「ここだけはおさえて」ポイント
この本が届く人・届いてほしい人
子どもの「おしゃれ」に関する教育やアプローチに悩んでいる親や教育者。特に、「おしゃれ」を社会的な意味や心理的な側面から深く理解し、子どもに適切な指導をしたいと考えている人にとって、この本は有益である。「おしゃれ」を通じて子どもに社会との関わり方や自己表現を学ばせたいと思っている人にも届く内容となっている。
この本が届けたい問い/メッセージ
「おしゃれ」を単なる外見の問題として捉えないこと。おしゃれとは自己表現や社会との関わり方を学ぶ重要な手段であり、子どもが成長する過程で必要な要素のひとつである。「おしゃれ」に対する価値判断は必ずしも「良い」「悪い」で片付けるべきではなく、子どもがどのようにそれと向き合い、周囲との調和を学ぶかが大切である。さらに、親や教育者は、子どもが「おしゃれ」を通じて学ぶべきことを理解し、無理に否定することなく、適切に導いていく方法を模索すべきだと伝えたい。
読み終えた今、胸に残ったこと
「おしゃれ」が単なる装いではなく、社会における役割や個人の成長を促すための重要な要素であるという発想が学びとなった。教育においては否定するのではなく、適切なバランスを持って向き合わせる方法を考えることが求められる。大人として自分が「おしゃれ」に対して否定的になる背景を理解し、その上で子どもとどう向き合わせるかを考えることが、より良いコミュニケーションの鍵となると感じた。
「おしゃれ」が育む子どもの心と社会性
身だしなみが洗練されていること、ファッションのセンスが良いこと、体型が整っていること――これらは、いずれも褒め言葉である。人によって重要視する度合いは異なるが、「見た目が良い」ということは、基本的にポジティブな印象を与える。
しかし、その対象が「子ども」となると、話は変わってくる。
- 子どもらしくないのではないか
- メイクや脱毛はまだ早いのではないか
- 見た目ばかりに意識が向いて、中身が育っていないのではないか
こうした懸念が、自然と頭をよぎる。
もちろん、最低限の身だしなみを整える力は、社会を生き抜くために欠かせないスキルである。しかし、このスキルは「早く身につければいい」という単純なものではない。勉強のように努力で詰め込むべきものでもなければ、趣味のように完全に自由に任せてよいものでもない。
その間にある微妙なバランス感覚が求められるのである。
「おしゃれ」という特異なテーマを通して、子どもの健全な自己形成について考えさせられる一冊を紹介したい。
【子どものおしゃれにどう向き合う? ――装いの心理学】(鈴木公啓・著)
鈴木公啓
心理学者。「装い」や「パーソナリティ」をテーマに、人が自分を表現する方法、そして他者とつながる在り方を探求している。
難解になりがちな心理学の知識を、私たちの日常にそっと寄り添う言葉に変えることを得意とし、「なんとなく感じていた心の動き」に名前を与えるような著作が支持を集めている。著書に『装いの心理学』『〈よそおい〉の心理学』『要説パーソナリティ心理学』などがある。生きることの不安や迷いに、やわらかく光をあてる語り手の一人。
装いが果たす3つの役割と、子どものこだわり
ファッション、ヘアスタイル、スタイル、メイク、脱毛――こうした見た目を変化させる行為すべてを、ここでは「装い」と呼ぶ。
著者によれば、装いには3つの役割がある。
- 身体管理機能
- 社会的機能
- 心理的機能
まず、身体管理機能はイメージしやすい。暑さをしのいだり、寒さから身を守ったりするための機能である。運動靴や長靴、サンダルなど、状況に応じて適切な靴を履くこともこれに含まれる。
次に、社会的機能とは「身分や立場を示す」役割である。学校や職業に応じた制服を着ること、応援するチームのユニフォームをまとうこと、リクルートスーツを着用することなどが該当する。職業に合わせたメイクも、社会的機能に含まれる。
最後の心理的機能は、「おしゃれ」や「だらしない」といった印象を演出する役割だ。これは他人への印象だけでなく、自分自身の心理状態にも影響を与える。リクルートスーツには、社会的機能だけでなく、自らを引き締める心理的機能もある。ネイルや髪型を変えて気分が高まるのも、心理的機能によるものである。
この社会的機能と心理的機能は、さらに二つの方向に分かれる。それが「整える装い」と「飾る装い」である。
たとえば、就職活動に向けて長髪を短く整えたり、髭を剃ったり、黒髪に戻したりする。あるいは、シミやくすみを隠すためにメイクを施す。こうした「マイナスを抑える」ための装いは、「整える装い」と呼ばれる。
一方で、華やかさや格好良さを演出したり、自分の個性や価値観を表現するために独自のファッションやメイクをする行為は、「飾る装い」である。
身体管理機能を果たす装いは、一般に「おしゃれ」とはみなされにくい。また、社会的機能や心理的機能のうち「整える装い」も、やはり「おしゃれ」と呼ばれることは少ない。人が「おしゃれ」と認識するのは、多くの場合「飾る装い」である。
そしてこの認識は、大人だけでなく子どもにも当てはまる。季節にふさわしい洋服を選ぶかどうかではなく、子どもが身分不相応(と大人が感じる)な装いをするとき、大人たちはネガティブな印象を抱くのである。
