「ここだけはおさえて」ポイント
どんな人にオススメの1冊?
🔹現代社会に適応しきれず、自分を弱いと感じている人
- 社会や仕事の競争に追いつけないと感じている
- 自分の強みが何か分からず、焦りを感じることが多い
- 市場価値や外部評価に強く影響される一方で、内面的な幸せや価値を実感したいと願っている
🔹現状に満足していないけれど、変わり方がわからない人
- 現在の自分の生き方に違和感を感じているが、どこから手を付けていいかがわからない
- 将来に対して漠然とした不安があり、変化に向けた具体的なステップを模索している
- 目の前の仕事や人間関係に埋もれがちで、個人の成長や社会における役割をどう活かすかが課題
🔹自分の力で人生を切り開きたいと思っている人
- 周囲の期待や社会の圧力に対して反発を感じる一方で、自分自身の力で変化を遂げたいと考えている
- 見えないプレッシャーに押されながらも、自分らしい人生を歩む方法を模索している
- 自己肯定感を高めるために、内面的な成長やスキルアップを望んでいる
ポイント①:現代社会における「弱さ」の本質を理解することが、前向きな変化への第一歩
「弱さ」を正しく理解することは、自分自身がどのようにこの社会で生き抜いていくかを考える上で重要な出発点となる。社会の仕組みが与える影響を知り、自己理解を深めることで、現代社会の中で前向きに自分の道を切り開いていくための強さを見つけることができる。
ポイント②:競争と文化の影響を理解することが、現代社会での「弱さ」を乗り越えるために必要な視点
現代社会で感じる「弱さ」は、個人の思考だけに起因するものではない。資本主義経済における競争や、日本社会における効率重視の文化が、私たちに「強くなければならない」と強く感じさせる要因となっている。これを理解することで、現代社会での自分の立ち位置を見直し、感じている「弱さ」に対して違った視点を持つことができる。
ポイント③:競争に依存しない自分の価値を見つけることで、社会の枠を超えた「幸せ」を実感する
現代社会で求められる市場価値や競争に追いつくことだけが、人生の幸せに繋がるわけではない。社会的な成功が自分の全てを決めるものだという考えを手放し、自分だけの「偏愛」を育てることで、競争から解放され、他者との比較に囚われることなく自分らしい幸せを実感できるようになる。
オススメ度:★★★★★
現代人が抱える「弱さ」に真正面から向き合い、深く掘り下げた1冊。カウンセラーやセラピストの視点ではなく、ビジネスパーソンでありながら鬱病を経験した著者の視点から描かれているため、対話を通じて知見を得るという形式ではなく、共感をもって学べる構成となっている。仕事というフィールドで焦りを感じているすべての人におすすめしたい1冊。
「強さ」は誰が決めるのか?
「強い人」と聞いて、どんな人物を思い浮かべるだろうか。多くの人がイメージするのは、喧嘩が強い人ではない。ビジネスの世界で結果を出している人、つまり「仕事ができる人」ではないだろうか。
SNSが当たり前になった今、誰でも簡単に「強い人」の発信を目にすることができる。そうした人たちは、時代を先読みして動き、周囲に影響を与える存在である。個人でも勝てる時代だからこそ、その姿に憧れを抱く人も多い。
一方で、それは比較の入り口でもある。同じコミュニティにいなくても、自分よりずっと成果を出している人が見えてしまう。そのギャップに気づき、自分を「弱い」と感じてしまうのが、現代的な「弱さ」の一つのかたちだ。
今回は、そうした「弱さ」が何によって生まれ、なぜそれが苦しみにつながるのかを考えていく。
【強いビジネスパーソンを目指して鬱になった僕の 弱さ考】(井上慎平・著)
井上慎平
1988年生まれの編集者。京都大学総合人間学部を卒業後、2011年にディスカヴァー・トゥエンティワンに入社し、書店営業や広報を経て編集者となった。その後、2017年にダイヤモンド社に移籍し、数々のベストセラーを手掛ける。2019年には、ソーシャル経済メディア「NewsPicks」の出版部門であるNewsPicksパブリッシングを立ち上げ、編集長に就任。
担当した代表的な書籍には、中室牧子氏の『「学力」の経済学』、北野唯我氏の『転職の思考法』などがある。
「成長しない」は、本当にいけないことか?
たとえば、足が速いこと。これは陸上競技の世界では明らかな「強さ」である。ただし、一般的な社会人にとって、走る速さが人生に大きな影響を与えることは少ない。日常生活でそれを求められる場面は、ほとんどない。
じゃあ、多くの人が感じている「弱さ」ってなに?
ビジネスの世界には求められる「強さ」がある。中でもよく言われるのが「成長し続ける力」だ。変化の激しい時代においては、自己研鑽をやめないことが当然のように語られる。自分を律し、常にアップデートし続ける人間こそが理想とされている。
このとき重要なのは、「変化を歓迎し、その流れに適応できる人」が「強い」とされている点だ。だが、これも足の速さと同じで、得意・不得意がある。にもかかわらず、この「成長力」は多くの職場で当たり前のように求められ、それが苦手な人にも克服が前提とされる。
その結果、うまくいかない自分を責め、「自分は弱い」と感じてしまう。ビジネスというフィールドにおいて、ある能力において劣っていること。それが「弱さ」と見なされてしまうのが、今の社会なのだ。だが、これはあくまでも1つのフィールドにおいての話である。このフィールドにおいての「弱さ」は、本当に許容できないことなのだろうか。
なぜ「弱いこと」から降りられないのか
「もう頑張れない」と感じていても、それでもなお走らざるを得ないのは、個人の意志や性格の問題ではない。むしろ、社会の構造や文化の前提が、私たちにそうさせている面が大きい。
まずは、現在の社会の構造を「競争」と「負債」から考えてみる。
経済の仕組みから考える「弱さ」の理由
そもそもなぜ、会社は「競争」と「負債」で語ることができるのだろうか?
