「ここだけはおさえて」ポイント
- どんな人におすすめ?
「なぜあの子は頭が良いのか?」と疑問を持ったことがある人/自分の子供に「自分で考える力をつけてほしい」と考えている人/物事を深く考える基礎力を養いたいと感じる人 - ポイント①
人それぞれに「考える力」の得意・不得意はあるが、この力は伸ばしていくことができる。 - ポイント②
物事を深く理解するには、「問いかけのスキル」を身につけることがポイント。 - ポイント③
「勉強ができる = 幸せ」が必ずしも成立するわけではない。 - 読みやすさ:★★★★☆
全体で160ページ程度とコンパクトで、内容も平易でわかりやすい。特に子育てや日常生活に取り入れやすく、実践へのハードルも低いのが魅力的。
学力の良し悪しは遺伝で決まるのか?
この質問、どちらだと思うだろうか。今回紹介する1冊によると、こう答えられる。
学力(≒勉強が得意かどうか)という観点では、遺伝の影響は確かにある。しかし、後天的に伸ばすことも可能であり、遺伝だけですべてが決まるわけではない。
ここでいう学力とは、「勉強ができる力」というよりも、「自分の力で考える力」というニュアンスに近い。この力が高いと、結果として“勉強ができる”という状態につながる。
本書では、この学力をPCにおけるOSにたとえている。生まれつきOSのスペックが高い人もいれば、低い人もいる。それでも「走るのが遅い人でもスキルを磨けばある程度タイムを縮められる」のと同じように、考える力も訓練次第で高められるのだ。
考える力が高まると、新しい知識を単に覚えるだけではなく、活用できるようになる。また、新しい仕事や学習範囲(本書では“ソフト”と例えている)を学ぶ際にも、「なぜこれが重要なのか」「もっと効率化できないか」「なぜこの歴史的出来事が起こったのか」といった深い思考ができる。一方、OSが古いままだと、ソフトが正しく動かないのと同じように、知識やスキルが十分に機能しないのである。
では、どのようにして考える力を養うべきか。この疑問に答えてくれる1冊が今回のテーマである。
【同じ勉強をしていて、なぜ差がつくのか?】(石田勝紀・著)
石田勝紀
教育者。一般社団法人「教育デザインラボ」代表理事。
20歳で学習塾を創業し、これまで4,500人以上の生徒を直接指導。「心を高める」「生活習慣を整える」「考えさせる」の3つを軸に、学力向上と自己肯定感の向上を支援してきた。2003年には経営危機に陥った私立学校の立て直しを図り、6年で多額の借金を完済。学校経営や教育の改革にも貢献する。
現在、子育て・教育に関するノウハウを「Mama Cafe」の開催や書籍、講演を通じて発信中。連載記事「ぐんぐん伸びる子は何が違うのか?」(東洋経済オンライン)は累計1.3億PVを突破するなど、圧倒的支持を得ている。Voicyパーソナリティとして1300日以上連続で音声配信も継続中。
著書は国内31冊、海外13冊を出版し、教育評論家としてのメディア出演も多数。国際経営学修士(早稲田大学)、教育学修士(東京大学)。
自分の頭で考えるための「問いかけ」スキル
「学び」のタイプは次の3つに分類できる。
- 授業を受けていても学んでいない人
- 授業だけが学びの人
- 寝ているとき以外、日常全てが学びの人
当然、3のタイプが最も自分の頭で考える力に長けている。つまりは、授業そのものに頼るのではなく、日常から学びを得られる状態を作ることが鍵となるのだが、そのために必要なのが「問いかけ」のスキルだ。
疑問を持たせる問いかけ
疑問を持たせる問いかけは、「原因分析力」「自己表現力」「問題解決力」を養う。以下の3つが基本だ。
- なぜだろう?
- どう思う?
- どうしたらいい?
個人的には「どうしたらいい?」は特に参考にしたいと感じた。悩んでいるのに答えを出す方向に頭を働かせていない、といった状態についつい陥りがちだが、仕事において、自分なりの答えを出すことが求められるシーンは少なくないからである。
もちろん、残りの2つについても、大人でも参考にできる問いかけである。「なぜだろう?」は、原因を深く考えるきっかけになる鉄板の問いだが、ついつい忘れがちな問いでもあることに注意したい。「どう思う?」も効果的な問いであり、特に議論や意見交換の場では重要な役割を果たす。特に絶対的な答えがない課題に対しては、意見を出し合い磨き上げていくことも多くなるため、「どう思う?」をみんなで出し合っていくことで、新しいアイデアが生まれやすくなる。
まとめさせる問いかけ
続いてまとめさせる問いかけだが、
- 要するに?
