あなたの可能性を引き出し、物事を前に進める「相談」の力

仕事術・生産性向上
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はじめに — 読む前に押さえておきたいこと

あなたはこんな悩みを抱えていないだろうか?

・仕事でやりたいことやアイデアはあるのに、次に何をすればいいかわからない
・考え抜いたつもりでも、結果が思った通りにならず行き詰まってしまう
・相談するべきだとわかっていても、どう切り出せばよいか迷ってしまう

こうした悩みは、単に「相談する勇気がない」「人に頼るのが苦手」といった個人の性格の問題ではなく、そもそも「相談の正しいやり方」を理解できていないことに原因がある。

本書が示すこと(著者の主張)

相談とは、単に人に助けを求める行為ではなく、自分の見立てや仮説を検証し、計画を前に進めるための手段である。「見立て」→「仮説」→「計画」というプロセスを行き来する中で、第三者の視点を取り入れることで独りよがりを修正し、より正しい方向に物事を進めることができる。

相談は目的ではなく手段であり、目的は常に「物事を前に進めること」にある。相談によって、自分だけでは到達できない領域に踏み込むことができ、可能性を最大限に引き出すことができるのである。

本書を読んで感じたこと(私見)

私自身、普段から「困ったら相談しよう」と思っていても、知らず知らずのうちに独りで考え込んでしまうことが多いと気づかされた。相談は誰かに背中を押してもらうことではなく、自分の考えを検証し、次の一手を明確にするためのプロセスである。

特に印象的だったのは、「相談は自分の可能性を広げる手段である」という考え方だ。一人で行き詰まった状況も、第三者の知恵を取り入れることで新しい展開が生まれる。この視点は、仕事における意思決定やチームでの協働においても大きな示唆を与えてくれる。

行き詰まったとき、どうするか

「やり方がわからず困ったなぁ。」

「次に何をすればいいんだっけ?」

「何だか思った通りにうまくいかないな…」

仕事をしていると、こうした感覚に直面するのは珍しいことではない。アイデアはあっても実現方法が見えない。できることは試したのに次の一手が浮かばない。考え抜いたはずなのに結果が伴わない。真剣に取り組むほど、こうした壁は避けられないものだ。

では、そんなときどうするだろうか。多くの人が「誰かに相談する」という行動を選ぶはずだ。相談は特別な行為ではなく、日常の中で誰もが繰り返し行っていることだろう。しかし、その結果が「相談して良かった」となることもあれば、「あまり意味がなかった」と感じることもある。

つまり多くの場合、私たちは「正しい相談の仕方」を知らないのである。今回取り上げたいのは、その“相談”を改めて考え直すきっかけとなる一冊だ。

相談する力――一人の限界を超えるビジネススキル】(山中哲男 著)

山中哲男

日本を拠点に活動する事業創造家であり経営者。1982年に兵庫県で生まれ、大手電機メーカー勤務を経て、2003年に飲食店を起業。2008年には新規事業開発を支援する会社トイトマを設立し、代表取締役に就任した。その後はハワイで日本企業の海外進出やM&Aを支援し、丸亀製麺の海外展開にも関わった。

2019年にはNECキャピタルソリューションとともに株式会社クラフィットを創業し、現在も代表取締役社長を務めている。複数企業の社外取締役やiU情報経営イノベーション専門職大学の教員としても活動し、幅広い分野で事業創造に携わってきた。日本経済新聞やフォーブス・ジャパンなどにも紹介され、「事業の裏側を動かすコンサルタント」として信頼を得ている。

見立てから計画へ──相談が果たす役割

人に相談すると、何が起こるのか。まずはその仕組みを見ていきたい。

相談には「見立て」→「仮説」→「計画」という段階がある。アイデアを考えるとき、最初は自分の頭の中だけで「こうすればうまくいくかもしれない」と思い描く。たとえば飲食店を出す際、「フルリフォームより居抜き物件の方がコストを抑えられそうだ」と考えるのがその例だ。しかしこれは、他者の視点を通していない未検証の思いつきに過ぎず、この段階が「見立て」である

見立ては往々にして甘い。地域によって居抜きのコストメリットは異なるし、店のコンセプトによってはフルリフォームが適することもある。さらに「居抜きに決めたものの、その後どう進めればよいか」と行き詰まるのもこの段階の特徴だ。