資本主義経済において、会社は「競争」と「負債」という二つの原理に突き動かされている。まず「競争」とは、限られた市場の中で他社より優れた商品やサービスを提供しようとする働きだ。この構造に身を置くかぎり、企業も人も、立ち止まることを許されない。
しかし、競争に勝つには資金が必要だ。そこで多くの企業は、投資や借入という形で「負債」を背負い、その資金でさらに成長を目指す。のんびりした経営では資金が足りず、競争に取り残されてしまうためだ。
理論的には、競争相手のいない「閉じた経済圏」であれば、負債に頼らず緩やかに事業を営むことも可能だ。しかし、現実には儲かる市場には必ず外部から新たな競合が現れる。そうして再び、競争と負債のループが始まる。
この構造の中で「強さ」が求められるのは必然である。強くなければ競争に負け、生き残れない。つまり、弱さにとどまること自体が、経済のルールに逆らう行為なのだ。
「弱さ」の実感には、文化的な側面も影響している
また、文化的な背景も存在する。
たとえば読書感想文に見られるように、「心の動きを言葉にする」ことは日本的なスタイルと言える。そこでは、空白や余白を大切にしながら、過去から現在への流れが描かれる。ところが現代の日本社会では、効率や成果を重視する「アメリカ的」な考え方が標準になりつつある。
目標を先に立て、その実現のために逆算して行動する。常に「なぜそれをやるのか?」と問われ、因果関係を明らかにし、論理的に成長を証明することが求められる。これは本来、日本人が得意としてきた感性や曖昧さとは異なる思考様式だ。
だからこそ、違和感を覚える人が多いのも当然だ。「自己肯定感を持て」と言われても難しいし、明確な成果を出せないと不安になる。成長を当然とする文化に馴染めず、自分を「弱い」と感じてしまうのだ。
このように、現代的な弱さは、私たち一人ひとりの問題というより、社会そのもののあり方に根差している。
それでも現代社会でなんとかやっていくために
個個人の努力だけではどうにもならない弱さがある。それでも私たちは、この社会の中でなんとかやっていくしかない。
弱さは克服できない。社会もすぐには変わらない。では、どうやって生き延びるのか?
「時代の変化を歓迎し、その流れについていける人間としてふるまうこと」。この能力は「仕事ができるか」「稼げるか」に直結する。あなたの市場価値が、この能力によって決まるのだ。
「仕事ができない」「稼げない」と感じると、自分に価値がないように思えてしまう。社会が「できるかどうか」で人を評価する限り、その価値観に縛られてしまうのだ。
しかし、この「弱さ」はあくまでもビジネスというフィールドにおいての「弱さ」である。あなたの人間的な価値が相対的に少ないことを意味しているわけではない。「市場で通用する価値」と「あなたという存在の価値」は、まったくの別物である。
そうはいうものの、簡単には「市場価値」と「自分の価値」はイコールではない、という意見を採用することは難しいのでは?
実際のところ、そうである。
だからこそ、著者は仕事以外の依存先を増やすことを薦めている。人・モノ・関係性など、広い視点で世の中を捉え直し、「仕事」以外での自分の価値を実感できる状態にするのである。
注意すべきことは普遍的な基準に価値を置かないことである。お金、能力、若さ、肩書きなど、誰でも分かる価値を採用する限り、他人と比較してしまうからだ。これらの基準を採用してしまうと嫌が上でも「上には上がいる」と実感してしまう。せっかく仕事以外で価値を感じようとしているのに、これではやはり自分の首を絞めてしまう。
競争によって実感できる価値ではなく、「あなたにしかわからない」価値を育てる。著者曰く、偏愛と呼ぶそうだ。他の人にとっては取るに足りないものだけど、あなたにとっては大切な記憶や関係性、推しなどを大切にすること。そんな宝物を増やしていくことで、競争が求められるフィールドの外で、自分自身の価値を感じることができるようになる。
人生の目的が「幸せを感じること」であるのならば、この考え方が生き方の本質なのではないか。
もし競争が前提の場所で、幸せを感じられないのならば。自分の弱さを認めながら、それでも幸せを実感できる道を探してみること。それこそが「あなたにしか歩けない生き方」なのではないか。
まとめ – あなたが幸せを感じるフィールドとは?
現代的な弱さは、「市場価値の低さ」と密接に結びついている。しかし、この弱さは単なる個人の問題だけではなく、社会全体の構造や文化的背景にも大きく影響されている。
そのため、問題は「個人の能力を克服すること」だけでなく、「社会の価値観や構造を変えること」という、二重の難しさを抱えている。それでも、私たちはこの現実を受け入れ、なんとかやりくりして生きていかなければならない。
だからこそ、仕事以外の「依存先」を大切にすることが重要だ。市場価値だけで自分の価値を測るのではなく、他のフィールドでの自分を見つけることが、あなたの本当の価値を認識する助けとなる。
一つのフィールドだけで価値を測ろうとすると、どうしてもそこで求めらる能力の良し悪しだけが正義であると感じてしまう。人生の目的が「幸せを感じること」であるならば、競争や市場での評価だけでなく、別のフィールドで自分の価値を実感し、心からの幸せを感じることこそが本当の意味での豊かさではないだろうか。
現代社会において、自分の「弱さ」に悩む多くの人々にとって、この本は心強い処方箋となるだろう。ぜひ一度手に取って、そのメッセージを受け取ってみてほしい。
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