「ここだけはおさえて」ポイント
🔹 部下や後輩の成長をサポートしたいビジネスリーダー
- 相手の課題を見抜き、自発的な行動を促したい
- 指示やアドバイスではなく、相手の「気づき」を大切にしたい
🔹 家族や友人の悩みに寄り添いたいと考える人
- 話を聞いてあげたいが、どう導けばいいか迷っている
- 余計なアドバイスをせず、相手の答えを引き出したい
🔹 カウンセリングやコーチングに関心のある初心者
- 相手の心の中にある答えを引き出す方法を知りたい
- 「なぜ?」ではなく、相手に気づきを与える質問の仕方を学びたい
ポイント①:「なぜ?」は会話のねじれを生み出す
“「なぜ?」を5回繰り返す”という質問法は一見効果的に見えるが、実際には会話をねじらせてしまう危険がある。会話をスムーズに進め、相手が自分の気持ちに気づけるようにするには、事実質問が効果的。
ポイント②:5つの基本公式で、的確な質問を引き出す
事実質問を通じて、問題を深掘りするには基本的な公式が役立つ。これらを使うことで、相手の思い込みを避け、正しい認識で課題を分析することができる。公式に従った質問は、相手にとっても納得感のある答えを引き出すための手助けとなる。
ポイント③:課題解決は、あくまでも当人が主役
課題解決において最も大切なのは、当人自身が答えを見つけ出すことだ。事実質問は、相手が自ら問題に気づき、解決策を考え出せるように促す役割を果たす。解決策を押し付けるのではなく、相手が自分で納得し行動に移せる環境を整えることが肝心だ。
オススメ度:★★★★★
「Why?を5回」がなぜ上手くいかないことがあるのかを明確にしてくれ、なるほどと思わせてくれる内容が多い1冊となっている。それに対する打ち手を明確で実践しやすい。本そのものの読みづらさもなく、具体的な会話の事例も沢山記載されているため、イメージが湧きやすく、理解がしやすい。
「なぜ?」が課題解決を妨げる理由
課題の本質を見極める際、「なぜ?」を5回繰り返すのが良いという話は、多くの人が聞いたことがあるだろう。実際に5回も掘り下げる人は少ないかもしれない。それでも「なぜ?」で深掘りしようとした経験がある人は、決して珍しくないはずだ。
ところが、この「なぜ?」は思いのほか難しいと感じた人も多いのではないだろうか。「正しい方向に深掘りできている感じがしない」とか、「浅い解決策で終わってしまう感じがする」といった具合に。
実は、「なぜ?」を繰り返す質問は、単純そうに見えてかなりの高度なテクニックなのである。
なぜ「なぜ?」が難しいのか。それが難しいなら、どう質問すれば良いのか。そんな疑問を解消してくれる1冊がある。
【「良い質問」を40年磨き続けた対話のプロがたどり着いた 「なぜ」と聞かない質問術】(中田豊一・著)
中田豊一
1956年に愛媛県生まれ。東京大学文学部を卒業後、国際協力コンサルタントとして活動を続けてきた。1986年から1989年にかけて、シャプラニール=市民による海外協力の会のバングラデシュ駐在員として働き、その後も開発途上国の援助現場で20年以上にわたり豊富な経験を積んできた。現在は認定NPO法人ムラのミライの代表理事を務めている。
異なる文化や価値観を持つ人々とのコミュニケーションに悩む中で、和田信明氏の「どんな相手とも正確に意思疎通する知的コミュニケーションの技法」に出会い、衝撃を受けた。その後、和田氏と共に「メタファシリテーション」という手法として体系化し、事実に基づく質問術を確立。20年以上にわたり、国内外の対人支援専門家やビジネスパーソン、医療・福祉関係者など延べ10,000人以上に「事実質問」の研修を行い、その普及に尽力している。
「なぜ?」「どうですか?」は会話のねじれを生む理由
「なぜ?」を繰り返しても、課題がすっきり解決しない。そんな経験は意外と多い。メソッドとして優れているだけに、うまくいかない原因が見えにくいのだ。
しかし、本書はこの理由を見事に解き明かしている。
- 「思い込み」を引き出し、誤った問題認識や課題分析に繋がる
A:テンション低いけど、どうかした?
B:仕事でミスが続いて、上司に「やる気あるの?」って言われてさ……。
A:なんでそんなにミスするの?
