「人生、良いことと悪いことが同じくらいずつ起こるようにできていると思うんだよね」という話を、中学・高校時代の同級生から聞いたことがある。大学に入学する直前、もう十年近く前の話だ。その人にとってただの認識の一つだったのか、あるいは座右の銘のように大切にしている考え方だったのかは分からない。ただ、当時の自分にとっては刺さる発言だった。
夏休みが明けた後の校長先生の話は一度も覚えたことがないのに、他人の言葉を十年以上も覚えているのだから、よほど自分に影響を与えたのだろうと振り返って感じる。この発言をその同級生が今でも覚えているのか、大事にしているのか、聞いてみたい気もするが、恥ずかしさが勝るので思い留まっている。ただ、「自分にとってこれだけインパクトのある発言だったから、本人にとってもずっと大切な考え方であってほしい」という願いを少し持ちながらも、それはエゴだとも思う。むしろ、自分がこの考え方に出会えたことで十分なのかもしれない。
なぜこの言葉に惹かれたのだろうか?正直、「人生、良いことと悪いことが同じくらいずつ起こるようにできている」という考え方に完全に賛同するわけではない。反対というわけでもないし、深く考えたことがないから結論を出せない、というのが正直なところだ。そのため、「この考え方が自分にとってピッタリ合っていたから惹かれた」という理由ではない。では、なぜだろうと考えた結果、「その発言をした時点で、本人にとって大事な考え方に触れられたからではないか」という答えにたどり着いた。
実際、自分は他人の価値観を聞くのが好きだ。特に、仕事や生き方に関する考え方の話は聞くだけで面白い(funny ではなく interesting)。こうした性質を持つ自分にとって、この仮説はあながち間違っていないと思う。
悪いことが立て続けに起こったとき、「まあ、人生、良いことと悪いことは同じくらいずつ起こるものだから、仕方ないか」と受け入れられるのは、ものすごく強いことではないだろうか。たとえ、良いことと悪いことの比率が 70% : 30% であったとしても、「良いことがほとんど起こらない」と感じている人より幸せではないかと感じる。この考え方には賛否両論あるだろうが、自分は「解釈の力を肯定する派」なので、今回紹介する書籍が心に刺さったのかもしれない。
【「悩まない人」の考え方 ── 1日1つインストールする一生悩まない最強スキル30 】(木下勝寿・著)
この本のメインターゲットは、「どうすれば少しでも悩まずに生きていけるのだろうか」と頭を悩ませている人ではないかと推察する。側から見ると絶対に解決しなさそうな課題に感じられる。おそらく本人もそのことをなんとなく認識しているものの、それでもなお頭を悩ませる真面目で勤勉、そしてやや思考回路に不器用な部分がある人。そんな人にぜひ出会ってほしい一冊だ。
例えば、次のようなポイントが挙げられる。
- 「思い通りにいかない」と「うまくいかない」の違いを理解すること
- 問題は「解決」しなくても良いということを理解すること
- ポジティブ思考は「悩まない」ことに直結しないことを理解すること
本書を読了した自分が「悩まずに生きる方法は?」と問われた際に挙げる回答はこれらだ。これらはすべて“理解すること”というアクションに該当することからも分かるように、本書の本質は事実ではなく、考え方のハナシに収束している。
書評ブログを謳っている以上、本来ならば1項目ずつ解釈を述べるべきだと感じる。しかし、語りすぎてしまうと、今回最も伝えたいメッセージである「要するに解釈ってめっちゃ大事でしょ?」が薄れてしまうような気がするため、敢えて詳細な解説を割愛させてほしい。もちろん、これは著者の意図やメッセージから逸れてしまうリスクもある。あるいは、自分の人生経験や読解力の不足ゆえに、それ以上の考え方に触れられていない可能性も否定できない。しかし、それらを踏まえた上で、あえてこの一冊から学んだことを不純物なく伝えるならば、「解釈の力はものすごく強い」に尽きる。
数ヶ月後、このブログを振り返った自分が「こんなの簡単に言語化できるじゃん」と内省できる日を期待しつつ、今の素直な感想をまとめておきたい。
自分の解説力不足により、結果として「本書の表面的な部分に触れるだけ」という、どこかアフィリエイト的な内容になってしまったかもしれない。しかし、それを抜きにしても、一度この本を手に取ってみてほしい。読了後、自分と同じ「解釈って大事だよね」という感想を持つ人もいれば、「こんなの全然自分にはフィットしない」と思う人もいるだろう。それでも、読みやすさは保証できるし、「1%もプラスにならない読書だった」と思う人はいないはずだ。
悩まない人に憧れる、そんな人にぜひ手に取っていただきたい。
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