「ここだけはおさえて」ポイント
この本が届く人・届いてほしい人
「変わりたいのに、いつも途中で挫折してしまう」 「頭ではわかっているのに、行動に移せない」 「何度も挑戦してきたけれど、どうしても変われない自分にうんざり」
そんなふうに、矛盾を解消できない自分を責めることに疲れたあなたにこそ、この本は届いてほしい。
この本が届けたい問い/メッセージ
「なぜやめられないのか?」「なぜ始められないのか?」その理由が、自分の中にちゃんとあることを、この本は教えてくれる。
行動のジレンマを乗り越えるには、自己理解が不可欠だ。なぜできないのか、なぜやめられないのか、その背景にある構造を理解し、主体的に向き合うことが、変化への第一歩になる。
読み終えた今、胸に残ったこと
「変わらないのは意志が弱いから」ではなく、「変わらないことで得ている無自覚なメリットがあるから」と説明されると、不思議と納得がいく。
その前提を踏まえたうえで、「それでも変わるにはどうすればいいか」が具体的に示されているのが、この本のいちばんの魅力である。あなたもきっと、今までの自分を受け入れた上で、新しい選択肢を見つける力が湧いてくるはず。
変わりたいのに動けないあなたへ
- いい人を演じるやめたい。でも、いい人をやめたら、否定されてしまうかもしれない。
- 親から自立したいけど、働いて嫌なことを我慢するより、引きこもっていれば親が衣食住の面倒を見てくれる。
- 結婚したい。でも、結婚しない方が自由で幸せ。
このように、人は複雑な矛盾を抱えて生きている。今の状況と、理想とする別の状況を行き来しながら、どちらにも決めきれない。結果として、多くの場合、変化することができないまま過ごしてしまう。
こうした葛藤は、ただの「面倒くさい」のレベルではない。たとえば、「家に食べ物がないが、コンビニに行くのが面倒」といった日常的な迷いとは異なり、人生そのものを揺るがすような真剣な悩みであることが多い。
今回は、そんな「変わりたいのに変われない」自分に、誠実に向き合うための一冊を紹介する。
【自分を縛る“禁止令”を解く方法 見えない「利得」に気づくと、すべての問題は解決する】(大鶴和江・著)
大鶴和江
心理セラピストおよびリトリーブサイコセラピストとして活動。一般社団法人日本リトリーブセラピー協会の代表理事であり、株式会社ユアエクセレンスの代表取締役も務める。大阪生まれの大分育ちで、6歳から児童養護施設で育つという幼少期の体験を持ち、その経験が後の心理セラピストとしての活動に影響を与えている。
2005年に心理セラピストとして起業し、独自の心理療法「リトリーブサイコセラピー」を開発。現在は心理セラピースクールの講師としても活動しており、YouTubeチャンネル「カズ姐さんの深くて面白い心理学」では、心の仕組みをわかりやすく解説している。
この矛盾、なんとなく「精神的な弱さのせい」と片づけてしまっていないだろうか。しかし、この考え方では本質的な解決は難しい。まずは、変われない理由について考えてみる。
それでも変われないのは、得しているから
痩せたいと思っているのに、なぜいつも食べ過ぎてしまうのか。その理由は単純である。食べ過ぎることに、本人にとってのメリットがあるからだ。
たとえば、好きなものを満腹になるまで食べるのは幸福感をもたらす。食べることはストレス解消にもなり、嫌な気持ちを一時的に忘れさせてくれる。つまり、食べ過ぎる行動には、明確な「利得(得られる利益)」がある。
このように、「問題を抱えたままでいること」にも、それなりの意味や価値がある。痩せないままでいることには、痩せた先の未来よりも今の方が「得」と感じられる何かがあるのだ。
しかし、変われない理由はそれだけではない。人は「変化にともなう不快」を避けようとする生き物でもある。たとえば、「空腹を我慢するのがつらい」「運動が面倒だ」という感情に直面したとき、それらの不快を回避する力が働く。
このとき、私たちは無意識のうちに「禁止令」を発動させる。たとえば、「私は我慢が苦手だから」「私は継続できないタイプだから」といった自己イメージを使って、変化を封じるのだ。
この禁止令を守り続けることで、今ある利得を手放さずに済む。言い換えれば、変われないという状態そのものが、自分を守る「戦略」として機能しているのである。
