忘れてもいい読書術 ― ビジネスと教養を成果に変える方法

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はじめに — 読む前に押さえておきたいこと

あなたはこんな悩みを抱えていないだろうか?

  • 本を読んでも、すぐに内容を忘れてしまい、なかなか仕事や生活に活かせない
  • どの本を読めば役立つのか迷い、読書の方向性に自信が持てない
  • 読書の時間は確保しているのに、知識が積み上がっている実感がない
  • 読書で得た知識を行動に変えられず、もどかしさを感じる

こうした悩みや疑問は、読書初心者だけでなく、社会人経験を積んだ人にも共通している。単に多くの本を読むだけでは、知識は力にならず、行動や成果につながらないのだ。

本書が示すこと(著者の主張)

読書の価値は「読むこと」自体にあるのではなく、そこから得た知識をいかに実生活や仕事に活かすかにある

ビジネス書は、知識をそのまま実践に移すことができるのが強みであり、小さな習慣やスキルの習得に直結する

一方で教養書は、知識を自分なりに解釈し、考えに落とし込むことが求められる。読んだ内容を整理し、忘れても取り出せる仕組みを作ることが、長期的な学びにつながる

つまり、読書は「ただ読む」ではなく、行動や思考に変換するプロセスまでを含めて初めて仕事や生活に力を与えるものだと本書は説いている。

本書を読んで感じたこと(私見)

読書はインプットで終わるものだと考えがちだったが、本書を読むことで視点が変わった。読書は知識を得るだけでなく、それを実際に行動や判断に結びつけることが本質であると理解できる。ビジネス書の具体的な行動指針や、教養書での自分なりの解釈プロセスを意識することで、読書が単なる情報収集ではなく、自分の成長や成果につながる実践的な活動になると感じた。


まずは小さな一歩として、読んだ内容の一部をすぐに試すこと、そして仕組み化して知識を管理することから始めることが、読書を活かす第一歩になると強く思った。

本を読んで終わらせない──実生活へのつなげ方

あなたがビジネス書を手に取る理由はなんだろうか。

物語の世界に浸りたい、リフレッシュしたい、活字そのものを楽しみたいといった理由ではないはずだ。ビジネス書ほど「実生活に活かすことができるかどうか」が重視される本はない。読むことそのものより、読後の行動に価値が置かれる本だからである。

これは誰もが理解している事実である。しかし、実際に実践につなげるのは難しい。漫画や小説のように「好きだから読む」本ではないため、読むこと自体に必要なエネルギーが大きい。にもかかわらず、実行までセットになって初めて大きなメリットが得られるのがビジネス書なのである。

一方で、哲学書や人文書、歴史書はどうだろうか。一見すると、実生活にはあまり役に立たなそうに見える。しかし我々一般の読者でも、これらの本から無意識のうちに影響を受けている場面がある。

たとえば、ソクラテスの「無知の知」という考え方は有名である。自分が何も知らないという自覚を持つことこそ、学びや成長の出発点になるという思想だ。この考えは哲学の授業や教養番組を通じて広く紹介され、今では日常会話やビジネスの現場でも自然に語られている。

このように、ビジネス書以外の本も実は私たちの実生活に影響を与えている。

では、これらの書籍をどのように読めば、実生活を今より良い方向に押し進めることができるのだろうか。今回はそんな、「本の読み方と活かし方」に関する1冊の紹介だ。

読書を仕事につなげる技術 知識が成果に変わる「読み方&選び方」の極意】(山口周 著)

山口周

独立研究者、著作家、パブリックスピーカー。電通、ボストン コンサルティング グループ、コーン・フェリーなどを経て独立。経営戦略、組織開発、人材育成といった分野に携わりながら、社会や企業における「美意識」「哲学」「創造性」の重要性を説いてきた。『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』をはじめ、多数の著書で幅広い読者から支持を得ている。ビジネスの枠を超え、人間がより良く生きるための知と方法を探究し続けている。

忘れても活かせる──知識とのつき合い方

自分は読んだ本の内容を実生活に活用できていると胸を張って言える人は多くない。何かを解決したくて手に取った場合であっても、なんとなく気になって買った場合であっても、実際の生活に取り入れることは容易ではない。

記載されている内容が難しいわけではない。それでも多くの場合、

読んだ内容を忘れてしまうため、仕事に活かせない

という状態に陥るのである。

通常であれば「では、どうすれば忘れないように記憶するか」という議論に進みそうなところだが、本書は異なる立場をとる。「本の内容を忘れないこと」と「本をちゃんと読み、行動に移すこと」は別物であり、忘れる前提でどう活用できるかを考えるべきだ、と説いている

