「ここだけはおさえて」ポイント
この本が届く人・届いてほしい人
- 自分らしい働き方や生き方を模索しているが、何を基準に選べばよいか迷っている人
- 「結果」と「幸せ」が必ずしも一致しないことに戸惑い、自分のキャリアや人生に納得感を持てていない人
- 新しい経験を積み重ねながら、自分の価値観や理想像を少しずつ広げていきたいと思っている人
この本が届けたい問い・メッセージ
成功や成果は必ずしも幸福とイコールではない。多くの人が「成果=幸せ」と無意識に結びつけて自分を苦しめている。だが、得意なことと好きなことは違い、「結果を出せる場所」と「自然体でいられる場所」は重ならないことも多い。
完璧な選択を求めず、小さな経験の積み重ねから自分の適性や理想を見つけることが大切だ。そして、他人の評価に惑わされるのではなく、自分の幸せの軸を見つけ、納得のいくキャリアや人生を築くための視点を持つべきである。
読み終えた今、胸に残ったこと
成果や評価に縛られがちな現代において、「自分らしく生きる」とはどういうことかを改めて考えさせられた。高いパフォーマンスを出すことだけが幸せの指標ではないと実感し、自分に合う環境や価値観を見極める重要性を感じた。
また、最初から完璧な答えはなく、小さな経験を通じて自分の輪郭が少しずつ見えてくるという考えに励まされた。焦らず、目の前の一歩を積み重ねることこそが、不確かな時代における確かな生き方なのではないかと感じさせてくれる1冊である。
「天職」を運任せにしないために
たいていの人にとって、“仕事”は人生と切っても切り離せない存在だ。平日は目覚めてから寝るまでの大半を仕事に費やし、その収入は生活の質を大きく左右する。だからこそ、「自分に合った仕事」を選びたいと願うのは自然なことだ。
しかし、現実はそう簡単ではない。複数の正社員職を掛け持つことは非現実的で、副業を試みても体力や時間に限りがある。世の中には無数の仕事があるのに、実際に経験できるのはごくわずかだ。
つまり、理想の“天職”に出会うのは、運に任せるだけでは難しい。限られたリソースの中でどう選ぶか、直感だけでなく合理的な思考と行動が求められる。
こうした「仕事選び」の視点を、わかりやすく、かつ堅苦しくなく示してくれるのが、こちらの1冊である。
【仕事選びのアートとサイエンス】(山口周・著)
山口周
電通やボストン コンサルティング グループ(BCG)といった一流企業でキャリアを積んだのち、現在は独立研究者として活動している人物である。広告と戦略という異なる領域を行き来しながら、哲学やアートを交えた独自の視点で“働く”という行為を見つめてきた。
「仕事って、なんのためにするのか?」「自分らしく働くって、どういうことか?」
そんな素朴な問いに対し、決して上から教えるのではなく、一緒に考えるような距離感で語ってくれる。考え方に疲れてしまった人でも、すっと読み進められるような言葉が詰まっている。
「向いてない」の正体を疑ってみる
「自分に合った仕事に就きたい」と願うのは自然だが、見つけるのは簡単ではない。ただし、まったく手がかりがないわけではない。ここでは、“天職”に近づくための2つの視点を示す。
評価は「環境」で変わると知る
たとえば、こんな経験はないだろうか。
- クラスでは「地味」「目立たない」と言われていた人が、美術の授業では一目置かれていた。
「おしゃべりで落ち着きがない」と叱られていた人が、接客の場では「話しやすくて安心する」と好かれるようになった。 - 「マイペースで協調性がない」と言われていた人が、ひとりで進める仕事では「芯がある」「ブレない」と高く評価されるようになった。
こうした話は決して珍しくない。評価とは、本人が変わったかどうかよりも、その人が置かれた環境や評価軸によって大きく左右される。
つまり、「自分は能力がないのかもしれない」と感じるとき、それは自分が合っていない場所にいるだけかもしれないのだ。この視点に立てば、環境を変えることは「逃げ」ではなく、むしろ合理的な選択といえる。
もちろん、何かから逃れるためだけに環境を変えるのはリスクがある。だが、自分の強みが活きやすい場所に身を移すことは、将来的な成果や自信につながっていく。
加えて、確率論で考えることも重要だ。
いろいろな仕事を経験した人ほど、自分に合う仕事に出会える可能性は高まる。とくに家庭などに縛られにくい20代のうちは、柔軟に場所を移し、さまざまな経験を積んでおくことで、将来の選択肢は大きく広がる。
苦手を克服するより、得意を伸ばす方がずっと現実的だ。その“得意”が評価される環境に身を置くことが、天職に近づく大きな一歩となる。
「成功=幸福」なのかを問い直す
多くの人が社会的成功を得れば幸福になれると信じている。しかし本当にそうだろうか。
もしあなたが「自分の時間を大切にしたい」「趣味や家族と過ごす時間を確保したい」と考えているなら、高収入や出世などの外から見える成功は必ずしも幸福に直結しない。
収入が少し劣っても、自分らしく自然体で働ける環境の方が心地よいこともある。出世や起業、資産家になることを目指さなくても、毎日を楽しんでいる人はたくさんいる。もしかすると、あなた自身もそのタイプかもしれない。
だからこそ、「成功=幸福」という一般的な思い込みから一度離れてみることが重要だ。自分にとっての幸福の形を見つめ直し、それを軸にキャリアを選ぶ。誰かが決めた勝ち方ではなく、自分だけの勝ち方を作ることが大切なのだ。
