目標は柔軟に、進み方は強く

人生設計・目標設定

「ここだけはおさえて」ポイント

  • どんな人におすすめ?
     自己啓発書を読み慣れている人/自分に合った自己啓発書を見つけられずにいる人/自分の人生設計を改めて考え始めた人
  • ポイント①
     今どきの人生論は、極端すぎる。
  • ポイント②
     自分自身の強みにはなかなか気づけない。だからこそ「長く続けていること」にフォーカスする。
  • ポイント③
     人生の春夏秋冬を意識すべし。
  • 読みやすさ:★★★★☆
     自己啓発書を読み慣れている人にとっては、その内容をさらに俯瞰するための視野を与えてくれる1冊。一方、読み慣れていない人にとっても「ビジネスで活用する思考を、誰にでも身近な”ライフプランニング”に適用している」といった観点で、アクセスがしやすい1冊。

今どきの人生論って、二極化されていませんか?

書店のビジネス本・自己啓発書コーナーでよく見かけるテーマに、こんなものがある。

– ビジネスのゴールを定め、逆算してステップを細かく計画し、効率的かつ合理的なアクションを徹底することで、社会的・金銭的な成功をつかむ –

これを実践するのが難しいという意見はさておき、多くの人が理にかなっていると感じる考え方だろう。

一方で、こうしたテーマも多く見受けられる。

– 他人や社会の軸に縛られず、自分らしく生きることで幸福を得る –

この考え方も納得できる。すべての人がビジネスで成功を目指すわけではないし、高層マンションでの暮らしを夢見る人ばかりでもないからだ。

しかし、今回紹介する1冊の著作は、そのどちらにも異を唱える立場にある。

「どっちもダメでしょ。」

二極化した人生論を冷静に比較してみると、それぞれの主張が極端に偏っていることに気付く。つまり、どちらの考えにも偏りがあり、バランスが取れていないのである。

では、どうすればバランスの取れた人生設計が可能になるのか。そのヒントを与えてくれるのが、以下の一冊だ。

人生の経営戦略――自分の人生を自分で考えて生きるための戦略コンセプト20】(山口周・著)

山口周

独立研究者、著作家、パブリックスピーカー。1970年、東京都生まれ。慶應義塾大学文学部哲学科および大学院で美学・美術史を専攻。電通、ボストン・コンサルティング・グループ、コーン・フェリーなどで戦略策定や文化政策立案、組織開発に従事した後、独立。現在は「人文科学と経営科学の交差点で成果を生み出す」ことをテーマに活動している。
専門は「経営におけるアートとサイエンスのリバランス」「創造性を引き出す組織開発」「資本主義とビジネスの未来」など多岐にわたる。執筆、講演、ワークショップを通じて、経営や働き方、未来に関する洞察を提供している。
主な著作に『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』(ビジネス書大賞2018準大賞)、『知的戦闘力を高める 独学の技法』、『ニュータイプの時代』などがある。

まず、前者の人生設計について。これは、目的達成のために手段を合理化する考え方である。この考え方に対し、著者はゴール設計に問題があると指摘している。要するに「社会的・金銭的な成功が、必ずしもその人にとっての幸福な人生に直結するとは限らない」ということだ。本書はビジネス的な目線を人生設計に適用している1冊となっているが、「ゴールの設計ミスはプロジェクトの失敗に直結する」という教訓を、人生にも当てはめた主張となっている。

一方、「自分らしく生きる」という考え方にも問題があると指摘する。それはプロセス設計の甘さだ。自分らしさを追求するには、最低限の経済的・社会的な基盤が必要であり、それを無視した議論では幸福な人生を語ることはできないというのである。

つまり、ゴール設定に柔軟性(自分軸)を持たせつつ、それを実現するためのしっかりとしたプロセスを持たせる必要がある。これにより、自分らしいと思える人生を歩み、経済的・社会的にも安定した生活を送ることができるのである。

「あなたの強みは何ですか?」はどう見つける?