読書とは情報の「イケス」をつくるイメージだという。世界という海から必要な魚(=情報)を拾い上げ、イケスに生きたまま泳がせておき、状況に応じて調達する。イケスにあるかぎり、たとえ普段は忘れていても必要なタイミングで引っ張り出せるのである。

世の中には年に数百冊もの本を読む人がいるが、その人たちの記憶力が常人の数百倍優れているわけではない。読んだ内容をすべて覚えているのではなく、必要なときに必要な情報を思い出しているにすぎない。

「内容を記憶できないから、仕事に活かせない」──その誤解を解くことこそ、読書を仕事に活かすための第一歩である

読書を仕事に活かす──ビジネス書と教養書の読み分け

では、どうすれば読書を仕事に活かせるようになるのか。

本書によれば、ビジネス書と教養書では「読み方」が異なるという。

ビジネス書の知識は、「そのまま」実践する

ビジネス書に関しては、読書ノートを作らず、知識は「そのまま」実践するのが原則である。時間の使い方、コミュニケーション、勉強法、リーダーシップ……。ビジネス書の内容は忘れがちでも、1つくらいは何気なく実践できているスキルやノウハウがあるものである。

たとえば、自分の場合は『ジェームズ・クリアー式 複利で伸びる1つの習慣』の学びが非常に役立っている。「ランニングの習慣を付けたければ、まずは靴を履く習慣から始める」という具体的な行動設計は、仕事の小さな習慣形成にも応用できる。

このように、書かれている事実や示唆をそのまま実践できるのがビジネス書の強みである。

また、本を読んでいて「わからない」と感じた場合は、読み飛ばして構わない。これは自分に知識がない状態ではなく、今回は縁がなかった状態と解釈すべきである。著者との対話が難しいと感じる知識は、今の自分には必要のない情報と認識すればよい。

なお、著者は30代前半まではビジネス書の定番・名著を読む比率を高めることを薦めている。考え方や行動の土台となる知識を固めるためである。

教養書は自分の強みを磨く

ビジネス書に関しては定番や名著を押さえておけばよいが、教養書に対しては継続的なインプットが必要である。なぜなら、新刊でさまざまな考察が出され、それを自分の立場に活かすには、新しい本にも触れておく必要があるからである。

ビジネス書の知識は誰にとっても有用で汎用性が高く、名著の教えはシンプルでクリア、すぐに実践できる

一方で教養書の場合、記載されている内容そのものが役立つよりも、自分なりに解釈し、実生活に当てはめて考えることで初めて価値が生まれる。哲学・歴史・心理学・工学など多岐にわたり、「ある人にとっては役立つが、別の人にはそうでもない」といった点で、普遍性ではビジネス書に劣ることもある。しかし新刊であっても、自分に新たな気づきをもたらす可能性は高い。

教養書の読み方は、ビジネス書とは異なり「面白そうかどうか」を基準に始めればよい。知識をそのまま実践するのではなく、自分の地肉にしていく変換作業が必要であるため、役立つかどうかより興味が持てるかが大切だ。

さらに、教養書で得られる学びは十人十色であり、あなた独自の強みになる。世の中の仕事の「難問」は、汎用的知識だけでは解決できず、その人ならではの強みで解決することが本質である。だからこそ、この「興味」は他者との差別化にもつながる重要な要素である。

しかし、教養書の内容を自分の立場で活用できるように変換するには、ビジネス書で得られる知識やスキルが必要である。社会人の初期、30代前半まではビジネス書の比率を高め、それ以降は教養書の比率を徐々に増やすことが推奨されるのはこのためである。

教養書に関しては、特に「忘れても良い」仕組み作りが重要である。読んだ段階では「どこで、どのように役立つか」が明白でないことも多く、長期間イケスの中に情報を蓄えておく必要がある。

その方法は単純である。「3回読み」である。

1回目は、気になった文章全体にアンダーラインを引く。キーワードだけに線を引くと、再読時に重要性を考える手間が増えるため、文章全体に線を引くことが推奨される。

2回目は、線を引いた中から自分にとって最も重要な5つを選ぶ。なぜ5つかというと、多すぎると転記が面倒になるうえ、覚えきれないためである。〇〇十箇条を覚え続けることは困難である。

3回目は、選んだ5つを転記する。この際、単に内容を書き写すだけでなく、ビジネスや実生活における示唆も記すことが重要である。面白かった場合は「なぜ面白かったか」、役立つと感じた場合は「どう活かせば良いか」という具体的アクションの仮説を書き出す。

著者はエバーノートなどの検索可能なツールを推奨しており、紙のノートに限定する必要はない。検索できることで「忘れても良い」状態が合理的に運用でき、必要なときに即座に情報を取り出せるため、より安心して忘れることができる。

この方法を実践すれば、ビジネス書と教養書を適切に読み分け、知識を自然に行動に反映させることが可能となる。読書は単なる情報収集ではなく、知識を自分の生活や仕事に活かすための「仕組みづくり」なのである。

読書の迷いを解く──長期目標・本棚・暗記の誤解

ここでは、読書を仕事に活かす上でよく抱く疑問や誤解について整理していく。

全ての読書に長期的な目標を持つ必要はあるか?

