アイデアを付加価値化する「たたき台」のつくり方

仕事術・生産性向上

「ここだけはおさえて」ポイント

どんな人にオススメの1冊?

🔹 仕事でアイデアをより良くするプロセスに悩んでいる人
 - アイデアがなかなか形にならず、他人の意見やフィードバックをうまく活かせていないと感じている
 - 自分の考えを深めたり、改善を加える方法を模索しているが、どう進めるべきか分からない

🔹 チームの中でリーダーシップを発揮したいと考えている人
 - チームのアイデアをまとめる立場にあり、フィードバックを適切に反映しながら、質の高い成果物を生み出したい
 - 仕事の中で創造的な議論を促進し、チーム全体でより良いアイデアを生み出す方法に悩んでいる

🔹 変革を求める組織の中間管理職
 - 組織の中で新しいアイデアやプロセスを取り入れようとしているが、どこから始めればよいかがわからず、足踏みしている
 - 自分のチームや組織文化を活性化させ、より革新的な環境を作り出したいと考えている

ポイント①:たたき台は、たたかれるからこそ「たたき台」である

たたき台は完成品を目指すものではなく、アイデアを修正・改善するための出発点である。最初から完璧を求めるのではなく、周囲からの意見を反映させることで、アイデアはより磨かれ、良い成果物へと進化する。たたかれることは、アイデアをより良くするために不可欠なプロセスである。

ポイント②:5つのSに則ると、良いたたき台が作れる

良いたたき台を作るためには、5つの重要な要素、すなわちスピード、シンプル、刺激、質問力、隙を意識することが必要である。これらの要素をうまく活用することで、相手からの意見や反応を引き出し、アイデアを進化させることができる。各要素は、たたき台が効果的に機能するための基盤となり、最終的により質の高い成果物を生み出すための鍵となる。

ポイント③:良いアイデアを生み出すポイントは「覚悟」「理解力」「カルチャーづくり」

良いアイデアは単に思いつきで生まれるものではない。「覚悟」を持ち、たたかれる意志がなければ、アイデアは空虚なものに終わる。「理解力」を高めることで、アイデアの本質を捉え、適切に改善できるようになる。そして、たたき台を歓迎する「カルチャーづくり」が、アイデアを育み、より良いものに進化させる。これらを意識的に組み合わせることで、アイデアの質は飛躍的に向上する。

オススメ度:★★★★☆

「つくりたくない」「部下がやる地味な作業」として敬遠されがちな「たたき台」の重要性を教えてくれる一冊。著者がコンサルタントであるため、実践的で分かりやすい内容が展開されており、ビジネスパーソンにとって非常に役立つ。多くの人にオススメできる本である。

「たたき台」は、何のためにあるのか?

仕事で「とりあえず、たたき台だけ作っておいて」と言われたことはないだろうか。
では、その「たたき台」を作る目的を正しく理解している人は、どのくらいいるのだろうか。

多くの人は、たたき台について以下のように考えている。

  • アイデアがよかったら、たたき台は必要ない
  • 完成品並みに作らなければ、意味がない
  • 完成品と異なる形式で作るのは、二度手間
  • 作るのが面倒
  • 新人が作るもの

こうしたネガティブな印象が強いのは、「たたかれる」「変更される」という心理的・物理的な負担があるからだろう。
だが、たたき台はただの下書きではない。実は、あなたのアイデアを磨き上げるための強力なツールなのである。

今回は、そんな「たたき台」の本質を理解し、仕事の質を高めるための1冊を紹介したい。

仕事がデキる人のたたき台のキホン】(田中志・著)

田中志

Cobe Associeの代表を務めるビジネスコンサルタント。​一橋大学大学院経済学研究科修士課程を修了後、ボストンコンサルティンググループ(BCG)に入社し、2015年にはヘルスケア領域で社内アワードを受賞。​その後、博報堂グループのスタートアップスタジオ・quantumやデジタルヘルススタートアップ・エンブレースの執行役員を経て、2018年にCobe Associeを創業。​また、2019年度には神戸市データサイエンティストとしても活動し、新規事業やデータ活用、ヘルスケア領域に関する講演を行っている。

たたき台は、たたかれることで価値が生まれる

あなたの意見が、修正も加えられず一発で採用された経験はあるだろうか。
おそらく、ほとんどの人が「ない」と答えるはずだ。

上司や役員の意見を踏まえ、改善を重ねる――多くのアイデアはこの過程を経て、ようやく形になる。良い成果物とは「あんな意見」「こんな批判」を受けることで磨かれていくのものである。

