なぜ人はそれを買うのか — 人がモノを選ぶ3つの理由

マーケティングとブランディング
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はじめに — 読む前に押さえておきたいこと

あなたはこんな悩みを抱えていないだろうか?

なぜこの商品を選んだのか、うまく説明できないことはないだろうか。

なんとなく手に取っただけなのに、「これが一番良さそうだったから」と理由を後付けしている。よく考えてみると、他にも似たような商品はあったはずなのに、なぜそれを選ばなかったのかはわからない。

また、仕事の中で「良い商品をつくっているのに売れない」と感じたことはないだろうか。品質にもこだわっているし、価格設定も適切なはず。それでも思うように選ばれない状況に、違和感を覚える。

あるいは、「もっと魅力を伝えれば売れるはずだ」と考え、説明を増やしたり、機能を強調したりしてみる。しかし、それでも結果は大きく変わらない。

一方で、特別に優れているようには見えない商品が、なぜか選ばれ続けていることもある。その違いがどこにあるのかは、はっきりと説明できない。

こうした違和感は、「人がどのようにモノを選んでいるのか」という前提が曖昧なままになっていることから生まれる。

私たちは、自分の意思で合理的に選択しているつもりでいる。しかし、その実態は本当にそうなのだろうか。

本書が示すこと(著者の主張)

本書では「人がどのようにしてモノを買うのか」という問いである。

多くの場合、購買行動は価格や品質といったわかりやすい要素で説明される。しかし実際には、それだけで人の選択を説明することはできない。

人は必ずしも合理的に比較して選んでいるわけではなく、無意識のうちに選択肢を絞り込み、その後に理由を付けている。この構造を前提にしなければ、なぜ売れるのか、なぜ売れないのかを正しく捉えることはできない。

本書では、この曖昧になりがちな購買行動を、「なじみ」「良さ」「好き」という3つの視点で整理する。

見慣れているものを選びやすいという傾向。特定のポイントで優れているものに価値を感じるという判断。そして、ブランドや体験への共感が選択を後押しするという感情。これらが組み合わさることで、人の購買行動は形づくられている。

重要なのは、「人を説得すれば買ってもらえる」という発想から離れることである。

人は説明によって動くのではなく、無意識のうちに選びやすい状態がつくられたときに行動する。その前提に立つことで、はじめて購買行動を理解することができる。

本書を読んで感じたこと(私見)

モノが売れない理由は、商品の中身にあるとは限らない。

むしろ多くの場合、「人がどのように選んでいるのか」を誤って捉えていることに原因があるように感じた。

良いものをつくることや、その魅力を正しく伝えることはもちろん重要である。しかし、それだけでは不十分である。そもそも選択肢として認識されなければ、比較の対象にすらならないからだ。

また、「良い」という言葉の曖昧さにも気づかされる。すべてにおいて平均的に優れていることではなく、どこか一つでも明確に選ばれる理由を持っているかどうか。その違いが、結果に大きく影響している。

さらに、ブランドに対する見方も変わる。ブランドとは一つのイメージを押し付けるものではなく、複数の印象が積み重なった結果として形成されるものである。だからこそ、人によって受け取り方が異なることは自然なことであり、それ自体が価値になり得る。

本書の価値は、こうした一見曖昧な現象を、シンプルな構造として言語化している点にある。

なぜそれを選んだのか。なぜそれは選ばれなかったのか。その問いに対して、自分なりの視点を持つことができるようになる。

日常の何気ない購買行動や、仕事における意思決定を見直すきっかけとして、本書は有効に機能するはずである。

人はどのような基準でモノを買っているのか

人は日々、当たり前のようにモノを買っている。生活に必要なすべてを自分一人で賄うことはできず、他者の生産物やサービスに依存して生きているからである。

その交換手段となるのが「お金」である。多くの人が価値を認めるからこそ、さまざまなモノと引き換えにすることができる。

では、その大切なお金と引き換えにするモノを、私たちはどれほど慎重に選んでいるだろうか

例えば、家や車のように高額で生活への影響が大きい買い物であれば、多くの人は時間をかけて比較し、納得のいく選択をしようとする。一方で、コンビニでお茶を買うときはどうだろうか。1mlあたりの単価を比較し、最も安いものを選ぶだろうか。それとも、すべての商品の味を思い出し、その日の気分に最も合うものを選び取るだろうか。

