はじめに — 読む前に押さえておきたいこと
あなたはこんな悩みを抱えていないだろうか?
・職場や日常で、Z世代の考えや行動が理解できず、コミュニケーションがうまくいかない
・どのように接すればよいのか迷い、指示やお願いがスムーズに伝わらない
・「自由すぎる」「反応が薄い」と感じ、世代間ギャップに疲れてしまう
こうした悩みは、単に「若者に合わせられない」「接し方が下手」という個人の問題ではない。背景には、Z世代が育った社会や環境、価値観の多様性という構造的な要因があるためである。
本書が示すこと(著者の主張)
Z世代の行動や考え方を理解するには、「世代間のギャップ」を個人の性格の問題と捉えず、社会的・教育的背景を踏まえて読み解く必要がある。具体的には、価値観の多様性、デジタルネイティブとしての特性、仕事やプライベートに対する柔軟な考え方がポイントとなる。
また、Z世代と接するうえでは、一方的な価値観の押し付けを避け、具体的で納得感のある伝え方を意識することが重要である。適切なフィードバックや行動の整理、選択肢を示す関わり方により、世代間の摩擦を減らし、自然に成果を引き出すことが可能となる。
本書を読んで感じたこと(私見)
Z世代と接する場面では、思った以上に意図が伝わらなかったり、行動が期待通りにならず戸惑うことが多かった。本書を通じて、彼らの価値観や行動の背景にある社会・教育・デジタル環境を理解することが、接し方のヒントになるとわかった。
特に印象的だったのは、「多様性や自由が前提の世代とどうやり取りするか」を具体的に整理している点である。単に教える・指示するのではなく、納得感や選択肢を意識して伝えることで、自然にコミュニケーションが円滑になり、日常の業務や職場の関係性でも活かせる視点が得られた。
なぜ“分かり合えない”と感じるのか
「子どもの世代が何を考えているのかわからない」「親世代の考え方についていけない」。
このような言葉は、いつの時代にも聞かれてきた。今の親世代が学生だったころも、当時の大人たちの価値観に反発したり、理解できずにもどかしさを覚えたりしたはずだ。親子喧嘩や反抗期は、世代間のズレの象徴でもある。
しかし、そうした世代差を踏まえても、近年の「Z世代は何を考えているのかわからない」という声は多い。背景には、コンプライアンス意識の高まりやハラスメントへの配慮など、互いに“丁重に接しなければならない”という空気がある。良く言えば慎重、悪く言えば探り合い。その結果、相手の本心に踏み込めず、表面的なやりとりばかりが続くと感じている人も少なくないだろう。
高齢化が進む日本社会とはいえ、職場や地域、サービスの現場などでZ世代と関わる機会はむしろ増えている。にもかかわらず、多くの人が「どう接すればいいのか」「どんな価値観を持っているのか」と戸惑いを抱いているのが現状だ。
今回紹介するのは、そんな世代間コミュニケーションの壁をやわらかくほどいてくれる一冊である。
【Z世代コミュニケーション大全】(松下東子,梅畑友理菜 著)
松下 東子
野村総合研究所所属。マーケティング/消費者インサイト領域を専門とし、長年にわたり意識調査・ブランド戦略・広告効果分析などに従事。1996年東京大学大学院修了後、NRI入社。複数の共著でも社会の消費トレンドを可視化する研究に携わっており、企業や研究機関での戦略支援も手掛ける。
梅畑 友理菜
野村総合研究所所属のマーケティング/ブランディング領域のコンサルタント。2020年に入社。大学時代は早稲田大学法学部在籍中にイタリア・ミラノの Istituto Marangoni に留学しラグジュアリーブランドのマーケティングを学ぶ。化粧品業界やファッション・金融領域を中心に、データ駆使型の企業戦略支援や新規事業支援にも従事。Z世代との対話経験を背景とした視点を持つ若手専門家。
Z世代が“理解されにくい”本当の理由
同書によると、Z世代とは1996年〜2012年に生まれた人々を指す。2025年現在でいえば、中学1年生から29歳前後までが該当する。