そこで必要となるのが「相談」である相談とは、自分の見立てを相手に伝え、検証を加える行為だ。具体的には「目的」「顧客」「商品・サービス設計」「マーケティング」「制約」の5つの要素を共有し、相手の目で確かめてもらう。たとえば「この店の目的は何か」「お客に何を提供するのか」「どんな制約があるのか」といった問いを通して、見立ては「仮説」へと変わっていく。

ただし、仮説の段階でも課題は残る。要素ごとに正しくても、全体として一貫性を欠くことがあるからだ。たとえば「落ち着いた空間を提供したい」という目的と、「若者をターゲットにSNSで拡散する」という戦略は、同時に成立しにくい。本人が情熱を注ぐほど、この矛盾に気づけないことも多い。

だからこそ、ここでも相談が欠かせない第三者の視点を通すことで、要素同士のつながりが検証され、初めて「計画」と呼べる状態になる。計画に至れば、実行の筋道が立ち、次に何をすべきかが明確になる。

もっとも、計画通りに進めても「やってみたらうまくいかない」「初めて気づいた課題が出た」ということは必ず起こるそのとき再び必要なのも相談である。つまり、事業やアイデアを前に進めるためには「見立て」から「仮説」、そして「計画」へと行き来し続けることが重要であり、そのプロセスを支えるのが相談なのだ

相談は「物事を前に進めるための手段」である

相談によって「見立て」から「仮説」、「計画」へと行き来すること。これは言い換えれば「物事を前に進めること」である。相談は目的ではなく手段であり、目的は常に物事を前に進めることにある。相談そのものが目的化してしまっては本末転倒だ。

自分のアイデアにツッコミを入れられるのは、多くの人にとって心地よいものではない。言い換えれば「間違っている」と否定される体験だからだ。しかし、それは「独りよがりな見立てや仮説を修正し、より正しい方向に進む」ためのプロセスでもある相談によって当初の想定と異なる方向に進んでも、それが前進であるならば意味がある

相談のゴールは、共感や賛同を得て安心することではない。自分のアイデアを実際に前へと進めることこそが本質である。「何のために相談するのか」「相談を通じてどうしたいのか」という問いを常に持ち続けることで、相談を正しく活用できるようになる

事業は一人だけのゲームではない

「見立て」から「仮説」、「計画」へと行き来するプロセスは、一人だけでは決して完結しない。裏を返せば、相談することで一人では到達できない領域に踏み込めるということだ

著者が示す「何のために相談するのか」という答えは、自分の可能性を最大限に引き出すことにあるアイデアを出し、それを磨き上げ、実践する。この繰り返しは自分自身で担うべきだが、その過程を一人きりで背負う必要はない

人から教わり、助けを借りて成果を出すことは、決して卑怯なことではない。むしろ当然の営みであり、誇ってよいことである。人には得意不得意があり、苦手な領域を相談によって補うのは自然なことだ。そして多くの場合、相談を受ける側にも学びや利益がある。

忙しい職場で相談することをためらう人もいるだろう。しかし、それが「一人ではできないことを実現するための相談」であるならば、最終的には組織全体にとって利益となる。事業やアイデアを前に進めるために、ぜひ周囲の力を積極的に借りてみてほしい。

相談を武器にして、前へ進む

これまで見てきたように、相談は単なる会話や助けを求める行為ではない行き詰まった状況を打開し、見立てを仮説へ、仮説を計画へと発展させ、物事を前に進めるための強力な手段である

相談の本質は、自分の限界を補い、可能性を広げることにある。ときに耳の痛い指摘を受けることもあるが、それは方向修正のために必要なプロセスだ。共感や安心を得ることを目的にせず、「どうすれば前へ進めるか」という視点を持つことが重要である。

事業やビジネスは一人だけのゲームではない。相談を通して他者の知恵や経験を取り込み、互いに利益を得ながら進んでいく営みだ。だからこそ、相談はためらうものではなく、堂々と活用すべき武器である。

あなたが次に壁にぶつかったとき、相談することで新しい一歩が開けるかもしれない。その一歩は、あなた自身だけでなく、組織や周囲をも前へと動かしていくだろう。

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