「ここだけはおさえて」ポイント
- どんな人におすすめ?
自分の気持ちをうまく伝えるのが苦手な人/コミュニケーションに悩んでいる人/他人の意見や要望をきちんと引き出す方法を学びたい人 - ポイント①
言語化能力 = 聞く力 - ポイント②
いきなり「感じたこと」を聞かれると、人は戸惑う。まずは「できごと」から聞くことが大切。 - ポイント③
言語化で悩むのは「感情」や「思い」をしっかり把握できていないから。 - 読みやすさ:★★★★
言語化という漠然としたテーマを扱っているが、実践的で自分ゴトとして理解しやすい。ページ数も200ページ程度と手軽に読める。
心を打つ名コピーは、思いつきでは生まれない
コピーライターとは、キャッチコピーやキャッチフレーズをパッと考えられる人である。
こんなイメージを持っていないだろうか。自分も「沢山の言葉を知っていて、それを駆使して魔法のように人を惹きつけるフレーズを紡ぎたす人たち」といった印象である。
しかしながら、今回紹介する1冊によると、どうやらこれは完全なる誤解のようだ。いわく、何時間も、何日もかけて、ようやくたった1行のコピーにたどりつくとのこと。彼らは魔法使いではないのだそうだ。
では、どんな工程に時間をかけているのだろうか。その工程の中身を明らかにし、あなたの言語化能力を論理的かつ飛躍的にアップさせてくれる1冊のご紹介。
【こうやって頭のなかを言語化する。】(荒木俊哉・著)
荒木俊哉
コピーライターとして電通で活動するクリエイティブの専門家。1980年、宮崎県に生まれ、一橋大学を卒業後、2005年に電通へ入社。営業局を経てクリエイティブ局へ異動し、コピーライターとしてさまざまなブランドやプロジェクトに携わる。これまでのプロジェクト数は100以上にのぼり、その活動は5大陸20カ国以上。世界三大広告賞のCannes LionsとThe One Showでのダブル入賞をはじめ、国内外で20以上のアワードを受賞する実績を持つ。
広告以外にも国際的なイベントのコンセプトプランニングや企業のミッション策定のサポートなど多岐にわたる活動を展開している。また、一橋大学で広告ゼミの講師を務めるほか、国家資格キャリアコンサルタントの資格も保有している。
言語化能力は2つの「聞く力」に宿る
本書の著者は、コピーを作る工程の約9割を「聞く」ことに費やすという。その「聞く力」が、言語化能力を大きく左右するのだ。
なぜ「聞く」ことがそんなに重要なのか。それは、クライアントの目的を正確に理解しなければならないからだ。たとえば、商品を広く知ってもらいたいのか、それともブランドイメージを向上させたいのか。同じ依頼でも、その裏にはさまざまな目的が隠れている。それを丁寧にヒアリングし、共通認識を持つことで、クライアントの思いに刺さるキャッチコピーが生まれるのだ。
ここで大事なのは、クライアント自身も自分の考えを明確に持っているとは限らないという点だ。多くの場合、彼らの思いは漠然としていたり、言葉にできていなかったりする。だからこそ、コミュニケーションを通じてその頭の中を引き出し、言語化する作業が欠かせない。
ただ、それだけでは不十分だという。著者は「自分の声を聞く」ことの大切さも語っている。
「自分の話を聞く」とは、頭の中にもう一人の自分を思い浮かべ、あたかも自分にインタビューするように対話をすることだ。これにより、言語化のヒントを見つけることができる。
例:ラジオを聴いてもらうためのキャッチコピーを考える
自分A:「ラジオってどんな時に聴く?」
自分B:「あまり聴かないかな。」
自分A:「なんで?」
自分B:「ラジオがないから聴けない。」
自分A:「今はアプリで聴けるよね?」
自分B:「確かに。でも、それだけじゃ聴く気にならない。」
自分A:「どうして?」
自分B:「他のコンテンツがあるし、SNSやゲームとか。」
自分A:「じゃあ、スマホを触れない時ならどう?」
…
こんなふうに、自分と対話しながら思考を深め、質を高めていく。
「あなたの思いを教えてください」の落とし穴
昨日、社員食堂で何を食べましたか?
理想の社員食堂はどんなイメージですか?
どちらが答えやすいだろうか。おそらく、圧倒的に前者だ。「ナポリタンです」と事実を答えるだけなので、自分の意見を考える手間がないからだ。
この「事実を聞く」というアプローチが、実は思いを引き出すきっかけになる。本書でも紹介されているやりとりを見てほしい。
例:社員食堂に関する質問
- 昨日、社員食堂で何を食べましたか?
→ ナポリタンです。 - それは日常的によく選ぶメニューですか?
→ はい。 - なぜそれが好きなのですか?
→ 昔ながらのナポリタンだからです。喫茶店に入る習慣がないので、こういう味が懐かしくて特別に感じます。 - 他にもよく食べるメニューはありますか?
→ オムライスですね。 - なぜオムライスに魅力を感じるのですか?
…
最初の質問は単なる事実確認だが、回答を重ねるうちに「理想の社員食堂」が徐々に形になっていくのが分かるだろう。
人は突然「あなたの思いを教えてください」と聞かれても戸惑いやすい。一方、「昨日のこと」など具体的なできごとから聞いてもらえると、そこから感じたことや思いをグッと引き出しやすくなる。
聞く力が大事なのは間違いないが、聞き方には工夫が必要だ。最初にできごとを尋ね、そこから派生して思いを探る。このコツを覚えておけば、より深い対話が生まれるはずだ。
「語彙力がないから、言語化できない」は本当に正しい?
「自分の思いや感情は100%理解できているけど、それに合う言葉が見つからない」
「自分の思いや感情を100%理解していない」
言語化できないと感じる理由は、実は後者のパターンが多いのではないだろうか。つまり、「自分がどう思っているのか」や「感情をどう表現するべきか」がぼんやりしている状態だ。だから、悩みの本質は、語彙力の不足ではなく、むしろ思いや感情そのものがはっきりしないことにある。
先の例に照らし合わせると、「社員食堂についてピッタリの言葉が見つからない」ではなく、「社員食堂に対する自分のイメージが明確になっていない」ことが問題だと言える。言語化できないときは、事実だけでなく、自分の感情や思いを上手くつかみきれないことが多い。
ここで、前に述べた「自分の話を聞く力」が重要になってくる理由がわかるだろう。
また、ヒアリングを進めていく中で、最初に持っていた考えや意見が徐々に変わることもある。これを思いが「変わった」と感じるかもしれないが、実際は思いに対する解像度が上がった結果だ。こうした変化も、語彙力以外の要因が言語化に影響している典型例だと言える。
まとめ – 魔法は使えないけれども、技術は駆使できる –
コピーライターも私たちと同じように、魔法を使ってパッとフレーズを生み出しているわけではない。ただ、言語化の技術を駆使することで、時間はかかっても心に深く刺さる言葉を作り出せるのだ。逆に言えば、言語化にはある程度の技術を身につければ、誰でも達成できるレベルに到達できるということだ。
今回紹介した内容は、実はどんな仕事にも活かせる気がしないだろうか。コミュニケーション、資料作成、人材育成など、学んだエッセンスを自分の仕事に少しでも取り入れられそうだと感じたら、ぜひ実践してみてほしい。もちろん、同書を実際に読むことで、より深く実践できることは間違いない。是非手に取ってみてほしい。
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