現実には、そのどちらでもないことが多いはずである

「できるだけ安く買いたい」「できるだけ良いものを選びたい」と考えているにもかかわらず、私たちは必ずしも合理的とは言えない基準で意思決定をしている。つまり、人は価格や品質だけでモノを選んでいるわけではないのである

では、我々はどのような基準に基づいてモノを買っているのか。本章では、その購買行動の仕組みをひもといていく。

人がモノを買うしくみを言語化する ”知ったかマーケター”からの脱却】(金井 芽衣  著)

富永 朋信

日本のマーケターであり、ブランド戦略および消費者理解を専門とする実務家である。外資系企業を中心にキャリアを重ね、特にP&Gではブランドマネジメントに従事し、消費者起点のマーケティング実務を経験している。その後も複数の企業においてマーケティング責任者を歴任し、新規事業開発やブランド戦略の立案・実行をリードしてきた。

また、企業のマーケティング支援や人材育成にも携わり、理論と実務を接続する立場から発信を行っている。特に、消費者の意思決定プロセスや購買行動の理解を重視したアプローチに定評があり、現場で再現可能なマーケティングの体系化を志向している点に特徴がある。

人はなぜそれを手に取るのか

コンビニ、スーパー、ドラッグストア、飲食店、セレクトショップ、通販サイト。人は日々、さまざまな場所でモノを買っている。

では、そのとき私たちは、どのような基準で買うものを決めているのだろうか。

「安いものを選ぶ」という答えがまず思い浮かぶ。しかし現実には、単純に最安値の商品だけが選ばれているわけではない。容量あたりの単価で比較することもあれば、そもそも価格以外の要素で判断している場面も多い。

例えば、家電量販店でテレビの購入を検討しているとき、100円のテレビが陳列されていたらどうだろうか。仮に欠陥が一切ないと説明されたとしても、ためらいなく購入できる人は多くないはずである。

また、コンビニでペットボトルのお茶を買う場面を考えてみる。同じ容量・同じ価格の商品が複数並んでいたとして、完全にランダムに商品を選ぶだろうか。おそらく多くの場合、無意識のうちに「なんとなくこちらを選ぶ」という判断が働いているはずである。

つまり私たちは、価格やスペックだけでは説明できない基準でモノを選んでいる。

では、その基準とは何か。

本書では、人がモノを選ぶ理由は大きく3つに整理できるとする。

なじみがあるから
良い商品だから
好きだから

「良い商品だから買う」という判断軸は理解しやすい。多少価格が高くても、品質が高いと感じるものを選び続ける経験は、誰しもが持っているはずである

「好きだから」というのも直感的である。例えばAppleの製品を好んで選ぶ人のように、ブランドや世界観への共感が購買を後押しすることは珍しくない

しかし、これらと同じかそれ以上に影響が大きいのが、「なじみがあるから買う」という行動である。先ほどのペットボトルのお茶の例でも、私たちは無意識のうちに、過去に見たことがある商品や、店頭や広告で頻繁に目にする商品を手に取っている。

このように、人の購買行動は一見すると直感的で曖昧に見えるが、実際には一定のパターンに基づいている。いわゆるマーケターと呼ばれる人たちは、こうした人間の心理を前提に、購買行動を設計しているのである。人間の心理に基づいて「ロジカル」に購買行動を誘発させているのである。

