相手が動く文章術 ― 忙しい人に読んでもらうための設計法読んでもらえる文章の“つくり”方

ライティング
この記事は約10分で読めます。

はじめに — 読む前に押さえておきたいこと

あなたはこんな悩みを抱えていないだろうか?

・文章は日常的に書いているのに、相手に伝わらないことが多い
・メールやチャットを送っても、反応が薄く、行動につながらない
・自分ではわかりやすく書いたつもりでも、何が問題なのかよくわからない

こうした悩みは、単に「文章力がない」「言葉が足りない」といった個人の問題ではなく、そもそも「読まれる文章の設計」を理解できていないことに原因がある。

本書が示すこと(著者の主張)

文章が読まれない原因には、読まれる前に離脱される「4つの関門」があり、それぞれに対応した工夫が必要である。具体的には、冒頭で興味を引き、読むハードルを下げ、重要な情報を前半に置き、最後まで行動につなげやすくすることがポイントである。

さらに、文章は単に短くするだけではなく、受け手に「自分ごと」として価値を感じてもらえる工夫が不可欠である。文章設計の基本を押さえることで、読まれない文章を改善し、相手の反応や行動を引き出すことができる。

本書を読んで感じたこと(私見)

私自身、日常的にメールやチャットを書いていても、反応が薄かったり、伝わったかどうか不安になることが多いと感じていた。本書を読むと、文章は情報をただ並べるだけではなく、相手の行動を意識して設計する必要があるとわかる。

特に印象的だったのは、「読む側が自然に反応したくなる文章に設計する」という考え方である。短く簡潔にし、重要な情報を前半に置き、受け手が自分に関係あると感じられる文章にすることで、日常のメールやメモでも伝わりやすくなる。この視点は、仕事のコミュニケーションだけでなく、日常的な情報発信においても大いに参考になる。

読みやすい文章は、なんとなくでは書けない

仕事のメール、家に残す伝言の書き置き、自分用のToDoメモ。人は思っている以上に、日常の中で文章を書いている。

もちろん、これはあなただけの話ではない。SNSやチャットなど、コミュニケーションの手段がいくら多様化しても、文章でやり取りする機会は依然として多い。

そう考えると、ある疑問が浮かぶ。

――ここまで日常的に文章を書いている私たちは、もう「文章のプロ」なのではないか?

確かに、文学的で情緒的な文章は別としても、意思疎通や依頼のメールくらいなら上手く書ける気がしてしまう。

しかし、残念ながら答えは“No”だ。読む気がしないメールや、何を言いたいのか伝わらないチャットは今もあふれているし、この文章だって例外ではないかもしれない。

今回紹介するのは、そんな「読まれない文章」に悩む人に向けた一冊である。おもしろいのは、単なるテクニック集ではなく、文章の背景にある人の思考のクセや心理的なハードルに焦点を当てている点である。

「忙しい現代人に、どうすれば読んでもらえるのか」――その問いに真正面から取り組んでいる。

忙しい人に読んでもらえる文章術】(トッド・ロジャーズ,ジェシカ・ラスキー=フィンク 著/千葉敏生 訳)

トッド・ロジャース

ハーバード大学ケネディスクール教授。行動科学を専門とし、人の意思決定やコミュニケーションの改善に関する研究を行う。ウィリアムズ大学卒業後、ハーバード大学で博士号取得。公共政策や教育分野で実証研究を行うほか、「Analyst Institute」の共同創設者として行動科学の社会実装を進めている。

ジェシカ・ラスキー=フィンク

ハーバード大学ケネディスクールの「The People Lab」研究ディレクター。行動経済学を基盤に、公共政策・社会制度の利用促進や負担軽減のための実験研究を行う。カリフォルニア大学バークレー校で博士号取得。政策現場に行動科学を取り入れる研究で知られる。

千葉敏生

翻訳家。1979年神奈川県生まれ。早稲田大学理工学部卒業後、翻訳会社勤務を経て独立。ビジネス書・科学書・思想書など幅広い分野を手がけ、『反脆弱性』『スイッチ!』などの訳書で知られる。原文の意図を丁寧に伝える緻密な翻訳に定評がある。

読まれるための“4つの関門”

