「学力」を、データで語ると

技術・考え方を学ぶ

我が子の子育てに関し一家言ある人はどの程度だろうか。おそらく、多くの”親”と呼ばれる人がそれに該当するのではないかと思う。なぜなら、我が子に対し「○○な人間に育って欲しい」と考えるのが普通だから。自分の意見を言える子になって欲しい、優しい子になって欲しい、いろんなことに挑戦する子になって欲しい、などなど。そしてそんな人間に育つような教育をするのである。

勉強ができる子に育ってほしい。これもなんとなくありそうだ。少なくとも自分が親ならそう思う。「勉強第一」というほど優先度が高くはないものの、勉強ができて損をすることはあまりないだろうし、生きていく上で学力(およびそれを培った経験)に助けられる場面がきっとあるだろうから。

では、どうすれば学力が高い子供を育てることができるのだろうか。子供の学習能力を伸ばしていくには、どのような工夫が効果的なのか。今回はそんな疑問を解消してくれる1冊。

「学力」の経済学 】(中室牧子・著

正しいご褒美での釣り方

「半年後に1万円をあげます。ただし、そこから1週間待ってくれれば、1万500円あげます。」と言われると、殆どの子供は1万500円を選択する。一方、「明日1万円あげます。ただし、そこから1週間待ってくれれば、1万500円あげます。」と言われると、1万円を選択する場合が多い。

これは有名な話である。子供に限らず、人間は遠い将来のことついては賢い選択ができるものの、近い将来のことだとすぐに得られる満足を優先してしまうのである。

では、これは学習にも当てはまるのだろうか。答えはイエスである。

同書では小学2年生から中学3年生までを対象とした実験の結果が紹介されている。「次のテストで良い点を取ればご褒美」と「今本を読んだらご褒美」といった異なる条件を与えられた子供たちのうち、学力テストでの結果が良かったのは前者の子供たちだったそうだ。”後者の場合、本を読むことそのものが目的になり、結果的に学力があがらないのでは?”といった直感に反した結果である。

この結果の違いを著者は”「ご褒美」にどう反応したかの違いである”と分析している。1つ目は単純に「遠い将来vs近い将来」の違いである。上記の例のように、近い将来に対してモチベーションが上がったことが、結果につながったのである。

また、別の切り口での違いも見られた。

後者の場合、子供たちにとってご褒美がもらえるアクションが明確である。一方、前者の場合「良い点を取る」ための具体的な方法は提示されていない。これが結果に現れた。つまり、ご褒美は「アウトプット(良い点を取る)」ではなく「インプット(本を読む)」に対して与えるのが効果的であるのだという。

”いやいや。本を読むことそのものが目的であると勘違いして欲しくない。”といった意見もあるだろう。ごもっともであると思うし、自分も同書を読みながら全く同じ考えを持った。しかしながら、同書はアウトプットに対しご褒美を与えることを否定している訳ではない。著者はあくまでも

  • 子供がやる気を出しやすいのは、インプットにご褒美を与えること
  • アウトプットのご褒美を与える際も「勉強のしかた」を教え、導いてあげることで、学力が向上する

といった結論を出している。「解答を見直す」「しっかり問題文を読む」などのテクニックだけに終始せず「わからないところを質問する」「授業をしっかり聞く」など、勉強の仕方を教えてあげることが大切なのだそうだ。もちろん、一般的にはこれがベストなのだと思うが、同書の趣旨に合わせ、敢えてデータで教育学を語るのであれば「”近い将来”の”インプット”に対してご褒美を与えるべき」となる。リアルタイムで子育てをしていたら、多分もっと真剣に接し方考えただろうな、と感じてしまう内容である。

正しい褒め方

データで教育学を見てみると、褒め方にも正解があるのだという。

”自尊心が高いと学力が高まる”という考えの科学的根拠は殆ど無いのだそうだ。反対に”学力が高いから、自尊心が高い”というのが正しい事実なのだそうだ。そればかりか、子供の自尊心を高める取り組みは、時に学力を押し下げる効果を持つこともあるのだという。

では、どのように褒めるのが効果的なのだろうか?

「頭がいいのね」と「よく頑張ったわね」のうち、成績が伸びる褒め方は後者であった。もともとの能力ではなく、具体的に達成した内容を褒めよ、ということが著者からのメッセージである。能力を褒められた子供は、良い成績をとったとき「自分には才能があるから」と理由づけ、悪い成績をとった際には「自分には才能がないから」と感じてしまう傾向にあるそうだ。言われてみれば確かにそうかも、と感じてしまう。おそらく部下の育成など、対大人の場面でも有効な褒め方なのだろう。もちろん、仕事にはどうしても結果がつきまとう以上、メンタルヘルス的な側面と結果主義とのバランスは必要だとは思う。難しい。

複利 × 学力

”人的資本への投資(同書では主に学力への投資)は、とにかく子供が小さいうちに行うべき”。これも科学的根拠がある事実なのだそうだ。同書ではアメリカの3〜4歳の子供を対象とした実験についての記載があるのだが、そこでは、

3〜4歳の頃に質の高い就学前教育を受けた子供たちは、そうではない子供たちと比較し

  • 6歳時点でのIQが高い
  • 19歳時点での高校卒業率が高い
  • 27歳時点での持ち家率が高い
  • 40歳時点での所得が高い

といった傾向が見られたという。

「幼い頃から勉強習慣がある子の成績は、高校から勉強に目覚めた子供よりのびやすそうだよね」といったなんとなくのイメージが、結果的に正しかった、ということである。字の綺麗さや絵の旨さもそんな感じがする。あくまでも傾向であり、100人中の100人に当てはまる訳ではないのだろうが、データで語るのであれば、「人的資本への投資は、とにかく子供が小さいうちに行うべき」となる。”なんだかNISAみたい”と思ってしまった。タイトル的には正しい想起なのだと思う。

ちなみに、質の高い幼児教育がIQや学力に与えた影響は短期的(8歳ごろまで)であるそうだ。実際には別の能力の伸びにより中長期的な良い傾向が見られているということなのだが、気になる方は同書を読んで確認していただきたい。

まとめ – 教育だって、意外と根拠があったりする –

ご褒美とか褒め方とか、心理的なものが絡むと「なんとなく」で済ませてしまうものの、実は根拠があったりするのである。上記では紹介していないが

  • ご褒美における「お金」の効果
  • 同じ学級や学年の「平均的な学力」から受ける影響

など、子供がいなくても「へぇ〜」と思えるような、教育学に関する根拠が記載されている。自分は子育てに役立てるために同書を手に取った訳ではなく、どちらかというと「へぇ〜」が欲しくて一読した立場だが、十分に楽しめた。本読むってこういうのがいいよね、やっぱ。

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