ここまで聞くと、「華美であること」が問題視されているように思うかもしれない。しかし、実際に親世代が悩んでいるのは、そこではない。本当に困っているのは、「こだわりが強すぎること」である。
- 天候に関係なく、キャラクターの靴しか履こうとしない
- 時間がない朝でも、気に入った髪型でなければ外出を拒む
- 体型維持のため、自分で決めた食事制限を頑なに守ろうとする
このようなこだわりが、日常生活に支障をきたす場合、「大変だ」と感じてしまうのだ。
しかし、これらを頭ごなしに否定してはいけない。装いには社会的機能や心理的機能がある以上、「おしゃれに無関心であれ」と極端に指導することもまた、望ましくないのである。
子どもに教えたい、おしゃれとの健全な付き合い方
自分の好きなキャラクターの服や靴を選びたがるのは、「これを身につければ楽しい気持ちになれる」という心理的な期待があるからだ。見方を変えれば、新しい服やネイルで気分が上がる大人と、根本は同じである。
ただし、子どもと大人とでは決定的に異なる点がある。それは「身体管理機能」や「社会的機能」まで意識が向いているかどうかだ。
たとえお気に入りのキャラクター服であっても、それが半袖なら、雪の降る寒い日にはふさわしくない。ワンピースを着たい日であっても、職場やパーティにスウェットで行かないように、大人はTPOに合わせた装いを自然と選んでいる。
一方で、他人からの見られ方を気にしすぎている場合もある。極端なダイエット、美容整形、脱毛へのこだわりなどがその例だ。
もちろん本人の意思もあるが、完全に「自分のため」だけではなく、「友だちからどう見られるか」という周囲の目が大きく影響している。SNS広告などの情報も、その意識をさらに加速させていると言える。
こうした子どもの意識を頭ごなしに否定するのではなく、正しい方向に導くことこそが、親の役割である。ここでは、そのためのコツを3つ紹介したい。
「おしゃれ」のリスクを伝える:極端なアプローチへの警告
子どもがこっそりメイクをしていることに気づいたとき、ただ叱るのではなく、リスクやデメリットをきちんと伝えることが大切だ。
化粧品に含まれる成分は、子どもの肌にとって刺激が強すぎる場合がある。また、友だちや恋人に合わせようと過剰なダイエットや美容整形にのめり込めば、心身に悪影響を及ぼす危険性もある。
「おしゃれ」は必要なスキルだが、極端な装いはかえって自分を苦しめるということを丁寧に説明してあげたい。
人は、ただ否定されるとむしろやりたくなるものだ。「しろくまのことを考えないでください」と言われると、つい考えてしまうのと同じである。
本人が望んでいることであればなおさら、納得できる理由づけが必要だ。
親と社会の影響を知る:子どもが受ける価値観の影響
美容整形や脱毛の広告を日常的に目にする現代では、子どもが幼い頃から関心を持つのは自然なことである。
さらに、親自身がそうした行動をしている場合、子どもが真似をしたくなるのは当然である。「なんでママはいいのに、私はダメなの?」という反応も、至極まっとうだ。
まずは、子どもが社会や親の影響を受けているという事実を受け止めること。おしゃれは一見“個人の価値観”のように見えるが、実際は周囲の情報によって形づくられている部分が大きい。その前提を共有した上で、親子間で良好なコミュニケーションを築くことが欠かせない。
「ただ叱らない」ことはもちろんだが、「ママはいいの」と一蹴するのも避けたいところだ。社会からの影響を完全に遮断することはできないが、普段から信頼関係を築いておくことで、子どもは親からの言葉を「否定」ではなく正しいアドバイスとして受け入れやすくなる。
「おしゃれ」を特別視しない:バランスを取ったアプローチ
「適切な付き合い方を考える」という点では、おしゃれもスマホやSNS、ゲームやお菓子、お金の使い方などと同じである。
完全に禁止するのでも、自由にさせるのでもなく、他の物事と同じように向き合い方を教えることが大切だ。おしゃれは社会性や個人の価値観が絡むため難しく感じるかもしれないが、正しく伝えていけば、子どもは自然と「おしゃれ」との健全な距離感を身につけていく。
まとめ – おしゃれを通して学ぶ教育の本質
教育とは、子どもを厳しく矯正し、親が正しいと思うことだけを実践させることではない。また、本人の意思を尊重しすぎるあまり、やってはいけないことを事前に指導することを放棄することでもない。大切なのは、自分の視点と他者の視点を育み、適切な付き合い方を学ばせることである。
おしゃれとの向き合い方を学ぶことは、この教育の本質を学ばせることにつながる。自己表現の側面と社会的調和を考慮する側面をバランスよく理解することは、子どもが社会でうまく適応するために重要である。
おしゃれに関する価値観は親からも大きく影響を受けるため、子どもだけでなく親自身も学びがある。おしゃれを通じて、子どもとの良好なコミュニケーションや関係の構築が促進されるのだ。
最終的に、子どもが自分の個性を尊重し、他者との関係を大切にする力を育むことが目指される。おしゃれはその一環であり、親子の絆を深め、社会で必要とされるスキルを身につけるための第一歩となる。
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