はじめに — 読む前に押さえておきたいこと
あなたはこんな悩みを抱えていないだろうか?
このまま今の会社で働き続けてよいのだろうか。
転職を考えたことはあるものの、何を基準に選べばよいのかがわからない。年収や企業名といったわかりやすい指標はあるが、それだけで決めてしまってよいのかという不安もある。
「やりたいことを見つけろ」と言われても、それが何なのかはっきりしない。興味のあることはあっても、それを仕事にすべきかどうかは判断がつかない。かといって、このまま何も決めずにいることにも焦りを感じる。
周囲を見れば、自分なりの軸を持って働いているように見える人や、次のキャリアに踏み出している人もいる。その姿に刺激を受ける一方で、自分だけが取り残されているような感覚を抱くこともある。
考えれば考えるほど、何が正しい選択なのかわからなくなる。
こうした悩みは、多くの人が一度は直面するものではないだろうか。
キャリアは人生に大きな影響を与えるからこそ、簡単に決めることができない。慎重になればなるほど、選択の難しさは増していく。
本書が示すこと(著者の主張)
本書が扱っているのは、「やりたいことや目標が明確でない状態」から、どのようにキャリアを選び取っていくかという問いである。
多くのキャリア論は、「やりたいことを見つけること」を前提にしている。だが実際には、その前提に立てない人も少なくない。むしろ、「何がしたいのかわからない」という状態こそが、多くの人にとっての出発点である。
本書では、その状態を否定するのではなく、前提として受け入れる。
そのうえで、キャリアを考える際に陥りがちな誤解を整理し、人生全体の中で仕事をどのように位置づけるべきかを示している。さらに、仕事・学び・余暇・人とのつながりといった複数の要素をどのように捉え、組み合わせていくかという視点が提示される。
重要なのは、「正解を見つけること」ではない。
自分なりの判断基準を持ち、その時々で納得のいく選択を重ねていくこと。そのための考え方と視点が、本書の中で体系的に整理されている。
本書を読んで感じたこと(私見)
キャリアに関する悩みは、しばしば「やりたいことがない自分」に原因があるように感じられる。
しかし本書は、その前提を問い直す。やりたいことが明確でないこと自体は問題ではなく、その状態のままでもキャリアは十分に構築できるという立場をとっている。
むしろ問題なのは、「何を基準に選べばよいのか」がわからないまま、他人の価値観やわかりやすい指標に依存してしまうことである。その結果として、選択に納得感が持てず、迷い続けてしまう。
本書の価値は、この構造をシンプルに言語化している点にある。
キャリアを「仕事」だけで捉えないこと。人生全体のバランスの中で考えること。そして、自分なりの軸で選び続けること。これらの視点は、特別な才能や明確な目標を持っていなくても実践可能なものである。
何をしたいのかがわからず、立ち止まっていると感じるとき。本書が提示する考え方は、その状態を前に進めるための一つの手がかりになるはずだ。
自由なはずなのに、キャリアを選べない理由
どんな会社に就職するか。これはその人の人生にとって、極めて重要な問題である。
学生時代から勉強や部活、サークルやアルバイトに取り組んできた人にとって、「良い会社」に入れるかどうかは、自分の努力の延長線上にある一つの到達点のように感じられるものだ。特に受験という競争を経験してきた人ほど、「どの環境に身を置くか」がその後に与える影響の大きさを理解している。
それゆえ、「どんな会社で働くか」が人生に与えるインパクトも、自然と大きく見積もられる。
さらに現代では、SNSによって同年代のキャリアが可視化されている。以前であれば知ることのなかった他人の働き方やキャリアの選択が、日常的に目に入ってくる環境にある。久しく連絡を取っていなかった知人の近況でさえ、簡単に知ることができる時代だ。
本来、キャリアは自由に選べるものである。だがその自由は、同時に「他人の選択」と比較され続ける状況を生み出している。自由に選んでいるはずの他者と、選びきれない自分。そのギャップに対して、言葉にならない違和感や焦りを抱えてしまう人は少なくない。
