動かす言葉の力──伝わるだけじゃ足りない、行動を生み出すコミュニケーション術

コミュニケーション
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「ここだけはおさえて」ポイント

この本が届く人・届いてほしい人

  • 伝えることが仕事の多くを占めているが、相手に「ただ伝わる」だけではなく、本当に行動してほしいと思っている
  • 会議やメール、報告で「わかった」と言われても、その後の動きが伴わず、もどかしさを感じている
  • 「言葉の力」をもっと高めて、自分も周囲もスムーズに動ける環境を作りたいと願っている

この本が届けたい問い・メッセージ

伝えることが「正確に伝わる」だけで十分だろうか。言葉は単に理解されるためのものではなく、相手や自分を動かす力を持つものである。

仕事のコミュニケーションにおいて、伝える内容の解像度を高め、言葉の意味を深めることで、相手が動きやすい状態を作り出すことが求められている。

さらに、自分の内面と対話し、言葉を自分自身の行動や決断につなげる力こそが、真に「動ける言葉」を生み出す。

読み終えた今、胸に残ったこと

この本を読み終えて最も心に残ったのは、伝える力とは単に「わかる」だけでなく、「動ける」状態をつくることだという点だ。言葉の解像度を高め、相手だけでなく自分自身にも響く言葉を紡ぐことの重要性に気づかされた。

仕事のコミュニケーションでは、伝わるだけでは足りず、相手が実際に動くまで言葉を届ける必要がある。さらに、自分の内面と向き合い、言葉を通じて自らの行動や意思決定に結びつけることも同じくらい大切だと実感した。

また、言葉をただ伝えるだけでなく、「動ける言葉」に変換し続けるスキルは、日々の仕事や人間関係をより良くするための大きな武器になると感じている。

伝わっても、人は動かない?

ロジカルに、端的に、結論ファーストで。

相手と自分の認識のズレをなくすために、仕事のコミュニケーションを工夫するのはとても大切だ。だが、日々のやりとりを振り返ってみると、こう思うことはないだろうか――「ちゃんと伝えたはずなのに、なぜか動いてくれない」

実は、仕事上のコミュニケーションは「伝わったかどうか」だけでは不十分なことが多い多くの場合、その先にある「動いてもらうこと」「納得して行動してもらうこと」が本来のゴールになっている

そしてもうひとつ見逃せないのが、「自分自身が動けるようになること」だ。

考えが整理できない、自信がない、言語化できない……そうした状態では、頭ではわかっていても、気持ちがついてこない。そんなとき、自分の思考や感情をうまく言葉に落とし込むことができれば、自分自身を動かすきっかけになる。

今回紹介するのは、そんな「伝える力」を起点に、相手だけでなく自分も動けるようになるための一冊である。

「わかる」から「動ける」まで 言葉の解像度を上げる】(浅田すぐる・著)

浅田すぐる

社会人教育の専門家であり、作家。「1枚」ワークス株式会社の代表取締役として、思考を整理し、伝える力を育てる独自のメソッド「1枚フレームワーク®」を開発・提供している。

キャリアの出発点はトヨタ自動車株式会社。海外営業部門での業務経験に加え、米国勤務やグローバル企業サイトの統括などを経て、「伝える力」の重要性を深く認識する。担当したウェブサイトは企業情報サイトランキングで日本一を獲得するなど、実績を残した。

その後、株式会社グロービスへの転職を経て、2012年に独立。企業研修や講演、オンライン学習コミュニティの運営などを通じて、延べ1万人以上のビジネスパーソンの成長を支援してきた。受講者は大企業・中小企業・官公庁など多岐にわたる。

現在は、ビジネススキル修得スクール「1枚アカデミア」のプリンシパル、オンライン学習コミュニティ「イチラボ」の主宰者としても活動しており、あらゆるビジネスパーソンの「伝わる力」を育む場を提供し続けている。

