相手に響く質問力は、「わからない」から始まる

コミュニケーション

「ここだけはおさえて」ポイント

  • どんな人におすすめ?
     信頼される会話術を身につけたい人/相手の意図を正しく理解し、的確に反応したい人/「質問」がいつの間にか「詰問」になりがちな人
  • ポイント①
     良い質問とは、相手に「自分に興味を持たれている」と感じてもらうためのもの。
  • ポイント②
     まずは、自分の「わかっていないこと」を認識することが重要。
  • ポイント③
     質問を通じて、頭の中の絵を完成させていくイメージを持つ。。
  • 読みやすさ:★★★★★
     実践的な内容で、すぐに試したくなる構成が魅力的。シンプルで平易な表現が使われており、ページ数も200P未満と手軽に読める一冊。

初対面なのに、なぜか一気に距離が縮まる人のコミュニケーション術

どんな相手でも自然に距離を縮める人はいないだろうか。「話しやすい」「フレンドリー」といった印象を与える彼らには、特別な才能や技術があるように見えるかもしれない。しかし、実際は誰にでも応用可能な「コミュニケーションの型」が存在するのではないだろうか。

例えば、クラスや職場ですべての人と仲良くするのは難しい。けれども、多くの人と自然に関係を築ける人がいる。その違いは「持って生まれた才能」よりも、実は「再現性のあるコミュニケーションの型」によるものかもしれない。

もしかすると、この本に書かれている内容はその”型”なのでは。そんなふうに感じさせてくれた1冊のご紹介。

いつも信頼される人がやっている「たったひと言」の質問力】(坂本 聰・著)

坂本 聰

972年東京都生まれ。一橋大学商学部卒業。システム開発会社勤務を経て、1999年に独自の学習塾「考学舎」を設立。小学生から高校生までを対象に、国語力とともに「考える力」を養うカリキュラムを提供。

小学生時代からフランス語を学び、高校在学中にベルギーに留学した経験が基礎となり、帰国後に「理解し考えることの本質」を見つめ直す。フランス語教育の方法論や自身の思考法を基に、国語を中心とした学びの場を築き上げた。

2016年に著書『国語が得意科目になる「お絵かき」トレーニング』を出版。また、昭和医療技術専門学校で日本語表現法・思考法を講じるなど、幅広い分野で教育活動を展開している。

「話しやすい人」とは、どんな人?

「この人とは話しやすい」と感じることがある。だが、それは具体的にどのような感情だろうか。ムードメーカーのような明るい存在は楽しいが、必ずしも「自分の話をしたい」と思わせるとは限らない。一方、穏やかで控えめな保健室の先生のような人物に対しても、「話しやすい」と感じるケースがある。では、その本質はどこにあるのだろうか。

本書では、その答えを「質問」にあると示している。相手の考えや背景に興味を持っていること、それを「質問」という形で表現することが「話しやすさ」の根幹を成すというのだ。ただ黙って聞くだけでは、「あなたに興味があります」という気持ちは伝わらない。しかし、適切な質問を通して相手への興味を表明することで、「話してみたい」と感じてもらえるのだ。

「話しやすい」と感じてもらうために必要なのは、特別な話術ではなく、「自分に興味を持ってくれている」という安心感を与えることだ。その第一歩として、自分の質問の仕方を振り返ってみよう。

自分の「わかっていないこと」を理解する方法

「私は犬が好きです」
初対面の人がこんな自己紹介をしてきたら、あなたはどの程度、その内容を理解できるだろうか。

少なくとも、この一言だけでは次のような情報はわからない。

  • 大きい犬と小さい犬、どちらが好きなのか
  • 日本犬と海外の犬、どちらに惹かれるのか
  • 好きな犬種は具体的に何なのか

もしあなたが、「へぇ、どんな犬が好きなんですか?」と具体的な質問を返せたら、それで十分だろう。しかし、疑問を持たずに「そうなんですね」「犬好きなんですね」「猫より犬派ですか?」とだけ反応してしまうと、話がそこで終わってしまう。相手も「自分に興味を持ってもらえた」と感じることは難しいだろう。