そう考えると、「たたき台は、たたかれてこそ価値が生まれる」ということがわかる。

最初のアイデアであるたたき台は、完璧である必要はない。むしろ、修正されることを前提に、周囲の意見を引き出す材料として提出するものだ。

もしアイデアがズレていれば、たたかれることで軌道修正できる。
もし求められているものと合致していれば、たたかれることでより完成度の高いものへと昇華する。

「たたかれること=悪いこと」というイメージは誤解だたたき台は、たたかれるためにある――この認識が、アイデアを活かす鍵となる。

良いたたき台の5つの要素とは?

良いたたき台をつくるために、本書は5つの要素を提示している。すべて頭文字が「S」から始まるため、「5S」と覚えておくと便利だ。具体的には次の5つである。

  1. スピード
  2. シンプル
  3. 刺激
  4. 質問力

これだけではイメージしづらいだろう。それぞれの要素について詳しく説明していく。

1.スピード 〜早く作り、早く叩かれる〜

前章で述べたように、たたき台は「叩かれるためのもの」である。そのため、完成度を高めるよりも「さっさと作って、さっさと叩かれる」というスタンスが大切だ。

本書では、「その日から動き始めること」「フォーマットをマネること」を推奨している。

動き始めが早ければ、改善の回数や時間を増やし、最終的な完成品の質を高められる。また、既存のフォーマットは先人の知恵が詰まった優れたものだ。形式や外見よりも中身が重要である以上、フォーマットを採用してスピーディにたたき台を完成させることが望ましい。

2.シンプル 〜情報は最小限に〜

2つ目は、シンプルにすることである。情報を詰め込みすぎると、全体を把握しづらくなり、叩かれるべきポイントが見えにくくなる。

特に、絵や図は必要以上に入れないほうがよい。文字だけで伝わるならば、省くことが推奨されている。また、文章では修飾語を最小限にすることで、より分かりやすくなる。

例えば、
30代の共稼ぎ夫婦が家事で一番減らしたいのは料理の時間(元の文)
→ 料理の時間を減らしたい30代夫婦は4割(修飾語を減らした文)

このように、無駄を省けばスッキリして理解されやすくなる。たたき台全体も同様だ。

3.刺激 〜相手に意見を促す〜

良いたたき台は、相手に「何か言いたくなる状態」を引き出すものだ。賞賛でも共感でも批判でもかまわない。大切なのは「相手の意見や望みを引き出すたたき台」である。

そのためには、こちらが明確なスタンスを取ることが効果的だ。

例えば、A案とB案を比較して顧客に提案する場合、たたき台では「A案が良い」「B案が良い」のどちらかの立場を示すべきである。意見が一致するかどうかは重要ではない。相手の反応を引き出し、そこからさらに叩いて修正していけば、より完成度の高い案に近づける。

ネガティブな意見や反対意見をもらうことは悪いことではない。良いアイデアに変化させていくために、積極的にスタンスをとり、反応を引き出していこう。

4.質問力 〜問いかけで方向性を見極める〜

正しい方向にたたき台制作を進めていくためには、適切な問いかけが重要だ。

質問力は「たたき台を作る前」「たたき台を作るとき」「たたき台を作ったあと」それぞれで求められる

たたき台を作る前の段階では「なぜそのたたき台が必要なのか?」「誰のために作るのか?」「たたき台を使う場で、相手から引き出したい反応は?」などを問いかける。前提を擦り合わせ、正しい方向性を見極めるのだ。

たたき台を作るときには、自分が思いついたことをたたき台にどんどん書き込んでいくことがポイントだ。「どんな要素でセグメントを切る?」「個人の紐づけたほうがメッセージが打ちやすい?」といったイメージだ。あなたが疑問に感じていることやわかっていないことを提示することで、相手が反応しやすくなるのだ。

たたき台をつくった後、つまり、上司などに報告する時にも質問力が求められる。ここでも自分が疑問に思ったことを質問するべきだが、具体的な質問にするとより効果的だ。「これでいいですか?」ではなく「作っているときにここで悩んだのですか、どうするべきでしょうか?」といった具合である。相手から意見を引き出し、擦り合わせていくことで、理想的な状態に近づけることができるのである。

5.隙 〜空白が相手を動かす〜

この案件で最も重要なことは○◯である。

たたき台にこんなことが書かれていて、あなたが部下から「この○○には何が入りますか?」と問われれば、あなたはどんな反応をするだろうか?

