睡眠に正解はあるのか—— 身体の仕組みから考える睡眠

自己管理・ライフハック
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はじめに — 読む前に押さえておきたいこと

あなたはこんな悩みを抱えていないだろうか?

あなたはこんな不安を抱えていないだろうか?

  • 十分な時間眠っているはずなのに、なぜか疲れが取れない
  • 夜更かしをした翌日、長く寝ても調子が戻らない
  • 「◯時間眠らなければならない」と分かっているのに、それが守れず不安になる
  • 眠れないこと自体が気になって、かえって寝つきが悪くなる

睡眠は身体にとって大切だ。多くの人がそう理解している一方で、「どう眠ればよいのか」「何が正解なのか」については、意外と混乱が多い分野でもある。

早く寝たほうがいい。

7時間、あるいは8時間眠らなければならない。

スマートフォンは寝る前に見てはいけない。

こうした情報を真面目に守ろうとするほど、睡眠は「管理すべき課題」になっていく。眠ること自体がプレッシャーとなり、気づけば「ちゃんと眠れていない自分」を責める思考に陥ってしまうこともある。

では、なぜ睡眠についてこれほど悩みが生まれるのだろうか。

本書が示すこと(著者の主張)

その一因は、睡眠を「時間」や「理想像」だけで捉えてしまっている点にある。睡眠は単なる休息ではなく、身体のリズム全体と深く結びついた現象であるにもかかわらず、その前提が十分に共有されていない。

扱われているのは、「よく眠るためのテクニック集」ではない。焦点が当てられているのは、眠っているあいだ、身体の中で何が起きているのかという、ごく根本的な問いである。

人間の身体は24時間ぴったりで動いているわけではないこと。

朝の光が、体内時計をどのように調整しているのか。

「何時間眠るか」だけでなく、「いつ眠るか」がなぜ重要なのか。

睡眠が、成長や美容、食欲といった日常のあらゆる側面とどう関係しているのか。

また、睡眠には柔軟性があることも繰り返し示される。夜泣きをする子どもを育てる時期や、仕事が立て込む時期など、理想通りに眠れない状況は誰にでも訪れる。それでも身体には、可能な限り回復しようとする仕組みが備わっている。

必要な睡眠時間には大きな個人差があり、「何時間眠ったか」だけで状態を判断することはできない。

本書を読んで感じたこと(私見)

印象的だったのは、睡眠に「外から与えられた正解」は存在しない、という姿勢である。

「若い頃ほど眠れなくなったが、日中は問題なく過ごせている人」と、「時間は確保しているのに、眠れていないことが不安で落ち着かない人」。どちらが健やかかと問われれば、答えは自明だろう。

「自分はよく眠れたと感じているか」という主観的な感覚もまた、無視できない指標である。

人は、眠るために生きているのではない。生きるために、眠っている。

本書は、睡眠を完璧に管理する方法を示すものではない。身体の仕組みを知り、自分のリズムと折り合いをつけながら、納得できる眠りを見つけていく。そのための視点が、静かに手渡されている。

なぜ睡眠は、身体を回復させるのか

寝る子は育つ。

子どもの頃、誰しも一度は聞いたことがある言葉である。睡眠が身体に良いものであることは、あらためて説明されなくとも、私たちは感覚的に理解している。

大人になった今もそれは変わらない。睡眠不足が続けば仕事のパフォーマンスは落ち、徹夜をした翌日は、しっかり眠れた日と比べて明らかに体調が悪い。身体だけでなく、集中力や判断力といった頭の働きも鈍くなる。

多くの人が夜更かしや徹夜を経験してきたからこそ、「睡眠は身体にとって大切だ」という認識は、もはや周知の事実だと言える。

しかし、その一方で「なぜ睡眠が不足すると体調が崩れるのか」「なぜ眠らないと調子が悪くなるのか」といった問いに、仕組みとして答えられる人は多くない。よく知られている現象であるにもかかわらず、その背景は意外と知られていないのである。

「この仕組みを知ると、身体のリズムとの付き合い方が変わるかもしれない」。

本書は、そんなきっかけを与えてくれる一冊である。

眠っている間に体の中で何が起こっているのか】(西多 昌規 著)

西多 昌規

睡眠医学と精神医学の専門家として日本の第一線で活躍する研究者。1996年に東京医科歯科大学医学部を卒業後、国立精神・神経医療研究センターやハーバード大学、スタンフォード大学など国内外の研究機関で睡眠や生体リズムに関する研究・臨床経験を積んできた。現在は早稲田大学スポーツ科学学術院の教授を務めるとともに、早稲田大学睡眠研究所の所長として睡眠科学の教育・研究を牽引している。また、日本精神神経学会の精神科専門医、日本睡眠学会の専門医、日本スポーツ協会公認スポーツドクターなど複数の専門資格を有し、睡眠と心身の健康、アスリート支援にも深く関わっている。

1日は24時間、身体は?

