「ここだけはおさえて」ポイント
どんな人にオススメの1冊?
- 相手を動かす文章力を身につけたい人
- 箇条書きを使っているのに、伝わりにくいと感じる人
- 論理的で分かりやすい文章のテクニックを学びたい人
ポイント①:良い箇条書きの特徴は、「相手が一瞬で理解できる」「相手が関心を持って読み切ることができる」「相手の心に響く」
単に情報を並べるだけでは、箇条書きは「短いけれど伝わらない文章」になってしまう。適切な構造や表現を工夫することで、相手にしっかりと伝わる箇条書きへと進化する。
ポイント②:箇条書きは「相手のため」に書くもの
文章を書くこと自体が目的になってしまってはいけない。重要なのは、 「相手に行動してもらうこと」 。そのために、相手目線を意識し、伝わりやすい構成や言葉を選ぶことが大切である。
読みやすさ:★★★★★
箇条書きに対する「キーワードを抜き出して端的に書く」という一般的な理解を超え、より効果的に伝えるための技術を学べる1冊。誰にでも使えるビジネススキルが満載で、自己啓発書としてもコンパクトなため、読みやすく、実践しやすい内容となっている。文章を書くことの本質にも触れることが可能。
本当に伝わる箇条書き、書けていますか?
箇条書きは、多くのビジネスパーソンが日常的に活用しているスキルである。ビジネスに限らず、学校や日常生活でも有用だ。通常の文章と比較し、情報を簡潔に整理できるため、相手に伝わりやすくなる。
ただ、単に箇条書きを使えば伝わるわけではない。「結論ファーストにする」「可能な限り文字数を少なくする」など、それらしい技法は思い浮かぶ。一方、それらを意識して箇条書きを行っても、正しく伝わらないことは少なくはない。
一見シンプルに思える箇条書きだが、実は奥が深い。しかし、正しい書き方を理解すれば、相手を動かす力を持つ箇条書きへと昇華できる。今回はそんな、箇条書きに関する1冊のご紹介。
【超・箇条書き】(杉野幹人・著)
杉野幹人
ビジネスコンサルタント、教育者として活躍。NTTドコモを経て、グローバルコンサルティングファームA.T.カーニーに参画。企業の経営戦略や新規事業開発を支援してきた。さらに、東京農工大学や武蔵野大学で教壇に立ち、ビジネススキルの指導にも力を入れている。
近年は、企業の会議運営や意思決定の改善に関する提言も多く、実践的な知見を発信し続けている。文部科学省のリカレント教育事業にも関わり、大人の学び直しにも貢献するなど、幅広い活動を展開している人物である。
超・箇条書きの3つの特徴
本書では、従来の箇条書きを超える「超・箇条書き」の特徴として、次の3点を挙げている。
- 相手が一瞬で理解できる
- 相手が関心を持ち、最後まで読み切る
- 相手の心に響く
それぞれ詳しく解説する。
1.相手が一瞬で理解できる
次の箇条書きを見てほしい。とある会社の営業チームの課題をまとめたものだ。
- 人員が足りていない
- 競合商品が手強い
- コールセンターのスタッフの教育が間に合わない
- 期間限定のスタッフが増える
- それ以外の打ち手は、会議の中で打ち手を検討する
この箇条書きは要点が伝わりにくい。情報が羅列されているだけで、何が本質的な問題なのかが曖昧だからだ。
一方、改善すると次のようになる。
- 3つの問題点が議論された
●人員が足りていない
●競合製品が手強いため苦戦している
●コールセンターでの教育が間に合わない - 2つの対応が決まった
●マーケティング部が営業部に期間限定でスタッフを貸し出す
●それ以外の打ち手は、会議の中で打ち手を検討する
「3つの問題点が議論された」「2つの対応が決まった」という大事な部分がすぐに伝わったのではないだろうか。
これを実現する技術が「構造化」である。
改善前の箇条書きの場合、読み手が文章のポイントを考える必要がある。反対に、改善後の箇条書きでは、構造そのものがポイントを伝える役割を果たしており、読み手が情報処理しやすくなる。これが、ポイントの伝わりやすさにつながっているのだ。
構造化にもいくつかポイントがある。
まずは、自動詞と他動詞の区別だ。上記の場合では、期間限定のスタッフが増えている「状態」を伝えたいのではなく、貸し出すという「行為」が重要だ。そのため、「増える」という自動詞ではなく、「増やす」「貸し出す」などの他動詞を使うのが好ましい。
また、時間軸に対する意識も大切だ。上記の例の場合「3つの問題点」は現在の話であり、「2つの対応」は未来の話である。箇条書きにおいては、異なる時間軸を同じように並べていくことは、相手を混乱させる原因となる。
このような点を意識し正しく構造化することで、内容を一瞬で汲み取ってもらえるようになるのである。
2.相手が関心を持って最後まで読み切ることができる
超・箇条書きの2つ目の特徴は、相手が関心を持って最後まで読み切ることができるというものである。以下の箇条書きを比較してみよう。
[改善前]
- 4つの改善策をとる
●大口顧客には、先輩社員に協力してもらい、価格交渉して販売単価を上げる
●中堅顧客には、関連商品を合わせて提案し、販売数を伸ばす
●小口顧客には、今まで通りの販売戦略を継続する
●超小口顧客には、今まで通りの販売戦略を継続する - 結果として、目標とする売上は3億円である
[改善後]
- 目標とする売上は3億円である
- このために、2つの改善策に集中する
●大口顧客には、山田さんに協力してもらい、価格交渉して販売単価を上げる
●中堅顧客には、「サポートキットA」を合わせて提案し、販売数を伸ばす