「伝わる」から「動ける」へ変える技術

「自分らしく生きよう」「期待を超える価値を提供しよう」。

こうした言葉は、一見するとまったく正しい。反論の余地はなく、理想として掲げるには申し分ない。
しかし、実際にそれをどう行動に移せばよいのか、具体的な一歩が見えないことが多い。

たとえば、「自分らしく生きよう」と言われても、「そもそも自分らしさとは何か?」「どうすればそれを体現できるのか?」がわからなければ、結局は足が止まってしまう。

それは、抽象的すぎて言葉に“肌触り”がないからだ。

一方で、「朝30分だけ、自分の好きなことに没頭する時間をつくってみよう」と言われれば、どうだろうか。なんとなく、今日からでも始められそうな気がする。なぜなら、行動のイメージが具体的に浮かぶからである。

これは、ビジネスの現場でもよくある話だ。「お客様の期待を超えるサービスを」と言われても、それだけでは何をすべきかわからない。

だからこそ、「お客様が次に困りそうなことを先回りして一つ提案しよう」といった具体的な言葉に置き換える必要がある。抽象的な理想を、具体的な行動に翻訳するのだ。

相手に動いてもらうためのコミュニケーションは、相手にとって“肌触り”のある言葉でなければならない。正しく伝わることはもちろん、「どうすればよいか」がイメージできる状態にしてあげることが重要だ。

それが、ビジネスにおけるコミュニケーションの本質である

もちろん、「すべてを細かく指示せよ」と言いたいわけではない。それでは、相手の「どう動くべきか」を考える力、すなわち伸びしろを奪ってしまう。正しく行動してもらうことも大切だが、相手が自発的に正解へとたどり着くための“思考”を育てることも、上司や先輩の役割である。

とはいえ、現場でよく目にするのは「細かすぎる指示」よりも「抽象的すぎる指示」だ。

なぜなら、抽象的な言葉は、具体化しなくても「正しさ」を装えるからである。

だからこそ私たちは、自分が使っている言葉が、果たして肌触りを持っているかどうか、自問する必要がある。

まず、自分が“動ける”ようにする

行動とは、つねに具体的なものだ。特に仕事における行動は、「なんとなく」では行われない。何らかの動機があり、理由があり、その結果として行動が生まれる。

だとすれば、その行動を促す言葉や指示も、具体的であればあるほど、動きやすくなるのは当然のことだろう

では、抽象的な言葉やゴールイメージを、どうすれば「動ける」言葉に変換できるのか。ここでは、同書で紹介されている実践例をもとに、その方法を見ていく。

会社の理念と、目の前の仕事を結びつける

「会社の理念やビジョン」と「自分の担当業務」をつなげて考えること

それは一見、綺麗事のように思えるかもしれない。けれど実は、それこそが仕事を続けるうえでの、確かなモチベーションの源泉になり得る。

もちろん、給料や福利厚生も重要な要素だ。しかし、高いモチベーションを維持しつつ仕事にコミットし続けるためには、「この会社の一員であることを誇れるか」が、大きな鍵を握る。

特に、コストセンターと呼ばれる間接部門では、自分の仕事の貢献度が見えにくい分、企業への共感や貢献意識が持てなければ、やがてモチベーションが削がれてしまう。だからこそ、理念と業務のつながりを自分の言葉で解釈することが大切になる。

【会社の理念】社会に信頼される存在になる
【担当業務のキーワード】請求書チェック・支払処理・経費精算
→正確な処理は、取引先との信頼関係を築く土台となる。目立たないが、誤りなく遂行することで「この会社は信頼できる」と感じてもらえる。


【会社の理念】挑戦する文化を育てる
【担当業務のキーワード】社内システム運用・問い合わせ対応・業務改善提案
→新規事業を立ち上げるわけではないが、社員の挑戦の手を止めないよう、ITトラブルを迅速に解決することは「挑戦しやすい環境」を支えることになる。

