「ここだけはおさえて」ポイント
どんな人にオススメの1冊?
🔹 失敗や挫折を乗り越え、自己成長したい人
- 失敗や負けを経験して落ち込んでいるが、それをどう意味づけして前進すべきかがわからない
- 成功するために必要な自分の強みや方向性を見つけられず、漠然とした不安や悩みを抱えている
🔹 自分の人生の方向性に迷いを感じている人
- 人生で何を成し遂げたいのか、どのような生き方が自分にとって最も満足できるのかが明確でない
- 社会的成功や他人の期待に応えることばかり意識してしまい、自己本位な意味づけを見失っている
🔹 心理学に興味があるが、実生活にどう活かすかがわからない人
- ユング心理学の考え方を学んでみたいが、それを実際に自分の生活にどう適用すればよいかが不明
- 心理学や自己啓発に興味があり、理論を実践に結びつける方法を探している
ポイント①:失敗や負けに意味を見出すユング心理学
ユング心理学は、失敗や敗北を単なるネガティブな出来事として捉えるのではなく、その背後にある深い意味を探る手助けをする心理学である。特に、失敗したときに立ち止まり、その経験が自分の成長にどう貢献するかを考えることが重要で、ユング心理学はその過程を支える力を持っている。
ポイント②:個性化への道を歩むための3つのステップ
個性化への道のりは、物事を単純な勝敗で判断するのではなく、失敗や敗北を自分の人生における「変化のきっかけ」として捉えることから始まる。さらに、コントロールできない事実を受け入れることで、負けを新たな意味づけに変えることができる。そして、答えを急がず、じっくり時間をかけて自分のオリジナルな意味を見つけ出すことが重要である。
ポイント③:心理学は日常に活かせる実践的な学問
ユング心理学は、学問としての難解さを感じることもあるが、実際には日常生活に役立つ実践的な部分が多い。実生活にうまく取り入れると、失敗や挫折を単なるネガティブな結果として捉えるのではなく、それを自分の人生の意味ある出来事として再解釈することができる。心理学は学者や専門家だけでなく、誰にでも有益な学問だ。
オススメ度:★★★★☆
一見ハードルが高そうに感じる「哲学」を、気負わずに触れることができる一冊であることが魅力だ。ユング哲学への理解を深めるだけでなく、「どうすれば普段の生活にそれを活用できるか」といった実践的な内容にも触れており、純粋な“読み物”以上の実用性を提供している点でもオススメできる。
失敗や敗北の「意味づけ方」を教えてくれるユング心理学
「ユング心理学」と聞いて、どんな印象を抱くだろうか。
多くの人が「何それ?」と思うかもしれない。また、ユングという名前は有名であるものの、「哲学者?」や「医者?」といったように、専門的で難しそうな学問だという印象を持つ人も多いだろう。
カール・グスタフ・ユング
スイスの精神科医であり、分析心理学の創始者として知られる人物。集合的無意識や元型(アーキタイプ)といった概念を提唱し、心理学の発展に大きく貢献した。
集合的無意識
全人類に共通する無意識の領域。個人の経験や記憶に基づく「個人的無意識」とは異なり、普遍的なイメージやテーマが含まれている。例えば、世界中の芸術作品や宗教的な像に見られるふくよかな女性像は、母性の象徴として集合的無意識が反映されている。
原型(アーキタイプ)
人類共通の無意識に存在する普遍的な心的イメージやテーマ。たとえば、「ふくよかな女性像」は、母性の象徴として人類共通の無意識に根付いたイメージである。
ユングは以下の考え方を提唱した人物である。
- 人間は、「内的」と「外的」の二つの態度に分類できる。どちらに関心を持つかで分類される
- 人間の心理機能は「思考」「感情」「感覚」「直感」の4つに分類される
「MBTI診断みたいだ」と感じる人も多いだろうが、実際その通りである。なぜなら、MBTI診断はユング心理学の考え方に基づいているからだ。
今回は、この「思いの外とっつきやすい面もある」ユング心理学に関する1冊を紹介したい。
【自分を再生させるためのユング心理学入門】(山根久美子・著)
山根久美子