1日は24時間である。この周期はなんとなく定められたものではなく、地球の自転速度に基づいて決められたものだ。

しかし、私たちの身体そのものが、24時間の周期で正確に動いているわけではない

個人差はあるものの、人間の体内リズムはおよそ24.2時間、つまり1日よりもわずかに長い周期を持っている。

仮にこの身体のリズムに忠実に生活をするとどうなるか。数日で行動全体がずれ、やがて昼夜が逆転していく。

つまり、人間が社会生活を営むためには、身体のリズムを意識的に「24時間」に合わせ続ける必要がある。睡眠は、その調整の中心にある行為だ。

このリズム調整の中枢を担っているのが、視交叉上核と呼ばれる脳の部位である。目から入った光が真っ先に届く場所であり、ここが体内時計の司令塔となっている。視交叉上核のデフォルトの周期が、24.2時間ということなのだ。

また、体内リズムは脳だけに存在するものではない。胃や肺、心臓、筋肉など、ほぼすべての末梢組織にも固有のリズムがある。ただし、これらのリズムは不安定であり、基本的には視交叉上核のペースに同調することで保たれている。

そのため、司令塔である視交叉上核のリズムを24時間に合わせることができれば、身体全体のリズムも安定する。

では、その調整はどのように行われているのか。

鍵となるのが「朝の光」である

視交叉上核は、光刺激を受けることで自律神経や内分泌系に信号を送り、身体全体のリズムを調整している。その代表例の一つが、副腎から分泌されるコルチゾルである。朝に光を浴びることでコルチゾルが分泌され、身体は「朝が来た」と認識する。

このため、朝の光を浴びることが重要だと言われているのである。

「何時間眠るか」より、「いつ眠るか」

眠気そのものにも、明確なリズムが存在する。

メラトニンは、神経活動を抑制し、眠気を促すホルモンである。このメラトニンは、朝に光を浴びてからおよそ15時間後に分泌量が増加する。つまり、同じ時間に朝の光を浴びれば、同じ時間帯に眠くなる仕組みになっている

夜間に強い光を浴びると、メラトニンの分泌は抑制される。スマートフォンを見続けると寝つきが悪くなるのは、このためである。

では、睡眠時間さえ確保すれば問題ないのだろうか。

徹夜をしたあと、十分な睡眠時間を取ったにもかかわらず、どこか調子が悪いと感じた経験を持つ人は多いはずだこれは単なる気のせいではない

人間のような昼行性動物では、深部体温が夜間に低く、日中から夕方にかけて高くなるというリズムを持っている。深部体温が高い状態では交感神経が活発になり、身体は活動モードに入る。一方、夜になると深部体温は下がり、休息へと向かう。

つまり、昼間に眠るという行為は、身体が活動しようとしている時間帯に、無理に休もうとすることを意味する。

同じ7時間睡眠であっても、23時から眠る場合と、11時から眠る場合とでは意味合いが異なる。前者は身体のリズムに沿った睡眠であり、後者はそのリズムに逆らった睡眠である。

睡眠の価値は、時間の長さだけで決まるものではない

成長・美容・食欲も、睡眠が土台

夜更かしの誘惑は簡単には消えない。

仕事や子育てで日中の時間に余裕がないからこそ、自分の時間を夜に回したくなる。その気持ちは自然なものだ。

そこでここでは、睡眠がもたらす代表的なメリットを見ていく。

成長ホルモンが分泌されやすい

肉体の成長や新陳代謝にとって重要な成長ホルモンは、睡眠不足の影響を大きく受ける

ただし、成長ホルモンについては「睡眠時間を確保すれば十分」というわけではない。

成長ホルモンの分泌は、入眠直後に最も高まる。これは夜更かしをした場合でも同様で、何時に眠り始めたとしても、睡眠開始時にピークを迎える傾向がある。また、「同じ睡眠時間を確保すれば、就寝時刻によって成長ホルモンの総分泌量に大きな差はない」という研究結果も報告されている。

これだけを見ると、「何時に寝ても構わないのではないか」という結論に至りそうになる。しかし、実際はそう単純ではない

成長ホルモンは、GHRH(成長ホルモン放出ホルモン)が脳下垂体を刺激することで分泌される。このGHRHは夜間により活発になる。また、成長ホルモンはノンレム睡眠中に分泌されやすいという特徴もある。夜の時間帯に、質の高いノンレム睡眠に入っている状態が、より望ましいのである。

では、なぜ「何時に寝ても総量は変わらない」という結果が得られたのか。ここには、食欲に関わるグレリンという物質が関係している。

グレリンは食欲を増進させるホルモンだが、睡眠不足の状態では分泌が活発になる。その影響で、見かけ上は成長ホルモンの総量と就寝時刻に相関がないような結果になると考えられている。