忙しい人に文章を読んでもらえない理由はさまざまだが、本書によると、それは次の4つの“関門”に整理できるという。

  1. 「読むかどうか」の関門:メッセージを読むかどうかを決める。
  2. 「後回し」の関門:読むと決めた場合、いつ読むかを決める。後回しにすることもある。
  3. 「しっかり読むかどうか」の関門:実際にメッセージを読むとき、どのくらいの時間と注意を費やすのかを決める。
  4. 「対応するかどうか」の関門:対応が必要なメッセージの場合、対応や行動を取るかどうかを決める。

「読むかどうか」の関門

サブスクで映画を選ぶとき、ほとんどの人は「最適な映画」を探そうとはしない。少し探して「これでいいか」と思えるもの、つまり“十分に満足できそうな最初の選択肢”を選ぶ

ここで重要なのは、あなた自身の経験則だ。紹介文をざっと見て、「なんとなく面白そう」と感じるかどうか。それが判断の分かれ目になる。

文章も同じである。大量の映画から「面白そう」と思わせるのも、無数のメールから「読みたい」と思わせるのも、相手の直感に訴えかける必要がある。人は“見かけ”で全体を推測するもので、その見かけがわかりにくいと、読む前に離脱されてしまう。ジャケ買いされる商品は、中身が優れているからではなく、「中身がよさそうに見える」から選ばれるのだ。

「後回し」の関門

あなたにとって「観たい映画」と「観るべき映画」があるとして、どちらを先に観るだろうか。

多くの人にとって、それは「観たい映画」である。理由は単純で、観るのが簡単だからだ。そしてこの原理は文章にもあてはまる。

読むのが簡単な文章は、先に読まれやすい。たとえそれが“読むべき”内容でなくてもだ。忙しい人が、手軽に読めそうなメールから処理を始めるのはこのためである。逆に、複雑そうなLINEや説明の多い文は後回しにされる。後回しを避けるためには、「読むハードルをいかに下げるか」という意識が欠かせない

「しっかり読むかどうか」の関門

あまり意識されないが、誰もが日常的に“流し読み”をしている

たとえば次の文章を読んでみてほしい。

ひとが じものられつを ちょっとまちがえても、
さいしょとごさいがただしければ けっこうらすすら よめてしまうのもです。

これでも意味は通じてしまうだろう。人は全体の形で理解しており、細部には意外と注意を払っていない。

国語の授業で「段落の最初の文に要旨がある」と教わったように、私たちは最初の一文から“読む価値があるか”を判断する。そして、注意が向けられるのは多くの場合、前半部分だ後半に重要な情報を置いても、注意力の低下によって読み飛ばされてしまう。読まれるためには、構成そのものに戦略が必要なのだ。

「対応するかどうか」の関門

たとえしっかり読んでもらえたとしても、行動してもらえるとは限らない。相手が動かない理由は、主に次の3つである。

  • 内容が理解できない
  • 重要だと思えない
  • 面倒に感じて先延ばしする

つまり、難解な文章は理解されず、他人ごとにされ、そして忘れられる。対応してもらえる文章は、読まれる文章と表裏一体である。相手がどんな段階で離脱しやすいのかを意識できれば、コミュニケーションは驚くほどスムーズに進む。

「短い」とはどういうことか

結論、相手に読んでもらえる文章とは、簡潔な文章、つまり短い文章である。

こんなことは誰しもわかっていることだが、改めてこの「短い」について考えてみる。

そもそも、読んでもらいやすい

メールを開いたシーンを想像してほしい。

何度もスクロールが必要そうなメールと、数行だけで完結しているメールを比較すると、前者は直感的に「これは後で時間をつくって読もう」と身構えてしまう。タイトルや冒頭の数行から「すぐに読まなくてもよさそう」と感じさせる雰囲気が出ていればなおさらである。

一方、数行の端的なメールであれば、その場で確認してもらいやすい。読む煩わしさがないからである。情報の重要度が相対的に低くても、タスクをポンポンこなせるものや、すぐに対応できそうなものには、人は自然と反応する。

何をすれば良いかがわかりやすい

改正案に対して賛成の意思をお持ちであっても、その賛意がすでに十分に共有されているとお考えの場合には、必ずしも投票という形で意思表示を行わないことが、賛成の立場を損なうものとは限りません。

あなたが賛成派の場合、あなたは投票すべきなのだろうか。「賛成派の方は、ぜひ投票をお願いします!(または、お控えください!)」と書かれていれば、受け手は迷わず行動できる。文章は短く、明確であるほど、行動への誘導力が高まる。「バナナ、牛乳」と書いたメモで、仕事帰りに買ってきてもらえるコミュニケーションは、まさに短い文章の理想例である。

