AI時代の不安をほどく:人間が担うべき仕事と、価値の生み出し方

仕事術・生産性向上
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はじめに — 読む前に押さえておきたいこと

あなたはこんな悩みを抱えていないだろうか?

あなたはこんな不安を抱えていないだろうか?

  • AIに仕事を奪われるのではないかという漠然とした焦り
  • 自分の強みがはっきりせず、「替えのきく存在」になってしまうのではという心配
  • いくら努力しても上には上がいて、自分の価値が見えなくなる感覚
  • キャリアの選択肢が増えたはずなのに、どこか足場の定まらない不安

働き方が多様化したと言われる一方で、「何を選べばよいのか」「どう価値をつくればよいのか」と迷う場面はむしろ増えている。AIが急速に進化し、個人に求められる役割は常に変化し続ける。その変化は、自由さと同時に落ち着きのなさをもたらし、多くの人が自分の立ち位置をつかみにくくなっている。

では、なぜ私たちはこんなにも「価値の示し方」に悩まされるのか。何が不安の正体なのか。

本書が示すこと(著者の主張)

本書が明らかにしているのは、AI時代における「仕事の本質」の変化である。技術が人間の能力を代替する時代において、必要なのはAIと競うことではなく、人間だからこそ発揮できる価値の構造を理解し、それを土台に自己決定していくことである。

著者は次の視点から、その変化を読み解いている。

  • AIの登場は、人間の価値を奪うのではなく、人間の役割を“再定義”している
  • 他者との関係性や文脈理解といった、人間固有の能力が価値の中心に移っていく
  • 自分らしい価値は、一つの分野で突出するよりも、複数の「10人に1人」の要素を組み合わせることで生まれる
  • 市場価値は「努力で追いつく競争」ではなく、「自分の土俵を広げる工夫」によって高まる
  • 不安は能力の不足ではなく、“環境の変化に合わせて価値の捉え方をアップデートできていない”ことから生まれている

つまり本書は、「AI時代に仕事と呼べるものとは何か」「その中でどう価値を築くのか」という問いに対して、構造的な視点から答えようとしている。

本書を読んで感じたこと(私見)

印象に残ったのは、「勝負の土俵を自分でつくる」という考え方である。AIと比べて落ち込む必要も、他者と比較して劣等感を抱く必要もない。大事なのは、一つの領域で勝とうとしないことだ。

たとえ単体では平凡に見える要素でも、複数が組み合わさることで希少性が生まれる。これは、自分を大きく変える必要はなく、むしろ“自然にできること”を丁寧に積み重ねるほど価値が高まるという希望を与えてくれる。

また、人が発揮する価値は外側の環境ではなく、内側の理解から始まる。AIが進化するほど、人間は「自分の基準」で価値を選び直す必要がある。自分がどんな分野で力を発揮できるのか、どんな関係性が自分の強みなのか——こうした自己理解が、これからの仕事の起点になる。

あなたの仕事は何で成り立っているのか

ここ1年ほどで、生成AIと接する時間は明らかに増えたはずだ。以前は「知ってはいるが詳しくはない」「たまに業務で触る程度」という人が多かった。しかし今では、何かを調べるときにブラウザではなくまずChatGPTを開く、という人も珍しくない。

おそらく、あと1年もすればAIに強い関心のない人にとっても、より生活の一部として自然に使う存在になっているだろう。さらに2〜3年後には、今とはまったく違う形で恩恵を受けている未来すら想像できる。

では、そんなAIの時代において「私たちの仕事とは何か」。

AIに仕事が奪われるのではないかという漠然とした不安は広く共有されているものの、どんな仕事が代替され、では人間に残る価値とは何なのかまでを言語化できる人は多くない。

今回紹介するのは、まさにその問いに向き合い、「AI時代における仕事の本質」を探るための一冊である。

AI時代に仕事と呼べるもの: 「あなただけ」の価値を生み出し続ける働き方】(三浦 慶介 著)

三浦 慶介

1983年生まれ。一橋大学法学部を卒業後、大手企業からスタートアップまで幅広い現場で経験を重ね、現在は株式会社グロースドライバーの代表取締役社長として活動している。

企業における新規営業、サイト制作、モバイル/ソーシャルゲームのプロデュースをはじめ、マーケティング、事業支援、CRM導入支援、事業開発など、多様なフェーズで実務に携わってきた。業界を問わず、飲食、小売、ゲーム、建設Techなどで事業の成長に寄与した実績を持つ。

近年は「AI × マーケティング × 組織設計」を柱に、デジタル技術を活用しながら事業成長を支える体制づくりに注力。単なる助言者ではなく、クライアントの“伴走者”として、戦略から実装、成果に至るまで伴走支援を行っている。

その発信活動も盛んで、事業成長の方法論やマーケティング/組織改革の考え方について、さまざまな媒体で言語化し、共有してきた人物である。

AI時代に残る、人間の「仕事」

あなたはAIを使いこなせているだろうか。

そう問われて、自信を持って頷ける人は多くないはずだ。市場価値を高めたい、時代に置き去りにされたくないという思いから、必死になってAIの操作方法を学ぶ人は増えている。