長期的な目標を決め、その達成のために一意専心する読書は、ビジネス書においては有効である。

しかし、教養書ではむしろ危険でさえある。教養書の読書は、いつ役に立つかわからない知識のインプットであることが少なくない。面白そうだという興味に従って読むことや、「いま、ここですぐに役立ちそう」という刹那的な選好を優先することが重要であり、長期的な目標は必須ではない。

VUCA時代において、教養書から得られる示唆は常に更新されている。したがって、長期的な目標を持つ読書はビジネス書に限定すべきである。

読んだ本を捨てられずにため込んでいないか?

本棚に何年も開かない本を置いたままにしている人は少なくない。しかし、仕事に活かすという文脈ではこれは次の2つの観点からナンセンスである。

  1. 本を置くスペースがなくなり、新しいインプットが制限される
  2. 本棚の情報価値が下がり、知的生産への貢献ツールとならない

1つ目は直感的に理解できる。多くの本があると新しい本を買う心理的ブレーキになり、結果として新しい知識の吸収が妨げられる。

2つ目はやや見過ごされがちだ。本棚は自分の関心や知識のインデックスとして機能する。定期的に眺めて本を手に取り、その内容を思い出すことで知的生産活動が促進される。しかし、多くのスペースが再読しない本で埋まっていると、この活動が妨げられ、読書を仕事に活かせない状態に陥る。

つまり、読んだ本は「情報の倉庫」として整理し、定期的に見返せる状態を保つことが重要である。そうすることで、本棚は単なる保管場所ではなく、知識を仕事に活かすための実践的なツールとなる。不要な本でスペースを占めるのではなく、必要な情報をすぐ取り出せる仕組みを整えることが、読書を価値ある行動に変える鍵である。

本の内容を無理に覚えようとしていないか?

本の内容を暗記して仕事に活かそうとすることもナンセンスである。ビジネス書は「知識をそのまま活用する」、教養書は「イケスに情報を放り込んでおく」という方法が存在し、どちらも暗記とは別のベクトルで活用できる。

暗記ができないことで挫折する人も多いだろう。また、「暗記できないから読書に対するモチベーションが湧かない」と感じる人も少なくない。しかし、この誤解を解くことこそ、読書を仕事に活かすための第一歩である読書は暗記の作業ではなく、必要なタイミングで知識を引き出す「仕組み」を整える行為であることを忘れてはならない

書を価値ある行動に変える──知識の定着と活用の仕組み

これまで見てきたように、読書の価値は「読むこと」自体ではなく、そこから得た知識をいかに実生活や仕事に活かすかにある。ビジネス書も教養書も、読書の目的や方法が異なるだけで、最終的には行動や思考に反映されることが重要である。

ビジネス書は、そのまま行動に移せる知識を提供する。小さな習慣やスキルは、読んですぐに試すことができる。たとえば、習慣形成の一歩として「ランニングの習慣を付けたければ、まず靴を履く習慣から始める」という考え方は、仕事のタスクやコミュニケーション改善にも応用できる。

一方で教養書は、知識をそのまま実践するよりも、自分の理解や文脈に落とし込むことが求められる。読んだ内容を「自分なりに解釈する」過程こそが、思考の幅や独自の強みを育む。忘れてしまってもよいという前提で、知識をイケスに蓄えておくことが、長期的な学びにつながる。

さらに、読書を価値ある行動に変えるためには、本棚やメモの整理といった「仕組みづくり」も欠かせない。本棚に情報を整理し、必要なときにすぐ取り出せる状態を保つこと。知識を無理に暗記しようとせず、必要なタイミングで引き出せる仕組みを作ること。この2つは、読書を単なる情報収集で終わらせないための基本である。

読書はゴールではなく、思考や行動の出発点である。大切なのは、知識を「蓄える」だけでなく、「活かす」こと。今日読んだ一節が、明日の仕事や判断のヒントになるかもしれない。まずは小さな一歩として、本を手に取り、少しでも行動に結びつけること。積み重ねが、自分だけの知的資産を育て、やがて大きな成果につながるのだ。

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