B:急ぎの仕事が入った時に、別の大事な連絡が来るとそっちに気を取られちゃうんだ。もしかしてこの仕事、向いてないのかも……。
A:でもまだ入社して半年じゃん。前の会社辞めた理由ってなんだっけ?
B:もっと向いてる仕事を探したかったんだよね。
このような会話はよくあるだろう。Aさんは「なぜ?」を重ねて、Bさんの本心に迫ろうとしている。
だが、この「なぜ?」が落とし穴になる。Bさんの「この仕事、向いていないかも」という考えは、あくまで現時点での思い込みに過ぎない。事実かどうかは不明なのに、そこを起点に議論を続けることで、誤った課題認識に陥ってしまうのだ。
- 相手の言い訳を誘発する
C:なんでまたゲーム出しっぱなしなの?前にも片付けてって言ったよね?
D:いや、Eくんと遊んでたらFくんから連絡が来て、そのうちお昼になっちゃって……。
C:言い訳はいいから、早く片付けなさい。
このような親子の会話もよくある。ここでの「なぜ?」は、子ども(D)の課題解決につながっていない。むしろ、言い訳を引き出すだけで終わってしまっている。
本書によると、人は「よくなかった」と思っている行為を「なぜ?」と問われると、反射的に言い訳をしてしまう性質があるという。つまり、この「なぜ?」は解決を促すどころか、むしろ言い訳を引き出してしまう質問になっているのだ。
- 相手に「忖度」を強要する
G:お久しぶりですが、お体の調子はどうですか?
H:なんとかやってます。でも最近、薬を飲み忘れることが多く、認知症かも、と感じたりもしています。
G:そうですか。今度、公民館で認知症の予防教室が開催されるのですが、いかがですか?
H:そうですね。考えてみます。ありがとうございます。
今度は、保健師と患者との会話である。こちらは一見すると問題のない会話のように思えるが、実はそこの会話も、一見問題なさそうに見える。しかし、Hさんは「何か言わなければ相手に悪い」と感じ、ありもしない課題をつくってしまっている。
ただでさえ、保健師に体調を心配してもらっているという状況である。もしこれが、訪問型の検診等の場合であったならば、余計に「なにか言わなければ相手に悪い」と考えてしまうはずだ。「相手の問題を知って役に立ちたい」という保健師(G)の気持ちを理解しているからこそ、そこから逆算して問題をつくってしまうのである。
特に医師、先輩、上司など、質問する側が相手を補助したり指導したりするような立場となっている場合、このような「忖度」が発生しやすい。結果的に「なぜ?」や「どうですか?」がありもしない課題を生み出してしまい、本質的な課題解決が実現できないのである。
このように、「なぜ?」「どう?」「意見を求める質問」は、課題解決の正しい方向に導くどころか、思い込みや誤った認識を生むリスクがある。相手の本当の課題を引き出すには、「なぜ?」以外のもっと良い質問が必要なのだ。
思い込みを取り除くための質問術
前述の通り、「なぜ?」をはじめとする質問に対する回答は、思い込みを含んだものになりやすい。思い込みであるが故に、それを起点に課題解決を図ることは難しい。
となると、質問のしかたを変える必要がある。思い込みの反対は事実だ。事実を淡々と確認する質問を投げかけることで、課題の深掘りや解消がしやすくなる。
同書では、事実を確認するための質問を「事実質問」と呼んでいる。ここでは、事実質問の5つの公式について述べていく。
①「なぜ?」と聞きたくなったら「いつ?」と聞く
「なぜ?」は理由を尋ねる質問、「いつ?」は時刻やタイミングを尋ねる質問だ。一見、まったく異なる内容に思える。
だが、少し頭を柔らかくすると、この言い換えが難しくないことがわかる。
「あんな会社に就職しなければよかった」と友人から言われた場面を想像してほしい。おそらく「なんでそう思うの?」と問いたくなるはずだ。しかし、ここでそれを我慢して「そこに就職したのはいつ?」「いつからそう思うようになったの?」などと質問してみてほしい。会話が派生して「他の会社からも内定をもらっていたの?」「今の会社に決めた決定打は何だったの?」といった質問ができるようになると、きっと思い込みではない回答が返ってくる。
「いつ?」と聞けない質問はほぼ存在しない。事実としての時刻やタイミングを答える分、思い込みを避けられる。過去の事実を思い出すことで、課題解決に向けた本質的な回答につながる1歩目ともなり得るのだ。
②「なぜ?」と聞かずに「Yes/Noの過去形」に変える
「運動不足だってわかっているのに、なんでジムに行ったりランニングしたりしないの?」 「あんまりいい人じゃないって言ってたのに、なんで別れないの?」