このように、理念やビジョンを「自分の業務に引きつけて解釈する」ことで、肌感覚での貢献実感が生まれ、言葉が動機へと変わっていく

自社の商品やサービスを「好き」になる

「「カスタマーファースト」を大切にしたい。そう思いつつも、「お客様を優先するって、具体的にどうすればいいの?」と立ち止まってしまう人も少なくない。

そんなときは、まず「お客様」よりも「商品やサービス」に目を向けてみることを勧めたい。なぜなら、自分たちの提供しているものに愛着を持てなければ、その先にいるお客様の姿も想像しにくいからだ。

たとえば、営業として提案する際や、カスタマーサポートとして問い合わせ対応をする際、自社の商品に強い理解と関心があればこそ、「ちゃんと喜ばれているか」が自然と気になるようになる。そこから少しずつ、お客様自身への興味や配慮も生まれてくる。結果的に、それが本来の「カスタマーファースト」につながっていく。

まずは、自社の商品やサービスを好きになること。そして、それを愛用してくれる人たちを好きになること

この順番が、前向きな行動を生み出す大きな力になる。

言葉の解像度を上げる

最後に紹介するのは、「言葉の解像度」を上げる技術だ。抽象的な言葉を、より具体的に、肌感覚を持って理解するために有効な方法が3つある。

1つ目は、反対から考える
たとえば「カスタマーファースト」の反対とは何か?
それは「自分や自社の都合を優先すること」だとすれば、その状態を避けるためにはどうするかを考えることで、自然と必要な行動が浮かび上がってくる。

2つ目は、具体と抽象を行き来させる
「カスタマー」という抽象語を、「〇〇に困っている人」「〇〇を実現したい企業」と言い換えることで、自分の業務に即したイメージを持てるようになる。

3つ目は、英語に置き換える
「カスタマーファースト」から、「カスタマーセントリック(顧客中心主義)」「カスタマードリブン(顧客起点)」といった言葉に展開していくと、「顧客がやりたいことを後押しする」という行動イメージが湧きやすくなる。

厳密に正しい英訳である必要はない。自分の中でイメージが膨らみ、動機を生む言葉になっていれば、それで良い。

こうした工夫を通じて、言葉は単なる理念や方針ではなく、「動ける」言葉へと変わっていく。それは、外から管理される行動ではなく、自らの内側から動き出す行動であり、結果として成果も生みやすくなる。

無理にすべてを取り入れる必要はない。気になったものを一つだけでも試してみてほしい。言葉の変化が、行動の変化につながる。その感覚を、あなたもぜひ味わってほしい。

まとめ – 「動ける言葉」を持つということ

相手に動いてもらう。自分が動き出す。そのどちらにおいても、「動ける言葉」は大きな役割を果たす。けれどそれは、決して“上手な伝え方”や“巧みな言い回し”だけではない。むしろ、本当に大切なのは、言葉が「届いて」「変換されて」「腑に落ちる」までのプロセスに寄り添えるかどうかだ。

この本は、その寄り添い方をていねいに教えてくれる。伝えたつもりにならずに、「相手が動ける状態まで届いているか?」と問い直す姿勢。わかりやすさだけで終わらずに、行動につながるような構造で言葉を組み立てる力。そしてときに、自分自身が何に動けなくなっているのかを問い、対話を通じて再び立ち上がる方法。

つまり、「動ける言葉を持つ」とは、他人に対してだけでなく、自分自身の思考や感情にも橋を架けるということなのだ。誰かに何かを伝えるとき、自分が前に進めないとき、その両方の局面で「言葉をどう持つか」が試される

この本を読んで、「ああ、もっと伝え方を工夫しよう」と思う人もいれば、「自分の内側の声ともっと向き合ってみよう」と感じる人もいるだろう。どちらも間違っていないし、どちらもこの本が導く「動ける言葉」のかたちだ。

正解は一つではない。ただ、自分や他人が動けないときにこそ、言葉を見直す視点を持つこと。その小さな意識の変化が、日々のコミュニケーションや仕事に確かな手応えをもたらしてくれる。

そしてきっと、その変化の積み重ねが、誰かを助け、自分を支え、チームや組織全体の前進につながっていくのだと思う。

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