はじめに — 読む前に押さえておきたいこと
あなたはこんな悩みを抱えていないだろうか?
・毎年のように季節の変わり目で体調を崩してしまう
・なんとなく不調が続いているのに、原因がよくわからない
・ストレスや不安が体調に影響している気はするが、どう対策すればいいか曖昧なままだ
体調は誰にとっても身近なテーマだが、その仕組みを知ろうとする人は意外と少ない。なんとなくの自己流で対処したり、体調が悪くなってから慌てて薬を飲んだりするだけで済ませている人も多いのではないだろうか。
本書が示すこと(著者の主張)
・体調不良の多くは「炎症」と「不安」という2つの要因に整理できる
・この2つの連鎖を断つために、時間の心理的距離を縮めるという方法が役立つ
・体調は感覚だけでなく、科学的な知識とロジックで整えられる
著者は、体調という曖昧なものを進化医学や心理学の知見から具体的に解きほぐし、誰でも実践できる形で紹介している。
本書を読んで感じたこと(私見)
体調の悩みは複雑で自分ではどうしようもないと思いがちだが、少しの知識と考え方の工夫で、無理なく整えられる部分があることに気づかされた。
体調を知ることは、自分を知ることでもある。無理なくできることからでもいいので、何か一つでも試してみるきっかけとして、この本を手に取ってみてほしい。
意外と知らない!誰でもできる『体調管理』のコツ
すっかり夏バテの季節である。数か月前までは花粉に悩まされ、少し前までは梅雨の気圧で頭痛に苦しんでいた人も多いだろう。そして暑さに耐えながら数か月過ごすと、いつの間にか寒さが訪れ、「風邪を引かないように」と言われる季節がやってくる。
このように、季節や気温の変化はもちろん、ストレスや睡眠時間の長さによっても体調は大きく左右される。自分がその変化にどれほど敏感かは人それぞれだが、体調がずっと同じ調子という人はいないはずだ。
このように日常と切り離せない「体調」だが、意外と仕組みについては知らないことが多いのではないだろうか。なんとなく自分に合うストレス発散法や生活習慣を身につけてはいても、身体のしくみを踏まえて体調を考える機会は少ない。
そんな「体調」について、わかりやすく学べるのが今回紹介する一冊だ。
【最高の体調 進化医学のアプローチで、過去最高のコンディションを実現する方法】(鈴木祐 著)
鈴木祐
サイエンスライター。早稲田大学卒業後、米国で科学ジャーナリズムを学び、世界中の最新の論文や研究成果をもとに、人間の健康・心理・行動に関する知見をわかりやすく発信している。著書に『最高の体調』『科学的な適職』など多数。
不調の正体は『炎症』と『不安』だった
あなたの不調の原因は何だろうか。
こう問われれば、人によって答えは様々だろう。
しかし著者によれば、不調の原因は大きく分けて「炎症」と「不安」の二つに整理できるという。
炎症とは「有害な刺激に対して免疫システムが働き、修復しようとすること」である。皮膚や喉が炎症を起こしているのは、異常事態(≒有害な刺激)に対し、元に戻ろうとする反応が起きている状態だ。
花粉症などはイメージしやすいが、いわゆるメタボも炎症の一種である。肥大化した脂肪細胞が元に戻ろうとする際、血管などに悪影響を及ぼすが、これを「有害な刺激に対する修復の過程で悪影響が生じている」と捉えられる。
一方、不安はわかりやすい。「将来の不確実な事象に対し、恐れや心配などの感情を抱いてしまうこと」である。誰しも心配事があると本調子が出ないのは当然で、翌日に大事なプレゼンや面接を控えていると、寝つきが悪くなったり、胃がキリキリして食欲がなくなったりすることは多いはずだ。
この炎症と不安だが、実は密接に関係している。しかし、そのつながりは一見するとわかりにくい。
風邪をひいたときに、なんとなく気分が落ち込み不安になるのは、炎症が不安を引き起こしている例である。逆に、人前で発表しなければならない状況を憂うつに感じていると、いつの間にか胃が痛くなるのは、不安が炎症を引き起こしている場合と言えよう。
つまり、心と体は切り離せず、炎症と不安が互いに影響を与え合っているのだ。
不安も炎症も防ぐ『時間の心理的距離』とは?