したがって、あなたが変われないのは、単なる意志の弱さのせいではない。変わらないことで得られるものを、無意識に守っているからである。
あなたを縛る言葉は、最初は親の声だった
たとえば、こんな場面を想像してほしい。砂場で遊ぶ子どもに、母親が「おいで」と呼びかける。子どもはその声に嬉しそうに反応し、母親のもとへ駆け寄る。しかし、いざ抱きつこうとした瞬間、「汚い手で触らないで」と拒絶されてしまう。
もしかすると、母親は「手を洗ってから抱っこしよう」と思っていたのかもしれない。しかし子どもにとっては、「呼ばれたのに、近づいたら拒絶された」という印象だけが刻まれる。
こうした経験が繰り返されると、子どもはある学習をする。「呼ばれたから行かなければ叱られる。でも、行けば拒絶される。どちらを選んでも傷つくだけなら、もう信じない方がいい」と。
このように、相反するメッセージが積み重なると、人は“動かない”ことを選ぶようになる。たとえば、「愛する人と親密になりたいけれど、どうせ見捨てられるに違いない。だから、初めから距離を置いた方がいい」といった信念も、こうして形成されていく。
特に幼少期の子どもにとって、親の言動は絶対的である。その影響は大人になっても続き、自分の価値観や行動を無意識のうちに縛り続ける。
だからこそ、今ある利得を手放し、禁止令を破っていくためには、まず「あなたがどんなメッセージを幼少期に受け取ってきたのか」に目を向ける必要がある。
変化は「選ぶこと」から始まる
では、どうすれば自分を変えることができるのか。
著者の答えは明快である。「本人が、解決すると決めない限り、変わることはできない」。
たとえば、親から自立できない人は、「依存することで生きてこられた」という利得を得ている。その人にとっては、「依存をやめたら生きていけない」という禁止令が強く働いているのだ。この禁止令を解除するためには、恐怖に正面から向き合う必要がある。たとえカウンセラーやセラピストに苦しみだけを取り除いてもらっても、依存の構造が変わらなければ、新たな依存先が増えるだけである。
ここで重要なのは、利得を手放すときに湧き上がる“嫌な感情”を否定しないことだ。それはダメなものではなく、過去のあなたにとって必要で合理的だった感情である。それを認識したうえで、こう問いかけてみてほしい。
私はこの先、どう生きていきたいのか?
利得を握りしめたまま、このままの自分でいたら、どうなるのか?
何が怖くて、どんな感情を避けてきたのか?
これらの問いを、自分に繰り返し投げかけることで、「リスクを取る勇気」や「困難を乗り越える勇気」が少しずつ育っていく。禁止令や利得に引きずられるのではなく、「変わった後の自分」に目を向けられるようになる。その変化をどう実現するか、具体的に考えられるようになるのだ。
つまり、「今の自分を否定するのではなく、変わった後の自分を選ぶ」ことが可能になる。あなたは悪くない。ただ、あなたの中には“素晴らしい部分”と同じくらい、“そうでない部分”もある。だからこそ、どちらも抱えながら、それでも変わることを“選ぶ”ことが大切である。
その選択こそが、変化への力となり、あなたの背中を押してくれるのだ。
まとめ – 「なぜ」にとどまり、「それでも」を選ぶ
まずは、「変われない自分」を否定しないこと。人は誰しも、変われないなりの理由を抱えている。その背景には、利得があり、禁止令があり、過去の経験がある。だからこそ、今の自分を受け入れることから始めてほしい。
そのうえで、変わるかどうかを“自分で”選ぶことが重要だ。他人が変えてくれるのを待つのではなく、自分の意志で選び取る。この選択こそが、あなたを少しずつ、でも確実に前へと進めてくれる。
なぜ、自分はうまく人に頼れないのか。なぜ、自分ばかりが我慢しているように感じるのか。なぜ、何かを始めようとしても、どこかで止まってしまうのか。
そうした「なぜ」の背景には、必ず“理由”がある。そして、その理由を知ったとき、人は初めて「選び直す力」を手に入れられる。変わることは、怖い。でも、変わらないままでいることも、また怖い。だからこそ、変化を選ぶあなたにこそ、読んでほしい1冊である。
答えを教えてくれる本ではない。だが、自分の「答えの見つけ方」を教えてくれる1冊。ぜひ一読してみてはいかがだろう。
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