「成長しなければ」が足かせになる時代の逆転戦略

人生設計・目標設定
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「ここだけはおさえて」ポイント

この本が届く人・届いてほしい人

  • 成長や成功を求められる社会のなかで、何かを頑張り続けることに疲れや違和感を感じている人
  • 周囲の期待や評価軸に自分を合わせることに迷いや葛藤を抱えている若手・学生、またはキャリアの節目に立つ社会人
  • 「もっと自分らしく働きたい」「本当の納得感や意味を仕事や人生に見出したい」と願う人

この本が届けたい問い・メッセージ

  • なぜ現代の若者は「成長」や「努力」を追い求め続けるのか。その背景にある社会構造や心理を理解することの重要性。
  • 成長や成功を目指すことが、必ずしも個人の幸福や納得感につながらない現実。むしろ努力の先に残る違和感に目を向けること。
  • 自分を他者の評価軸に合わせることに囚われすぎず、自分の価値や働き方を見つめ直す視点こそが、これからのキャリアを豊かにする鍵である。
  • 「成長」や「成功」は手段であり、目的ではない。自分が何に意味を感じるのかを見つめることが、より良い働き方や生き方につながる。

読み終えた今、胸に残ったこと

この本は、「成長」や「成功」に対する社会の期待が、自分の価値観を覆い隠しやすいことを示している。努力を続けることが当たり前とされる社会で、見失われがちな「自分が本当に求めているもの」を見つめ直す必要があると伝えている。

完璧さや他者との比較ではなく、自分のペースで納得できる働き方や生き方を模索することの重要性が繰り返し示されている点が特に印象的だった。これは単なるキャリア論を超え、働くことや生きることの根源に迫る示唆である。

「成長したい」は本心か?

あなたは今、成長したいと思っているだろうか。

おそらく、ほとんどの人が「Yes」と答えるはずだ。

これだけ「会社ではなく、個人の力で生き抜く時代」「自己研鑽が大切」と言われ続けていれば、成長を求めるのも当然である。特に、自分の市場価値やスキルについて真剣に向き合っている人ほど、この傾向は強いのではないだろうか。

では、次の問いについても考えてみてほしい。

なぜ、あなたは成長したいのか

どこまでいけば、「成長した」と言えるのか

目標を設定し、成功の定義を明確にしてから行動するのは、現代のビジネスパーソンにとって当たり前の思考プロセスだ。しかし、こうした問いに明確な答えを持っている人は、意外と少ない

つまり、私たちは本当に自分の内側から湧き上がる欲求として「成長したい」と感じているわけではなく、社会の空気に背中を押されるようにして「成長しなければ」と思い込まされているのかもしれない。

そんな“成長信仰”が支配する社会の中で、東大生という極めて象徴的な存在に焦点を当て、彼らがなぜコンサルを目指すのか、その背景にある価値観や葛藤を丁寧に読み解いたのが本書である。

東大生はなぜコンサルを目指すのか】(レジー・著)

レジー

音楽ライター・評論家。1981年東京都生まれ。慶應義塾大学卒業後、大手企業に勤務しながら、2012年に音楽ブログ「レジーのブログ」を開設。J-POPを中心に、音楽と社会構造の関係性を読み解く批評スタイルで注目を集め、雑誌・Webメディアなどで幅広く執筆している。

2022年に刊行した『ファスト教養 10分で答えが欲しい大人たち』(日経BP)は、短時間で手軽に知識を得ようとする現代人の教養消費スタイルに一石を投じた話題作である。文化や情報との向き合い方を問い直す同書は、「知っている」ことよりも「考える」ことの重要性を訴え、多くの読者の共感と議論を呼んだ。

今回取り上げる本書では、「なぜあんなにも東大生はコンサルを志望するのか?」という素朴な疑問を起点に、単なる人気業界への憧れでは片付けられない、彼らの心の内側を掘り下げていく。

「成長」は不安を消すお守り

今の時代、終身雇用は過去のものとなり、自分の市場価値を高めることが生き残りの条件だとされている。こうした前提のもと、スキルを身につけたり、副業に励んだりするのは、もはや社会人に限らず大学生にとっても「当たり前の姿」になっている。

特に、東大生のように一直線に「正解の道」を歩んできた人たちは、社会に出てからも正しく順応できるよう、必死に準備をしている。しかし、「なぜ成長したいのか?」「成長とはどうなった状態なのか?」という問いに対しては、多くの人がうまく答えられないそれでもなお、周囲と比べて遅れを取りたくない、という外からの圧力に突き動かされるようにして、自己研鑽に励んでいる

