ブランディングの誤解を解き、選ばれる商品を作る方法

マーケティングとブランディング

「ここだけはおさえて」ポイント

  • どんな人におすすめ?
     ブランディングに関する仕事をしている人/自分でビジネスを始めたい人/合理的な買い物をしたい人
  • ポイント①
     顧客は「便益」と「独自性」を基準に商品を選ぶ。
  • ポイント②
     ブランディングは手法(How)から始めるものではない。届けたい相手(Who)と伝えたい内容(What)が明確になれば、手法は自ずと決まる。
  • ポイント③
     顧客が抱くブランドイメージには、購入につながるものとそうでないものが存在する。
  • 読みやすさ:★★★
     漠然と捉えがちな「ブランディング」を分かりやすく解説した1冊。具体例に基づき本質を示しており、少しお勉強っぽい印象はあるものの、文章の硬さ以上に理解がしやすい内容。

あなたがいつもの”あの商品”を手に取る理由

私たちは何を基に商品を選んでいるのだろうか?

たとえば、Apple製品を手に取るとき、スタイリッシュなデザインや使いやすさ、所有欲など、さまざまな理由が頭をよぎる。しかし最終的には、「この価値なら買うべきだ」と判断しているはずだ。

さらに、コーラや缶コーヒー、お茶といった日常的な飲み物でも考えてみよう。他の選択肢もあるはずなのに、なぜかいつも同じものを選んでいることはないだろうか。それは「あの味」が潜在的に求めるものだからだ。

スマートフォンでもコンビニの飲み物でも、無数の選択肢がある中で結局特定の商品を選んでしまう。自分で選んでいるつもりでも、実は選ばされている――。この現象をつくり出しているのがマーケティングの力だ。

では、どのような工夫で人々は特定の商品を選ぶように仕向けられているのか。その答えを紐解くのが、今回ご紹介する1冊である。

ブランディングの誤解 P&Gでの失敗でたどり着いた本質】(西口一希・著

西口一希

Strategy Partners代表取締役、M-Force共同創業者、GrowthX社外取締役を務めるビジネスリーダー。P&Gでブランドマネジメントに従事した後、ロート製薬の執行役員CMOとして「肌ラボ」を日本一の化粧水ブランドに成長させるなど、数々の実績を残した。その後、ロクシタンジャポン代表取締役として同社の過去最高利益を達成し、SmartNewsではマーケティング執行役員としてユニコーン企業への成長を支えた。卓越した戦略的思考と豊富な経験を持つ著者であり、多くの読者に新たな視点を提供している。

私たちが商品を選ぶ基準には、「便益」と「独自性」の2つがある。

  • 便益
     便益とは、商品やサービスがもたらす具体的なメリットであり、「それを買う理由」となる。
  • 独自性
     一方で、同じ便益を持つ商品は複数存在する。そこで最終的に選ぶ基準となるのが独自性だ。他の選択肢にはない特徴、すなわち「他を買わない理由」である。

この2つを理解し、商品やサービスに反映させることで、顧客に「選ばれるブランド」を作り上げることができる。

ブランディング成功の鍵は「誰に何を届けるか」の明確化にあり

「マーケティング」と「ブランディング」。似ている言葉だが、その意味を明確に区別できている人は少ない。

本書では、この2つを次のように定義している。

  • マーケティング
     価値を創造し、利益を再投資して、さらに新たな価値を生み出す活動
  • ブランディング
     マーケティングで創造した価値を記憶させ、優先的に選んでもらうための社内外への投資

つまり、ブランディングとは商品の価値を記憶させ、顧客に思い出してもらうことが目的である。そして本書が強調するのは、その方法論に立ち入る前に考えるべきことがあるという点だ。

つい「どうやって価値を伝えるか(How)」に焦点を当てた議論に陥りがちだが、大切なのはまず、「誰に(Who)」どのような便益と独自性(What)を届けるべきかを明確にすること。

多くの企業では、この基本的な問いを曖昧にしたまま進めるため、効果の低いブランディングや不必要な投資に陥りやすいという。本書は、商品の便益や独自性を明確にし、それを必要とする顧客を定義することが最優先だと説いている。このプロセスが確立すれば、ブランディングの具体的な手法は自ずと導き出される。まさに「答え合わせ」のようである。

訴求するブランドのイメージは、購入につながるものでなければいけない

ニューバランス。お好きな方も多いだろう。その魅力について、どのようなイメージを抱いているだろうか。

本書では、約8,000人を対象に実施したブランドイメージ調査結果が紹介されている。この調査では、ニューバランスを選ぶ理由について、複数回答と単一回答の2パターンで結果が示されている。

順位複数回答の平均値単一解答
1有名ブランドである履き心地が良い
2デザインが良い価格が手頃
3履き心地が良いデザインが良い
4街履き・普段向き疲れにくい
5飽きずに長く履ける足へのフィット感がある

「有名ブランドである」と「履き心地が良い」。あなたがニューバランスを選ぶ理由として、どちらを重視するだろうか?

複数回答で選ばれた「有名ブランドである」は、確かにブランド認知の面でのアドバンテージがある。しかし、それが直接的な購買意欲にはつながりにくい場合がある。対照的に、単一回答で1位に挙がった「履き心地が良い」や、2位の「価格が手頃」といった要素は、購入に直結しやすいのだそうだ。

この調査結果から分かるのは、ブランドイメージが顧客の購買にどれほど寄与するかは、「何を強調するか」で大きく異なるということだ。単一回答で見られる購買につながる理由が、ブランドの訴求すべきイメージとして重要だと言える。

まとめ – ブランディングを正しく知ることで、選ばれる商品が創れるようになる –

  • 買う理由は「便益」と「独自性」
  • ブランディングは「誰に(Who)」と「どんな価値を(What)」届けたいかを起点に考える
  • ブランドイメージには購買に繋がるものと繋がらないものがある

本書は、タイトル通り「ブランディングに関する意外な気づき」を提供してくれる1冊だ。特に、消費者自身が「どんな便益を求め、どんな独自性に共感しているか」を理解することの重要性が説かれており、これにより「納得感のある買い物」ができるようになると感じるだろう。

ブランディングに直接関わっていない方でも、日々の選択や購買行動において新たな視点が得られる一冊。ノウハウやテクニックだけでなく、広い視野で考えることができる内容なので、興味があれば気軽に手に取って読んでほしい。

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