遺伝子はなぜ不公平なのか?

幸福・心の成長

「ここだけはおさえて」ポイント

  • どんな人におすすめ?
     職場での自己成長に悩んでいる若手社員/ライフスタイルやキャリア選択で迷っている20〜30代の人/自己啓発に興味があり、自分の価値観を見直したい人
  • ポイント①
     淘汰されない遺伝子は、わたしたちにとって必要な遺伝子である
  • ポイント②
     努力は苦手を克服するためではなく、得意なことを見つけ、その才能を最大限に発揮するために使うべき
  • ポイント③
     「得意」は人生の成功を、そして「好き」は人生の幸福をつくる
  • 読みやすさ:★★★
     約200ページで、読むこと自体に負担は少ない。内容は勇気づけられ、心温まるもの。文体も柔らかく、リラックスして読み進めることができる。

「足が遅い遺伝子」はなぜ存在するのか?

「普通にできないこと」が誰にでもあるはずだ。早く走れない、歌が上手く歌えない、暗記に時間がかかる、絵が描けない……。学校では他人と比べる機会が多く、得意・不得意を強く意識させられた経験も多いだろう。努力で何とかなることもあったが、才能の差を痛感したこともあったのではないだろうか。

こうした違いは、遺伝子によるものである。人それぞれ異なる遺伝子が、得意や不得意を生み出しているのだ。この遺伝子の「不公平さ」に迫った一冊がある。

遺伝子はなぜ不公平なのか?】(稲垣栄洋・著)

稲垣栄洋

農学者・作家。静岡大学大学院教授。専門は植物生理学や雑草学であり、自然を通じた生存戦略や人生哲学を平易に解説する著書を多く発表している。代表作に『雑草のある暮らし』『弱者の戦略』があり、雑草や植物から学べる「しなやかさ」と「強さ」を明快に伝えるその文体は、多くの読者から支持されている。

ペンギンはなぜ飛べないのか。それは、空を飛ぶ機能が不要と判断され、その機能が淘汰されたからである。本書の言葉を借りると、「遺伝子に正解があり、空を飛ぶ遺伝子がその”正解”ではなかったから」となる。そして反対に、水の中を素早く泳ぐ機能は「正解」であったため、進化の過程で残されてきたということとなる。

ペンギンが空を飛べない理由を考えたことがあるだろうか。それは、進化の過程で「飛ぶ機能は不要」とされたためである。一方、水中を素早く泳ぐ能力は生き残りに有利とされ、残ったのだ。本書ではこれを「遺伝子の正解が決まっている」と表現している。トンボのように複眼を持たない人間の目が2つであるのも、目の数の「正解」が2つと決まっているからだ。

では、「足が遅い」「背が低い」「顔が大きい」といった特徴はどうだろうか。これらもまた理由があって残されている。足が速ければ獲物を追いかけやすいが、周囲の様子を観察する能力は低下する。背が低いと周囲から守られやすく、顔が大きいとたくましさを感じてもらいやすいなど、どれも何らかの「意味」があるのだ。

本書は、遺伝子が不公平である理由を平易に解説している。一見「マイナス」に思える特徴にも、異なる視点が見えてくるはずだ。

努力は、苦手を克服するためではなく、得意を見つけるためにある

遺伝子的には、足の速さに優劣はない。しかし、「スポーツ」という視点では、足が速い人が優れているとされる。このように、文化や環境が変わるだけで特徴の評価は大きく変わる。

この状況は、苦手を持つ人にとって厳しい現実だ。足が遅いこと自体は決して「劣り」ではないが、スポーツの世界では不利とされる。同じように、絵が得意でも共通テストでは評価されづらい。こうした環境では、苦手を克服しようと努力しても報われにくいのだ。

では、努力とは何のためにあるのか。それは、「自分に向いていること」を見つけるためだ。苦手を補うのではなく、挑戦を通じて「これが得意だ」と思えることを探す努力が大切なのである。

ただし、本書では得意を何でも伸ばして良いと言っているわけではない。たとえば、「ルールを破る」「いじわるをする」「ずるをする」といった能力が得意だとしても、それを伸ばしてはいけない。人間は社会で生きる生き物であり、ルールを守る必要があるからだ。このような「マイナスの得意」は抑え、正しい方向に修正することが求められる。

得意を見つけ伸ばすことと、マイナスの得意を抑えることは別物だ。苦手の克服に執着するのではなく、自分の得意を発見し、それを磨くことに集中すべきだ。

得意の見つけ方については、以下の記事も参考にしてほしい。

「得意」は成功、「好き」は幸福につながる

「好きなこと」なのに「得意ではない」場合、人はどうすれば良いのだろうか。本書では次のように分けて考える。

成功したいなら「得意なこと」で勝負せよ
人生で成功を収めたいなら、自分が得意なこと、つまり他人が難しいと感じることを簡単にできる分野で力を発揮するべきだ。これが、社会的成功を掴む最短の道である。例えば、稼ぐ力を持つ人はその能力を生かし、大きな収入を得やすい。

一方で、本書は次のようにも述べる。

「好きなこと」は幸福に直結する
たとえ得意ではなくても、好きなことは幸福感を高める源になるのだ。具体例を見てみよう。

サラリーマンAさん
年収400万。バリバリ働いて稼ぐタイプではないが、無駄にお金を使わないため、生活の満足度は高い。特別に上手というわけではないが、絵を描くことが大好き。

スーパーサラリーマンBさん
年収1,200万。稼ぐ能力に長けており、周囲からの評価も高い。しかし、今の仕事には特に愛着はなく、趣味の旅行に費やす時間がほとんどない。

もし成功を追い求めるのであれば、年収を上げる方向に努力するべきだろう。そして、Bさんはその努力を重ねることで成功を収める可能性が高い。しかし、AさんがBさんに憧れて年収アップを目指しても、必ずしもうまくいくわけではない。その結果、うまくいったとしても、絵を描く時間が減り、Aさんが本当に感じる幸せは得られないかもしれない。逆に、Bさんにとって年収を上げることが必ずしも幸福にはつながらない。むしろ、仕事を少しセーブして、自分が本当に充実感を感じる「旅行」にもっと時間を割く方が、より満足感を得られるかもしれないのだ。

上記の例からわかるように「成功」と「幸福」は必ずしも一致しない。「好きで苦手なこと」は人生の成功の役には立たないかもしれないが、それが人生を豊かにしたりもするのである。

まとめ – 遺伝子に対する考え方を改めると、自分の人生に対する向き合い方も変わる –

誰しも自分の才能のなさに悩んだ経験があるのではないだろうか。だが、社会は様々な「得意」を持った人々が力を合わせて成り立っている。つまり、あなたの遺伝子にも必ず意味があり、それを活かせれば成功につながるのだ。また、「得意」と「好き」は必ずしも一致しないので、もし「好きで苦手なこと」があれば、それを無視することはできないということも覚えておこう。

とはいえ、やっぱり「好きなことが得意だったらなぁ」と嘆いてしまうのである。

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