おそらく、言い訳のような回答が返ってくるだろう。なぜなら、どちらの質問も相手に言い訳を強いる内容になっているからだ。
こんな時には、2つ目の公式が役立つ。「Yes/Noの過去形」で質問するのである。
運動しない友人には「ジムに行ったことある?」「何か運動しようと考えたことある?」と。別れようとしない友人には「別れようと思ったことある?」「別れようとしたことないの?」と聞いてみるのがよい。
相手が本気で痩せたい、別れたいと思っているなら、しっかりと答えてくれるだろう。そこから課題解決への糸口が見つかる可能性も大いにある。一方、はぐらかされたり誤魔化されたりした場合は、あっさりと引き下がった方がよい。あなたに課題解決のアドバイスを求めているのではなく、単に気持ちを聞いてほしいだけかもしれないからだ。
③「どう」と聞かずに「何」「いつ」「どこ」「誰」と聞く
3つ目は「どう」と聞かずに「何」「いつ」「どこ」「誰」と聞くことである。「How」を使わず「What」「When」「Where」「Who」を使って質問することで、回答に思い込みが入りにくくなる。
「旅行、どうだった?」「テスト、どんな感じだった?」「先週の話し合い、いかがでした?」。これらはすべて「どう質問」だ。しかし、この質問の厄介な点は、質問された側が「相手が何を知りたいのか」をはっきり理解できず、思いついたことを答えてしまうことだ。その結果、質問した側にも「それを聞きたいんじゃないんだよな……」というモヤモヤが残る。
この解消法が、「何」「いつ」「どこ」「誰」での質問だ。「この前の旅行はどこに行ったの?」「誰と一緒だったの?」「何が一番楽しかった?」と聞けば、自然に会話のキャッチボールが生まれる。会議の確認でも「何時から何時までやっていたんですか?」「うちの部からは課長と次長の2名が参加したと聞いていますが、他の部は誰が参加されていました?」「会議での結論はどこに落ち着きましたか?」と聞けば、少しずつ核心に迫れるだろう。
④「いつもは」ではなく、「今日は?」、「みんなは」ではなく「誰と?」と聞く
食生活を改善したい人や、食費を抑えたい人と話す際、ランチの話題はよく出てくるのではないだろうか。
正しい方向に深掘りするなら、「お昼ご飯は普段どこで食べているんですか?」ではなく、「今日はどこでお昼を食べましたか?」から始めた方がよい。そこから「昨日は?」「一昨日は?」「最近お弁当を持ってきたのはいつですか?」「何が入っていましたか?」と質問を繰り返すことで、ダイエットや節約を成功させるための情報が引き出せるはずだ。
会議で意見をまとめたい時にも、具体性のある質問が有効だ。「他のみなさんはどう言っていますか?」ではなく、「〇〇さんは何と言っていましたか?」「反対意見を述べていた方はいらっしゃいましたか?」「何人くらいいましたか?」と聞くことで、漠然としたイメージではなく、事実に基づいた確認ができる。
「いつもは」「みんなは」と漠然と聞くのではなく、ピンポイントで事実を確認することが大切だ。
⑤次の質問に困ったら「他は?」と聞く
I:新卒のときには何社くらい内定をもらっていたんですか?
J:3社です。
I:最初に通知が来たのは今の会社ですか?
J:そうです。
I:他の会社も、英語に関係がある会社だったんですか?
J:いや、あまり関係がない会社でした。
I:今回の転職も、英語に関係する会社をお探しですか?
J:いや、特に英語にこだわる必要はない気がしてきました。今の会社を選んだのは、最初に通知を受けたことや、大企業であったことが理由だったと気づきました。
このやり取りは、転職エージェント(I)とクライアント(J)の会話だ。クライアントは英語に関係する仕事を探したいと思い込んでいたが、深掘りする質問を受けることで、「実はそこまでこだわる必要はない」と気づかされた。
ここでのポイントは、「他の会社について」の質問だ。「他は?」と聞くことで、視野が広がった。クライアントの視野は今の会社に向いていたが、新卒時に受けた会社にも焦点を当てることで、「英語にこだわらなくていい」という発見が得られたのだ。話の方向性が変わったら、さらに事実質問を重ねることで、本当のニーズにたどり着ける場合も多い。
大原則:「解決はしてはいけない、させるもの」
質問者が意識しておくべき課題解決の大原則は「解決はしてはいけない、させるもの」である。
K:仕事の優先順位で迷ってるって言ってたけど、何がうまく言ってないの?
