる。アイデアを生み出す人は物事の共通点や違いを認識することが得意で、そこから創造的なアウトプットを作り出す。企業や仕事においても、理念や哲学を持って物事を判断すれば、無駄を減らし整合性を持たせることができる。

3. 想像力を掻き立て、自分なりの味を出せる

本書では、「パクリ」と「アイデア」の違いについても述べられている。誰でも、「ここまで似ているとパクリだな」と感じることがあるだろう。しかし、それを言葉で説明するのは難しい。具体的なデザインや機能を真似することを「パクリ」と定義し、抽象的なアイデアを真似ることを「アイデア」と呼んでいる。新しいアイデアは、既存のものの組み合わせから生まれるが、それはある程度抽象的な視点で考える必要があるという点が重要だ。

具体から抽象を行き来できることは、個々の具体に共通点を見つけ、それにちょっとした工夫を加えて新しいアイデアを生み出すことを意味している。こうしてアイデアを生み出す力を高めるのだ。


自分は同書との出会いは書籍ではなく、Audiebleであったのだが、一種の脳内パラダイムシフト、アハ体験のような感覚に陥り、書籍にも手を出してみようと思って手に取った一冊である。一見とっつきにくい具体の世界を理解するきっかけとなる書籍であり、文字通り「具体と抽象の行き来」を体感することができるので、興味があれば同じような体験を是非とも味わっていただきたい。

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