「正しいアドバイス」はなぜ人を動かせないのか

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はじめに — 読む前に押さえておきたいこと

あなたはこんな悩みを抱えていないだろうか?

「相手のためを思って言ったのに、うまく伝わらなかった」
「アドバイスをしたつもりが、相手を萎縮させてしまった」
「どうフィードバックすれば、人は前向きに動けるのだろうか」

そんな悩みを抱えたことはないだろうか。

仕事でも、教育でも、人間関係でも、我々は日常的に誰かへ言葉を返している。

部下への指摘。後輩へのアドバイス。友人への感想。あるいは、誰かが生み出したアウトプットに対する反応。

しかし実際には、「正しいことを言えば、人は動く」というほど単純ではない。

相手のためを思って伝えたはずなのに、かえって否定として受け取られてしまうこともある。逆に、何気ない一言が相手の可能性を広げることもある。

では、人の可能性を引き出すフィードバックとは、どのようなものなのだろうか。

本書が示すこと(著者の主張)

本書のテーマとなっているのは、「フィードバックとは、相手を正すためのものではなく、可能性を引き出すためのものである」という考え方である。

一般的にフィードバックというと、「改善点を指摘すること」として捉えられがちだ。

しかし著者は、それを単なるアドバイスとして扱わない。

マンガ家のようなクリエイターは、自分自身の“面白い”という感覚をもとに作品を生み出している。一方で、その作品が読者にどう映るのかを、一人で客観視することは難しい。

そこで必要になるのが、“外側”の視点である。

編集者は、作品を読者に近い立場から読み、「ここで面白いと感じた」「ここで少し立ち止まった」といった感想を返していく。

重要なのは、「正解を教えること」ではない。相手の表現を理解しようとした上で、自分がどう感じたかを丁寧に返すこと。その往復によって、作品は少しずつ磨かれていくのだ。

また本書では、フィードバックにも型が存在すると語られている。

「要約」「印象」「意図」「マーケット」という4つの視点から感想を整理することで、相手は自分では見えていなかった可能性や特徴に気づけるようになる。

つまりフィードバックとは、感覚的なコミュニケーションではない。

相手の創造性や個性を引き出すための、技術でもあるのである。

本書を読んで感じたこと(私見)

本書を読んで強く感じたのは、「人は、正しさだけでは動けない」ということだった。

我々はつい、「より正しい答えを知っている人」が、「知らない人」に教えることがフィードバックだと思ってしまう。

しかし実際には、正論であるほど、人は防御的になることも少なくない。

むしろ人が前向きに変化できるのは、「自分を理解しようとしてくれている」と感じられたときなのではないだろうか。

その意味で、本書におけるフィードバックは、単なる指導論ではない。

「人とどう向き合うか」という、人間関係そのものの話として読むことができる。

特に印象的だったのは、「感想」を返すことの重要性である。

感想とは、思いつきや感覚論ではない。

相手の表現を理解しようとした上で、「自分の心がどう動いたか」を返す行為である。そして、その外側の反応があるからこそ、人は自分だけでは見えなかったものに気づける。

これは創作だけの話ではない。

仕事でも、人材育成でも、コミュニケーションでも、「相手を変えよう」とするほど、関係性は硬直しやすい。一方で、「相手を理解しよう」とする姿勢は、人の可能性を引き出していく。

フィードバックとは、相手を評価するためのものではない。相手の中にある可能性を、一緒に見つけていくための行為なのである。

「なぜアドバイスがうまく伝わらないのか」
「どうすれば、人の可能性を引き出せるのか」
「相手と対等な関係で向き合うとは、どういうことなのか」

そんな問いを持ったことがある人にとって、多くの示唆を与えてくれる1冊である。

“外側の視点”が作品を届ける

あなたが“外側”として認識される瞬間はどんなときだろうか。

ここでいう外側とは、「主役ではない、世の中を構成する一人として扱われる立場」のことである。普段、人は主観的に物事を捉えているため、自分を「大勢のうちの一人」として意識する機会はそれほど多くない。

しかし、我々が“大衆”として扱われる場面は確かに存在する。選挙、通販サイトの商品レビュー、SNSの投稿などがそうだ。そしてマンガもまた、その一つである。

マンガは、「面白い」「面白くない」といった感想だけでなく、「この作品は何を描こうとしているのか」といった抽象的なテーマまで、読者に届かなければならない。

多くの人を夢中にさせる作品には、その作品でなければならない独自性がある。一方で、それが作者の独りよがりになってしまえば、人には届かない。オリジナリティと、世の中の一般的な感覚。その両方を行き来する必要があるのだ。

作者は、自身の「面白い」という感覚を起点に作品を描いている。しかし、その作品が読者にどう映るのかを、作者一人で完全に把握することは難しい。

そこで必要になるのが、編集者の存在である。

編集者は、作品を“外側”から読む立場としてフィードバックを返す。その反応をもとに作者が推敲を重ねることで、作品は少しずつ「人に届く形」へと磨かれていく。

本書のテーマは、この“フィードバック”である。

ものづくりにおいて、フィードバックとは本来どのようにあるべきなのか。これはマンガ編集に限った話ではない。仕事でも、教育でも、人とのコミュニケーションでも、我々は日常的に誰かへフィードバックを返しながら生きている。

