「ここだけはおさえて」ポイント
どんな人にオススメ?
- 社会や仕事で「閉塞感」を感じている人、何かを変えたいと思っているのに行動に移せない人
- 自分らしく生きるために、脳の仕組みや思考パターンを知りたい人
- チームや組織の一員として、個人の力を引き出しながらも成果を上げたい人
ポイント①:脳は「省エネモード」で動いている
人間の脳は、変化が少なく安定した環境で最も効率よく働くようにできている。そのため、VUCA(変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)時代には脳がエネルギーを大量に消費し、不安や焦りを感じやすくなる。まずはこの脳の特性を理解し、「無意識のクセ」を把握することが必要。
ポイント②:脳のクセを打破するカギは「認識のアップデート」
脳は常に「省エネ」を選びがちだが、VUCA時代に対応するためには、そのクセを意識的に変えることが求められる。具体的には、無意識に選んでしまう「反応」を見直し、よりポジティブな選択を意識的に行うことがカギ。このアップデートこそが、思考の柔軟性を引き出し、創造性を発揮させる原動力となりる。
ポイント③:ちょっとした工夫で、意識が変わる
少しの意識の変化が、行動を変えるきっかけとなる。例えば、日常的な言動や姿勢を意識的に変えるだけで、脳の働きがアップデートされる。これにより、自分の強みや独自性を発揮する力が高まり、社会や仕事において「自分らしさ」を確立することができる。
読みやすさ:★★★☆☆
脳の働きに関する基本的な仕組みを知り、その特性を意識的に活かすことで「無力感」や「閉塞感」を打破する方法を紹介している。実践すると、日常の小さな行動から、自分の思考を変え、結果的に大きな変化を手に入れることができるようになる。
変化の激しい時代に、脳はついていけない?
「今の時代はVUCAだ」と聞いたことはないだろうか? 簡単に言えば「変化が激しく、先が読みにくい時代」という意味である。価値観は多様化し、昨日の常識が今日には通用しない。 そんな世の中で、「自分らしさとは?」「このままでいいのか?」と焦る人も多い。
このモヤモヤの正体は、実は「脳のつくり」と関係があるという。人間の脳は、本来、変化の少ない環境で最適に機能するようにできている。だから、急激な変化に適応しようとすると、脳はエネルギーを大量に消費し、不安や焦りを感じやすくなるのだ。
そんな脳の仕組みを理解し、うまく活用するためのヒントを与えてくれるのが本書だ。
【脳マネジメント 脳を味方にして独自性と創造性を発揮する技術】(秋間早苗・著)
秋間早苗
東京大学農学部を卒業後、同大学大学院で国際協力学を修了した起業家。在学中からサステナビリティや国際協力に関心を持ち、2007年には国際学生サミットを主宰するなど、ゼロからプロジェクトを立ち上げることを経験。産官学連携プロジェクトや事業開発をリードし、事業性と社会性を融合させること、多様な関係者と共創する仕組みの構築に取り組んできた。
2017年には株式会社La torcheを設立し、独自の「脳マネジメント」を提唱している。個人や組織が本来の価値を最大限に引き出せるよう支援し、「その人ならでは」の強みを活かすことを重視している。彼女の活動は、普段本を読まない人にとっても、自分らしく生きるためのヒントを与えるものである。
本書では、「VUCA時代に対応するには、まず脳のクセを知ることが重要」と説く。
人類の脳は「省エネモード」で動いている
1万2,000年前、人類は150人ほどの小さなコミュニティで暮らしていた。この社会は「話し合いで解決できる、安定した環境」だった。つまり、今よりもずっと「非VUCA」な世界だったのだ。
しかし、文明が発達し、社会が複雑化しても、人間の脳の基本構造は変わらない。脳はエネルギー消費を抑えるため、「省エネモード」で動こうとする。
省エネモードになると、脳は「わかりやすいルール」に従いやすくなる。
- 「こうすればこうなる」という予測が立つ状況を好む
- 評価・賞罰といった外的動機で動く
- 上下関係や中央集権的な意思決定を受け入れやすい
本書では、こうした脳の思考パターンを「メカニックビュー」と呼んでいる。
例えば、
「良い大学に入れば安泰」
「大企業に就職するのが成功」
「終身雇用が一番安心」
といった価値観は、メカニックビューに基づくものだ。
しかし、現代はこの考え方では通用しない。
「自分にとって本当に大事なものは?」「変化に適応するには?」と問い直すことが必要になっている。
では、どうすれば「脳のクセ」を活かしつつ、変化に強くなれるのか?