では、具体的な質問をできる人と、そうでない人の違いは何か。それは「どれだけ細かくイメージできているか」という差にある。

「犬」といっても、その裏には多くの種類や特徴がある。それを意識しないで「犬全般」と曖昧に捉えてしまえば、「具体的にどんな犬が好きなのだろう?」という問いが浮かばない。その結果、話題が広がらず、上手く距離を縮めることが難しくなる。

ここで厄介なのは、「自分がわかっていないこと」に気づくのが難しい点だ。「犬全般」といった曖昧な理解でも、「全くわかっていない」とは感じにくいため、質問を深めるチャンスを見逃してしまう。

しかし、自分がどれだけイメージを掘り下げられているかをセルフチェックする方法は、実はシンプルだ。この簡単なセルフチェックを習慣化するだけで、質問力は確実に向上する。具体的で深い質問を投げかけることができるようになれば、相手からの信頼感も自然に高まるはずだ。

言葉を「絵」に変えることで、質問が変わる

「私は犬が好きです」。
この一言を聞いたとき、頭の中でその言葉を「絵」にしてみよう。

まず、話している相手の姿を想像する。次に、その隣に犬を思い浮かべる。しかし、「どんな犬?」と考えたときに、イメージが止まることに気づくだろう。この「絵が完成しない」状態こそが、質問を生み出すきっかけとなる。

こうしたイメージ化の技術を、本書では「絵訳」と呼んでいる。絵訳を使うと、曖昧な表現では頭の中の「絵」が不完全になることに気づき、それを埋めるために質問をする。これが会話を深め、相手に「興味を持ってもらえている」と感じてもらうための基本的なアプローチだ。

本書には次のような例も挙げられている。

おばあさんが川でせんたくをしていると、ドンブラコ、ドンブラコと大きな桃が流れてきました。

この文章を聞いたとき、あなたの頭の中にはどんな絵が浮かぶだろうか?「川の様子は?」「おばあさんはどんな服装?」「桃の動きはゆっくり?それとも速い?」といった具体的なイメージが不足していると感じないだろうか。

このときも、「絵を完成させるために必要な質問をする」と意識することで、自然と具体的で深い質問ができるようになる。たとえば、川の特徴がわからなければ「どんな川ですか?」と尋ね、桃の流れ方が気になれば「ドンブラコって、どんな動き?」と率直に聞く。相手も「自分の話に興味を持ってくれている」と感じ、話しやすくなる。

これは単なるコミュニケーションの場面にとどまらない。ビジネスでも同様のアプローチが有効だ。言葉をイメージ化し、細かな部分を確認することで、誤解を防ぎ、仕事の手戻りも減らせる。結果的に、相手から信頼される人間関係を築くことにつながるのだ。

絵訳はすぐに実践できる技術である。聞いた言葉を「絵」にし、不明瞭な部分を補完するような質問を心がけるだけで良い。日常会話や仕事の場面で実践することで、相手との距離をぐっと縮める効果を感じられるだろう。

まとめ – 質問で伝える「興味」と「共感」 –

コミュニケーションの基本は「相手を見る」「相手の話を聞く」といわれるが、それを実践に移すのは意外と難しい。その理由の一つは、ただ聞くだけでは「自分の気持ち」が相手に伝わらないからだ。

「絵訳」の考え方は、相手への興味を「質問」という形で具体的に表す実践的な方法である。言葉を絵として頭の中でイメージし、不明瞭な部分を質問で埋める。このプロセスを取り入れることで、自然と相手に寄り添い、共感を伝えるコミュニケーションができるようになる。

自分自身も、この方法を日常で意識的に試した結果、会話がスムーズになるだけでなく、相手との距離が縮まるのを感じた。思っていたよりも目からウロコである。

また、本書には「絵訳のレベルチェック」や「自己理解を深める方法」など、さらに深くコミュニケーション力を磨くための内容も含まれている。ただの会話術にとどまらず、自分自身を見つめ直すきっかけにもつながる実践的なものだ。一度読んでみれば、きっと多くの学びを得られるだろう。

「言葉を絵に変える」「質問を通じて興味を示す」。このシンプルな方法は、誰でも今日から始められる。ぜひ本書を手に取り、あなたのコミュニケーションに活かしてみてはいかがだろうか。

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