要するに、「寝る子は育つ」という言葉は、厳密には正確ではない。「夜に寝る子は育つ」と言い換えたほうが、実態に近いのである

太りにくい

眠っているあいだ、強烈な空腹に襲われることはほとんどない。意識がない状態で食欲を感じることはないのである。

この現象も、生体リズムの観点から説明できる。

食欲の調整に関わるのが、オレキシンという物質だ。オレキシンは活動時に活発になり、睡眠中はその働きが抑えられる。眠っているあいだに食欲が湧きにくいのは、このためである。

さらに、オレキシンの活動には、グレリンとレプチンという二つのホルモンが影響している。グレリンは食欲を増進させ、レプチンは食欲を抑制する。

夕食時にはグレリンの分泌が高まり、食後から入眠に向かうにつれて減少していく。一方で、レプチンは夜間に向けて活発になり、睡眠中は食欲を抑える方向に働く。

ところが、睡眠不足の状態ではこのバランスが崩れる。グレリンが増加し、レプチンが減少することで、オレキシンの活動が高まり、空腹を感じやすくなる。その結果、摂食行動を抑えにくくなる。

この変化は、たった1日の睡眠不足でも起こり得る。慢性的な睡眠不足が続けば、この状態が常態化し、食べ過ぎに抗うことはますます難しくなる。結果として、太りやすい身体になっていく。

ダイエットには、食事や運動が重要であることは言うまでもない。ただし、睡眠という土台が崩れていれば、同じ努力をしていても成果は出にくくなる。身体の仕組みを理解することで、食欲そのものをコントロールしやすくなるのである。

美容に良い

睡眠が美容に良いというのも、広く知られている事実だろう。

肌の良好なコンディションを保つには、ターンオーバーが正常に行われることが重要である。ターンオーバーが乱れると、古い角質が表皮に残りやすくなり、保湿成分が十分につくられなくなるなど、肌状態の悪化につながる。

このターンオーバーに深く関わっているのが、成長ホルモンである

成長ホルモンは睡眠中に多く分泌され、肌の新陳代謝を促進する。皮膚の内部には真皮があり、そこには線維芽細胞と呼ばれる細胞が存在する。この細胞は、コラーゲンやヒアルロン酸といった成分を生成する役割を担っている。

線維芽細胞は成長ホルモンの受容体を持っており、成長ホルモンの作用によって増殖が促される。つまり、夜に眠り、成長ホルモンの分泌を促すことで、肌のターンオーバーはより適切に保たれる

早く寝たほうが良いと言われることは多いが、それは単なる生活指導ではない。成長ホルモンの働きを考えれば、理にかなった話なのである。

睡眠は、頑張るものではない

ここまで、睡眠と身体のリズムについて見てきた。

人間の身体は24時間で動いているわけではなく、朝の光によって調整されていること。睡眠時間の長さだけでなく、眠る時間帯が重要であること。そして、睡眠は成長や美容、食欲といった、日常のさまざまな側面に影響を及ぼしていること。

こうした知識を知ると、「正しく眠らなければならない」「理想的な睡眠を守らなければならない」と、かえって自分を追い込んでしまう人もいるかもしれない。しかし、本書が伝えているのは、睡眠を完璧に管理せよ、というメッセージではない

むしろ強調されているのは、睡眠は想像以上に柔軟だという点である。

たとえば、夜泣きをする赤ちゃんを育てている母親に対して、「毎日8時間眠らなければならない」と求めるのは現実的ではない。けれども、人間の身体には、そうした状況に適応しようとする働きが備わっている。断片的な睡眠の中でも、できる限り回復しようとする仕組みがある。睡眠は、理想通りでなければ意味がないものではないのである

また、必要な睡眠時間には大きな個人差がある。若い頃ほど長く眠れなくなったとしても、日中の生活に支障がなければ問題ない人もいる。一方で、「8時間眠れていない」という事実そのものが不安になり、日中も落ち着かなくなってしまう人もいるだろう。

この二人を比べたとき、どちらがより幸せかを考えると、答えは明らかだ。睡眠の正解を外部に求めるよりも、「自分はよく眠れたと感じているか」という感覚を大切にしたほうが、生活の質は高くなる

人は、眠るために生きているのではない生きるために、眠っている。だからこそ、睡眠を管理しすぎて生活そのものを窮屈にしてしまっては、本末転倒だ。

身体の仕組みを知り、無理のない範囲でリズムを整え、自分なりに納得できる眠りを見つけていく。その積み重ねが、結果として心身の健康につながっていく。

完璧な睡眠を目指さなくていい。昨日より少し、自分の身体を理解できたなら、それで十分である。

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