そうした中で、人が手に入れようとするのが「どこでも通用するスキル」だ。いわゆる“ポータブルスキル”。どんな業界でも価値を持つそれは、安定を失った時代における“お守り”のような存在になっている

コンサル業界が人気である背景にも、この構造がある。激務ゆえに、自動的に自分を鍛えられる環境であり、どこにでも通用するスキルを短期間で習得できる場所として認識されている。また、多様な業界を経験できる点でも、キャリアの選択肢を広げやすい。

「会社の中での安定」ではなく「社会の中での安定」を目指す若者たちは、会社そのものの市場価値にも敏感だ。成長できない環境にとどまることは、自分の価値を失っていくことと同義に思えるからだ

本を読んで、頭をよくして、豊かな暮らしをしたい。そんな素朴な願いの裏には、「この不安定な時代を、なんとか安心して生き延びたい」という切実な思いがある。そのために、成長し、スキルを得て、“そう在ろうとする”。それが、今の若者たちのリアルなのだ。

「タグをつける」から、「タグをつくる」へ

現代の社会では、「成長してください」という無言の要請が常に存在している。そこには「市場価値」という尺度があり、それを無視して生きるのは難しい

だからこそ、多くの人は自分に必要なスキルを習得し、できるだけ価値ある人間であり続けようとする。それは現実的で賢い選択でもある。しかし、成長し続けること自体が目的になってしまうと、いつしか虚しさを感じることもある。どこかで「自分の人生を生きていない」ような感覚に襲われるのだ。

そうした時に効いてくるのが、「キャリアをコントロールしすぎない」という著者の言葉だ先回りしてスキルや経験をタグづけするようにキャリアをつくっていくよりも、今ある仕事に意味を見出し、自分なりの形にしていく視点が必要だという

その考え方の一つが、「ジョブ・クラフティング」だ。これは、自分の仕事に対して意味づけを行い、働き方そのものを再定義していく試みである。職業や役職を軸に生きるのではなく、自分の興味や価値観を起点に仕事の在り方を変えていく。「与えられたタグを貼る」のではなく、「自分だけのタグをつくる」生き方に近い

この思考を取り入れると、キャリアの主導権を社会に奪われた感覚は薄れていく。他人の期待ではなく、自分自身の関心を軸に成長を目指すことができるようになる。外に向いた競争意識から離れ、内側にある問いに目を向けることができる。

自分の内側から湧き出る動機を頼りに、キャリアを築いていく。それは、「何者かにならなければ」という焦燥から一歩引いて、「自分がどう在りたいか」を静かに問い直す作業でもあるのだ

“成長”のその先で、私たちは何を見ているのか

これまで見てきたように、「成長したい」という願いは、単なる自己実現の欲求というより、むしろ社会からの要請に応えるための“反応”として現れる場合が多い成長を通じて不安を解消し、社会にとって価値ある存在であり続けようとする——そうした構造の中に、私たちは自然と巻き込まれている

けれども、この本が丁寧に描いているのは、そうした「自分を磨くこと」や「価値を高めること」が行き着く先にある、静かな違和感でもある。努力を重ね、優秀さを証明し、理想的なキャリアを手に入れても、どこか満たされない感覚が残る。そうした実感を、著者は東大生たちの姿を通じて繊細にすくい上げている。

では、私たちはどう生きればいいのか。著者は決して、成長を否定するわけではない。むしろ、いまの仕事や環境の中に自分なりの意味を見出しながら、そのプロセス自体に価値を置いていく態度を肯定している。他人の目や期待ではなく、自分の関心や納得感を軸にしてキャリアを紡いでいく。それが、成長への新たなアプローチとなりうる。

この視点は、キャリアの選択をただの「正解探し」ではなく、「自分との対話」の時間へと変えてくれるどんな職業に就くかではなく、そこでどう在るかを考えることどれだけ早く先へ進むかではなく、いま立っている場所で何を感じ、どう働くかを大切にすること。その姿勢こそが、他者との比較ではなく、自分にとっての納得を支える軸になる

「成長」は、それだけで目的にはならない。むしろ、それによって何を得たいのか、どんな状態を望んでいるのか——その先にあるものを見据えてこそ、意味を持つ。本書が描いているのは、「なぜこんなにも努力してしまうのか」という現代の若者の葛藤と、それを受け止めるための静かなヒントなのだ。

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