では、なぜ私たちはキャリアを自由に選べないのか。
その大きな理由の一つが、「何がしたいのかわからない」という状態にある。人は、目標やゴールが明確であれば行動することができる。これは学生時代の経験から、多くの人が実感しているはずだ。
しかし、「何をしてもいい」と言われた瞬間に、途端に動けなくなる。しかも現代は、他人の価値観や選択肢に触れやすい時代である。情報が多いからこそ、自分の基準を見失い、結果として選べなくなってしまう。
つまり、私たちが抱えている問題は「自由がないこと」ではない。むしろ、「自由すぎること」と「判断基準がないこと」にある。
大きな目標がなくても構わない。だが、何を基準に選べばよいのかがわからないままでは、キャリアはいつまでも他人との比較の中に置かれ続けてしまう。
では、「やりたいことがわからない」状態から、どのようにキャリアを選び取っていけばよいのか。その手がかりを与えてくれるのが、本書である。
【やりたいことも目標もないので、後悔しないキャリアのつくり方教えてください】(金井 芽衣 著)
金井 芽衣
キャリアコーチングサービス「POSIWILL CAREER」を展開するポジウィル株式会社の代表取締役である。これまでに5万人以上のキャリア相談に向き合ってきた実績を持ち、キャリアコーチング領域における先駆的な存在として知られている。
個人の価値観や判断軸に基づいたキャリア設計を重視し、「やりたいことがわからない」「目標が定まらない」といった状態に対しても、納得感のある意思決定を支援してきた。キャリアを外部の正解に委ねるのではなく、自らの内面と向き合うことで構築していくべきものと捉えている。
「仕事だけ」で選ぶと、キャリアはうまくいかない
もしあなたが転職を考えたとき、どのように求人を探すだろうか。
どの企業に入るべきか。どんな仕事がしたいか。
多くの場合、このような観点で判断しようとするはずだ。
しかし当然ながら、人生の充実度は仕事だけで決まるものではない。趣味の時間や家族との時間もまた、人生を形づくる重要な要素である。
にもかかわらず、「自分の趣味を充実させられる仕事は何か」「家族との時間を優先できる働き方はどれか」といった視点から仕事を探す人は多くない。私たちは無意識のうちに、人生の他の要素を切り離し、「仕事」という一つの軸だけで最適解を求めようとしてしまう。
この発想こそが、キャリアの選択を歪める原因の一つである。
たとえば、年収アップを期待して転職したにもかかわらず、結果として自由な時間を失い、幸福度が下がってしまうケースは少なくない。これは、転職の際に「仕事」以外の要素を十分に考慮していなかったことに起因する。仕事がうまくいっていたとしても、それだけで人生全体が上向くとは限らないのである。
さらに、仕事という存在を必要以上に重く捉えすぎると、今度は辞めること自体が難しくなる。
だが、「辞めたい」という感情は、必ずしもネガティブなものではない。それはキャリアの終わりを意味するものではなく、むしろ環境や状態を見直すべきだというサインである。
過酷な環境に身を置いている場合はもちろん、「このままでよいのか」という違和感を抱えている場合も同様だ。そうした感覚は、自分の状態と環境との間にズレが生じていることを示している。
ここで重要なのは、キャリアを「仕事」という枠だけで捉えないことである。一見すると、転職はゼロからのやり直しのように感じられるかもしれない。しかし実際には、これまで培ってきたスキルや経験は形を変えて活かされ続ける。環境を変えることは、それらをより適切に発揮できる場に移るという意味でもある。
つまり、キャリアは断絶するものではなく、連続していくものだ。
また、そもそも選択の基準が「他人の期待」になっている場合も、キャリアは迷走しやすい。
上司に評価されたい、親の期待に応えたい、周囲の人のように働かなければならない——こうした動機は一見もっともらしく見えるが、それが自分自身の意思と一致しているとは限らない。人生の大半を占める仕事の時間を、他人の期待に応えるためだけに使っている状態では、自分の人生を生きているという実感を持つことは難しい。
結果として、どこか満たされない感覚や迷いが残り続けることになる。
