「ここだけはおさえて」ポイント
どんな人にオススメ?
- 仕事のモチベーションが上がらず、ただ漫然と仕事をこなしている人
- 上司への不信感や、頑張っても報われないという気持ちを抱えている人
ポイント①:モチベーションを低下させる原因は「前提の違い」
モチベーションの低下は、実は「前提の違い」によるものが大きい。例えば、上司が求める成果と自分が目指すゴールが違っていると感じると、どうしてもやる気が削がれてしまうことがある。このような前提のズレを理解し、整理することがモチベーションを取り戻す第一歩だ。
ポイント②:モチベーションは「あり」「なし」の2パターンだけではない
モチベーションは単純に「あり」「なし」の2つのパターンに分けることはできない。実際には、やる気がない状態から少しずつモチベーションを高めるための段階があり、それを理解することで、少しずつでも前向きな気持ちを育むことができる。これについては、段階を意識して少しずつ変化を加えることで、自然にモチベーションを引き上げられることが重要だ。
ポイント③:仕事の性質・特技・価値観を通じて、あなたのモチベーションはあげられる
自分の仕事の性質や得意なこと、そして大切にしている価値観を振り返ってみることが、モチベーションを高める鍵となる。自分がどんな仕事に向いているか、どんな価値観を持っているかを理解することで、モチベーションが自然に高まる方法を見つけることができる。
読みやすさ:★★★★☆
文章量は少なめで、200ページ前後のため、手に取りやすい。内容はシンプルでわかりやすく、すぐに実践に移せる考え方が多いため、忙しい人にもおすすめできる。モチベーションを上げるための具体的な手法が多く紹介されており、すぐにでも実践したくなる内容だ。ンUPだけでなく、コミュニケーションや人材育成にも活用できそうな手法も記載されている。
なぜ課長はいつも曖昧な指示ばかり出してくるのか
やる気を奪う5大指示
1.曖昧すぎる指示
「次の企画書の資料、いい感じに作っておいて。」
2.後出し指示
(あなたの「企画書完成しました。」に対して、)
「もっとこう、キャッチーなワードを入れられないかな。コンセプトもそれに合わせて見直してほしい。」
3.一方的な指示
「来週のミーティング、延期にしておいたから。必要なフォローがあれば、メールか電話で先方とやりとりしておいて。」
4.適正無視の指示
(あなたは今まで顧客企業の開発の担当者のみとやりとりをする営業部メンバーであったが、)
「今後は業務効率化のため、クライアントごとに開発とメンテナンスの両方の担当者とやりとりをしてほしい。」
5.コロコロ変わる指示
「昨日B案でお願いした資料だけれども、A案に戻しておいてくれないかな。」
これらの指示に心当たりがあるのではないだろうか。私自身も先日、①と②の状況を経験済みだ。多くの人々にとって、これらは何度も直面したことのある問題だろう。
今回紹介する一冊によれば、これらは「やる気を奪う5大指示」とされている。仕事は基本的に指示から始まることが多いが、これらの指示によって出鼻をくじかれてしまうのだ。
なぜ、課長はこのようなやる気を奪う指示を出すのか。このような指示とうまく付き合う方法はないのか。そんなモヤモヤを抱えるあなたにおすすめの一冊を紹介する。
【モチベーションの問題地図 ~「で、どう整える?」ため息だらけ、低空飛行のみんなのやる気】(関屋裕希・著)
関屋裕希
心理学博士、臨床心理士、公認心理師であり、東京大学大学院医学系研究科デジタルメンタルヘルス講座の特任研究員として活躍。 専門は産業精神保健、特に職場のメンタルヘルス対策に従事しており、ストレスチェック制度や復職支援制度の設計、職場環境改善や組織活性化のワークショップ、経営層・管理職・従業員向けのメンタルヘルスに関する講演や執筆活動を行っている。
心理学の知見を活かして、理念浸透や組織変革時のインナーコミュニケーションのデザイン・設計にも携わる。現場で活用しやすい提案でありながら、エビデンス(科学的根拠)に基づいたアプローチを取り入れている点が特徴。
やる気が奪われてしまう原因は「前提のかけ違い」
課長からやる気を奪う5大指示が飛んでくるのは、あなたを困らせたいからではない。あなたとの前提が違うからである。
「今はまだ、断定的な指示は出せないな。」
「忙しくなりそうだから、この件は自分が早めに判断しておいた方が良さそうだ」