コミュニケーションのゴールは「持っている情報をすべて伝えること」ではなく、「行動してもらうこと」である場合が非常に多い。必要以上に情報を詰め込み混乱させるより、行動を起点に逆算して伝える方が、相手は動きやすくなる。

読み飛ばされにくい

50行の文章でも100行の文章でも、頭に残る情報は同じくらいという事実は直感的に理解できる。文章の大半は読み飛ばされるのだ。

一方、短い文章はそもそも読み飛ばすべき内容が少ない。1文1文が短く明確であれば、メッセージは確実に届く。長い文章は脳に負荷をかけ、「理解できない」「前半の内容を記憶できない」といった状態を生みやすい。

どんなに頑張って書いた文章であっても読み飛ばされるのであれば、それが文学でない限り、思い切ってスリム化する。この勇気を持てるようになると、伝えたいことが自然に際立ち、相手に読まれ、行動してもらいやすくなる

読むべき理由の感じさる“自分ゴト化”

一斉送信される営業メールや、社内全員宛の連絡メールに対して、「これは自分用ではないな」とスルーした経験は誰にでもあるだろう。

人は多くの場合、「自分には関係がない」と感じたものには興味を示さない。そして文章も同じである。文章においては、「読むべき理由が感じられるか」と「本当に読むべき文章かどうか」は別の軸で考える必要がある。最初の段階で読むべき理由を感じてもらえなければ、重要な文章であっても届きにくいのだ

ここでは、「これは読まなくては!」と感じさせる文章のコツを2つ紹介する。

読み手にとっての「読む価値」を最大化する

たとえば次のようなメールを比較してみよう。

  • 自然保護をするための、ボランティアに参加しよう
  • 無料イベントに参加しませんか?

後者の方が、自分にとって価値があると感じられる。工夫としては、単語を変えたり呼びかけ形式にして「個人的な影響がある」ことを訴求しただけだ。しかし開封したくなる度合いは明らかに異なる。

ちょっとした工夫で自分ゴト化してもらえると、その文章は読まれやすくなる。読者が自分に関係のある内容だと直感的に理解すれば、最初のスクロールの瞬間にスルーされず、行動につながる可能性が高まるのだ。

「どういう人に読んでほしいか」を強調する

例を見てみよう。

  • お知らせ:重要な製品回収情報
  • お知らせ:6月に〇〇〇を購入されたお客様に、商品回収のお願いです

後者の方が、伝えたいメッセージが明確である。

多くの人に送るメッセージでは、多様なペルソナに届かせたいと考えることもある。しかし、読んでもらえる文章は「自分には関係がある」と読者に思わせることができた文章だけである人は、自分のようなペルソナに焦点を当てられていることを意識して初めて、文章に目を通す

今回のように、「多くの人に届いてほしいが、実際にじっくり読んでほしいペルソナは一部」といった場合もある。SNSやWebマーケティングでも同様だ。この場合も、読んでほしいターゲットを明確に伝えることで、最終的には行動や購買につながる。

不特定多数の1人ではなく、選ばれたペルソナに属するあなたに届ける。この意識を持つことで、文章は鋭さを増し、読者に届く文章へと変わるのだ。

読んでもらえる文章を意識する

文章は誰のために書かれているのか。自己満足で書いた文章は、いくら内容が優れていても届かない。読みやすい文章は、相手が読んで行動しやすいように設計された文章である。

重要な情報は前半に置き、短く簡潔に伝える。さらに、読者に「自分ゴト化」してもらえるよう、価値のある情報とターゲットを明確に示す。これにより、自然に反応してもらえる文章になる。

文章の目的は情報をすべて伝えることではなく、「読んでもらうこと」と「動いてもらうこと」にある。まずは、短く簡潔に書くことと、誰に向けて書いているかを意識することから始めよう。日常のメールやメモも、相手に届き、行動を促すコミュニケーションへと変わるのだ。

参考記事

文章を短くするために

伝える言葉を紡ぐには、「覚悟」が必要です。

意外と知らない“箇条書き”のルール

箇条書きにも上手い・下手があるってご存知ですか。

まとめる力の磨き方

「なにを伝えるべきか」を精査するために、要約力を鍛えましょう。

コメント

タイトルとURLをコピーしました