いわゆる「若者」と括られる世代であり、確かに彼らの価値観や志向を捉えるのは難しいと感じることが多い。
しかし、冷静に考えてみれば、若者の考えを理解するのが難しいのは今に始まったことではない。「今どきの若者は…」という言葉が何十年も前から使われてきたことが、その証左だ。にもかかわらず、なぜこれほどまでにZ世代だけが特別視されるのだろうか。
その答えは、「個人がより尊重される時代になったから」である。
Z世代は、ひとりひとりの価値観が際立ちやすい環境で育ってきた。したがって、「Z世代はこういう人たちだ」とひとまとめに語ることが難しい。理解が難しいのは、彼らが複雑だからではなく、「多様であること」そのものが前提の時代に生きているからだ。
仕事への向き合い方も、推しへの情熱も、恋愛観やライフスタイルも千差万別である。多様な選択肢の中で自分なりの幸せを選ぶことが肯定されている時代において、Z世代を「代表的な傾向」で説明すること自体が矛盾しているのだ。
もちろん、団塊の世代やバブル世代にも多様な人がいた。しかし、かつては「世間一般では」という共通の基準が強く存在しており、仕事観や結婚観、服装の傾向など、ある程度“社会的な正解”が共有されていた。そのため、「団塊の世代は仕事熱心」といった一括りの説明がまだ成り立ったのである。
一方で、今の時代には「正解」がない。だからこそ、Z世代の多様性は理解を難しくさせている。
では、そんな掴みどころのないZ世代と、どう向き合えばよいのだろうか。
Z世代の“自由さ”の正体
Z世代は、多様な価値観を持ち、それを発揮することが推奨されている世代である。だが、この「自由さ」は、彼ら自身の意識だけで生まれたわけではない。背景には、社会・環境・教育の大きな変化がある。
まず、Z世代は生まれながらのデジタルネイティブだ。幼い頃からSNSに親しみ、世界中の人々の意見や生き方をリアルタイムで見てきた。その結果、「どんな価値観もあり得る」「自分もその一つでいい」という感覚が自然と身についている。
また、絶対的な価値観や“正解”に従うのではなく、自分が心地よいと感じるコミュニティを見つけ、そこで生きがいを見出す傾向がある。「推し」を全力で応援する文化も、まさにその象徴だ。
教育の面でも、かつてのように「良い成績を取り、良い大学へ進む」だけが目標ではなくなった。探究学習やプロジェクト型授業、キャリア教育などといった取り組みにより、「自分の人生をどう切り拓くか」を重視するカリキュラムが浸透している。
このような環境で育ったZ世代にとって、「みんなちがって、みんないい」はスローガンではなく、空気のように自然な価値観なのだ。
この背景を踏まえると、Z世代が「プライベートを重視する」と言われるのも当然のように見える。だが、実際には単なる“私生活優先”とは限らない。
同書によれば、確かにプライベートを大切にする傾向は強いが、その裏には「やりがいを感じるなら仕事にも全力を注ぎたい」という意識が存在している。Z世代は他者貢献や社会的意義を重視し、自己成長への意欲も高い。つまり、「仕事をしたくない世代」ではなく、「意味のある仕事をしたい世代」なのである。
言い換えれば、Z世代は“好き”にまっすぐで、やりがいを感じられる環境では圧倒的な集中力と成果を発揮する。一方で、それが得られないと分かれば、迷わずプライベートに軸足を移す。選択肢が多いからこそ、「働き方」も柔軟にシフトできるのだ。
また、彼らはテクノロジーの扱いにも長けており、生産性に対する意識も非常に高い。無駄な会議を嫌い、生成AIを自然に使いこなし、効率よく成果を出すことを重んじる。この感覚は、これからの時代において確実に強みとなる。
だからこそ、私たちが考えるべきは「どうZ世代を変えるか」ではなく、「どうZ世代の力を引き出すか」である。彼らの行動を“理解しづらい”と嘆くのではなく、なぜそのような選択をするのかを丁寧に見つめること。一律の価値観を押しつけず、個の動機を尊重することが、Z世代と共に成果を出す第一歩になるだろう。