だが本書が強調するのは、「AIを器用に扱えること」そのものに価値があるわけではない、という点である。人間の仕事とは、巧みなプロンプト入力ではない。むしろ、それを使いこなすための“土台となる仕事スキルと経験”のほうがはるかに価値を持つ

本書で定義される「仕事」とは、顧客に価値を提供し、対価を得る営みである。そしてAI時代における人間の仕事とは、その価値提供の出発点を形づくるものであり、「目的を定めること」と「何を実現したいかを決めること」に尽きる

プロンプトは訓練すれば誰でも上達する。しかし、どんな目的のためにアウトプットを求めるのか、そもそもどんな成果を得たいのか――こうした“仕事の前提”をAIが決めることはない人間の仕事はその前段にあり、AIが活躍するのはあくまで目的が定まった後のフェーズである

逆に言えば、顧客価値に直結しない領域、つまりAIが最も得意とする領域で競うほど、その仕事は代替されやすくなる。AI時代に人間が戦うべき場所は、そこではない。

「これは誰のための仕事か」
「なぜこの仕事が必要なのか」
「私たちはどんな成果を望んでいるのか」

こうした問いを立て、目的や成果を定義することこそが、AIを味方につけるための本質的な仕事である。そこが定まれば、AIは強力な補助線となり、価値提供のスピードと質を最大化してくれる。

AI時代に人間だけが生む価値「3+1」

人間がすべての仕事を担う時代は、すでに終わりつつある。今後はその一部をAIが確実に担っていく。であるならば、人間が発揮すべき価値も当然ながら変化していく。AI時代において人間の仕事の本質が明確になると、人間が担うべき価値の輪郭も自ずと立ち上がってくるのである。

本書では、その価値を「3+1」の4つに整理している。

  • 経験知:自らの経験や行動に基づいた、AIが知らない独自の知識・知見
  • 決断:目的と得るべき成果を決め、取るべき行動指針を決めること
  • レビュー:目的に照らして、AIあるいは人が生み出した成果物を評価し、目的達成に適切な質を実現するためのフィードバックと承認を行うこと
  • フィジカル:人間にしかできない身体的な価値の発揮を通じて、経験値の獲得・決断の精度向上・適切なレビューができる力を得ること

AIが能力を伸ばすほど、人間の価値はこの4つに集約されていく。AIが「仕事の一部」を代替しても、人間が担うべき中核はむしろ鮮明になってきたと言える。価値の所在が曖昧だった領域が、AIの登場によってかえって輪郭を帯びてきたのだ。

以下、それぞれを解説していく。

経験知

「構成はきれいだが、どこにも刺さらない資料」。これは日常のいろいろな場面で見かける。誰しも一度は遭遇した経験があるはずだ。

営業資料をAIに作ってもらう状況を思い浮かべてほしい。適切なプロンプトさえ与えれば、機能説明や市場トレンド、競合比較など、公開情報ベースの資料は確かに生成される。

しかし「どのメッセージを強調すべきか」「この顧客は本当は何に困っているのか」といった、リアルな文脈や温度感はAIにはわからない。資料が“刺さる”かどうかは、プロンプトの精度に依存し、その精度は人間が蓄積した経験知に依存する

生成AIを使ったものの「これでは使い物にならない」と感じたことがある人もいるだろう。しかしその要因は、必ずしもAI側だけにあるわけではないのだ。

決断

決断とは、目的を定め、複数の選択肢から最適と思われるひとつを選び、責任を持ってコミットする行為である。言い換えれば「選ばなかった選択肢が生んだかもしれない未来を捨てる」ことだ。

仕事では、選択肢が一つに限定される場面は多くない。むしろ複数の可能性の中で悩み、どれかを選び取らなければならない瞬間のほうが圧倒的に多い。

そして私たちが生きているのはAIではなく人間社会である。そのため、説明責任や最終決定の責任をAIが担うことはないだからこそ決断は重く、大きな価値となる正解がない環境で経験知を頼りに選び取り、その選択を“正解にしていく”ことは、AIにはできない仕事である

レビュー

AIのアウトプットは万能ではない。この点は多くの人が実感として理解しているだろう。誤った情報を出すこともあるし、人間による精査は不可欠だ。

しかしレビューの本質は、単なる情報の正確性チェックにとどまらないどれだけ内容が正しくても、「目的に合っているか」という観点が抜け落ちていれば、価値は生まれない。そして、この目的を定めるのは人間だ。