つまり、炎症や不安を取り除き、予防することができれば、体調は改善する。本書ではその方法も示されているが、カギとなるのが「時間の心理的距離」である。
あなたが弁護士を目指しているとする。
「弁護士試験に合格するために勉強する」と「弱い立場の人を救うという価値観に従って勉強する」という場合、どちらが不安を軽減できるだろうか。
答えは後者だ。なぜなら、「将来に対する曖昧さが少ないから」である。
「試験に合格するかどうか」は将来の話であり、自分ではコントロールできない部分も多い。一方で、「弱い立場の人を救うという価値観に従うこと」は今の話であり、自分で選択できる。つまり後者のほうが、「時間の心理的距離」が小さいと言える。
人間は短期的なストレスには強いが、慢性的なストレスには弱い生き物だ。「今日一日とてもつらいこと」よりも、「この先一週間なんとなくつらい」ほうが、より負担に感じるものである。だからこそ、対象に対する時間的距離を縮め、曖昧さをなくしていくことが、体調を整えるポイントになる。
勉強のストレスだけでなく、ダイエットにも応用できる。数か月後の曖昧な目標体重を意識するよりも、明日の食事量や運動メニュー、ダイエット後にどのように過ごすかを具体的に考えるほうが、時間の心理的距離が小さくなり続けやすい。
「将来の社内評価を上げるために気を使い続ける」より、「相手と今日の会話を気持ちよく終わらせることに集中する」ほうが、ストレスを和らげ、不安を抑えることができるはずだ。このように、炎症と不安は、時間の心理的距離を意識することで連鎖を断つことができる。
日々の小さな選択で「時間の距離」を近づけることが、結局は体調を守ることにつながるのだ。
『病は気から』を科学的に読み解く
不調の原因は炎症と不安であり、それを和らげる方法は時間の心理的距離を縮めることだ。これが正しいのであれば、「病は気から」ということわざは意外と的を射ているのではないだろうか。
特に、不安の解消には効果が大きい。
先ほど述べた通り、花粉症は炎症の側面が強い不調の一つであり、気の持ちようでは症状が大きく変わることはない。実際にどれだけ花粉が飛んでいるか、どの環境に身を置いているかで、症状の程度は決まってしまう。
一方で、不安の側面が強い症状や、ダイエットなどの行動には、時間の心理的距離の短縮が大きな影響を与える。「何が起こったか」ではなく、「それをどう感じたか」によって、心身の負担の大きさは変わってくる。これこそが「病は気から」という言葉が示す本質である。
「病は気から」という言葉には、「弱っているのは気の持ちようのせいだ」という厳しさが含まれている。一方で、「気の持ちよう次第で、少しでも楽になることができる」という前向きな意味も確かに含まれている。都合の良い解釈かもしれないが、この後者の考え方を取り入れることで救われる人は多いはずだ。
そして、その導きと「気の持ちようを整える具体的なヒント」を客観的に示してくれるのが、この本の大きな価値である。
体調を知ることは、自分を知ること
体調は誰にとっても身近なテーマでありながら、意外と深く考えることは少ない。けれど、少しだけ立ち止まってみると、不調には理由があり、解決にはロジックがあることに気づく。
不調の原因である炎症と不安の連鎖を断つために、「時間の心理的距離を縮める」という方法は、誰でも日々の選択に取り入れられるものだ。
「病は気から」という言葉が示すように、気の持ちようだけではどうにもならないこともある。
しかし、知ることで整えられる部分も確かにある。
何かを変えてみるきっかけとして、この本を手に取ってみてほしい。
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