東京生まれの臨床心理士、公認心理師、ユング派分析家。慶應義塾大学卒業および同大学院修了後、イギリスのエセックス大学でPh.D.を取得。その後、スイスのチューリッヒにあるユング研究所(ISAP Zurich)に留学し、ユング派分析家の国際資格を取得した。現在、目白ユング派心理療法室Libraを主宰し、個人療法やグループワークを通じて、多くの人々の心のケアに取り組んでいる。
失敗したときや負けたときに本領を発揮するのがユング心理学
MBTI診断のように、ユング心理学を活用することで「自分がどのように物事を捉える傾向があるか」を理解できる。しかし、本書はそれにとどまらず、「特にどんな場面でこの哲学を活用すべきか」についても触れている。それが「失敗したとき」や「負けたとき」である。
成功し続ける人生は、ずっと続くわけではない。ほとんどの人が、どこかで失敗や挫折を経験する。現代では「競争での勝利」や「成長」を求められる場面が多いため、その傾向は特に強い。
失敗や負けに直面したとき、人はその結果そのものに焦点を当てがちだ。しかし冷静に立ち止まり、「その失敗や負けが自分の人生にどのような意味を持つのか?」と考えることが重要だ。この思考を通じて、現代人が抱える悩みや不安に対する処方箋となるのがユング心理学なのである。
「個性化」への道のり
「失敗したときや負けたときに、その意味を見出すこと」とは、「失敗から立ち直って成功するために思考すること」や「負けないための打ち手を思考すること」ではない。「自分の人生や生き方をトータルで見たとき、どのような意味を持つのか、自分にしっくりくるオリジナルの意味を見つけていくこと」である。
このオリジナルな意味づけによって、その後の人生の方向性が変わっていくことを「個性化」と呼ぶ。ここでは、個性化への道のりを歩むための3つのポイントを紹介する。
物事を「勝者」「敗者」の二元論でとらえない
物事を「勝者」「敗者」の二元論で捉えないことが大切だ。物事は単純な二元論に収まるものではなく、一見不運に思える出来事が実は幸運であったり、その逆もあり得るからだ。
例えば、長期間の失業という一見不運な出来事が、自己理解を深める貴重な機会となり、新たなキャリアやチャンスに繋がることがある。反対に、社会的地位や高収入を手に入れることが一時的な満足感をもたらすものの、過度なストレスや人間関係の問題を引き起こし、精神的な満足感を欠く結果になることもある。
物事には常に複雑な背景がある。表面的な勝ち負けの結果だけにフォーカスしてしまうと、「敗者である事実」に意識が傾き、不安や悩みをうまく対処できなくなる。
その時点での「負け」を「点」で見るのではなく、人生という「線」の中の「変化が起こるきっかけ」として捉える。この考え方が、あなたの「失敗」や「負け」にオリジナルの意味を与え、次のステップへと進む力を与えてくれる。
コントロールしようとする自分を手放す
あなたの人生や、それを取り巻く世界は、すべてコントロール可能なものではない。しかし、時にはそのことを忘れがちだ。
特に「努力」という要素が絡む勝負事のとき、その傾向が強くなる。ビジネスマンがプロジェクトを進める際、どれだけ計画を立てて努力しても、市場の変動やチームメンバーの意見の食い違い、さらには予期しないトラブルなど、コントロールできない要素が影響を与えることがある。どんなに準備しても、計画通りにいかないこともある。学生にとっても同様で、試験に向けて一生懸命勉強しても、当日の体調や試験の難易度など、思い通りにいかないことは多い。
努力が重要であるとはいえ、勝負が必ずしもコントロールできるものではない。むしろ、「コントロールできないこともある」とその事実を受け入れ、その「負け」に対して「どのような意味があるのか」を考えることで、自分の人生を前向きに動かすエネルギーが生まれる。
もちろん、勝利の確率を高めるために努力をすることは重要だ。しかし、「努力の量や質だけで結果が決まる」と思い込んでしまうと、コントロールできない状況に対して自分を責めてしまいがちだ。
コントロールを手放すことは、努力を放棄することではない。抵抗を感じる人も多いだろうが、上手く手放すことで、失敗や「負け」に対して新たな意味づけができるようになる。