経験を踏まえて成果物をレビューし、「これでいく」と承認する――その瞬間には必ず責任が生じる。

AIがAIをレビューし続けたとしても、最終的な判断を下すのは人間であり、そこに価値がある。

フィジカル

ここでいうフィジカルとは、単なる身体動作ではなく、現場に身を置き、対面で相手の反応・温度・違和感を掴むという、人間にしかできない情報取得のプロセスである。

良質な経験知は、現場での対話やフィードバックから生まれる。

決断に必要な判断材料も、オンラインだけでは得られない“空気感”や微細なニュアンスの中に潜んでいる。

レビューの精度を高めるにも、現場のリアルな情報を身体で感じることが欠かせない。

つまりフィジカルとは、情報の幅と深さを豊かにし、人間特有の理解力を強化する価値である
このフィジカルがあるからこそ、人間はAIのアウトプットを最大限に活かすことができるのだ。

あなたらしさが生む、これからの市場価値

これからの時代に「仕事」ができる人間になるためには、AIと競い合う必要はない。むしろ抗わず、AIの特性を理解したうえで有効活用することが求められる。多くの人がこの考え方を頭では理解している。しかし実際には、ついAIの土俵で勝負しようとしてしまう。

具体的にどうすれば良いかと言えば、「自分の土俵をつくる」という発想が鍵となる。賢さや処理能力といったAIの得意領域で勝負すると、人間はどこまでいっても不利である。これは直感的にも分かるはずだ。

では、人間はどこで勝負すべきなのか。本書が示す答えは「一つの強みで勝負しない」ということである。人間同士であっても、一つの分野では往々にして上には上がいる。だからこそ、単一の軸で勝とうとするほど苦しくなる。

推奨されているのは、「10人に1人」のレベルの分野を複数持つことである。

  • 勉強ができる
  • マーケティングスキルがある
  • マネジメントスキルがある
  • 人柄が良く、信頼される

一つ一つを見ると特別に抜きん出ているわけではなくとも、「10人に1人」レベルの項目を四つ掛け合わせると、それは「1万人に1人」の希少価値になる。これは論理的にも直感的にも納得のいく考え方だ。

ここで重要なのは、選ぶ分野を「意識しなくても人より良い成果が出るもの」に設定することだ。努力でギリギリ上位に食い込む領域ではなく、自然体でも他より少しだけ上手くやれてしまう領域を軸にする。これだけで市場価値は大きく変わっていく。

自分より優れた人に追いつくことは簡単ではない。しかし、相手の土俵に立つのではなく、自分の土俵を広げ続けていけば、競争の構図そのものを変えることができる。

AIに脅威を感じるということは、まだ自分の土俵がつくれていないというサインでもある。多くの人が殺到する単一のフィールドに留まっている限り、あなたの価値は埋もれてしまう。だからこそ、自分の土俵をどう広げ、どう組み合わせていくかを考えることが、これからの時代を生き抜く最重要テーマになるのである

AI時代に「あなたの仕事」を取り戻す

AIが浸透する速度は、私たちが実感する以上に速い。数年前なら驚いていた技術が、今では日常に溶け込んでいる。こうした変化の中で、多くの人が抱くのは「AIに仕事が奪われるのではないか」という不安であり、その不安は一見もっともらしく思える。しかし実際は、AIが仕事を奪うのではなく、「AIと競うという発想」が仕事を奪っていくのである。

私たちが取り組むべきことは、AIよりも優れた存在になることではない。むしろ、AIが得意な領域には任せ、AIには到達し得ない領域にこそ自分の価値を積み上げることである。仕事の目的を定め、成果の基準を決め、価値の方向性を示す。こうした“人間の仕事”にこそ、本質的な価値が宿る

その価値は、才能や専門性といった限定的な資質だけで生まれるものではない。むしろ、日々の仕事で培われる経験知、現場で掴んだ感覚、他者との対話を通じて磨かれていく判断力、成果物の質を見極めるレビュー力、自ら足を運ぶことで得られるリアルな情報。こうした地に足の着いた行為が、AI時代においてこそ圧倒的な価値へと変わっていく。

AIが膨大な情報を処理し、一定の質のアウトプットを短時間で生み出せる時代だからこそ、求められるのは「なぜやるのか」「誰のための仕事なのか」といった根源的な問いを発する力である。この問いを深く掘り下げ、個々の状況に応じて目的を定義し、最適な行動を選択する力こそ、AIにはコピーできない人間固有の価値である。

そしてもう一つ重要なのは、自分の価値を単一の強みに依存しないことである。AIにとって代替されやすい領域で勝負してしまえば、不安は永遠に消えない。だからこそ、自分が自然体で成果を出せる分野を複数掛け合わせ、「あなたにしかできない組み合わせ」を育てていく必要がある。これは競争を避けるための逃避ではなく、「あなたらしさ」を価値に変換するための最も合理的な戦略である

AI時代は、仕事の“奪い合い”の時代ではない。むしろ「自分の土俵をつくり、自分だけの価値を確立する時代」である。AIが伸びれば伸びるほど、人間の価値はむしろ鮮明になる。私たちが向き合うべきなのは、AIそのものではなく、「私たちは何に価値を感じ、何を成し遂げたいのか」という問いである。

仕事とは、AIが生む大量のアウトプットを操る技術ではなく、価値の方向性を定める力である。この視点を持てるかどうかが、これからの時代における「私たちの仕事」の質を決定していくのだ。

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