「社会的な流れを踏まえると、多能化を進めておかないとまずいことになるかも」
部門会議や他部署の上司とのやりとりを踏まえた結果、課長の頭の中にはこんな考えが浮かんでいるのである。そしてあなたにとって、このような前提を知る由もない。
一方、担当者であるあなたは、
「課長も現場経験が長いから、この程度のことはわかってくれるだろう」
「クライアントとの折衝が1回や2回で終わらないことは知っているはず」
「このくらいのニュアンスは理解してくれるだろう」
と考えている。当然、課長はあなたがこのような考えを持っていること、つまり前提を知る由もない。
このようなお互いの「わかっているはず」「わかってくれているだろう」が、前提を確認しあう行動を邪魔してしまう。結果的に、あなたのモチベーションが奪われてしまうのである。
「前提のかけ違い」を乗り越えるために
この不幸な「かけ違い」を解消するために、同書ではいくつかの方法が紹介されている。その中でも特に効果的な方法を挙げてみる。
①指示の源流を見る・見せる
指示が後出しだったり、コロコロ変わったりするのには、必ず理由がある。それが仕事を良い方向に導く背景なら、確認をしておくことが良い。理由を知れば、モチベーションが奪われることはなく、意味のある仕事としてやる気を持って取り組めるだろう。指示を出す立場の人にも、参考になる方法だ。
②期待を見る・見せる
指示が漠然としていることや、一方的な指示などには、上司の期待が現れている可能性もある。
「担当者であるあなたの意見を尊重し、自由に企画を考えてほしい。」
「調整が必要になるが、あなたにはこのような調整もできるようになってほしい。」
こんな期待があるのであれば、それを共有しない手はない。
「なぜ、あなたに任せるのか」を伝える、知ることで、良好な関係性を保ちつつ、モチベーションを持って仕事が進められるようになる。
③お互いの懸念を見る・見せる
指示を出す側と受ける側、双方の懸念を共有することも、かけ違いを解消するためには効果的だ。
指示を受ける側の懸念
「他の仕事が立て込んでいるけど、この仕事の優先順位は?」
「どれくらい詳しく説明すればよいか?」
指示を出す側の懸念
「締め切りが迫っているけど、大丈夫かな?」
「このニュアンス、伝わっているだろうか?」
「これは確認しないとまずい」といった内容は、すぐに確認をしている人がほとんどだろう。一方「確認したほうがいいんだろうけど」といった具合のものは、相手が忙しそうにしている時など、確認を怠ってしまうことが多い。
そして確認を怠ると、最終的には「何で確認してからやらないんだ!」「どうして最初から言ってくれないんですか!」につながってしまう。モチベーションだけでなく、時間や効率のロスも引き起こしてしまうのである。
お互いの懸念を共有することで、よりスムーズなコミュニケーションが生まれ、時間や労力の無駄も減らせる。簡単な確認で大きな効果が期待できるので、ぜひ試してみてほしい。
モチベーションには4つの種類が存在する
仕事のモチベーションは「あり」「なし」の2つだけではない。次の4つの段階で考えると、モチベーションの向上が見込める。
- やる気なし
- 仕方なく働く
- 大切だから働く
- 楽しいから働く
1. やる気なし → 仕方なく働く
行動のスイッチを押すための工夫が有効だ。
- 仕事のやり方を決める権限を持つ
- フィードバックをもらって自分の強みを活かす
- 困っている人をサポートする
このような自律性、能力、関係性に関わる欲求を満たし、仕事に対する前向きな行動を促進することが効果的だ。
2. 仕方なく働く → 大切だから働く
仕事の意義や自分の価値観を重ねるアプローチが有効だ。例えば
- 会社の歴史を学んで、事業に対する理解を深める
- 自己理解を深める研修やセミナーに参加する
といった工夫となる。「自分の価値観に従って選んだ仕事」という心理状態になることが、モチベーションを高めることにつながるのだ。
3. 大切だから働く → 楽しいから働く
達成感や喜びを感じる機会を作ることが大切だ。
- 自分の意見を自由に表現できる場を持つ
- 自分に合った成長機会を提供してもらう
といったアクションが効果的だ。「自分の仕事を通じて組織や社会がどう変化していくか」のイメージやつながりを感じられることで、「楽しさ」が芽生え、主体的にモチベーションを発揮できるようになるのである。