自己啓発書を読み慣れている人であれば、この問いに対する回答はある程度一致するだろう。「人が苦労しながら行うことでも、自分にとってはストレスなくできること」「努力せずとも他人より優れた結果を出せること」といったものが典型的な例である。

ただし、これらの「強み」を見つけるのは案外難しい。なぜなら、相対的な評価が必要なため、比較対象がいないと認識しにくいからだ。

では、強みをどう見つけるか。その方法の一つとして「長く続けていること」に注目するのが有効だ。

歯磨きのように、あなたが長く続けている習慣は何だろうか?それが「生命維持のため」以外の理由で継続しているのだとすれば、その背景には何があるだろうか。

  • 好きだから続けているのか?
  • ストレスなく実施できるからか?
  • 続けることでメリットを得ているからか?

これらに該当する行動は、十分「強み」と言える。

仮に嫌々続けているとしても、もし多くの人がその行為を「やりたくない」と感じるものであれば、あなたにとってそれを「続ける力」があると言える。反対に、好きだから続けているなら、それは人生の幸福につながる特別な能力である可能性が高い。

得意なことは、一見すると他人と比較しなければ分からないと思われがちだ。しかし、「長く続けていること」を手がかりにすれば、自分自身の行動の中から見つけることが可能だ。

結局のところ、「あなたの強みは何ですか?」という問いは、「あなたが長い間続けていることは何ですか?」という問いに置き換えることができる。これは日常の中で取り入れやすい考え方だ。ぜひ一度、自分の行動を振り返り、意識してみてはいかがだろうか。

人生の四季を意識して自分を活かす

「色々なことに挑戦した方が良い」「選択肢が多い方が豊かな人生になる」「失敗はすぐに忘れられるが、成功はずっと残る」。
こうしたフレーズはよく耳にするのではないだろうか。そして、これらを正しいと感じるのであれば、次のような結論にたどり着くかもしれない。

– 様々なことにチャレンジして選択肢を広げ、その中から得意なことを見つけ、意亭に成功を目指す。それが幸福や満足感につながる –

多くの人が納得できる考え方だろう。しかし、どんな時期にでもチャレンジし、選択肢を広げられるかと問われると、そう簡単ではない。

人生には「春夏秋冬」に例えられるフェーズが存在する。同書でも使われているこの表現によれば、次のように人生を捉えることができる。

  • :様々なことに挑戦し、可能性を広げたり、本当に好きだと感じることを見つけるフェーズ
  • :挑戦して得たものを育て、伸ばすフェーズ
  • :成果や成功を享受するフェーズ
  • :得た価値を他者に分け与えていくフェーズ

人生設計では、この「春」を見準に行動することが重要であるといえる。というのも、私自身が「春」のフェーズにいるからであるが、このフェーズを意識することの価値をとりわけ実感している。しかし、これは決して「春」だけに限ったことではない。各フェーズを意識することで、その不安と要素の一部を控え、行動の決断を促せる効果が生まれるのだ。

特に、若い世代は「今が春である」ことを自覚するのが難しいかもしれない。学生という立場にあると、どうしてもまわりの人と同じように行動することを求められるため、自分の好きなことや得意なことを探るための挑戦を意識しにくいのだ。しかし、この人生の四季という考え方を早い段階で意識しておくことが、その後の人生を大きく変える。

また、「冬」を意識して「秋」を過ごすことも大切だ。他者に価値を分け与える意識があれば、人生の充実感はさらに高まる。人生のフェーズに合わせた行動を取ることで、自分らしい幸せを築けるだろう。

まとめ – バランスある人生設計と実践的なヒントが詰まった1冊 –

本書は、ビジネス的な思考法を人生設計に適用した内容で、人生における「ゴール設定」と「自分らしく生きる」ことのバランスを再考させる1冊である。具体的な戦略のフレームワークには触れず、「ゴール設定の誤りは人生の失敗に直結する」「自分らしさを追求するには基盤が必要」など、人生設計における重要な視点を与えてくれる。また、ビジネス書に慣れていない人にも入りやすく、逆に経験者にも俯瞰的な気づきをもたらす内容となっており、非常に実践的で参考になる。

さらに、本書には紹介しきれなかった「ベンチマーク」や「失敗の捉え方」なども具体的に扱われており、どれも日常に活かせる考え方が満載だ。これらは読者が自身の人生設計にどう適応させるかを考えさせ、手に取る価値を高める要素となっている。ビジネスでも生活でも実践可能なアプローチを学べるので、これからの人生をどのようにデザインするかを考え直すきっかけとなるだろう。

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