だからこそ本書には、「人の可能性をどう引き出すのか」を考える上で、多くの示唆が含まれていた。

想像の上をいくアウトプットを引き出す 編集者のフィードバック  佐渡島 庸平 著)

佐渡島 庸平

編集者・経営者として数々のヒット作品を世に送り出してきた人物である。2002年に講談社へ入社し、『ドラゴン桜』『宇宙兄弟』『働きマン』などの編集を担当。その後2012年にクリエイターエージェント会社「コルク」を創業し、編集、著作権管理、コミュニティ運営などを通じて、インターネット時代における新しいクリエイター支援の形を模索している。作品を「つくる」だけでなく、「どう届け、どう人とつながるか」までを一貫して考える姿勢に特徴があり、編集という仕事の可能性を拡張し続けている。

人を動かすのは「正しいアドバイス」ではなく「感想」

マンガ家ではない多くの人にとっても、フィードバックは日常的な行為である。1on1で上司から指摘を受けることもあれば、日々の仕事の中で自然に差し込まれることも少なくない。

そしてフィードバックは、多くの場合、立場が上の人から下の人へ向けて行われる。経験やスキルを持つ側が、より適切な答えを知っていると考えられているからだ。

しかし、受け手の立場になって考えてみてほしい。

相手が自分より経験豊富だったとして、「正しいアドバイス」を本当に素直に受け入れられているだろうか

おそらく、多くの人はそうではない。

人は、必ずしも「正しい指摘」を求めているわけではないのだ

例えば、小学校低学年の子どもに、勉強のやり方や社会のルールといった“正しいこと”を教えるのは難しくない。しかし、その正しさに納得し、自発的に行動を変えてくれるかというと、話は別である。

そしてこれは、子どもだけの話ではない。大人である我々もまた、正論だけでは動けない

著者によると、フィードバックに必要なのは、「アドバイス」ではなく「感想」なのだという

マンガ家は、作品の“内側”にいる。一方で編集者は、“外側”から作品を見る立場である。この立場の違いを活かし、上下関係として指示を出すのではなく、一人の読者として感じたことを返していく

「ここが面白かった」
「ここは読むのに少し時間がかかった」
「ここで一度立ち止まった」

そうした、自分の感情が動いた事実を伝えるのである。

一般的には、「否定するなら代案を出せ」という考え方がある。しかし、クリエイティブな領域では、これがかえって創造性を狭めてしまうことがある。

なぜなら、最初から正解が決まっているわけではないからだ

著者は、フィードバックを「結果をもとに、次の行動を修正するための情報の循環」と定義している。

つまり重要なのは、「正解を教えること」ではなく、「相手が次に考えるための材料を返すこと」なのだ

ここで著者は、フィードバックを「指示型」と「創作型」に分けている

指示型とは、理想形を先に設定し、そこから逆算して不足点を指摘するスタイルである。正解が明確なテスト勉強などでは、非常に効果的だ。

しかし、マンガのような創作においては、最初から完成形が定まっていることは少ない。

だからこそ、「創作型」のフィードバックが必要になる

編集者は、自分の感想を通して、「もっとこうできるかもしれない」という可能性を作者へ返していく。正解探しではなく、作者自身のベストを引き出していくための行為なのだ。

また、感想には「作者に別の視点を与える」という役割もある

作者は作品に最も近い存在であるがゆえに、書かれていない部分まで理解してしまっている。しかし読者はそうではない。

本来であれば説明が必要な場面や、逆に作者が無意識に見落としている魅力は、外側の人間だからこそ気づけることがある。

フィードバックとは、作品を評価する行為ではない

作者が、自分では見えていなかった可能性に気づくための行為なのである。

そして編集者の役割は、単に作品を整えることだけではない。作者自身も気づいていない「その人らしさ」を見つけることでもある。

専門書であれば、知識を伝えることが目的になる。しかし物語は違う。読者の感情を動かすものだからこそ、編集者もまた、感情を起点にフィードバックを返していく。

そうすることで作者は、自身の個性が読者にどう届くのかを、少しずつ掴めるようになっていくのだ。

フィードバックにも“型”がある

著者は、「感想を伝える」という行為にも型が存在すると語っている。

創作には型があるそして創作に型があるのであれば、フィードバックにもまた型があった方が良い

実際、まったく異なるジャンルの作家と向き合っていても、「以前、別の作家にも同じことを伝えたな」と感じる場面は少なくないという。これは、創作にも共通する構造があり、フィードバックにも再現性が存在することを示している。

編集者の役割は、ゼロから物語を生み出すことではない。作者が持つ原石を理解し、それを“人に届く形”へ磨いていくことである。だからこそ、物語の型を理解することは、そのまま編集者としてのスキルに直結するのだ。