人に「選ばれる」ための3つのつくり方

なじみをつくる

毎日の挨拶の後に1分だけ会話する場合と、1ヶ月に1回1時間の面談を行う場合。相手の印象がより強く残るのは、前者であることが多い。

人の印象は、接した時間の長さではなく、接触の頻度によって強く形成される。よく行くコンビニの店員や、会社に出入りする清掃スタッフのように、会話をしたことがなくても印象に残っている人がいるはずだ。これが「なじみがある」という状態である

この性質は商品にも当てはまる人は、見慣れているもの、何度も目にしているものを選びやすいこの傾向は専門的には「流暢性」と呼ばれ、処理しやすい情報ほど好意的に受け取られることが知られている

したがって、なじみを生み出すためには、単純に接触機会を増やすことが重要になる。CM、店頭、SNS広告など、あらゆる場面で繰り返し目に触れることで、その商品は「なんとなく知っている存在」へと変わる。

そしてこの「なんとなく知っている」が、購買のきっかけになるのである

良さをつくる(=独自性・差別性)

では、「良い商品だから選ばれる」とはどういう状態か。

普段利用するスーパーマーケットを思い浮かべてみるとよい。自宅から最も近い店舗だけを使い続ける人もいるが、実際には複数の店舗を使い分けている人も多いはずである。

例えば、価格が安い店、鮮度の高い魚が手に入る店、惣菜が充実している店、遅くまで営業している店。それぞれに異なる強みがあり、その「良さ」に応じて選ばれている

ここで重要なのは、「良い」とは単に品質が高いという意味ではないという点である他と比べたときに、ある特定のポイントで明確に優れていること、すなわち独自性や差別性こそが「良さ」である

すべてが平均的に良い商品よりも、どこか一つでも際立った強みを持つ商品の方が、選ばれる理由を持ちやすいのである

好きをつくる(=ブランド)

最後は「好きだから買う」という行動である。

この状態が成立しているとき、人は個々の機能や価格ではなく、「ブランド」に対して価値を感じている。例えばAppleの製品を選ぶ人は、スペックだけで比較しているわけではなく、その世界観や体験を含めて評価している

では、その「好き」はどのようにして生まれるのか。

ブランドには、その価値を規定する考え方や約束事が存在する。そして、それに基づいた一貫したコミュニケーションが、広告や店頭、プロダクト体験を通じて消費者に届けられる。

その積み重ねによって、消費者の中に記憶が形成され、印象が蓄積されていくこの蓄積こそが、ブランドイメージである

重要なのは、ブランドのイメージは一つではないという点だ。

例えばコカ・コーラに対しても、「爽快感のある炭酸飲料」という印象を持つ人もいれば、「甘くてカロリーが高い飲み物」と感じる人もいる。また、クリスマスやパーティと結びついたイメージを持つ人もいるだろう。

このように、同じブランドであっても、受け取り方によって複数のイメージが成立する人が相手によって異なる印象を持たれるのと同様に、ブランドもまた多面的な存在である

したがって、ブランドをつくるとは、単一のイメージを押し付けることではないさまざまな接点を通じて多様な印象を蓄積させ、その総体として「好き」を形成していくことなのである

なぜ、それでも人は思うように買ってくれないのか

ここまで、人がモノを買う仕組みと、それを誘発するための方法について整理してきた。しかし現実には、それらを理解していてもなお、思うように売れないという状況が起こる。

これは、人の購買行動が複雑だからではない。むしろ、その前提の捉え方を誤っていることに原因がある。

では、どのような点でつまずいているのか。

「なじみがあるから買う」を軽視している

広告の役割は、ブランドの価値や世界観を伝えることだと考えられがちである。しかしそれと同じくらい重要なのが、「消費者の目に触れる機会を増やすこと」である

CMやSNS、店頭のポップやキャンペーンなど、日常の中で繰り返し目にするものは、それだけで記憶に残りやすくなる。結果として、「なんとなく知っている」という状態が生まれ、購買のハードルが下がる。