このように、私たちは「仕事だけ」でキャリアを考えたり、「他人の期待」を基準に選択したりすることで、知らず知らずのうちに自らの選択肢を狭めてしまっている。
だからこそ必要なのは、キャリアをより広い視点で捉え直し、自分自身の基準で選び取るための考え方である。
人生全体でキャリアを捉える「4つのL」
これまで見てきた通り、仕事は人生の充実度を左右する重要な要素である。だが、それはあくまでも一要素に過ぎない。仕事によって人生のすべてが決まるわけではなく、あくまで人生という全体の中に含まれる一部である。
だからこそ、人生を充実させるための仕事を選び取るには、「仕事」だけを切り出して考えていてはならない。必要なのは、人生全体を俯瞰した上でキャリアを捉える視点である。
そのための考え方として提示されているのが、「4つのL」である。
- Labor(労働):仕事や役割を通じた社会との関わり
- Learning(学び):知識やスキルの習得、新しい挑戦
- Leisure(余暇):趣味・教養・心身のリフレッシュ
- Love(愛):家族・友人・パートナー・地域とのつながり
人は、この4つがバランスよく満たされているときに、充実感や「生きている実感」を得ることができる。反対に、どれか一つが極端に欠けていると、どこか満たされない感覚やストレスを抱えることになる。
たとえば、仕事で成果を上げ、高い評価や報酬を得ていたとしても、学びが止まり、余暇もなく、人とのつながりも希薄であれば、長期的に見て充実した状態とは言い難い。仕事選びにおいて年収や昇進だけを重視し、他の要素が犠牲になってしまっては、本末転倒である。
ここで重要なのは、「どれを選ぶか」ではなく「どう組み合わせるか」という視点である。
仕事か家庭か、成長か安定か、といった二項対立で捉えるのではなく、それぞれをどのように編み込んでいくかを考える必要がある。たとえば、仕事を通じて学びを得ることもできるし、身につけたスキルを仕事以外の場で活かすこともできる。子育てと学びを両立することも、地域とのつながりの中で役割を果たすことも可能である。
4つのLは、排他的に選ぶものではなく、重ね合わせていくものなのだ。
この視点に立つと、「辞めたい」という感情の捉え方も変わってくる。
辞めること自体が問題なのではない。問題なのは、その理由を構造的に捉えないまま、衝動的に判断してしまうことである。4つのLという観点を持たずに環境を変えたとしても、不足している要素に気づけなければ、同じような不満を繰り返すことになりかねない。
重要なのは、「なぜ辞めたいのか」を分解することである。
それは単に「嫌だから」なのか、それとも「別の充実を求めているから」なのか。もし理由が「家族との時間を増やしたい」であれば、それはLoveの不足に起因している可能性がある。その場合、Laborの比重を調整するという選択が考えられる。
あるいは、「人間関係にストレスを感じている」という場合でも、「環境が変われば解決する問題なのか」「そもそも今の仕事自体は自分にとって意味があるのか」といった問いを立てることで、より本質的な判断に近づくことができる。
このように、4つのLを軸に状況を捉え直すことで、転職という選択を単なる逃避ではなく、意味のある意思決定へと変えることができる。
そしてもう一つ重要なのは、焦る必要はないということである。
キャリアに「早く正解にたどり着く」ことを求める必要はない。他人よりも早く進むことよりも、自分自身の納得感を持って選び続けることの方が、長期的にははるかに重要である。
特に、周囲と自分を比較しやすい時期においては、その差に焦りを感じることもあるだろう。だが、他人のペースに自分を合わせる必要はない。むしろ一度立ち止まり、自分にとってのバランスや優先順位を見つめ直すことこそが、キャリアを誤らないために必要なプロセスである。
キャリアとは、何か一つを選び取るものではない。人生全体の中で、複数の要素をどのように編み込み続けるかという、継続的な選択の積み重ねなのである。
キャリアは「誰といるか」で形づくられる
これまでの人生を振り返ったとき、すべてが計画通りに進んできたと言い切れる人はどれほどいるだろうか。