- 例えば、どういうこと?
となる。それぞれ「抽象化思考力」「具体化思考力」を身につける問いかけだ。物事を俯瞰的な目線で見る力や、よりリアル感を持って考えることができるようになる。
「抽象化思考力」と「具体化思考力」は、考える過程だけでなく、説明する際にも役立つスキルである。具体と抽象を行き来することで、本質を捉えたり、相手がイメージしやすい話し方をすることが可能だ。このスキルを身につけることで、コミュニケーションが円滑になり、結果的に仕事もスムーズに進む。話が長くなりがちな自分は「要するに?」を特に意識しておきたい。
ちなみに、具体と抽象については以下の記事も参考にしていただけると嬉しい。「なぜ意思疎通ができないのか」「パクリとアイデアの違いはなんなのか」などを具体と抽象という観点から説明している内容となっている。
補助的な問いかけ
ベースとしては以上の5つの問いかけとなるが、本書では補助的な力を身につける問いかけも紹介されている。
- 楽しむには?(積極思考力)
- 何のため?(目的意識力)
- そもそも、どういうこと?(原点回帰力)
- もし~どうする?(仮説構築力)
- 本当だろうか?(問題意識力)
補助的といった位置付けだが、「何のため?」などは仕事などで即実践可能な問いかけである。「目の前のタスクに意識が向いてしまい、目的をいつの間にか忘れてしまう…。」この厄介なあるあるを回避するために常に意識をしておきたい。
個人的な推しは「楽しむには?」だ。事実を変えることはできないけれど、解釈(楽しいと感じるかどうか)は変えることができる場合も多い。日々のルーティン業務にゲーム要素を入れたりすることも効果的だし、子育てにおいては「面白い」と感じてもらえると物事が一気に好転することも多いので、ぜひ参考にしてみてはいかがだろうか。
なお、解釈の重要性についても以下の記事で紹介している。こちらは「悩まない」ことを目的にしている一冊の紹介となるが、新しい考え方が得られる本となっているため、オススメだ。
学力は確かに大切だけれども、それが全てではない。
学力が重要であることは間違いないが、それだけが全てではない。問いかけのスキルを身につけることで、自分で考える力が養われ、徐々に勉強ができるようになる。知識と知識をつなげて考えたり、深く掘り下げて自分なりの答えを導いたり、本質をつかんでまとめる力が身につくのである。
一方、著者は「OSのバージョンが高いか低いかは、人生の幸せとは関係ない」と述べている。考える力が高ければ、勉強や仕事ができるようにはなるが、それが必ずしも幸せに直結するとは限らない。むしろ「人を大切にする力」など、他の力の方が、幸せにはつながりやすいと考えている。
自分としても賛成できる意見である。「偏差値が高い = 幸せになる可能性が高い」とは言えると思う。特に年収と幸福度はある程度相関があると思うので、確率の観点で「幸せになる可能性が高い」と言えるのではないだろうか。
一方「偏差値が高い = 幸せ」とは断言できないとも思うのである。どちらかといえば「幸せ度数”60”で幸福感を感じる人より、幸せ度数”40″で幸福を感じるタイプの方が、美味しくないか」といったタイプである。美味しい料理で満足できるが、ファミレスでも満足できる人でありたいと感じるのである。これも遺伝の影響があったりするのだろうか。
まとめ – 問いかけを実践することで、自分の考える力を養おう –
本書で紹介されている問いかけを意識的に実行することで、思考の力は着実に養われる。10個の問いかけのうちいくつかを日常生活に取り入れるだけでも効果は十分である。そうした小さな実践の積み重ねが、やがて大きな学びや成果を生む。子供の学習を対象とした内容ではあるが、大人にも役立つ実践的な方法であり、学力や仕事、さらには日常生活における判断力を高めるものとなっている。特に明日からでも実行可能な具体的な提案が満載であり、積極的に取り入れるべき内容である。
また、本書には「問いかけ」の具体例が多く記載されており、意味を理解できる子とそうでない子の違いについての解説や、思考力向上を目指すヒントが豊富である。問いかけを実践することにより、自分の考えを深める力が高まり、それが日常生活や仕事の中でも活用できるようになるはずだ。
本書には、問いかけの具体例や「意味が理解できる子/できない子の違い」など、興味深い内容も多く記載されている。問いかけを通じて思考を深めたい人にとって、本書は極めて参考になる一冊となっているので、ぜひ手に取り、実践に移してみてはいかがだろうか。
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