L:緊急の仕事が多くて、いつも後手後手になっちゃって…。
K:重要なタスクが後回しになっている感じ?
L:うん。取り掛かりは早いんだけど、結局ギリギリで焦ることが多い。
K:じゃあ、毎朝タスクを「緊急度」と「重要度」で整理してみたら?
L:なるほど、やってみるよ。
この例では、質問者(K)が「何」や「Yes/Noの過去形」で質問している。また、緊急度と重要度でタスクを整理するという解決策も提示しており、一見すると問題はなさそうに思える。
では、次の例を見てみよう。
K:仕事の優先順位で迷ってるって言ってたけど、どんな感じ?
L:緊急の仕事が多くて、いつも後手後手になっちゃって…。
K: そっか。どんな仕事が溜まりやすい?
L:報告書の作成とか、資料整理みたいな細かい作業が多いかな。
K:なるほど。溜まったときに「一番困ること」って何?
L:あ、そうか…締め切りギリギリだと、質が落ちるんだよね。
K:質が落ちるのか…。それって、自分でも「もっと早く手をつけておけばよかった」って思う?
L:うん、いつもそう思う。でも、その時にはもう遅いんだよね…。
K:なるほどね。そういう時って、最初に「これやろう」と決めた仕事はどこにいっちゃう?
L:途中で他の緊急案件に追われて、後回しになることが多いかも…。
K:じゃあ、その「最初に決めた仕事」、忘れずに進めるための方法ってあると思う?
L:うーん…あ、もしかして、朝一番で「一番大事なやつ」を終わらせる習慣を作ったほうがいいのかな?
K:ほうほう。それって、自分にとってやりやすそう?
L:うん、朝なら頭もスッキリしてるし…それ、やってみようかな。
この例では、質問者(K)は解決策を提案せず、相手(L)が自分で気づけるよう問いかけている。前者では質問者が「整理する」という解決策を提示しているが、後者では相手が「朝一番で大事なことをやる」という方法に自ら思い至っている。
どちらの例でも解決策は提示されている。しかし、当事者(L)が「自分で気づいたかどうか」が、行動に移せるかどうかのカギを握っている。自分で気づいた場合、納得感が生まれ、行動にもつながりやすい。
先ほど紹介した以下の例も同様だ。
G:お久しぶりですが、お体の調子はどうですか?
H:なんとかやってます。でも最近、薬を飲み忘れることが多く、認知症かも、と感じたりもしています。
G:そうですか。今度、公民館で認知症の予防教室が開催されるのですが、いかがですか?
H:そうですね。考えてみます。ありがとうございます。
このケースでは、保健師(G)が予防教室への参加を提案している。しかし、次のように問いかければ、さらに相手(H)が自分で気づける可能性が高まる。
「他にも認知症では?と思った出来事はありますか?」
「薬を飲み忘れたことに気づくのは、どんなタイミングですか?」
「今まで何か工夫を試したことはありますか?」
こうした事実質問を投げかけることで、患者(H)が自分で解決策に思い至ることがある。自分で気づいたからこそ、行動が伴うのだ。「解決はしてはいけない、させるもの」の原則をしっかりと覚えておこう。
まとめ – 気づきを引き出す「事実質問」の力
相手の考えや行動を変えたいと思うとき、つい「なぜ?」と問い詰めたくなる。しかし、その問いは相手を追い詰め、心を閉ざさせてしまうことが多い。本当に相手の気づきを促したいなら、「いつ頃から?」「どんな時に?」といった、具体的な状況を尋ねる「事実質問」が有効だ。相手自身が過去の経験を振り返ることで、自然と答えが見えてくることがある。
「事実質問」の力は、単なる情報の整理にとどまらない。相手が自分の中のモヤモヤに向き合い、曖昧だった感情や課題を言葉にできたとき、初めて「こうすればいいのか」と自分で気づく。この納得感こそが、実際の行動につながる重要な要素だ。
大切なのは、解決を急がず、相手が自分で答えを見つけられる場をつくること。問いかけを変え、相手の心の中にある「答え」を引き出すことができれば、そこには自発的な変化が生まれる。「解決はしてはいけない、させるもの」——この原則を忘れず、じっくり相手の気づきを待つ姿勢が、最も大切なのだ。
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