むしろ多くの人は、5年後、10年後の自分を正確に予測することなどできず、結果として当時は想像もしていなかった今を生きているはずである。これは計画性の有無にかかわらず、人生が思いのほか偶然に左右されるものであることを示している。
そして、その偶然に大きな影響を与えるのが「人」である。
どのような仕事に就くかと同じくらい、あるいはそれ以上に、「誰と出会い、誰と時間を共にするか」はキャリアの方向性を左右する。機会や選択肢は、多くの場合、人との関わりを通じてもたらされるからだ。
では、どのような人と共に歩むべきなのか。
一つの基準となるのが、「あなたの成功ではなく、成長を喜んでくれる人」である。
結果としての成果や肩書きではなく、過程としての変化や挑戦に価値を見出してくれる人。そうした相手と過ごす時間は、自然と新たな挑戦を後押しし、長期的な成長につながっていく。
また、「誰といるときの自分が好きか」という視点も重要である。人は環境によって振る舞いが変わる。ある人の前では萎縮してしまい、本来の力を発揮できないこともあれば、別の人の前では自然体でいられ、自分らしさを引き出されることもある。
自分の力を引き出してくれる人の近くにいることは、それ自体がキャリアの質を高めることにつながる。
一方で、すべての人と良好な関係を築こうとする必要はない。
むしろ、自分にとって負担となる関係から距離を取ることは、自分自身を守るためにも、パフォーマンスを発揮するためにも不可欠である。出会うすべての人が、自分にとって最適な環境をもたらしてくれるわけではない以上、人間関係もまた選び取っていくべき対象である。
キャリアは、自分一人で完結するものではない。どのような環境に身を置き、どのような人と関わるかによって、その可能性は大きく広がりもすれば、狭まりもする。
だからこそ、「何をするか」と同時に「誰といるか」を意識的に選ぶことが重要になる。
自分の内面と向き合い、人生全体のバランスを考え、そして関わる人を選び取っていく。その積み重ねが、結果としてキャリアの方向性を形づくっていくのである。
正解のない時代のキャリアのつくり方
ここまで、キャリアに迷う理由と、その向き合い方について見てきた。
私たちは、自由に選べる時代に生きている。だがその自由は同時に、「何を選べばよいかわからない」という迷いを生み出す要因にもなっている。やりたいことが明確であれば迷うことはないが、多くの場合、そうした状態からスタートできるわけではない。
だからこそ重要なのは、「やりたいことを見つけること」そのものではなく、選び続けるための軸を持つことである。
キャリアとは何か一つの正解にたどり着くものではない。むしろ、状況や環境に応じて、自分にとっての納得解を更新し続けていくプロセスである。他人の基準ではなく、自分自身の基準で判断することである。すぐに答えが出なくても構わない。むしろ、迷いながらも考え続けること自体が、キャリアを形づくっていく意識を持っておくことが良い。
また、早さを競う必要もない。他人より早く決めることや、周囲と同じ選択をすることが、必ずしも良い結果につながるとは限らない。自分のペースで試行錯誤を重ね、その都度選び直していくことが、結果として後悔の少ないキャリアにつながっていく。
キャリアにおいて大切なのは、「一度で正解を引き当てること」ではない。
自分の内面と向き合い、人生全体を俯瞰し、人との関係を選び取りながら、その時々で最適だと思える選択を積み重ねていくこと。その連続が、後から振り返ったときに一つの道として形になる。
やりたいことや明確な目標がなくても問題はない。
重要なのは、立ち止まり、考え、そしてまた一歩を踏み出すことだ。その繰り返しの先にこそ、自分なりのキャリアが築かれていくのである。
周りの目をついつい気にしがちなあなたへ
周囲の人の目や反応だけを意識して生きていませんか。
環境を変えるとはどういうことか
継続することの素晴らしさと、同じ環境に居続けることは、イコールではありません。
家庭円満はなぜキャリアアップに直結するのか
仕事に夢中で、ついつい家庭をなおざりにしていませんか。




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