本書では、その方法を具体的に解説している。
脳を現代に適応させるには「認識のアップデート」が重要
非VUCA(変動性・不確実性・複雑性・曖昧性のない)な前提を持ち、省エネモードが通常状態となっている脳の働きを変えることで、焦りや閉塞感は薄れていく。つまり、独自性や創造性を発揮する思考が養われるのだ。そのプロセスは次の通りである。
① 気づく
「無自覚の自覚」によって脳のクセを理解し、自分に対する解像度を高める。
② 働きかける
望ましい状態に向けて、自分自身に働きかける。
③ 体現する
主体性を持ち、自分ならではの力を発揮して現実を創造する。
各ステップには具体的な実践法がある。ここでは特に印象に残ったものを紹介する。
① 気づく:「反応と刺激」モデル
自分の解釈に意識を向けるための実践法。
例えば、「あの人に話しかけられると、イラッとする」場面。話しかけられたことと、イライラすることは不可分に思える。しかし、実は「話しかけられる」という刺激に対する「イラッとする」という反応は、自分の選択によるものだ。
「話しかけられても、イラッとしない選択もある」と考えることで、今まで見えていなかった選択肢を自覚できる。
現代人はすぐに善悪の判断をしがちだが、立ち止まって考えるクセをつけるための有効なアプローチといえる。
② 働きかける:「できること」の実践
「どうにもならない」という無力感を、「気づけば変えられる」「できることがある」という前向きな感覚に変えるための方法。
具体的には、次の5つを意識的に「変える」。
- 言葉遣い:口癖を変える
「無理だ」「できない」「いや、…」といった口癖を改めることで、「何かを変えられる」という意識を育む。 - 姿勢:良い姿勢をキープする
背筋を伸ばすことで、「変わった自分」を認識する。 - 呼吸:ストレス時の反応を俯瞰する
ストレスで呼吸が浅くなったら、意識して深呼吸する。特に、理不尽な指示を受けたときなどは、メカニックビュー(機械的な視点)になっていないかを確認するとよい。 - 表情:気持ちを切り替える
表情を変えることで気持ちやモードが変わる。オンライン会議や鏡の前での表情を意識し、ポジティブな感情を引き出す。 - 見立てと解釈:前向きな選択をする
例えば、上司からの指摘(刺激)を「ダメ出しされた」と受け取るのではなく、「改善すれば期待に応えられる」と解釈する。
これらは簡単に実践できるが、重要なのは「自己肯定感を高めるためのアプローチ」である点だ。姿勢や表情の変化は副次的な効果であり、精神的な変化に着目してほしい。
③ 体現する:選択を通じて「自分ならでは」を形づくる
意図せず休んでしまったとき、「また休んでしまった…」と後悔することはないだろうか?
しかし、その休みは本当に悪いことなのか。「エネルギーをチャージするために休む」と自覚的に選択すれば、ポジティブな気持ちで休める。
「選択する」という行為は、「なんとなく流される」ことを防ぐ。無意識のうちにメカニックビューに囚われるのではなく、
- 「なぜそれをやるのか?」
- 「自分はそれを本当にやりたいのか?」
と自問することで、主体的な選択ができるようになり、自己肯定感の向上につながる。
このように、「気づく → 働きかける → 体現する」のループを繰り返すことで、思考のクセを変え、現代に適応した脳の使い方を実践できる。
ちなみに、「解釈を変えると悩みも消える」という考え方もある。以下の記事でも詳しく解説しているので、ぜひチェックしてほしい。(人気記事です!)
個人にもチームにも使える働きかけの方法
自分の意識が変わるだけでは、チーム全体の自己肯定感を高めることは難しい。本書では、チームや組織の意識を変えるためのメソッドも紹介されている。
ストーリーの原型
- 「今の取り組みがなかったらどうなるか?」を問い、「避けたい未来(B)」を設定する。
- Bを回避するために必要な要素を考え、「得たい未来(A)」を明確にする。
- Aを実現するには何が必要か、主体的に考える。
特別なテクニックではないが、「避けたい未来」を明確にすることで、それを回避しようとする意識が高まり、主体的な行動が生まれる。
この思考法は、チームだけでなく個人にも有効だ。「ストーリーの原型」に沿って考えることで、「自分にできることは何か?」を自然と模索するようになり、行動の選択を通じて「自分らしさ」を見出すことができる。無意識に受け身になりがちなメカニックビューから抜け出す手段としても有効であり、すぐにでも実践できる方法だ。
まとめ – 脳の性質を理解し、少しづつ変えていくことが、現代社会を健やかに生きることにつながる
「脳の仕組みは、現代社会とズレがある」。まずはこの事実を知ることが第一歩だ。そこから、気づく・働きかける・体現する のステップを実践することで、思考のクセが変わり、焦りや閉塞感が和らいでいく。
「成長しなければ価値がない」と窮屈に感じている人にこそ読んでほしい1冊。ぜひ手に取ってみてほしい。
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