一度利用した店に対して「入りやすい」と感じるのも同様である。この感覚は積み重なり、利用頻度の差となって現れていく。

もちろん接触頻度だけですべてが決まるわけではない。しかし、どれだけ中身が優れていても、そもそも知られていなければ選ばれない。なじみの形成を軽視することが、最初のつまずきとなる。

「良い」を「独自性・差別性」として捉えられていない

「良いものをつくれば売れる」という考え方は一見正しい。しかしここでいう「良い」が曖昧なままでは、選ばれる理由にはならない。

重要なのは、「どこが良いのか」が明確であること、そしてその点において他と比べて優れていることである

例えばドライヤーであれば、風量、髪へのダメージの少なさ、潤いといった要素が差別化の軸になる。カフェであれば、空間の広さ、滞在のしやすさ、提供スピードなどが判断基準となる。

消費者にとって「カフェである」と認識される最低条件を満たしたうえで、どの価値で選ばれるのか。その一点が際立っていなければ、数ある選択肢の中に埋もれてしまう。

すべてが無難に良い商品ではなく、「この点だけは負けない」と言い切れるポイントを持てているかどうか。ここにズレがあると、「良いはずなのに売れない」という状況が生まれる。

ブランドのイメージやペルソナを1つに限定してしまっている

ブランドは一つの明確なイメージで統一すべきだ、と考えられることが多い。しかし実際には、消費者が抱く印象は一つに収まるものではない

人が相手によって異なる印象を持たれるように、商品もまた受け手によって異なる意味づけがなされる。プロダクトが一つであっても、そのイメージは多面的である。

例えばスーパーであれば、忙しい人にとっては「遅くまで開いている便利な場所」であり、食にこだわる人にとっては「鮮度の高い食材が手に入る場所」として認識される。このように、同じ存在でも異なる価値として受け取られている。

重要なのは、ブランドの軸を固定したうえで、複数の解釈が成立する余地を持たせることである。一つのペルソナやメッセージに過度に絞り込んでしまうと、本来取り得たはずの選択肢を自ら狭めてしまう。

ブランドをつくるとは、単一のイメージを押し付けることではない。さまざまな接点を通じて多様な印象を積み重ね、その総体として認識される状態をつくることである

つまり、ブランドとは「定義するもの」ではなく、「解釈される余白を設計するもの」なのである。

人は「納得して」買っているわけではない

人は、自分の意思でモノを選び、納得したうえで購入していると思っている。しかし実際には、その意思決定の多くは、あとから理由づけされているに過ぎない。

価格や品質を比較して選んでいるつもりでも、その前段階で「なんとなく知っている」「見たことがある」「好きだと感じる」といった感覚がすでに選択肢を絞り込んでいる。つまり、私たちは合理的に選んでいるのではなく、選ばされたあとに合理化しているのである。

この前提に立たなければ、「良いものをつくれば売れる」「魅力を伝えれば理解される」といった発想から抜け出すことはできない。

人がモノを買うのは、正しさに納得したからではない。違和感がなかったからであり、むしろ「選ぶ理由を考える必要がなかったから」である。

だからこそ、買ってもらうために必要なのは、説得ではない。選択肢として自然に入り込むことであり、比較の土俵に上がり続けることである。

繰り返し目にすることで「なじみ」をつくり、どこか一つでも明確に優れていると感じさせる「良さ」を持ち、そして記憶の積み重ねによって「好き」を形成していく。これらが揃ったとき、人ははじめて迷いなくそれを手に取る。

そして重要なのは、そのすべてが個別に機能するのではなく、重なり合いながら作用しているという点である。なじみがあるからこそ良さに気づき、良さを感じるからこそ好きになり、好きだからこそさらに接触機会を増やしていく。この循環の中で、選ばれる理由は強化されていく。

マーケティングとは、この循環を設計する営みである。

人の心を動かすことはできない。しかし、人が自然と動いてしまう状況をつくることはできる。その違いを理解したとき、「なぜ売れないのか」という問いは、「どうすれば選ばれ続けるのか」という問いへと変わるはずである。

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