多様な価値観を活かす組織文化やマネジメントこそ、これからの時代の競争力の源泉である。
Z世代とどう関わるべきか
Z世代を理解したうえで、次に問われるのは「では、どう接するか」である。ここからは、実際の職場や日常の場面を踏まえながら、Z世代との関わり方を考えていく。
フィードバックを伝えるときに意識すべきこと
Z世代はSNSという空間を当たり前として過ごしてきた世代である。SNS上では誰もが「不特定多数の1人」として存在し、「見てもらっている」という実感を得にくい。そのため彼らは、「しっかり見てもらっていること」への欲求が強い傾向にある。
また、コスパ・タイパを重視する価値観も背景にあり、意味のわからないこと・目的が見えないことを嫌う。したがって、彼らに対するフィードバックで重要なのは「具体性」である。
「良かった」「悪かった」ではなく、「どの点が良かったのか」「次にどうすればより良くなるのか」を具体的に伝えることで、彼らが求める“見てもらった実感”を満たせる。同様に、仕事を依頼する際もタスクだけを渡すのではなく、「なぜそれをお願いしたいのか」「どんな意味があるのか」を丁寧に伝えることが効果的だ。彼らは納得を伴う行動を好むため、目的を共有すれば真摯に取り組んでくれる。
失敗を共有するときに意識すべきこと
Z世代の部下がクレーム対応などでミスをしてしまったとき、つい「打たれ弱いのでは」と考え、やんわり伝えようとしてしまう。しかし、実際にはそれは誤解である。
彼らは、曖昧な言葉よりも「事実ベースの伝え方」を好む。ファクトを受け止め、それを改善に活かそうとする前向きさを持っているからだ。
効果的な進め方は次の通りである。
まず「何が起きたのか」という事実を共有し、そのうえで「本人がどう考えているか」を尋ねる。そして最後に、上司と一緒に「どこに問題があったのか」「次にどうすればよいか」を整理する。
重要なのは、「本人の考えを聞く」ステップを省かないことだ。上の世代の「普通」を押し付けるのではなく、彼らの“なぜ”を尊重しながら一緒に考えることで、自然と次の行動が導かれる。
関係を築くときに意識すべきこと
Z世代はSNSを通じて多様な価値観に触れ、自分に合うものを選び取ってきた世代である。そのため、上の世代の価値観を一方的に押し付けることは逆効果だ。
彼らは上司を「会社の人」以上に、“ひとりの人間”として見ている。仕事を通じて、様々な考え方や生き方を知りたいと思っているのだ。「自分の生き方は自分で選ぶべきだ」という教育を受けてきた背景もあり、彼らの「選ぶ自由」を奪ってはいけない。
むしろ、多様な生き方の選択肢や考え方のヒントを提示できる上司こそ、Z世代にとって信頼できる存在となる。価値観を押し付けず、関係の中で“選べる余白”を残すことが、これからの世代との関わりにおいて最も大切なのである。
Z世代と向き合うということ
Z世代は、特別な存在ではない。彼らはただ、変化の多い時代を自然体で受け入れてきた世代である。
特徴として語られる価値観の多くは、すでに次の世代や社会全体にも広がりつつある。つまり、彼らを理解することは「これからの普通」を理解することでもある。世代を意識しすぎると、かえって距離が生まれることもあるのである。
大切なのは、枠としての“世代”を見るのではなく、いま目の前にいる一人ひとりと向き合うことだ。世代というフレームで一括りにしづらいからこそ、その人とのコミュニケーション次第で関係性は良くも悪くもなっていく・
彼らの感じ方や考え方を手がかりに、自分たちの前提を見直すことができれば、それで十分なのかもしれない。Z世代との関わりは、相手を変えるためのものではなく、自分を更新していく過程として捉えることができる。
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