「全くやる気のない状態」から、「社会への貢献と楽しさを感じ、主体的にモチベーションを発揮する状態」に持っていくことは難しい。しかし、モチベーションを「あり」「なし」の2種類で捉えてしまうと、この大きな溝を一気に埋めようとして、挫折してしまう。まずはモチベーションの段階を知り、段階的にモチベーションを引き上げていく工夫を講じてみると、少しずつ成果が実感できるようになる。
あなたのモチベーションをより高めていくために
接近モチベーションと回避モチベーション
あなたが担当している仕事は、次のどちらに該当するだろうか。
- 成功に近づこうとする仕事:営業や販売、企画など、業績や売上など、成果が明確に測りやすい仕事。
- ミスを減らして確実に実行する仕事:経理、総務、事務、安全管理など、定量的な成果が見えづらい仕事。
前者は「接近モチベーション」を重視する仕事、後者は「回避モチベーション」が強い仕事である。回避モチベーションの強い仕事は、異常事態が発生しないことが期待されるため、モチベーションを感じにくいことが多い。
まずは、自分がどちらにやりがいを感じるのか、どのタイプの仕事に自分の価値観がフィットするのかを振り返ることが重要だ。そして、もし「回避モチベーション」要素が強い仕事に魅力を感じるのであれば、「自分の価値を実感し、高めるために働く」工夫を取り入れることで、定量的に測りづらい成果でもモチベーションの源泉に変えることができる。
強み×価値観のクロスで、あなたらしい働き方を考える
Q1. あなたの強みは何ですか?
強みを見つけるのは難しいかもしれないが、普段の仕事で工夫していることや、周りから褒められた経験、他の人にとっては苦痛でも自分には負担を感じない作業などを考えてみると見えてくるはずだ。例えば、未来志向、ポジティブな姿勢、共感性がある、規律を守る、上昇意識が高いといった点が挙げられる。
「その強みをどれくらい頻繁に使っているか」「その強みを使うことで、どれくらいの活力を得ているか」などの視点で考えることも効果的だ。
Q2. あなたが仕事で大切にしていることは何ですか?
人と協力すること、新しいことを学べること、たくさんお金を稼げること、裁量を持つことなど、仕事において大切にしていることを3つ挙げてみよう。自分が本当に大切にしていることを選ぶことが重要だ。
なお、本書には「仕事で大切にしていることを探すための25の視点」も記載されているので、参考にすると良い。
Q3. あなたの強みと仕事で大切にしていることをクロスさせ、働き方を考える
強みと大切にしたい価値を掛け合わせて、どのように働くかを考えてみよう。例えば次のようになる。
- 縦軸(強み):最上志向、熱意、素直さ
- 横軸(大切にしたい価値):創造性、協調、能力の活用
「最上志向」×「創造性」→ 新しく、かつ最上のものを創り出すことを目指す 「素直さ」×「能力の活用」→ 自分の能力を活かしてできそうなことには積極的に取り組む
このように、9マスを埋めた後、今の自分に取り入れたい働き方を3つ選び、具体的に「次の1週間で試す」と考えてみる。
例えば、「新しく、かつ最上のものを創り出すことを目指す」なら、担当しているプロジェクトの個人ゴールに「新しい」「最上」を意識して盛り込み、それを具体的に文章にして表現してみるとよい。
このクロスのポイントは、仕事そのものを大きく変える必要はなく、少しずつ行動を変えることで「これは自分らしい」「これはちょっと違うかな」といった気づきが得られる点にある。自分に合った働き方を見つけるための第一歩となるだろう。
まとめ – モチベーションを上手にコントロールするための実践法
集中力を持続させるためのコツについては、「意識を上手にコントロールすること」の大切さをお伝えしたが、モチベーションにも同じ考え方を取り入れることができる。
モチベーションは「気合いで乗り越える」ものではない。自分の特性を知り、それを活かすことで、自然とポジティブに仕事に向き合えるようになる。特に、強みと価値観を掛け合わせた方法は、すぐに実践できるため、まずは試してみることをオススメする。
仕事に楽しみを見出し、自分の価値観を高めるための仕事術を手に入れる1冊。このアプローチを取り入れることで、より自分らしいモチベーションを見つけ、仕事に対する前向きな姿勢を育むことができるだろう。ぜひ手に取ってみてほしい。
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