人間は興味がないことには、まったく無関心だ。例えば宝くじ売り場の行列を目にして、ふと考える。「年末ジャンボってこんなにも人を惹きつけるものなのか」と。
でも、気になるのはその仕組み。
- 宝くじって何歳から買える?
- 購入方法は紙?電子でも買えるの?
- 紙なら、不正防止ってどうなってるの?ホログラムみたいなものは?
- 都会の宝くじ売り場の方がよく当たりが出るのは、ただの宣伝?それとも本当にその傾向がある?
- 年末ジャンボ以外の時期は、売り場には何を置いてるんだろう?
こんな疑問を思い浮かべるだけでも、その商品に対する見方が変わることがある。
自分は宝くじを買ったことがない。期待値からすれば当たらないし、無駄なことをしている気がして。でも「ワクワクする時間を買っている」と言われれば、正直、反論はできない。その考え方に、納得せざるを得ない。
今日は、そんな「ワクワク感」を生み出すための考え方についての一冊をご紹介する。今日はそんな、心の揺さぶり方についての1冊。
【コンセプトのつくりかた】(玉樹真一郎・著)
元ニンテンドーのプランナーである著者が、Willの企画担当としてどのようにして魅力的なコンセプトを作り出すかを描いている。
”コンセプト”のコンセプトとは?
ものづくりにおいて大切なのは、コンセプト、つまり「良いもの」を生み出すことだ。もしその「良いもの」を作り出せたなら、あなたと世界には次のような変化が訪れる。
- あなたが世界に向けて「良いもの」を作る
- 世界に何か「良い変化」が起こる
- 世界からあなたに「良い報酬」が届く
- あなたに「良い変化」が起こる
ものづくりを通じてあなたが良い変化を起こすためには、「世界を良くすること」が絶対条件となる。言い換えれば、”コンセプト”のコンセプトとは「世界を良くする」ことだ。
では、世界を良くするために「もの」を生み出すには、どう考えればいいのか。本書では、その答えとして「未知の良さ」を探求する重要性が説かれている。
”未知の良さ”とは?
「あたたかくて軽いのに安いフリース」で他社を圧倒できる企業とは、どんな企業だろうか。たとえば「他社よりあたたかい」「他社より軽い」「他社より安い」。これらは誰でも理解できる「既知の良さ」であり、資本力の勝負の世界となる。
一方、未知の良さとは逆の特徴を持つ。「ユーザーがその良さを説明できず、実現するには資本力以外の何かが必要になる」ものだ。良さが説明できないため、リソースだけでなく、他の要素で勝負する必要がある。ここにこそ、あなたが大企業でなくても「世界を良くする」可能性があるのだ。
脆く、弱く、否定されやすいビジョンこそが大切
ビジョン、つまり素直な願いこそが、コンセプト作りの過程で重要だと著者は言う。
Will開発前、著者が抱いていたビジョンは次のようなものだった。
- うちのおばあちゃんでも遊べるゲームがあればいいのに
- 「ゲーム叩き」の風潮が収まればいいのに
- ゲームが趣味ですって言う時、堂々と言える自分になりたい
一見、ゲームらしくないビジョンだが、これが「未知の良さ」を含んでいる可能性がある。既知の良さから外れた、脆く、弱く、否定されやすいビジョンこそが、世界を良くする可能性のあるコンセプトに繋がるのだ。につながり得ることを意識しておかないと、資本力での勝負を強いられてしまうのである。
コンセプトをつくる怖さ
同書では、Willの企画開発メンバーがそのコンセプトを作る過程が描かれている。製作方法の詳細は同書に譲るが、自分が特に印象に残った部分を紹介したい。
先ほどの通り、世界を良くするコンセプトとは、ユーザーがその良さを説明できないものである。作り手側も、製品が本当に普遍的に良いと感じてもらえるか確証が持てない。その不安が感じられる場面が多く、本書を通じて「未知の良さ」がいかに恐ろしく、かつ尊いものであるかを実感できる。単なるクリエイティブ力向上のために留まらず、著者の人間性も感じられる一冊だ。
日本人なら誰もが知っている大ヒット商品にも、こうした不安があったことを知るだけでも、勇気をもらえるだろう。
まとめ
世界を良くすることは簡単ではない。そして、だからこそ”既知の良さ”だけで判断してはいけない。斬新でクリエイティブなものを求めているはずなのに、その良し悪しを既知の良さで測ってしまうことはないだろうか。今、まだ存在しない良さを実現するためのビジョンは脆く、弱く、否定されやすい。だが、そのビジョンこそが、世界を変える力を持っている。
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