人の心の揺さぶり方

知見を広げる

人間、興味を持てないことに対してはとことん無知である。宝くじ売り場の行列を目の当たりにして、「年末ジャンボってこんなにも人の心を動かすものなのか」と。

  • 宝くじって何歳から買えるの?
  • 宝くじって紙?電子でも買えるの?
  • 紙だとしたら、不正防止ってどうなってるの?お札的なホログラムとか?
  • 「当売り場で○億出ました!」って人口が多い都会の方が多くない?でも1店舗あたりの人口密度で考えるとそうでもなかったりする?でも、年収は都会の方が高いから購入口数も都会の方が多そうだし、やっぱり都会?
  • 宝くじ売り場ってコンパクトなのに、あの中に在庫置けるの?でも、ドラマとかで見る1千万とかって小さめのトランクに入るレベルだし…。
  • 宝くじ売り場ってジャンボの時期じゃない時は何を売ってるの?スクラッチとか?
  • 宝くじってそもそも国がやってるの?どこかの協会?企業?

マーケティング関連の業務の人が、デスクで思考することだけでなく、現場を見ることにも重きを置く理由を多少なりとも時間できた気がする。

こんなことも知らないのだから、お察しの通り、自分は宝くじを購入したことがない。非常にそれに忠実に行動しているわけではないものの、「期待値的に当たらないのでは」といった考えが故である。とは言え、「期待値がどうこうではなく、当たるかどうか、当たったら何に使おうかと”ワクワクするための時間”を買っている」と言われれば、正直反論できない。当たる確率やギャンブル性を抜きにして、ワクワクする時間を買う、というのは、割と価値のあるお金の使い方ではないかと思うのである。自分はそちら側の魅力をもっと存分に打ち出してくれたら買おうかな、と感じてしまうものの「〇〇ジャンボ、□億!」という訴え方も、実は金額よりワクワク感を打ち出しているのかもしれない。(であれば、自分が鈍感なだけである。)

今日はそんな、心の揺さぶり方についての1冊。

コンセプトのつくりかた】(玉樹真一郎・著)

元ニンテンドーのプランナーである著者が、Willの企画担当としてそのコンセプトを生み出すための考え方を紹介している1冊である。

”コンセプト”のコンセプトとは?

有形・無形に関わらず、ものづくりとはコンセプト、つまり、「良いもの」を生み出すことである。また、「良いもの」を生み出すことに成功したら、あなたと世界には次のような変化が起こる。

  1. あなたが世界に向けて「良いもの」を作る
  2. 世界に何か「良い変化」が起こる
  3. 世界からあなたに「良い報酬」が届く
  4. あなたに「良い変化」が起こる

あなたがものづくりを通してあなたに良い変化を起こすためには、「世界を良くすること」が絶対条件となる。つまり、”コンセプト”のコンセプトとは「世界を良くする」となる。

では、世界を良くするため”もの”を生み出すには、どのような思考を行う必要があるのか。同書では、「未知の良さ」を探求することの重要性を説いている。

”未知の良さ”とは?

「あたたかくて軽いのに安いフリース」を作り、他社を圧倒する売上を上げることができるのはどのような企業だろうか。「他社よりあたたかい」「他社より軽い」「他社より安い」。そう、これらは資本力の勝負になるのである。そしてこの「あたたかい」「軽い」「安い」といった特徴は、ユーザーも作り手も、その良さ自体や良い理由を直感的に理解できる。これが”既知の良さ”である。

一方、未知の良さとはこれと逆の特徴を持つ。要するに「ユーザーはその良さ自体がうまく説明できず、実現するにはリソース(資本力)以外の何かが必要になる」といった特徴がある。良さを説明することができず、資本力以外の勝負になるのだから、たとえあなたが大企業に所属していなくても、「世界を良くすること」ができるのである。

脆く、弱く、否定されやすいビジョンこそが大切

ビジョン、つまり、素直な願いこそが、コンセプトづくりの過程で大切になるのだという。

Willの開発前の段階において、著者が抱いていたビジョンは次のようなものである。

  • うちのおばあちゃんでも遊べるゲームがあればいいのに
  • 「ゲーム叩き」の風潮が収まればいいのに
  • ゲームが趣味ですって言う時に、堂々と胸を張れる自分になれたらいいのに

などなど。

素直かつ純粋で、ゲームっぽくないのである。これらは一見、問題に思える、つまり、既知の良さとはかけ離れた性質を持っているように思えるが、このようなビジョンこそが、未知の良さを含んでいる可能性があるのだという。既知の良さとはかけ離れた、脆く、弱く、否定されやすいビジョンこそ、世界を良くする可能性があるコンセプトにつながり得ることを意識しておかないと、資本力での勝負を強いられてしまうのである。

コンセプトをつくる怖さ

同書では、実際のWillの企画開発メンバーが、そのコンセプトを作る過程が記載されている。具体的な製作方法は割愛するものの、自分がポイントだと思った部分を伝えさせていただく。

上述の通り、世界を良くするコンセプト(に基づいた製作物)とは、ユーザーがその良さを説明できないものである。つまり、作り手側も、製作物がリリースするまで、それが本当に普遍的に良いと感じてもらえるものなのかどうかの確証が持てないのである、同書では筆者がWillの発売直前の心理的状況についても記載されているが、文章を通じてその不安がありありと想像できるような内容となっている。自分達が打ち出そうとしている”良さ”が”未知”であることが、こんなにも怖くて尊いものだということをしっかりと実感できる1冊となっているため、単なるクリエイティブ力向上のための1冊に留まらず、著者の人間味が感じられる1冊となっていることも保証できる。日本人なら誰もが知っているであろう大ヒット商品であっても、その裏側には、想像を絶するような不安があったことを知ることができるだけでも、勇気づけられ、ものづくりに対する熱量が高まる1冊となるのではないかと思える。

まとめ

世界を良くすることは簡単ではない。そして簡単ではないからこそ”既知の良さ”だけで測ろうとしない。斬新かつクリエイティブなものを欲しているのにも関わらず、その良し悪しを既知の良さで測ろうとしてはいないだろうか。今無い良さを実現するための元となるビジョンは脆く、弱く、否定されがちなのである。

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