著者によると、編集者のフィードバックは、「要約」「印象」「意図」「マーケット」の4つに整理できるという

これは単なるチェック項目ではない。

作品が「伝わる作品」になるために、
・読者は内容を理解できるか
・感情は動くか
・作者自身の衝動は存在するか
・社会との接点を持てるか

を確認するための視点なのである。

まず「要約」で確認するのは、「この作品は何の話なのか」が伝わるかどうかである。

SNSで“あるある”が拡散されるのは、「わかるなぁ」という共感を引き出せるからだ。逆に言えば、要約できないコンテンツは、人に伝わりづらい。

主人公が何に悩み、何を求め、どのように感情が動いていくのか。その輪郭が見えなければ、読者は作品の入口に立つことができないのである。

また、自分の考えを本当に理解できているかどうかは、「短くも」「長くも」語れるかでわかる

短く語れるのは、本質を抽象化できているからであり、長く語れるのは、具体的な構造まで整理できているからだ。

つまり、要約とは単なる説明ではなく、「自分が何を描こうとしているのか」を確認する行為でもある

次に「印象」である。

これは、細部を精密に分析するのではなく、あえて少し離れた位置から作品全体を眺め、「最初に何を感じたか」を言語化する作業だ

読者は、必ずしも作品を丁寧に読み解いてくれるわけではない。だからこそ編集者は、実際の読者に近い解像度とスピード感で原稿に触れ、最初に受け取った感覚を作者へ返していく。

「なんだか気になる」「少し読みにくい」「ここは妙に惹かれる」

こうした直感は曖昧に見える。しかし、ヒットの芽は往々にして、このような感覚の中に潜んでいるのだ。

そして「意図」は、「なぜこの作品を書いたのか」という視点である

どれだけ完成度が高くても、作者自身の衝動が弱ければ、作品は読者の心に深く残らない。

「これを書かずにはいられなかった」「このテーマが好きで仕方ない」

そうした偏愛や執着こそが、作品に熱量を与えるのである。

最後に重要になるのが、「マーケット」という視点だ。

作品は、読者に届いて初めて社会の中で意味を持つ。だから編集者には、「この作品は誰に届きうるのか」を考える役割がある。

例えば、「どの棚に置かれるべきか」「どんな検索ワードで辿り着かれるのか」といった視点である。

ただし、ここで注意しなければならないのは、「マーケットを起点に創作しない」ということだ

最初から“売れるもの”を探し始めると、人は正解探しを始めてしまう。すると、本来持っていた自由な発想や偏愛が失われていく。

創作が先にあり、その後にマーケットが存在する。

だからこそ、作品は「誰かに届くもの」へ変わっていくのである。

また、「要約」「印象」「意図」「マーケット」には、順番にも意味がある

「要約」と「印象」は、作品の土台に関わる部分であり、ここが作者と編集者でズレていると、そもそも同じ作品を見ていることにならない

一方で、「意図」や「マーケット」は、対話を重ねながら変化していく余地がある。

フィードバックとは、相手を正すためのものではない。

互いの認識を少しずつ重ねながら、「まだ見えていなかった可能性」を一緒に探していく行為なのである。

フィードバックとは「人の可能性」を信じる行為

本書を読んで印象的だったのは、フィードバックとは「正しさを教える行為」ではない、という点である。

一般的にフィードバックというと、上司や先輩が、部下や後輩に対して改善点を指摘する行為として捉えられがちだ。しかし本書で語られるフィードバックは、それとは少し異なる。

編集者は、作者より“正しい答え”を知っている存在ではない。

むしろ、作者自身もまだ気づいていない可能性や魅力を、“外側”の視点から見つけ出していく存在として描かれている。

だからこそ重要なのは、正解を押し付けることではなく、「自分はこう感じた」という感想を丁寧に返していくことなのだ。

これはマンガ編集だけの話ではない。

仕事でも、教育でも、人間関係でも、我々は日常的に誰かへフィードバックを返している。そしてその多くは、「相手を正そう」とする方向へ傾きやすい。

しかし本当に人が変化するときは、「自分は否定されていない」と感じられたときではないだろうか。

感想とは、相手を評価するためのものではない。

「あなたの表現を理解しようとしている」という姿勢そのものなのである。

また、本書が面白いのは、「感想」にも型があると語っている点だ。

ただ思いつきを話すのではなく、
・作品を理解できたか
・どんな印象を受けたか
・作者は何を書きたかったのか
・それは誰に届きうるのか

を整理しながら対話していく。

つまりフィードバックとは、感覚論でも精神論でもなく、「他者の可能性を引き出すための技術」なのだ

人は、自分一人では自分を客観視できない。

だからこそ、“外側”の視点が必要になる。

そしてその外側の視点とは、相手を裁くためのものではなく、「もっと良くなれる可能性」を一緒に探すためのものなのだろう。

フィードバックとは、相手を変える技術ではない。

相手の中にあるものを、少しずつ見つけていく行為なのである。

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