自分の考えを伝えると、たたき台はより理想形に近づいていく。「一回自分で考えてみて」と伝える場合も、部下は自分の考えやスタンスを示し、それがあなたの反応を引き出すことで、やはり結果的に完成形に近づいていく。

このように、空欄を可視化し、相手に突っ込んでもらうような隙を作ることで、たたき台がより良いものになっていく。

また「・・・」を活用することも効果的だ。「会社の最新の活動はニュース欄で報告しているだけ・・・」と記載されていると、見た側は「まだ何か課題があるんだな」と理解できる。この点に関して意見を擦り合わせることで、たたき台を磨いていくことが可能となる。

以上が良いたたき台のための5Sとなる。これらを駆使することで、相手から反応を引き出したり、自分がわからないところを明確にすることができる。5Sを駆使して、理想的なたたき台を生み出そう。

アイデアをより良いものにしていくために

アイデアをより良いものにしていくためのポイントは5Sだけではない。本書は、たたき台そのものではなく、たたき台を活かすための3つの重要なポイントも提示している。

①覚悟:たたかれることへの耐性を持つ

まず必要なのは「たたかれる覚悟」である。たたき台は意見を引き出すために存在するが、意見をもらうこと自体に心理的なハードルを感じる人も多い。

しかし、覚悟を持つために忘れてはならないのは、「たたかれるのはたたき台であり、あなた自身ではない」ということだ。自分のアイデアを一発で採用してもらうことに執着してはいけない。むしろ、たたかれることでアイデアが磨かれるのだから、意見をもらうたびに「良くなっている」と前向きに捉えたい

「失敗ではなく、成長の過程」としてたたき台を差し出せば、心理的な抵抗は次第に薄れていくだろう。

②理解力:相手の意図を正しくつかむ

次に求められるのは「アイデア力」ではなく 「理解力」 である。たたき台は試行錯誤を繰り返して完成に近づくものだから、相手の反応を的確に理解し、それを反映させることが重要だ。

仮に相手の意見を引き出せても、それを誤った解釈でたたき台に落とし込めば、進むべき方向がズレてしまう。たたき台作りに必要なのは、天才的なひらめきではなく、相手のニーズを正しくつかむ理解力なのだ。

自分の考えだけで突き進むのではなく、「他人の頭脳を活かして正しい方向へ導く」 という姿勢を持とう。それが、たたき台をより良いものにしていく鍵となる。

③カルチャーづくり:たたき台を叩ける環境を育む

先述の通り、重要なのは「たたかれるのはたたき台であり、あなた自身ではない」 という覚悟だ。そして、この心理的安全性があるからこそ、遠慮なく意見を交わし、良いアイデアへと昇華させていくことができる。この意識のもと、たたき台を活用する文化(カルチャー)が根付いている組織は、チーム全体で良い結果を生み出すことができるのだ。

また、たたき台作りは必ずしも新人だけの役割ではない。中堅やベテランが率先してたたき台を作ることで、より良いカルチャーが育まれる 彼らが「仕事はこう進めるものだ」と姿勢を示すことで、チーム全体の意識改革にもつながるのだ。

良いたたき台は、作り手だけでは完成しない。「たたき手の力」 があってこそ、アイデアは磨かれていく

まとめ – たたき台が、あなたの仕事をサポートしてくれる

たたき台は、アイデアを磨き上げるための強力なツールである。最初は完璧でなくても、フィードバックを受けて修正を重ねることで、より良いものに進化していく。叩かれることを恐れず、相手の意見を受け入れ、改善の材料として活用する姿勢が重要だ。

また、たたき台を活用するためには、覚悟を持ち、相手の意図を正確に理解する力も求められる。組織全体で「たたき台は叩かれてこそ価値が生まれる」という認識を共有し、活発に意見交換ができる文化を作ることで、アイデアはさらに進化し、チーム全体の成果へと繋がる。

このように、たたき台の本質を理解し、活かすための具体的な方法を学びたい方に非常にオススメの一冊となっている。うまく仕事に取り入れることで、あなたのアイデアを正しく磨いていくことを助けてくれるだろう。

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