「動けない」あなたが、知っておいて損しないこと
頭ではわかっていても、大きな一歩を踏み出すのは簡単ではない。転職によって、今よりも評価されにくい環境に移ってしまうかもしれない。給料が下がると、自分の価値が落ちたような気がしてしまうこともあるだろう。あるいは、家庭や子どものことが足かせとなり、すぐに決断できない人も多いはずだ。
だからこそ、焦らずに立ち止まって、自分なりの判断軸を築いていくことが大切だ。以下に紹介するいくつかの視点は、そのための手がかりとなるだろう。
最初の仕事が「天職」である確率は限りなく低い
多くの場合、最初の仕事は社会人経験のない状態で、限られた知識や感性のもとに選ばれている。その時点で、自分の強みやストレス耐性、得意・不得意がはっきりしている人は少ない。
だからこそ、「最初の仕事=自分に一番合った仕事」である確率は極めて低い。むしろ、「なんとなく決めた」「受かった会社に入った」「周囲が良いと言うから選んだ」といった人が大半だろう。
それなのに、「今の仕事にやりがいを感じないのは自分の未熟さだ」と自分を責めるのは不自然だ。
自分の適性を理解するには、比較できる経験が必要だ。経験は唯一無二の財産であり、それがあるからこそ、自分の輪郭が見えてくる。自分に合った仕事に出会うためには、この経験を少しずつ積み重ねていくしかない。
だから一度の選択に全てを賭けるのではなく、「今より少しでも合う場所があるかもしれない」という視点を持ち続けたい。
あなたの“理想像”は、あなたの経験に縛られている
人は、自分の知っていること、経験したことの中でしか未来を描けない。
「こんな働き方がしたい」「こんな生活を送りたい」という願望も、結局はこれまで見聞きしたものの延長線上にある。
裏返せば、経験の幅が広がれば、想像できる未来の選択肢も増える。今まで見えていなかった「自分に合った働き方」や「大切にしたい価値観」が、ふとした出会いや出来事のなかで見えてくることもある。
だから、「今の延長線上に答えがない」と感じるなら、まずは行動を変えてみることだ。すべてを変えなくていい。副業やボランティア、人の手伝いでもいい。経験は思考の材料であり、選択肢を増やす行為なのだ。
そして、経験を通して広がった選択肢の中から、自分に無理のない未来を設計していけばよい。
「成果」と「幸せ」が一致しないこともある
高い成果を出せば自信になるし、周囲から評価も得られる。得意分野なら、比較的少ない努力で結果を出せることもあるだろう。
だが立ち止まって考えたいのは、「高い成果を出す=自分の幸福」なのかという問いだ。
成果を出せる事実と、それを心から望んでいるかは別問題だ。人によっては、ほどほどの生活水準でいいから、自分の時間を大切にし、趣味や家族との時間に重点を置くことの方がずっと幸せに感じるかもしれない。
つまり、「結果を出せる場所」と「幸せを感じられる場所」は必ずしも重ならないのだ。
だから、「自分はパフォーマンスが出せるから、この仕事に向いているはず」と考える前に、それが自分のパーソナリティに合っているかを見極めたい。世の中には“得意だけどやりたくないこと”も多い。
社会的評価や他人の賞賛ではなく、自分が一番自然体でいられる場所を軸にキャリアを見直すことが、長い目で見て納得できる選択につながる。
環境を変えるのは怖いし、思いきるのは難しい。だが「今の選択肢で我慢し続けるしかない」と決めつけるには、人生はあまりにも長い。
完璧な選択でなくていい。今できる最善を繰り返すことでしか、本当に自分に合った場所にはたどり着けない。
「一歩踏み出した先で何を得られるか」を考えながら経験を積み重ねることこそ、不確かな時代の最も確かなキャリアづくりの方法なのだ。
「天職」とは、自分にとっての“続けられる場所”である
自分にとって本当に合った仕事は、最初から明確にわかるとは限らない。だからこそ、まずは経験を積んでみること、比較してみることが重要だ。違和感を覚える環境にしがみつく必要はないし、いったん離れてみて初めて見えてくることもある。
ただ、勘違いしてはいけないのは、「完璧な仕事を探し当てること」がゴールではないという点だ。経験を通じてわかってくるのは、自分にとって無理なく続けられる環境とはどんな場所か、という実感にほかならない。
そういう場所で、時間をかけて自分の型を見つけていく。そのなかで仕事の楽しさや充実感が積み重なっていく。そうして徐々に、「これは自分にとって悪くないな」と思える仕事が、自分なりの“天職”に育っていく。
つまり、「育てる」ことと「探す」ことは矛盾しない。自分にとっての続けられる場所を探す過程こそが、天職を育てるプロセスなのだ。
誰かに勝つためではなく、自分が納得して働ける場所を見つけること。
そのために動き、経験し、比較する。
それが、自分の人生を自分で選び取るということだ。
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生き方の指針が欲しいあなたに
仕事だけでなく、人生も、戦略的思考で捉えられる。
「環境」をどう使う
「結果」を変えるには「行動」を、「行動」を変えるには「環境」を変えてみましょう。
あなたの自分軸、ハッキリと言えますか?
自分軸探しにも、フレームワークがあるんです。
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