改善前の箇条書きも、構造化されており、情報が入ってきやすい。しかしながら、ブラッシュアップされた後者の方が、より興味を惹かれる印象を受ける。
このように、相手に関心を持って読んでもらうために必要となるのが「物語化」である。
ポイントは「相対的MECEを意識すること」「固有名詞を活用すること」である。
MECEとは、「モレなくダブりなく」といった意味である。論理的なコミュニケーションを行う上で大切な考え方だ。
上記の例の場合、大口顧客から超小口顧客までカバーしている改善前の方が、モレがない箇条書きである。しかし、内容から想像できる通り、これはある程度その会社の売上状況に関する知識を持った人に対する報告となる。このような場合、「相手が求めているすべての情報」=「売上が芳しくない大口顧客と中堅顧客に対する情報のみ」と考えることができる。これが、相手にとってのMECE、つまり「相対的MECE」なのである。相対的MECEを満たす上で不要となる情報を割愛することで、自分に対する報告として関心を持ってもらうことができる。
固有名詞についてはイメージがしやすい。「山田さん」「サポートキットA」という固有名詞を活用することで、相手に具体的なイメージを持ってもらうのだ。今回は改善案に関する箇条書きのため、報告相手が上司であれば、具体的なアドバイスやより優れた改善案をもらえる可能性も高くなる。
たった数行の違いでしかないが、物語化を行うことで、相手に興味を持って最後まで読んでもらえるようになるのだ。
3.相手の心に響く
3つ目の特徴は「相手の心に響く」である。「で、それが何?」と言われないようにするための工夫となる。次の例を見ていただきたい。
〈私の約束:6か条〉
- お客様に喜んでいただける新商品をつくります
- 差別化された新商品をつくります
- 自分の信じる新商品をつくります
- できる限り多くの新商品をつくります
- 一生懸命に効率的に業務を実行します
- すべてのことで自分にベストを尽くします
ここから「メッセージ化」というテクニックを活用し「で、それが何?」という印象を与える点を解消していく。
まずは、隠れ重言の排除である。重言とは「頭痛が痛い」のような意味が重複している表現だ。このように明らかな重言には気がつくことができるが、隠れ重言となると、思いのほか気付きにくい。
上記の場合「お客様に喜んでいただける新商品をつくります」「差別化された新商品をつくります」「一生懸命に効率的に業務を実行します」「すべてのことで自分にベストを尽くします」が隠れ重言に該当する。会社員であれば、お客様に喜んでもらえる商品の開発や、効率的な業務遂行、ベストを尽くすことは「あたりまえ」に求められる内容だ。また、差別化された新商品の作成についても、資本主義の構造を考えるとやはり「あたりまえ」になる。
また「できる限り多くの新商品をつくります」の“できる限り”も隠れ重言である。これもやはり「あたりまえ」に求められる仕事への姿勢であり、能力や時間の制約を超えて新商品を生み出すことはできないからである。
残るは「自分の信じる新商品をつくります」となるが、これは「あたりまえ」ではない。市場の声に耳を傾けすぎて、中途半端で妥協した商品をつくることはしないと宣言しているのである。
隠れ重複を取り除くと、あたりまえの情報が削除され、本当に伝えるべきメッセージに絞って相手に伝えることができる。
また、メッセージ化には数字を使うことも効果的だ。「夏までにタイムを縮めます」と宣言されることに比べ、「8月の大会までに0.5秒タイムを縮めます」と宣言された方が、早くなるために努力するというメッセージがストレートに伝わる。
これらの工夫を施すと、先ほどの箇条書きは次のようになる。
〈私の2つの約束〉
- 市場の声に耳を傾けず、自分の信じる新商品をつくります
- 3年間で5つ以上の新商品をつくります
相手にとって冗長な情報が取り除かれ、より相手に響く内容のみが記載されている内容だと感じるのではないだろうか。
箇条書きの主役は「読み手」である
箇条書きは芸術作品ではなく、相手に行動を促すための手段である。つまり、「書くこと」が目的になってはいけない。相手がスムーズに理解し、動けるように、徹底的に読み手の立場を想像することが重要だ。
「結論ファーストにする」「文字数を減らす」といったテクニックは有効だが、それだけに頼ると本質を見失うことがある。たとえば、「自分の信じる新商品をつくります」という一文よりも、「市場の声に耳を傾けず、自分の信じる新商品をつくります」のほうが、多少文字数は増えてもメッセージが明確に伝わる。また、時にははじめに目標を示し、その後に改善策を伝えるほうが効果的な場合もある。
大切なのは「相手の行動につながるかどうか」。テクニックに頼るのではなく、常に「相手の視点」で箇条書きを設計する意識を持とう。
まとめ – 誰もが使える箇条書きの知識を通じて、文章の本質を学ぶ
本書には、すぐに実践できる箇条書きのスキルが詰まっており、明日からでも活用したくなる内容が満載だ。しかし、「超・箇条書き」のテクニックは、単なる書き方の工夫ではなく、「相手に行動してもらう」という目的があってこそ意味を持つ。この本は、その本質を改めて気づかせてくれる一冊である。
本記事で紹介した内容のほかにも、文章を磨くための技術が数多く紹介されている。実践的でありながら、文章の本質にも迫る内容となっているため、ぜひ一度手に取ってみてほしい。
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