答えを急がないこと
個性化には「オリジナルな」意味づけが必要だ。そして、これを阻害するのが「答えを急ぐこと」である。
ある学生が受験に失敗した場面を想像してみよう。もし、この場面で急いで意味づけをしようとすると、他人にその意味づけを委ねがちになるだろう。そして、このような意味づけを行ってしまう。
「今回の不合格は、どうすれば効率良く勉強できるかを考えるきっかけとなった。」
正直、悪くない気がしてしまう。むしろ、ポジティブな印象さえ受けるだろう。しかし、自分なりに意味づけを行うと、このような考えに至ることもできる。
「今回の不合格は、自分が本当にその大学に行きたいのか、または、自分の人生で成し遂げたいこと、それを実現するためにどのように行動すべきか、今後どういう道に進んでいくべきかを深く考えるきっかけとなった。」
答えを急ごうとすると、他人に回答を委ねようとする。そしてそれを自分の答えだと錯覚してしまう。先ほどの例の場合「偏差値の高い大学に合格することに意味がある」といった一般的な価値観を無意識に採用してしまう危険性があるのである。
そしてこれは「あなたの人生における失敗の意味を、一般的なものにしてしまう」という危険性があることと同義である。
もしその価値観が自分の本当の望みと一致していれば問題はない。しかし、芸術家になりたい人や、スポーツの道を選びたい人にとっては、自分の人生の舵取りを他人に委ねることになりかねない。
現代社会で生きていると、どうしても「素早く良い結果を出す」思考に陥りがちだ。しかし、失敗の意味を見つけ、自分の人生を歩んでいこうとする際に、効率性を重視する必要はない。問うことによって意識を広げ、じっくり悩んだり苦しんだりして答えを待つことが大切なのである。課題解決思考を活用し、素早く良い結果を出すアプローチは、正しくゴールが定まった後に活躍する。
人生における失敗の意味を考える過程において、効率性は必要ない。時間がかかっても、オリジナルな意味を見出すことが大切であることを忘れないようにしよう。
心理学は、「机の上だけの学問」ではない
心理学や哲学には、「精神科医や学者が学ぶ、難解なもの」というイメージがつきまといがちである。確かにその側面は存在するが、それだけにとどまるわけではない。
心理学は、日常生活に役立つ実用的な部分も多く含まれている。たとえば、MBTI診断では、「自分は計画的に物事を進めるタイプか、臨機応変に対応するタイプか」を知り、自分に合った方法で物事を進めるための指針を得ることができる。ユング心理学も同様に、失敗や挫折を単なるネガティブな結果として捉えるのではなく、それを自分の人生における意味深い出来事として認識する手助けをしてくれる。
ユング心理学は、決して学者や医者だけのものではない。人生をより豊かに、自分らしく生きるために、誰にでも役立つ学問である。学問の世界に「難しそう」「自分には関係ない」といったバイアスを持ちがちだが、それらを脇に置いて、一歩踏み出してみるだけで、思いのほか自分の人生にポジティブな影響を与えてくれるだろう。
まとめ – 心理学を通して、自分らしく生きる力を養おう
ユング心理学は、単なる理論や学問にとどまらず、日常生活において実践的な力を持つ学問である。特に、失敗や挫折に直面したとき、その意味を深く掘り下げ、自己理解を深める手助けをしてくれる。失敗を単なるネガティブな結果として捉えるのではなく、それを自己成長や人生の方向性を見つけるための貴重なステップとすることができる。
「個性化」の概念は、まさにその実践的な価値を象徴している。自分の失敗や負けに対する解釈を他人の価値観ではなく、自分自身の視点で行うことが、真の意味での「個性化」に繋がる。
ユング心理学を学ぶことは、必ずしも難解な理論を理解することだけを目的にしていない。むしろ、自分の生き方を見つめ直し、日々の生活にどう活かすかが重要である。自分らしい人生を歩むために、同書の知識を日常に取り入れ、自分の考え方や行動にちょっとだけ変化をもたらしてみてはいかがだろう。
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